ふっくら柔らかいハマグリ
三重県桑名市。歴史に詳しい人なら、東海道五十三次の42番目の宿で、その前の熱田宿(宮宿)と東海道唯一の海上路で結ばれた桑名宿を思い浮かべるだろうか。あるいはNHKの大河ドラマ「真田丸」にも登場した徳川四天王の一人、本多忠勝が桑名藩の初代藩主だったことを知っている人もいるかもしれない。しかし、一般的には「桑名のハマグリ」が最もなじみがあるのでは。
2017年8月上旬、その桑名市を旅しませんかとのお誘いがあり、ハマグリが食べられそうという食欲優先で参加することにした。名古屋からJR関西本線に乗り、30分ほどで到着。そして早速、ハマグリ漁が行われている赤須賀漁港に車で向かった。到着した川の堤防の向こうに広がっていたのは揖斐川・長良川で、木曽川を含む「木曽三川」の河口付近の雄大な眺めだった。
「ここは内海で、汽水域にできた干潟で育つ貝の身はふっくらして柔らかい」と語るのは、赤須賀まちづくり推進協会の水谷博之理事長だ。赤須賀漁港近くで2010年に開館した「はまぐりプラザ」内の食堂「はまかぜ」で「焼きハマグリ定食」に舌鼓を打っている間、水谷さんは桑名のハマグリについてさまざまなうんちくを披露してくれた。
桑名のハマグリは「やまとハマグリ」で、千葉県の九十九里浜などの「汀線(ちょうせん)ハマグリ」とは種類が違うという。桑名でのハマグリ漁獲量は1960年代には年間約3000トンあったものの、干潟の消滅や乱獲などから1995年には0.8トンまで減少、絶滅の危機を迎えた。76年から稚貝のふ化、種苗生産に乗り出していたが。漁獲量が回復傾向になるまで30年以上もかかった。2000年から年間100万個の稚貝の放流を続けており、10年には漁獲量が200トンまで回復している。
「木曽三川上流の山の栄養分が大事だ。10年ほど前から、毎年、地元小学生と木曽川上流の岐阜県東白川村に行って植樹を行い、夏休みには東白川村の子供たちを干潟に招待している」。水谷さんは頬を緩ませた。