今日きょうのおすすめ

「辛つらい仕事しごと」はとっとと転職てんしょくする……そう思おもいたいが、悲かなしいかな彼かれらは転職てんしょくなど不可能ふかのうで、マジで死しぬまで働はたらき続つづける。本ほん作さくの登場とうじょう人物じんぶつたちのことだ。全員ぜんいんが文字通もじどおりデスマーチの真まっ只中ただなかにいる。

『はたらく細胞さいぼうBLACK』は「月刊げっかん少年しょうねんシリウス」の人気にんきコミック『はたらく細胞さいぼう』のスピンオフ作品さくひんだ。細胞さいぼうを擬人ぎじん化かすることで「細胞さいぼうたちの物語ものがたり＝身体しんたいのなかの出来事できごと」を面白おもしろく教おしえてくれるのがシリーズの持もち味あじなのだが、本ほん作さくは「モーニング」にて連載れんさいされている。

「モーニング」といえばザ・青年せいねんコミック誌しの雄ゆう。よって「働はたらき盛もり、頑張がんばってる、でも不摂生ふせっせい極きわまりないオトナ達たち、刮目かつもく（かつもく）せよ」な内容ないようとなっている。きびしいよ！

労働ろうどう環境かんきょうの実態じったい

細胞さいぼうたちの職場しょくば＝「身体しんたいの持もち主ぬし」がどんな人物じんぶつなのか。題名だいめいからしてイヤな予感よかんしかしないが、細胞さいぼうの命いのちがけの労働ろうどう環境かんきょうから紐解ひもといてゆきたい。

成熟せいじゅくした男性だんせい。

悪玉あくだまコレステロールによって動脈どうみゃく硬化こうかのリスクが急上昇きゅうじょうしょう中ちゅうで、（健康けんこう診断しんだんでE判定はんていがでるタイプと見みた）

10年ねんぶりに喫煙きつえんに手てを出だし、

酒さけを飲のみ、



しかも二日酔ふつかよいになる規模きぼでガッツリ飲のんでおり、（γGTPも基準きじゅん値ち超こえかな）

オトナのお悩なやみを抱かかえている。

……以上いじょう。これらを目まの当あたりにした若わかき赤血球せっけっきゅうくん（←主人公しゅじんこう）は思おもわずこう言いうわけです。

ほんとだよな。オイやめろ！　死しんじゃうよ！　の連続れんぞくで気きの休やすまる暇ひまが全まったくない。絶対ぜったいここでは働はたらきたくない。しかもまだ１巻かんだし。

目めに浮うかぶのは、私わたしが朝あさに夕ゆうに山手やまて線せんで目めにする不機嫌ふきげんそうなお兄にいさんとおじさんたち……。彼かれらのガタガタな身体しんたいの運営うんえいと保守ほしゅを担当たんとうするみなさんはこちらです。

疲弊ひへいする社内しゃないメンバー

“赤血球せっけっきゅう”くん。酸素さんその運はこび屋やさん。配達はいたつ途中とちゅうで散々さんざんな目めに遭あい続つづける。 喫煙きつえんによって発生はっせいした一酸化いっさんか炭素たんそで同僚どうりょうたちがあっさりリタイア。

“肝かん細胞さいぼう”さん。青年せいねん誌しを彩いろどるイイ女おんな。みんなの毒素どくそをヌイて癒（い）やします。 最近さいきん激務げきむがたたってお疲つかれ気味ぎみ。

“白血球はっけっきゅう”さん。戦闘せんとう系けいのクールビューティーで、外部がいぶから侵入しんにゅうしてきたウイルスや細菌さいきんを排除はいじょします。かっけー！　何なにかと赤血球せっけっきゅうくんと顔かおをあわせる機会きかい多おおし。

他ほかにも“キラーT細胞さいぼう”のアニキなど、みのもんたの健康けんこう番組ばんぐみや学校がっこうの授業じゅぎょうで聞きいた名前なまえが続々ぞくぞくと登場とうじょうする。

彼かれらのプロフェッショナルぶりに感心かんしんしつつ、あることに気きづいてハッとなる。細胞さいぼうは「身体しんたいの中なかの出来事できごと」には個々ここのスキルで対処たいしょできるが、「身体しんたいの外そとの出来事できごと」には対処たいしょできないのだ。それに細胞さいぼうは身体しんたいを選えらべない。

企業きぎょう体質たいしつを問とう

この身体しんたいの持もち主ぬし（多分たぶんおじさん）は、性交せいこうにおいてバイアグラの助たすけを借かりておられる。このエピソードの「プロジェクトを成功せいこうさせるんだ！」という細胞さいぼうたちの熱量ねつりょうはすごい。（ウディ・アレンの昔むかしの映画えいがにこういうのがあったな）

そして「やっとこさ射精しゃせいしたぞ、ばんざーい！」と関係かんけい各所かくしょが（多分たぶんご本人ほんにんも）思おもった矢先やさきに淋病りんびょうに感染かんせんしたことが発覚はっかくする。むなしすぎる。たちまち細胞さいぼうは地獄じごく絵図えずだ。まあだいたいずーっと地獄じごくなのですが。

淋病りんびょうのあとは円形えんけい脱毛だつもう症しょう。細胞さいぼうもだが、ご本人ほんにんもひたすら踏ふんだり蹴けったりである。つまり、身体しんたいそのものが「ブラックな何なにか」と「ストレス」に囚とらわれている可能かのう性せいが高たかい。私わたしは赤血球せっけっきゅうくん達たちの味方みかただけどちょっと気きの毒どくになってきたな……。

それに『はたらく細胞さいぼうBLACK』は他人事たにんごとじゃない。

もはや何なん軒けんはしごしたか忘わすれたバーでゆらゆら会計かいけいを済すませ、いい加減かげんタクシーに乗のるかと大通おおどおりに向むかう途中とちゅうで目めについたラーメン屋やに吸すい込こまれる。「ふざけるな！」という怒号どごうが身体しんたいのあちこちから聞きこえてくるのにAFURIの醤油じょうゆラーメンはめっちゃ美味おいしくて、翌朝よくあさとんでもない倦怠けんたい感かんと後悔こうかいで目めがさめる。あの焼やけ野のが原はらのような夜よると朝あさに、私わたしの細胞さいぼうはこの漫画まんがと似にたストーリーを生いきているのだろう。

「お酒さけや脂あぶらっこい食事しょくじは控ひかえよう」や「タバコは有害ゆうがいですよ」や「性病せいびょうに気きをつけましょう」なんて、オトナはみんな知しっている。それこそいやってほど健康けんこうにまつわるトピックスを聞きいている。なのに「やらかさざるを得えない」状況じょうきょうに陥おちいる。この病やんだ大枠おおわくそのものが問題もんだいで、そうこうしているうちに細胞さいぼうたちのブラック環境かんきょうは完成かんせいし、みんないっぱい死しんでゆく。

読よみながら「身体しんたい大事だいじにしなきゃ……」と反省はんせいしつつ、満員まんいん電車でんしゃで出でくわす全身ぜんしんをストレスで煮にしめたようなおじさん達たちにも優やさしくしたくなる。

「がんばってるんだよね、みんな」と。

そういえばこれもブラック環境かんきょうあるあるの諸刃もろはなセリフだよなあ。