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文化ぶんか教育きょういく

前田まえだ 耕司こうじ(まえだ・こうじ)/早稲田大学わせだだいがく大学院だいがくいん教育きょういくがく研究けんきゅう教授きょうじゅ  略歴りゃくれきこちらから

うずもれる日本にっぽん先住民せんじゅうみんぞく、アイヌ
~アボリジニとの比較ひかく高等こうとう教育きょういく温度おんど

前田まえだ 耕司こうじ早稲田大学わせだだいがく大学院だいがくいん教育きょういくがく研究けんきゅう教授きょうじゅ

ユニバーサル・アクセスとアファーマティブ・アクション

 今月こんげつにち文部もんぶ科学かがくしょう発表はっぴょうした2017年度ねんどの「学校がっこう基本きほん調査ちょうさ」(速報そくほう)によれば、大学だいがく学部がくぶ)への進学しんがくりつ過年度かねんどそつふくむ)が52.6%にたっするという。こうした50%をえる状態じょうたいは、マーチン・トロウのせつ援用えんようすると[1]、「個人こじん教育きょういく機会きかい均等きんとう」をめざすとされる「マスがた」の段階だんかいから普遍ふへんてき多様たよう顧客こきゃくそう高等こうとう教育きょういく段階だんかいへの参加さんかみとめられるという「ユニバーサルがた」の段階だんかいへの移行いこう意味いみする。「ユニバーサルがた」の段階だんかいになると、人種じんしゅ民族みんぞく社会しゃかい階層かいそうせいなどの属性ぞくせいによる進学しんがく機会きかい均衡きんこう是正ぜせいされ、高等こうとう教育きょういくへのアクセスにおいて不利益ふりえきこうむっているとされるひとびとなどより多様たようことなる属性ぞくせい集団しゅうだんれる方向ほうこうにシフトする。そうした集団しゅうだん高等こうとう教育きょういく人口じんこうめる割合わりあい国民こくみん全体ぜんたい構成こうせいひとしくなるように積極せっきょくてき措置そち(クオータせい)がとられる、いわゆるアファーマティブ・アクション(差別さべつ撤廃てっぱい措置そち)の適用てきようだ。

 2007ねん国連こくれん総会そうかい採択さいたくされた「先住民せんじゅうみんぞく権利けんり宣言せんげん」のだい14じょうこうでは[2]、「先住民せんじゅうみんぞくである個人こじんとくどもは、国家こっかによるあらゆる段階だんかい形態けいたい教育きょういくを、差別さべつされずにける権利けんりゆうする。」とさだめ、アファーマティブ・アクションを想定そうていした差別さべつ撤廃てっぱいのための特別とくべつ措置そち必要ひつようせい規定きていしている。

 先住民せんじゅうみんぞくへの高等こうとう教育きょういく施策しさくにおいて日本にっぽんとオーストラリアではどのような温度おんどがみられるか。

アイヌ民族みんぞく大学だいがく進学しんがくじょうきょう修学しゅうがく支援しえん

「アイヌ政策せいさく推進すいしん会議かいぎ」(座長ざちょう内閣ないかく官房かんぼう長官ちょうかん)の作業さぎょう部会ぶかいが2011ねん編集へんしゅうした『「北海道ほっかいどうがいのアイヌ生活せいかつ実態じったい調査ちょうさ作業さぎょう部会ぶかい報告ほうこくしょ』によると、アイヌ民族みんぞく北海道ほっかいどうない大学だいがく進学しんがくりつが29さい以下いかで20.2%、道外みちそと進学しんがくりつが31.1%である一方いっぽうで、かれおんな)らの大学だいがく進学しんがくたいする希望きぼうでは道内どうないで31.7%、道外みちそとで42.5%とひくくはなかった。進学しんがく断念だんねんした理由りゆうとして経済けいざいてき要因よういんをあげるアイヌが道内どうないがいとおして70%を[3]大学だいがくへのてい進学しんがくりつ象徴しょうちょうされる貧困ひんこん問題もんだいりにされた。アイヌ民族みんぞくにとって大学だいがく進学しんがく奨励しょうれい充実じゅうじつ焦眉しょうび課題かだいとされる。

 いまのところ大学だいがく入学にゅうがくにおける「先住民せんじゅうみんぞくわく」の設置せっちは、「差別さべつ少数しょうすうしゃ特別とくべつ推薦すいせん入学にゅうがく」(沖縄おきなわじんおよび奄美諸島あまみしょとう出身しゅっしんしゃふくむ)制度せいど導入どうにゅうした四国学院大学しこくがくいんだいがく、および給付きゅうふ奨学しょうがくきんによる修学しゅうがく支援しえんおこな札幌大学さっぽろだいがくの「ウレパ」(アイヌで「そだい」の意味いみ)・プロジェクトの先行せんこう事例じれいをおいてほかにない。こうした学校がっこう法人ほうじん独自どくじみをのぞいて、国家こっかレベルにおける「アイヌ民族みんぞくわく設置せっちにむけてのみはない。アイヌ民族みんぞく大学だいがく教育きょういく可能かのうせいひろげていくといった視点してん構築こうちく急務きゅうむだ。

政府せいふ主導しゅどうのアボリジニ高等こうとう教育きょういく支援しえんシステム

2016ねんがつ、オーストラリアのモナシュ大学だいがく教育きょういく学部がくぶ滞在たいざいちゅう撮影さつえいひだりから、アボリジニ教育きょういく研究けんきゅうしゃのゼーン・マ・リアじゅん教授きょうじゅ(モナシュ大学だいがく)、筆者ひっしゃ、アボリジニ研究けんきゅう開発かいはつしつふく所長しょちょうのピーター・アンダーソンじゅん教授きょうじゅ(クイーンズランド工科こうか大学だいがく)。 現在げんざい上記じょうきメンバーによる国際こくさい共同きょうどう研究けんきゅう( Post-Imperial Perspectives on Indigenous Education: Lessons from Japan and Australia) のプロジェクトを実施じっし

 オーストラリアにてんじてみれば、女性じょせい英語えいごけん出身しゅっしんしゃてい所得しょとく階層かいそう出身しゅっしんしゃ僻遠へきえん地域ちいき出身しゅっしんしゃ、しょうがいしゃ先住民せんじゅうみんぞくなどの文化ぶんかてき背景はいけいをもち、周辺しゅうへん文化ぶんか形成けいせいしてきた集団しゅうだんたいする支援しえんシステムの導入どうにゅう連邦れんぽう政府せいふ主導しゅどうすすめられている。1990ねん連邦れんぽう政府せいふ発表はっぴょう政策せいさく文書ぶんしょまんにん公平こうへい機会きかいを」(A Fair Chance for All)は先住せんじゅうオーストラリアじんである「アボリジニおよびトーレス海峡かいきょうとうけい先住民せんじゅうみんぞく」を高等こうとう教育きょういくへの参加さんかにおいてもっと不利益ふりえきこうむっている集団しゅうだんとみなし、れの段階だんかいから在学ざいがくちゅうにいたる支援しえんシステムの構築こうちくけた枠組わくぐみをしめした。以下いかはそのアウトライン――[4]

  • 特別とくべつ入学にゅうがくのシステムの提供ていきょうにより、中等ちゅうとう教育きょういく修了しゅうりょう大学だいがく入学にゅうがく資格しかくゆうしないアボリジニ学生がくせいれを促進そくしんする。
  • 学位がくい取得しゅとくコース入学にゅうがくまえのオリエンテーションの課程かてい開設かいせつするなど、基礎きそ学力がくりょく向上こうじょうのための方策ほうさく導入どうにゅうする。
  • 入学にゅうがく研究けんきゅう学習がくしゅう活動かつどうにとって不可欠ふかけつ学業がくぎょうめん支援しえんから個人こじんてきなカウンセリングまでを網羅もうらするアボリジニ学生がくせい支援しえんしつ開設かいせつする。
  • 識字しきじりょく基礎きそてき計算けいさん能力のうりょく向上こうじょうや、コース履修りしゅう必要ひつよう知識ちしき習得しゅうとく目的もくてきとする授業じゅぎょう補習ほしゅうおこなう。
  • 僻遠へきえん地域ちいき居住きょじゅうするアボリジニにたいして、通信つうしん教育きょういくおよび選択せんたくてき形態けいたい学習がくしゅう機会きかい提供ていきょうする。
  • アボリジニ学生がくせいおよびかれらのコミュニティの事情じじょう要求ようきゅう反映はんえいされるようなカリキュラムや教授きょうじゅほう開発かいはつする。
  • 大学だいがくない意思いし決定けってい過程かていへアボリジニの参画さんかく促進そくしんする。

 連邦れんぽう政府せいふしめした上記じょうき支援しえん枠組わくぐみを下敷したじきに、大学だいがくがわ個々ここ学内がくない事情じじょうらして具体ぐたいてき支援しえんさく策定さくていし、アボリジニ学生がくせいれるためのはたらきかけをおこなうというのだ。たとえば、ニューサウスウェールズしゅうには、健康けんこう衛生えいせいじょう観点かんてんから劣悪れつあく状態じょうたいかれることがあるアボリジニ・コミュティの医療いりょうたずさわる先住民せんじゅうみんぞく医師いし養成ようせいおこなっている大学だいがくがある。「アボリジニのことはアボリジニで解決かいけつする」という自己じこ決定けってい視点してんもとづく政策せいさく意図いとをふまえて、支援しえんしつで32めいのアボリジニ・スタッフをようしメディカルプログラム参加さんかのアボリジニ学生がくせいのサポートにあたっている。選考せんこう基準きじゅんもHSCといわれる大学だいがく入学にゅうがく資格しかく試験しけん合格ごうかく最低さいていてんにおいてアボリジニには20てんのアドバンテージが付与ふよされていることにくわえ、かれ/おんならの学習がくしゅう様式ようしき教育きょういく背景はいけいちがいを考慮こうりょして、口頭こうとう試問しもん審査しんさいんなかにアボリジニ・コミュティの代表だいひょうはいりアシストできる仕組しくみが構築こうちくされているだ[5]

 ころしも高等こうとう教育きょういく無償むしょう議論ぎろん活発かっぱつするなか、ユニバーサルがた大学だいがく教育きょういく意味いみなおすことも必要ひつようではないだろうか。

ちゅう
  • ^ マーチン・A,トロウ(1976)『高学歴こうがくれき社会しゃかい大学だいがく―エリートからマスへ―』天野あまの郁夫いくお喜多村きたむら和之かずゆきどもやく,東京とうきょう大学だいがく出版しゅっぱんかい,pp.194-195.
  • ^ United Nations,General Assembly,61/295.(2007).United Nations Declaration on the Right of Indigenous Peoples,p.5.
    (http://www.unhcr.org/refworld/docid//471355a82.html 2010ねんがつ12にち閲覧えつらん
  • ^ アイヌ政策せいさく推進すいしん会議かいぎ北海道ほっかいどうがいのアイヌの生活せいかつ実態じったい調査ちょうさ作業さぎょう部会ぶかいへん(2011)『「北海道ほっかいどうがいのアイヌの生活せいかつ実態じったい調査ちょうさ作業さぎょう部会ぶかい報告ほうこくしょ』pp.17-21.
    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/dai3/siryou3_3.pdf 2017ねんがつ23にち閲覧えつらん
  • ^ Dept. of Employment, Education and Training (DEET) and National Board of Employment, Education and Training.(1990). A Fair Chance for All: National and Institutional Planning for Equity in Higher Education, A discussion paper, Australian Government Publishing Service, pp.23-26.
  • ^ クーリー大学だいがく仮名かめい)のアボリジニ支援しえんしつのエグゼクティブ・オフィサーのコーウィー(Cowie,K.,仮名かめい)へのはん構造こうぞうてきインタビューから(2010ねんがつ30にち,於:アボリジニ支援しえんしつ)。

前田まえだ 耕司こうじ(まえだ・こうじ)/早稲田大学わせだだいがく大学院だいがくいん教育きょういくがく研究けんきゅう教授きょうじゅ

早稲田大学わせだだいがく大学院だいがくいん教育きょういくがく研究けんきゅう教授きょうじゅ博士はかせ教育きょういくがく)。専攻せんこう文化ぶんか教育きょういくろん日本にっぽん国際こくさい教育きょういく学会がっかい会長かいちょう日本にっぽん学習がくしゅう社会しゃかい学会がっかい会長かいちょう藤沢ふじさわ生涯しょうがい学習がくしゅう大学だいがくふく学長がくちょうなどを歴任れきにん。モナシュ大学だいがくアフィリエイト。

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