山田やまだはまちのマンガ「みかづきマーチ」は、都会とかいで孤独こどく感かんを抱かかえながら生いきていた女子高じょしこう生せいが、マーチングバンドと出会であい、仲間なかまとともに成長せいちょうしていく青春せいしゅん部活ぶかつもの。漫画まんがアクション（双葉社ふたばしゃ）にて連載れんさい中ちゅうで、単行本たんこうぼん4巻かんが発売はつばいされたばかりだ。

コミックナタリーでは4巻かんの発売はつばいに合あわせ、著者ちょしゃの山田やまだと、4巻かんの帯おびコメントを担当たんとうした宇垣うがき美里みさとの対談たいだんを実施じっし。学生がくせい時代じだい、吹奏楽すいそうがく部ぶでサックスを吹ふいていたという宇垣うがきは、「みかづきマーチ」のどんな部分ぶぶんに惹ひかれたのか。ともに音楽おんがく経験けいけん者しゃである2人ふたりのトークは、「サックス奏者そうしゃは頑固がんこ」「一番いちばん覚おぼえているのは大会たいかい前日ぜんじつの演奏えんそう」といった“あるある”の部分ぶぶんでも盛もり上あがった。

取材しゅざい・文ぶん / 鈴木すずき俊介しゅんすけ　撮影さつえい / ヨシダヤスシ

言葉ことばにできない気持きもちも、音楽おんがくになら乗のせられる

──宇垣うがきさんは週刊文春しゅうかんぶんしゅん（文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう）連載れんさいのコラム「宇垣うがき総裁そうさいのマンガ党とう宣言せんげん」の中なかで「みかづきマーチ」を紹介しょうかいされていらっしゃいましたよね。「みかづきマーチ」を読よまれて、どんな部分ぶぶんに惹ひかれましたか。

宇垣うがき美里みさと　学生がくせいの頃ころ、自分じぶんが吹奏楽すいそうがく部ぶだったということもあって、「こんなことあった！」と共感きょうかんできる部分ぶぶんがたくさんあって、懐なつかしい気持きもちになりました。忘わすれていた感情かんじょうを思おもい出ださせてくれたと言いうか、「あんなに一生懸命いっしょうけんめいでまっすぐだった頃ころのこと、なんで忘わすれてしまっていたんだろう」って思おもいます。大人おとなになった今いまはたくさん世界せかいが広ひろがって、それはそれで幸しあわせなことですけど、部活ぶかつをがんばっていた頃ころの視野しやの狭せまさというか、「ここがすべて」と思おもって打うち込こんでいたときの気持きもちって、かけがえのないものだったなって。

──「みかづきマーチ」はマーチングを題材だいざいにした青春せいしゅん部活ぶかつものですが、こうしたジャンルはお好すきですか？

宇垣うがき　好すきなんですが、私わたしは運動うんどう部ぶではなかったので、スポーツ的てきな部活ぶかつものだとフィクションとしてしか享受きょうじゅできない部分ぶぶんがあって。チーム戦せんとか、ライバルとの関係かんけいとか、「こういう感かんじなんだ」って想像そうぞうするしかないんですよね。だけど「みかづきマーチ」はその中なかに自分じぶんがいたような気持きもちになれるので、より一層いっそう響ひびくものがありました。

──そもそも「みかづきマーチ」を手てに取とられたきっかけは？

宇垣うがき　私わたし、電子でんし書籍しょせきで新刊しんかんを片かたっ端ぱしからチェックしているんです（笑）。「みかづきマーチ」は表紙ひょうしが楽器がっきを持もっているイラストだったので目めに留とどまって、読よみはじめたら一気いっきにハマってしまいました。物語ものがたりはもちろんですが、絵えの力ちからもすごいですよね。温あたたかい筆致ひっちなんだけど勢いきおいがあって、湿度しつどが感かんじられる。特とくに演奏えんそうシーンは音おとが聞きこえてくるような感かんじがして、汗あせのしぶきまでもが届とどいてくるように思おもいました。

山田やまだはまち　ありがとうございます（笑）。吹奏楽すいそうがくを経験けいけんされている方ほうに、読よんで共感きょうかんしてもらえたというのがうれしいです。宇垣うがきさんがコラムの中なかで、「中学生ちゅうがくせいの頃ころ、私わたしに楽器がっきがあってよかった、と何なん度ど思おもったことか」「演奏えんそうで感情かんじょうが吐はき出だせるから、私わたしは狂くるわずにいられた」と書かかれていましたが、自分じぶんもそうだったなって。家いえのこととか、進路しんろのこととか、友達ともだちのこととか、いろいろと悩なやみが多おおい時期じきですけど、楽器がっきを吹ふいているときだけはそのことに集中しゅうちゅうできる。それが、自分じぶんが音楽おんがくに夢中むちゅうになった1つの理由りゆうでもあるので。音楽おんがくに救すくわれる人ひとって、何気なにげなくやっていてもどこかで救すくわれているんでしょうね。自分じぶんだけじゃないんだなと思おもって、印象いんしょうに残のこっています。

宇垣うがき　うれしいです。私わたしは感情かんじょうの起伏きふくが割わりと激はげしいというか、情緒じょうちょの豊ゆたかなタイプだったので、思おもったことを全部ぜんぶ言葉ことばにするのは難むずかしくて。だけど小ちいさい頃ころからピアノを習ならっていたので、言葉ことばにはしづらくて、したとしても「何なにを言いってるの」と言いわれてしまうようなことでも、音楽おんがくにだったら乗のせられた。ラフマニノフの曲きょくにならこの気持きもちを乗のせられる、ショパンならいける……なんて思おもっていました。そういう延長線えんちょうせん上じょうではあったのですが、特とくに吹奏楽すいそうがくは息いきも入いれるから、より気持きもちとかエネルギーとかをそのまま込こめやすくって。悔くやしいとかしんどいとか、つらいとかって、言葉ことばにすると陳腐ちんぷだけれど、曲きょくに乗のせるとそれが表現ひょうげんになるし、いいと言いわれたりするんですよね。

山田やまだ　それこそ一緒いっしょに演奏えんそうしている友達ともだちにだって、「いつもありがとう」とか「大好だいすきだよ」とか、照てれくさくて言いえないけれど、でも演奏えんそうしている最中さいちゅうに心しんが通つうじ合あう瞬間しゅんかんがあって、お互たがい同おなじ気持きもちでいるんだなって思おもえたりする。そういう言葉ことばを超こえた感情かんじょうのやり取とりが、音楽おんがくだとできるような気きがしますね。

サックスを吹ふいている人ひとは、ちょっと頑固がんこ

──宇垣うがきさんはサックスを吹ふかれていたということで、今日きょうは自前じまえの楽器がっきをお持もちいただいての撮影さつえいもさせていただきましたが、サックスとの出会であいをお聞ききしてもいいですか。

宇垣うがき　幼稚園ようちえんに入はいるときに習ならい事ごとでピアノを始はじめて、小学生しょうがくせいになってもずっと好すきで続つづけていたので、一番いちばん得意とくいな科目かもくは音楽おんがくだったんです。だから中学生ちゅうがくせいになって部活ぶかつを選えらぶときにも、悩なやむことなく吹奏楽すいそうがく部ぶに入はいって。そのときに「サックスがカッコいい！」と思おもったんですよね。

──カッコいいというのはどんな部分ぶぶんが？

宇垣うがき　形かたちもですし、もちろん音おとも。それにメロディラインも多おおいし、ソロだってあるし。私わたしの通とおっていた学校がっこうは、顧問こもんの先生せんせいが向むいている楽器がっきを見極みきわめてパート分わけを決きめることになっていたんですが、私わたしは絶対ぜったいにサックスがいいと思おもって、サックス以外いがいの楽器がっきは音おとを出ださないようにして（笑）。もちろん先生せんせいにはバレていましたけど、「主役しゅやくと脇役わきやくと監督かんとくなら何なにがいい」って聞きかれて、「一いち番目ばんめ立たつ悪役あくやくがいい」と言いったら、サックスになりました。

──サックスは悪役あくやくなんですか。

宇垣うがき　トランペットが主役しゅやくなんですよ。サックスは……ちょっとひねくれてて。

山田やまだ　わかります（笑）。王道おうどうな主役しゅやくがトランペットだとしたら、ちょっと脇役わきやくな主役しゅやくがサックスなんですよね。まっすぐなだけの性格せいかくではないと言いうか。

宇垣うがき　音おとだってそうですもんね。全部ぜんぶが全部ぜんぶメロディラインというわけではなくて、裏うらを担当たんとうしたりもしますし。そういうのも含ふくめて、好すきだったんです。性格せいかく的てきにも合あっていたんだと思おもいます。

山田やまだ　楽器がっきに合あう性格せいかくってありますよね。

宇垣うがき　「ぽい！」ってなりますよね（笑）。

──キャラクターを考かんがえるときにも、そういう部分ぶぶんからイメージを膨ふくらませたりするんでしょうか。例たとえば「みかづきマーチ」には、テナーサックス担当たんとうのカナデというキャラクターがいますよね。

山田やまだ　カナデは生うまれたと同時どうじに担当たんとう楽器がっきも自然しぜんと決きまったようなキャラクターですね。サックスを吹ふいている人ひとって、一本いっぽん芯しんが通かよっているというか、い方いかたを変かえるとちょっと頑固がんこみたいな……。

宇垣うがき　頑固がんこですね。

山田やまだ　（笑）。そういうイメージが自分じぶんの中なかにあったので、カナデも、あんまり人ひとに媚こびたりするような性格せいかくではないから「この子こサックスなんだろうな」って自然しぜんと思おもったんです。逆ぎゃくに、主人公しゅじんこうの美月みづきに関かんしては、引ひっ込こみ思案じあんなので本来ほんらいトランペット向むきの性格せいかくではないかもしれないんですけど、だけど彼女かのじょが成長せいちょうしていくには、真ま逆ぎゃくのところにあるトランペットと組くみ合あわせるのがいいんじゃないかなと思おもって考かんがえたところがあります。

宇垣うがき　トランペットは素直すなおな子こが担当たんとうしている印象いんしょうがあります。美月みづきは泥臭どろくさく、恥はじもてらいもなくがんばれるところが、すごくトランペットって感かんじがします。