「戯曲ぎきょくとは何なにか？」をテーマに掲かかげ、上演じょうえんを前提ぜんていとした戯曲ぎきょくを募集ぼしゅうする愛知あいち県けん芸術げいじゅつ劇場げきじょうのAAF戯曲ぎきょく賞しょう。今年ことし11月がつには、第だい19回かいAAF戯曲ぎきょく賞しょうで大賞たいしょうを受賞じゅしょうした小野おの晃あきら太朗たろうの「ねー」が、今井いまい朋彦ともひこの演出えんしゅつにより上演じょうえんされる。プレリハーサルがスタートして約やく1週間しゅうかんが経たった6月がつ中旬ちゅうじゅん、ステージナタリーでは、今井いまいと小野おのの対談たいだんを実施じっし。稽古けいこを終おえたばかりの2人ふたりは、未知みちの領域りょういきを探さぐりながら演劇えんげきを立たち上あげていく面白おもしろさや、コロナ禍かの現在げんざいにおける物語ものがたりの在あり方かたについて語かたり合あった。

取材しゅざい・文ぶん / 川口かわぐち聡さとし　撮影さつえい / 中垣なかがき聡さとし

今いまには“今いまの物語ものがたり”が必要ひつようだ

──「ねー」の愛知あいちでのプレリハーサルがスタートしました。小野おのさんは東京とうきょうから愛知あいちを訪たずねられ、今日きょう初はじめて稽古けいこに立たち合あわれたそうですが、お二に人にんは初対面しょたいめんになるのでしょうか？

今井いまい朋彦ともひこ　プレリハーサルが始はじまる前まえにリモートではお話はなししていました。

小野おの晃あきら太朗たろう　直接ちょくせつお会あいするのは今日きょうが初はじめてです。

──「ねー」は、小野おのさんご自身じしんの身みの回まわりのことや、SNSの匿名とくめいアカウントで告白こくはくされた、とあるレイプ事件じけんに着想ちゃくそうを得えて書かかれた戯曲ぎきょくです。本ほん作さくでは、状況じょうきょうが悪化あっかしていく中なかで生いきる若わかい人ひとたちと、暗躍あんやくする既得きとく権益けんえきの集団しゅうだんを描えがいたファンタジーが軸じくとなっています。AAF戯曲ぎきょく賞しょうの審査しんさ会かいでは、ロジカルに組くみ上あげられた戯曲ぎきょくの構成こうせいや、淡々たんたんとしつつも強度きょうどのある物語ものがたりの求心力きゅうしんりょく、ラストにかけて神話しんわへと接続せつぞくされていくダイナミズムが高たかい評価ひょうかを受うけました（参照さんしょう：第だい19回かいAAF戯曲ぎきょく賞しょう大賞たいしょうは小野おの晃あきら太朗たろう「ねー」、特別とくべつ賞しょうに三野みの新しん）。差別さべつ問題もんだいや性せい暴力ぼうりょく被害ひがい者しゃとその周辺しゅうへん関係かんけい者しゃの二に次じ受傷じゅしょうといったセンシティブなテーマも盛もり込こまれていますが、この物語ものがたりはどのようにして生うまれていったのでしょう？

小野おの　「今いまには“今いまの物語ものがたり”が必要ひつようだ」と考かんがえて書かき始はじめました。未来みらいに対たいして何なにか提案ていあんしなきゃいけないという気持きもちはあったのですが、具体ぐたい的てきなことが思おもい浮うかばなくて、登場とうじょう人物じんぶつたちに起おこる問題もんだいが進行しんこうしていくに従したがって、何なにか糸口いとぐちを見みつけられないものだろうかと、書かき進すすめながら考かんがえを巡めぐらせました。自分じぶんの中なかでもまだ“わからないことの塊かたまり”が残のこっている戯曲ぎきょくです。

──今井いまいさんが、この戯曲ぎきょくを読よまれた第だい一いち印象いんしょうはいかがでしたか？

今井いまい　まず“今いまの戯曲ぎきょく”であるというところに魅力みりょくを感かんじました。それと、上演じょうえんの姿すがたがすぐに浮うかばなかったんですよね。読よんだときに上演じょうえんの姿すがたが浮うかんでしまうとつまらないというか、「僕ぼくの演出えんしゅつじゃなくても良よいんじゃないか」と思おもってしまうんです。でも今回こんかいは「これは、どうなるのかわからないぞ」と思おもえたことも、演出えんしゅつをお引ひき受うけした大おおきな理由りゆうの1つで。この戯曲ぎきょくには、表面ひょうめんに現あらわれている色いろの裏うらに別べつの色いろが隠かくされていると言いいますか……宝探たからさがし的てきな面白おもしろさがあり、読よむたびに印象いんしょうが変かわり、繰くり返かえし読よみたくなるんです。演出えんしゅつをするとなったとき、併走へいそうする戯曲ぎきょくとしてすごく興味深きょうみぶかかったんですよね。

小野おの　ありがとうございます。

今井いまい　演出えんしゅつを手てがける場合ばあいは俳優はいゆうとして参加さんかするときよりも長ながい期間きかん、戯曲ぎきょくと向むき合あうことになるので、そういう意味いみでも「ねー」は探さぐりがいのある作品さくひんだと思おもいました。

──AAF戯曲ぎきょく賞しょうの受賞じゅしょう記念きねん公演こうえんで、審査しんさ員いん以外いがいの方ほうが演出えんしゅつを手てがけられるのは、2018年ねん上演じょうえんの「シティⅢ」を演出えんしゅつされた捩子ねじぴじんさん以来いらいとなります（参照さんしょう：AAF戯曲ぎきょく賞しょう受賞じゅしょう記念きねん公演こうえん「シティIII」幕開まくあけ、捩子ねじぴじん「問とい、を皆様みなさまへ」）。稽古けいこが始はじまるまでの期間きかん、お二に人にんはどのような準備じゅんびをされていたのでしょうか？

今井いまい　まず経緯けいいとしては、愛知あいち県けん芸術げいじゅつ劇場げきじょうのプロデューサーである山本やまもと麦むぎ子こさんから演出えんしゅつのお話はなしをいただき、戯曲ぎきょくを読よませていただいて、「ぜひお引ひき受うけします」とお答こたえしました。それからクリエーションチームが決定けっていし、小野おのさんとリモートで戯曲ぎきょくについてのお話はなしをさせていただいて。今年ことし5月がつの出演しゅつえん者しゃオーディションを経へて、6月がつ中旬ちゅうじゅんからようやくプレリハーサルがスタートしたという状態じょうたいです。戯曲ぎきょくの冒頭ぼうとうにある作品さくひん概要がいようで、小野おのさんは「戯曲ぎきょくという言葉ことばは文学ぶんがくの括くくりに入はいると思おもっているので、上演じょうえんの際さいは別途べっと上演じょうえん台本だいほんが作成さくせいされるべきと考かんがえる」と書かかれています。戯曲ぎきょくからさらに上演じょうえんに寄よせた台本だいほんということで、小野おのさんと、どういったことが考かんがえられるかお話はなししました。

小野おの　僕ぼくは戯曲ぎきょくについて、誰だれがどういう目的もくてきで読よむかを考かんがえている部分ぶぶんがあり、「ねー」では、戯曲ぎきょくを“上演じょうえん台本だいほん形式けいしきの文学ぶんがく作品さくひん”という括くくりで「読者どくしゃのためのものである」と設定せっていして執筆しっぴつしたんです。身みも蓋ぶたもない話はなしですけれど、上演じょうえんしたあとに残のこったものが上演じょうえん台本だいほんになるのかなと思おもっていて（笑）。プレリハーサルが始はじまる前まえに書かき換かえたり、切きったり、足たした部分ぶぶんもあります。本番ほんばんに向むけては、稽古けいこの進捗しんちょくに合あわせながらの共同きょうどう作業さぎょうになっていくと思おもうので楽たのしみですね。

今井いまい　そうですね。実際じっさいに俳優はいゆうにセリフを発はっしてもらいながら内容ないようを決定けっていしていく部分ぶぶんもあるので、小野おのさんと僕ぼくと現場げんばの俳優はいゆうさんたち、そしてクリエーションチームを交まじえての上演じょうえん台本だいほん作づくりになっていくと思おもいます。

“身体しんたいの現あらわれ”としての声こえ

──「ねー」は現代げんだいの病やまいや社会しゃかいの閉塞へいそく感かんといった時代じだい性せいが反映はんえいされている作品さくひんです。小野おのさんは現実げんじつ社会しゃかいと戯曲ぎきょくの物語ものがたりとの距離きょり感かんをどのように測はかりながら執筆しっぴつされたのでしょう？

小野おの　現実げんじつで起おきていることをはっきりと物語ものがたりに反映はんえいさせて扱あつかおうと思おもったのは、実じつは「ねー」が初はじめてでした。探さぐりながら書かいたところもあり、まだ距離きょり感かんを測はかっている最中さいちゅうと言いいますか。執筆しっぴつ中ちゅうはとにかく必死ひっしで、例たとえるなら“国会こっかい中継ちゅうけいのラジオを聴ききながら、新聞しんぶんを読よむ”みたいな状態じょうたいで、どうかしていた気きがします。

──今井いまいさんは近年きんねん、文学ぶんがく座ざアトリエの会かいで松原まつばら俊太郎しゅんたろうさんの「メモリアル」（参照さんしょう：大おおきな“ピース”を体験たいけんして、松原まつばら俊太郎しゅんたろう×今井いまい朋彦ともひこ、文学ぶんがく座ざ「メモリアル」開幕かいまく）、SPACで遠藤えんどう周作しゅうさくの「メナム河かわの日本人にっぽんじん」（参照さんしょう：一緒いっしょに作品さくひん世界せかいを旅たびして、今井いまい朋彦ともひこ演出えんしゅつのSPAC「メナム河かわの日本人にっぽんじん」が開幕かいまく）の演出えんしゅつを手てがけられています。今回こんかいはどのようなアプローチで演出えんしゅつに取とり組くまれるのでしょう？

今井いまい　演出えんしゅつ家かとして全体ぜんたいの構成こうせいをしつつ、最終さいしゅう的てきな表現ひょうげんは俳優はいゆう自身じしんに見みつけてほしいという思おもいがあります。自分じぶんが俳優はいゆうとして作品さくひんに参加さんかする際さいも「併走へいそうするから、自分じぶんで見みつけてほしい」というスタンスの演出えんしゅつ家かは、すごくクリエイティブだなと思おもうことがありまして。俳優はいゆうが自みずから発見はっけんしてたどり着ついた表現ひょうげんは根ねっこが強つよいと思おもっています。サポートはしつつも、今回こんかいの出演しゅつえん者しゃの方々かたがたともそんな関かかわり方かたができればいいなと。

──今井いまいさんは常々つねづね、戯曲ぎきょくと身体しんたいの関係かんけい性せいにも注目ちゅうもくされていますよね。

今井いまい　身体しんたいそのものが持もつ雄弁ゆうべんさにも興味きょうみがありますし、今いまは“身体しんたいの現あらわれ”としての声こえに意識いしきがいっています。昨年さくねんまで僕ぼくが在籍ざいせきしていた文学ぶんがく座ざは、よく“セリフの劇団げきだん”という評価ひょうかをいただきますが、では、そのセリフは何なにによって支ささえられているのか？と考かんがえたとき、やはり声こえの在あり方かたは重要じゅうようなのかなと。だからといって、皆みなさんにすごく良よい声こえでしゃべってもらうということではないですが（笑）。舞台ぶたい上じょうに強つよい説得せっとく力りょくを持もって存在そんざいする声こえについて探さぐっていきたいですね。