2021
年10
月18
日,アークライトとKADOKAWA,グループSNE,F.E.A.R,
冒険支援といったテーブルトークRPG(
以下,TRPG)の
大手パブリッシャの
連名による
「テーブルトークRPGに関する二次創作活動のガイドライン」が,TRPGライツ
事務局から
発表された。
このガイドラインは,
近年盛り
上がりを
見せるTRPGの
二次創作活動について,パブリッシャまたはタイトル
側から
守ってほしい
基準を
表明したものだ。その
内容は,
権利表示の
明示やデータの
転載禁止など
一般的な
内容ではあるものの,これに
伴って
制定された
「SPLL(スモールパブリッシャーリミテッドライセンス)」が,
大きな
話題を
呼んだ。
具体的な
内容は,
ガイドラインのサイトに掲載された文言を
確認してほしいが,
要約すれば
登録されたTRPGタイトルの
二次創作を
有料で
頒布・
販売する
場合は,
一定の
ライセンス料を
事務局へ,ひいてはタイトルの
権利者側へ
支払わなくてはならない,というもの。その
金額は
紙媒体――いわゆる
同人誌の
場合は
売上見込額(
製造数×
頒布価格)が20
万から70
万の
場合に
1万6500円,デジタルのダウンロード
販売では
販売額の10%になるという。
しかし
二次創作界隈ではあまり
前例のない
試みであることや,
発表から12月1
日の
運用開始までの
準備期間が
短かったこと,
発表当初はデジタル
販売の
規定が「
後日発表」と
記載されるなど,さまざまな
点で“
粗さ”が
目立ったことから,
一部には
困惑や
不安視する
声も
囁かれた。
サイトの
文言によれば,
今回のガイドライン
制定は
二次創作の
自由度を
制限するものではなく,あくまでトラブルを
未然に
阻止し,
著作権者への
支援を
意図したものと
言うが,その
真意はどこにあるのか。
TRPGライツ
事務局の
代表であるアークライトの
梶原佳介氏と,SPLLのローンチから
提携サイトとして
名乗りを
上げたDLsiteの
影山周平氏に
話を
聞いた。
なぜガイドラインとSPLLが必要なのか
4Gamer:
本日はよろしくお
願いします。SPLLの
運用が12月1
日に
開始となりました。いわゆる“
公式側”からの
二次創作へのアプローチとしては,かなり
挑戦的な
試みと
感じていますが,まずはこの
成り
立ちからお
聞かせください。
アークライト 開発事業本部出版グループ 出版事業部部長の梶原佳介氏。ガイドライン策定にあたってはその中核を担い,TRPGライツ事務局の代表も務めている
|
梶原佳介氏(以下,梶原氏):
流れとしては,
「クトゥルフ神話TRPG」(
以下,CoC)が
動画リプレイなどの
影響により2011
年頃から
大きな
盛り
上がりを
見せ,それまで
大きいとは
言えなかったTRPGジャンルが
活況になったのが
発端です。それに
伴って,「
二次創作のためにガイドラインを
示してほしい」という
要望が,ファンの
側から
出てくるようになったんです。
4Gamer:
要望が
届くようになったのは,いつ
頃のお
話でしょうか。
梶原氏:
各社のクリエイターさん
達との
間で
話題に
上がるようになったのが,5〜6
年前だったと
思います。それを
受け,ガイドラインを
具体的に
策定しようということになったのが2020
年の
年末頃でした。
4Gamer:
なるほど。ではSPLLによるライセンス
制度よりも,ガイドラインを
出したいというのが
先にあったわけですね。
梶原氏:
はい。ライセンスの
方は,
実はCoCの
版元である
米ケイオシアムとの
調整の
中で
生まれてきたものなんです。
日本におけるTRPGの
二次創作は,CoCが8〜9
割を
占めているのが
現状なんですが,そのケイオシアムから
日本の
権利者側――この
場合はKADOKAWAとアークライト――に「
日本の
状況はどうなっているのか」と
問い
合わせがあり。
早急にルールを
決める
必要が
出てきました。
そこで
ケイオシアムが海外で運用しているSPLLをベースに,
日本の
状況に
合わせて
調整を
加えた
日本版SPLLを
作ることにしました。これが
現在のものの
原型になっています。
4Gamer:
ケイオシアムのSPLLはどんな
内容なのでしょうか。
梶原氏:
二次創作物には
「Non-Commercial(非商業),Non-Retal(非販売),Unofficial(非公認),Unbranded(ロゴなど使用不可)」といった
条件があり,かなり
厳しいものになっています。
例外的に
小規模出版者向けとして,
同人誌なら2000ドル
以内の
売上で
一律100ドル,デジタルなら
指定のサイトで
販売して50%(ケイオシアム
社20%+ショップ
側の
取分30%)が
差し
引かれる
形でロイヤリティを
支払う
設定となっています。
4Gamer:
日本の
二次創作文化を
考えると,
確かに
厳しい
内容ですね。
梶原氏:
はい。そもそも「
二次創作でロイヤリティを
支払うこと」が
一般的ではないですし,
版元側も
膨大な
数の
申請にいちいち
対応しなくてはならないと
考えると,とても
現実的ではない。
4Gamer:
日本の
二次創作――というか
同人文化は,
他国から
見ると
確かに
特殊かもしれないですね。あえて
白黒をつけずに“グレー”の
状態を
維持することで,
権利者側と
二次創作者側双方の
手間を
省いている。
例外があるとすれば,
模型やフィギュアにおける
当日版権制度※でしょうか。
※個人やサークルなどのアマチュアが制作するガレージキットについて,権利元が即売会(ワンダーフェスティバルなど)の会期中および会場での販売に限定し,展示・即売の許諾を出す簡易的な商品化許諾制度。対応は権利元によって異なるが,基本的に審査やロイヤリティの支払いが発生する。
梶原氏:
そうですね。しかしTRPGの
二次創作では,そこに
一歩踏み
出すことにしました。
4Gamer:
決断の
理由はなんだったのでしょうか。
梶原氏:
やはり「
売上をちゃんと
原著作者に
還元して,
自分達がやっていることが
問題にならないようにしたい」という
声が,
二次創作者さん
達の
側から
出てきたことですね。そして,それはアークライトのみならず,
各社さんとも
同じ
状況だったんです。
4Gamer:
ファンの
側が“グレー”でなく“
白”であることを
望んだと。
梶原氏:
我々側では,そう
考えています。ファンの
皆さんが,
安心して
二次創作に
打ち
込める
状況を
作りたい。それならばガイドラインできっちりと
線引きをしたうえで,
日本の
状況に
合ったライセンス
制度を
設けた
方がいいと。
4Gamer:
今回のガイドラインには,アークライト/
新紀元社のほか,KADOKAWAとグループSNE,F.E.A.R,
冒険支援が
賛同した
形ですが,それぞれの
反応はいかがでしたか。
梶原氏:
基本的には,
皆さん
同じ
方向を
向いているようでした。どこか
一社だけなら
勇気のいる
決断だったと
思いますが,
一つのガイドライン/ライセンスに
統合して
運用できるならぜひ,と。
調整に
時間がかかったのは,ライセンス
料の
部分くらいでした。
4Gamer:
なるほど。そのライセンス
料について
詳しく
聞かせてください。
現在発表されている
内容では,
紙媒体・グッズ
類の
場合,
売上見込(
製造数×
頒布価格)が20〜70
万円で
一律1
万6500
円,デジタルのダウンロード
販売では
販売額の10%という
料率ですが,これはどのように
決まったのでしょうか。
梶原氏:
“
現在の
二次創作活動”で,“
趣味の
範囲内”と
言われて
納得できる
範囲を
考えた
結果です。もちろん
正解があるわけではないんですが……できるだけ
自由な
二次創作の
妨げにならないように
配慮したつもりです。
例えばケイオシアムのSPLLとは
違い,
紙媒体なら20
万円を
下回れば
申請が
不要ですので,その
範囲でしたらガイドラインさえ
守ればこれまでどおりに
活動いただけます。
4Gamer:
紙媒体のとき,
実際の
売上や
利益でなく,
売上見込をベースにしたのはなぜでしょうか。
梶原氏:
実売上や
利益ベースでの
計算になると,
実売数や
経費について
考えなくてはならなくなりますし,その
定義も
難しい。
分かりやすく
目に
見える
形ということで,
現在の
形になりました。また
商業出版でも
印税の
計算は
発行部数がベースですから,
各社さんとも
理解しやすかったのではないかと
思います。
4Gamer:
売上見込が70
万円を
超えた
場合はどうなるのでしょうか。SPLLのページには
事務局と
相談とありますが……。
梶原氏:
個別の
契約になるので
詳しい
内容はお
知らせできませんが,すでに
数件の
相談を
受けています。そこまでの
大口は
多くないだろうと
考えていましたし,その
形態や
状況――
同人誌なのかグッズなのか,あるいは
何かのデータなのか――によっても
都度検討が
必要になるので,
一律に
何%などと
決まっているわけではありません。
4Gamer:
作品の
内容に
審査が
入るわけではないんですよね。
梶原氏:
内容の
審査はしません。SPLLは
内容にまで
踏み
込んで
公認の
証を
与えるものではないですから。あくまで
形態や
状況を
鑑みて
判断するだけです。
4Gamer:
現在5
社が
賛同している
形ですが,このほかのパブリッシャのタイトルはいかがでしょうか。
現時点では
賛同を
得られなかったという
理解でいいのでしょうか。
梶原氏:
アークライトと
新紀元社でやっている
「Role&Roll」という
専門誌がありまして,そこに
参加しているクリエイターの
皆さんと
相談しながら
進めた
経緯があります。まずは
距離が
近いところから
足場を
固めて,
広げて
行こうという
狙いですので,
現在参加していないパブリッシャにも
話をしていきたいと
思っています。
影山周平氏(以下,影山氏):
そもそもの
話として,
現在参加を
表明しているパブリッシャの
作品すべてが
含まれているわけでもないんです。パブリッシャの
意向というより,それぞれのクリエイターの
考えを
尊重していますので。
例えば
今回のガイドラインより,もっとファンに
対してフレンドリーにしたいと
考えている
著者さんのタイトルなどはリストに
含まれません。ですから,
今後もガイドラインから
外れたり,
新たに
加わる
作品が
出てくると
思います。
4Gamer:
分かりました。ガイドラインの
発表後,TRPGファンの
反響はいかがですか。
梶原氏:
概ね
肯定的に
捉えていただけたように
思います。もちろん
一部には「
同人活動をいちいち
制限されるのはちょっと」という
反応もありましたが,イベントでヒアリングしたものも
含めると,「ガイドラインが
引かれたことで
活動しやすくなった」という
声が
多く
聞かれました。
4Gamer:
事務局に
届く
申請や
問い
合わせは,やはりCoCに
関連したものが
多いのでしょうか。
梶原氏:
ライセンスの
申請で
言えば8〜9
割がCoC
関連です。
問い
合わせなら,
大部分は
具体的な
質問ですね。
4Gamer:
サイトに
掲載されている
許諾済頒布作品リストを
見ても,そんな
印象を
受けました。
紙媒体とデジタルの
比率で
見るといかがですか?
梶原氏:
現状だとデジタルが7
割くらいですね。
紙媒体の
場合,
売上見込が20
万円未満は
申請が
必要ないですから。1000
円の
本を100
部作っても10
万円にしかならない。その
範囲内で
活動されている
人が
大半ですので,
世の
中に
出ている
作品全体でみれば,
紙媒体のほうがはるかに
多いと
思います。
加速するデジタルシフトと,立ちはだかる問題
4Gamer:
では,そんなデジタル
販売について
聞かせてください。SPLLに
対応した
配信プラットフォームとして,まずはDLsiteが,
続いてBOOTHが
参加を
表明した
形ですが,そもそもDLsiteが
最初に
名乗りを
上げたのはどういった
経緯からだったのでしょうか。
DLsite 事業推進部 同人チーム販促プランナーの影山周平氏。普段はゲームマーケットやコミックマーケットなどに出店する,同人サークル向けの営業を担当しているという
|
影山氏:
はい。
発端としては,DLsite
内でTRPGジャンルを
強化したいという
計画がありました。これはインディーズで
活動している
人が
多いジャンルでありながら,DLsiteとして
作品発表の
場をうまくご
提供できていない
現状があったためです。またコロナ
渦の
影響でオンラインでプレイする
機会が
増え,デジタルコンテンツの
需要が
高まっていたことから,
検討していたものになります。
4Gamer:
それはいつ
頃のお
話ですか。
影山氏:
2020
年の5
月頃だったと
思います。そこでアークライトさんにご
相談したところ,それがちょうどガイドラインとSPLLの
案が
練られている
最中でした。でもあの
当初は,デジタルは
一律禁止で
話が
進んでいて……。
梶原氏:
そもそも
一度刷ったものがなくなれば
終わりの
紙媒体とは
違い,デジタル
販売というのは
恒久的に
売り
続けられる
性質を
持っています。
経費が
限りなく0に
近づき,
売れた
分だけ
利益になるわけで,それは「
非営利を
目的とした
二次創作」から
大きく
外れかねない。
各タイトルのクリエイターさんの
側からしても「それはもう
商売では?」という
考えが
拭いきれないため,
当初デジタルは
一律禁止で
考えていました。
4Gamer:
無償であれば
問題ないわけですよね。
梶原氏:
それはもちろんです。
一昨年,F.E.A.R.さんが「
無償でない
限りデジタルの
二次創作は
禁止」という
発表をされた
経緯もありました。ただそのときは「
一切禁止」という
部分だけが
独り
歩きしてしまい,それはそれで
問題だったのですが。
4Gamer:
なるほど。その
点,DLsiteさんはどうお
考えなんでしょうか。
影山氏:
……なかなか
線引きは
難しいですが,デジタルに
需要があるのは
確かだと
思います。
紙媒体は
在庫の
問題があるので,
気軽に
再販もできません。
なので
「それならウチも協力しますから,デジタルも可能になる条件を模索してみませんか」という
提案を,アークライトさんにさせていただきました。そんな
風に
案作りの
段階から
関わらせていただいたことから,
結果的にファーストローンチがDLsiteになったというのが,
今回の
経緯だったりします。
4Gamer:
ああ,なるほど。ガイドラインの
発表当初,デジタル
販売への
言及が
後日発表とされていたのは,その
調整に
時間がかかったから,でしょうか。
影山氏:
そうです。
最初はデジタル
禁止の
方向でかなり
調整が
進んでいたところに,「こういうやり
方ではどうですか?」と
提案していった
形なので,
当初はお
待たせする
形になってしまいました。
4Gamer:
結果として
落ち
着いたのが,10%の
料率ということなんですね。
元となったケイオシアムの
料率が20%だったことを
考えると,かなり
低いと
感じます。
梶原氏:
ファンの
皆さんが
窮屈にならないように,というのが
大前提ですので。とはいえ,これより
低いとやる
意味がなくなってしまうので,そのギリギリを
攻めたつもりです。
4Gamer:
各社さん,あるいはファンの
皆さんの
反応はいかがでしたか。
影山氏:
どちらも
前向きにとらえてくださっていると
思います。
例えばですが,CoCのシナリオを
創作されている
喀血卓という
作家さんは,もともと「デジタルは
商業に
準ずると
考えているのでやらない」というスタンスでした。ですがSPLLの
発表を
受けて,「
権利者に
利益還元ができるのであれば,
再販が
難しい
本をデジタルで
出そう」と
動いてくださいました。そんな
風に,
著作者への
還元があるなら,デジタル
販売は
双方にとって
悪い
選択肢ではないと
考えています。
4Gamer:
分かりました。DLsiteとBOOTHに
加え,
次は
コノスと
TALTOが
準備中とのことですが,
対応するプラットフォームは
今後も
増えていくと
考えていいのでしょうか。
梶原氏:
事務局としては,ファンの
皆さんの
選択肢が
増えるのはいいことだと
思っています。
協力していただけるプラットフォームがあれば,ぜひお
願いしたいです。
4Gamer:
DLsiteとしてはライバルが
増える
形になりますが,DLsiteならではの
強みをどう
考えていますか。
何か
具体的な
施策などはあるのでしょうか。
影山氏:
DLsiteは,もともとTRPGに
強いプラットフォームではなかったので,むしろこれからTRPGに
興味を
持ってもらえるような
施策を
打ち
出していければと
思っています。
会員数は720
万人と,
他社さんと
比べても
引けは
取りませんので,そうした
新しい
層にアピールできるのが,
強みではないかと
思います。
具体的な
施策としては
今もTRPG
特集のバナーを
展開していますし,こちらはTRPGに
限った
話ではないですが,
手数料が
大幅値下げ(
販売額次第で
最大50%→キャンペーン
適用で10%)となる
「創作活動応援キャンペーン」も
実施中です。こちらはTRPGファンの
皆さんにも,ぜひ
利用してほしいです。
4Gamer:
公式の
製品――いわゆるコアルールブックやサプリメントなども
買えるようにはなりませんか?
影山氏:
DLsiteの
姉妹サイトですが,
商業出版を
扱う
「DLsite.comipo」では,すでにルールブックなどの
販売も
行っています。
商業と
同人で
分かれているので,
同じカートに
入れて
一括で
買うことはできませんが,アカウントやポイント
制度などは
共通で
利用いただけます。
梶原氏:
コロナ
禍の
影響もあって,オンラインでプレイする
機会が
増えていますので,デジタル
版ルールブックの
需要も
高まっていると
感じます。
紙媒体ではオンラインで
購入しても,
届くのは
早くて
翌日になるでしょうし,
思い
立ったらすぐ
購入してプレイできるのはデジタルの
強みですね。
影山氏:
DLsiteは
確定申告に
関するセミナーを
定期的に
行うなど,
売りっぱなしではなく,その
後も
含めて
創作活動がしやすい
環境を
提供するプラットフォームです。
安心して
創作活動が
行えるSPLLの
仕組みとも
相性はいいので,その
辺りに
魅力を
感じてもらえたら,ぜひ
利用してほしいですね。
初動時の顛末と,成長するガイドライン
4Gamer:
経緯は
概ね
掴めましたので,ここからは
少しツッコミも
入れさせてください。10月の
発表時点では,ガイドラインの
文言やFAQなどに
不備が
目立つように
感じました。
正直なところ,
準備不足を
感じてしまうくらいに。この
点はどうお
考えですか。
梶原氏:
はい。
準備不足だった
面は
否めないと
思っています。
影山氏:
手探りで
進めていましたので,
初動が
雑だったというご
批判は
当然だと
思います。
4Gamer:
少なからず,この
点に
不安や
不信を
抱いた
人がいたのではないかと
思います。なぜそんな
不完全な
状況でGoを
出したのでしょう。
梶原氏:
2021
年内にスタートさせたいという
前提がまずありました。できれば
夏頃に
発表したかったのですが,
各社の
調整に
時間がかかってしまい。12月に
施行することを
考えると,
最低でも1か
月半くらいの
準備期間は
必要ですし,そうなると,どうしても10
月には
発表せざるを
得ませんでした。
4Gamer:
それは2021
年末のコミックマーケット99に
間に
合わせたかった,ということでしょうか?
告知から
施行まで1か
月半というのも,かなり
急な
話ではありますが。
梶原氏:
いえ,それはあまり
関係ないですね。
調整が
長引いた
結果,ある
程度まとまったところで
年内の
発表に
向けて
走り
出さざるを
得なかったというのが
正直なところです。
最初から
完璧は
難しいとも
考えていたので,
最初の
線だけ
引いておいて,あとは
走りながら
修正していこうという
考えでした。
影山氏:
事務局さんとの
打ち
合わせで,
私も
聞いてみたことがあります。そのときの
回答は,「このガイドラインはファンの
皆さんの
意見を
聞きながら
成長していくべきものだから,
最初からガチガチに
決めてしまっては,よけいにこじれてしまいかねない。なので,あえて
緩く
作っている
部分もある」というもので,
自分としてはなるほどと
思いました。
4Gamer:
ではもう
一つ,ライセンスを
発行する
以上,
必然的に
違反を
取り
締まる
必要が
出てくると
思います。サイト
内のFAQによれば,「ガイドラインに
沿って
頂くよう,
制作者の
方にお
願い
致します」という
書き
方になっていますが,これはどのような
意図でしょうか。
梶原氏:
安心して
二次創作ができる
環境を
作ることが
大前提なので,
我々が
積極的に
取り
締まりを
行うつもりはありません。それは
各社さんとも
共通の
認識です。
結果的に
皆さんの
善意にゆだねることにはなってしまいますが,そこは
信頼していますので。
影山氏:
そもそも
作品に
対するリスペクトがあれば,
自然と
守られる
形になるのではと
思っています。
4Gamer:
事務局側で
取り
締まりをしないということは,その
判断をコミュニティに
丸投げしているのと
同義だと
思うのですが。いわゆる“
二次創作警察”が
現れて
荒れるのが
目に
見えるというか……。
梶原氏:
むしろガイドラインという
明確な
線引きができたことで,それらのいざこざも
落ち
着いてくれるのではないかと
期待しています。
何か
言われたとしても,「これはガイドラインに
沿っているので
問題ありません」と,
言えるようになるわけですから。
4Gamer:
一部の
二次創作者からは,SPLLの
申請自体が
手間であるのに
加えて,そうしたいざこざへの
対応が
増えるのは
困るという
声も
聞かれました。それこそ
非営利の
同人活動であるからこそ,そうしたものに
煩わされることがモチベーションを
削ぐことにつながりかねないと。
影山氏:
作家さんの
負担にないようにしたいですね。
申請に
手間がかかる
点は,プラットフォーム
側で
代行できるようになればと
思っています。
梶原氏:
将来的には
可能だと
思います。
手続きについても
改善の
余地はあると
思っていますので,
今後の
成長に
期待いただければと
思います。
TRPGシーンと二次創作,その未来に向けて
4Gamer:
ライセンスからは
少し
離れますが,お
二方から
見た
現在のTRPGシーンについて
聞かせてください。
活況と
呼んでいいように
思いますが,
実際のところどうなんでしょうか。
梶原氏:
そうですね。15
年前と
今とでは,
景色がずいぶんと
変わりました。
動画がきっかけでTRPGに
興味を
持つ
人が
増え,
今や「オンラインでしか
遊んだことがない」という
人も
少なくありません。
昔は
遠出してコンベンションに
参加するしかなかった
地方のファンにとっては,とくに
利便性が
上がったように
思います。
影山氏:
男女比もかなり
変わってきました。かつては98%ぐらいが
男性でしたが,
最近のデータを
見ると,
過半数以上が
女性です。オンラインセッションの
普及と
共に
性別や
年齢の
幅が
広がって,
距離を
意識しなくてもよくなったのはいい
形の
進化だなと
思います。
梶原氏:
「Role&Roll」のアンケートでも,やはり
55%くらいが女性でした。
年齢層で
言うと20
代は
圧倒的に
女性が
多くて,40
代は
逆に
女性がほとんどいないという。30
代は
半々からやや
男性が
多めで,
世代でくっきり
分かれています。
影山氏:
昔は
男性ばかりの
中に
女性が
入っていくのはハードルが
高かったですが,オンラインセッションなら,
顔を
合わせることもありません。おじさん
側としても,
立ち
絵さえ
出しておけば
若い
人とプレイすることにもあまり
抵抗がなく,
気楽ですしね(笑)。
4Gamer:
やはり
動画の
影響が
大きかったのでしょうか。
梶原氏:
そうですね。CoCの
動画が2011
年頃にニコニコ
動画で
大人気になって,その
中心層だった
中高生が
成長し,
現在の
層を
形成しているのだと
思います。
我々古い
世代からすると,CoCがそんなに
人気になるとは
思いもしなかったですが(
苦笑)。
4Gamer:
少なくとも,
最初にプレイするタイトルではなかったですね(笑)。
影山氏:
「デモンベイン」シリーズや
「這いよれ!ニャル子さん」といった
作品の
影響もあって,クトゥルフ
神話がカジュアル
化していたのも
大きいですね。ただ,これだけ
多種多様な
娯楽が
溢れる
今の
時代に,なぜTRPGだったのかは
不思議ではありますけど。
4Gamer:
では,TRPGシーンがよりいっそう
発展するためには,なにが
必要だとお
考えですか?
梶原氏:
TRPGという
遊びが
特別なものではなくなってほしいな,と
思っています。
ほかのホビーと
比べて,TRPGはなにかとハードルが
高い
印象を
持っている
人が
多いと
思いますが,
実際はもっと
気軽に
遊んでくれていいものなんです。ルールが
分からなくても,
周りが
教えてくれますしね。
4Gamer:
もっと
気軽に
遊べる
環境を
作るべき?
梶原氏:
そうですね。
若い
世代はとくにコミュニケーションへの
忌避感がなくて,ネット
越しで
初対面でもためらいなくやりとりできます。そうした
層に,
会話で
物語を
作るTRPGの
楽しさをアピールしていけたらと
思っています。
影山氏:
TRPGって,
自分ではプレイはしないけど
動画や
紙媒体のリプレイは
見る/
読むという
人がいっぱいいて,そういう
人に
話を
聞くと「
最初のきっかけがない」と
言うんです。なので,「
皆で
遊ぶ
機会を
作りましょう!」という
方向で
盛り
上げられたらと
思っています。ただ,「TRPG=CoC」ではない,ということも
同時に
啓蒙したいですね。
4Gamer:
そこはけっこう,
課題ですよね。「このシナリオ,CoCじゃなくてもよくない?」みたいなのって,いっぱいありますから。
梶原氏:
謎解きやキャラクター
同士のコミュニケーションがメインになり,
神話生物すら
出てこない,ルールすらほとんど
使わないセッションもあるくらいです。
何でもできるからCoCでいいやという
人がいるのは
分かりますが,TRPGはほかにもいっぱいあるので,もっと
広い
世界に
触れてもらいたいという
気持ちは,
正直あります。
しかしまあ,
昔は
何でも
「ダンジョンズ&ドラゴンズ」で
済ませてしまう,みたいなこともありましたし,そのとき
流行っているタイトルが
雪だるま
式に
大きくなっていく
傾向は,
仕方ない
側面もあるのでしょう。
影山氏:
母数が
大きいタイトルはゲームマスター(キーパー)の
絶対数が
多いので,
入口になりやすいですよね。そこは
我々も
努力して,いろいろなタイトル――
遊びがあることを
伝えていきたいです。
4Gamer:
今回のガイドラインやSPLLは,そうしたTRPGの
未来でどういう
役割を
果たすのでしょうか。
梶原氏:
TRPGのシナリオって,
昔はマスターが
自分で
作る
文化でしたよね。だからシナリオ
集は
売れない
本の
筆頭でしたが,
今はまったく
違います。シナリオは
既存のものを
回すのが
普通になって,シナリオが
潤沢にあることが,プレイ
環境の
豊かさにつながるようになりました。
二次創作を
豊かにするガイドラインとSPLLは,そのスパイラルの
中でますます
重要になるものと
思っています。
4Gamer:
ファンからすれば,もう
少し
公式側に,オンラインセッションなどの
実際のプレイシーンに
寄り
添った
動きを
期待する
側面があるように
思います。
例えば
公式シナリオをデジタルでバラ
売りするとか,そういったことは
難しいのでしょうか。
影山氏:
弊社が
手がけるサービスの
一つに
「Ci-en」というクリエイター
支援サービスがありまして,その
仕組みを
活用した
新しい
取り
組みが
準備中です。まだ
詳細は
発表できませんが,クリエイターを
支援されたTRPGファンの
皆さんには,きっと
喜んでいただけるものになるのではないかと。
またデジタルを
活用することで,もっと
画期的な
取り
組みが
可能になるのではとも
思っているので,
継続的に
考えていきたいです。
梶原氏:
デジタルプラットフォームの
重要性は
今後も
大きくなっていくものと
思いますので,そういった
試みもやっていきたいです。またライツ
事務局はそうしたファンの
皆さんの
声を
各社さんに
伝える
窓口でもあるので,
要望があればぜひ
送ってもらえたらと
思います。
4Gamer:
分かりました。
最後にTRPGファンに
向けたメッセージをお
願いできますか。
梶原氏:
とにかくいろんなTRPGをどんどん
遊んでほしいですね。
事務局のサイトに
載っているリストを
見るだけでも「TRPGってこんなにあるんだ」って
分かってもらえると
思います。どんどん
遊んで,
二次創作もしてもらって,
全体が
盛り
上がったらみんなハッピー。なにせ
日本のTRPG
業界は,クリエイターとファンが
一体となって
盛り
上げてきた
歴史があるわけですから。そういう
方向を
目指して,これからもやっていきたいと
思っています。
影山氏:
そんなサイクルの
中で,DLsiteが
大きな
役割を
果たす
存在になれるよう,
頑張りたいと
思っています。
作品をDLsiteでデジタル
販売し,その
売上でまた,
公式の
製品をDLsiteで
買ってもらうというような。ファンの
皆さんが
使いやすい
環境が
作れるよう
動いていきますので,
時間はかかるかもしれませんが,ぜひご
期待ください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
ガイドラインやライセンスというといかにもお
堅いイメージがあったが,お
二人が
語る
言葉からは,TRPGを
取り
巻く
諸問題に
真摯に
向き
合い,より
良い
形を
模索しようとする
熱意が
感じ
取れた。
もちろんインタビュー
中でも
両者が
認めたように,
発表時には
不備もあり,
現状も
有償の
動画配信についての
規定が
決まっていないなど,まだ
曖昧な
部分が
残されているが,
今後より
使いやすいガイドラインになることに
期待したい。
――2021年12月16日収録