KANGOGAKU-ZASSHI Volume 35, Issue 2 （February 1971）

看護かんご学がく雑誌ざっし 35巻かん2号ごう（1971年ねん2月がつ発行はっこう）

特集とくしゅう問とわれる医療いりょう過誤かご—千葉大ちばだい採血さいけつ事故じこ裁判さいばんより

加害かがい者しゃから真しんの加害かがい者しゃたれ—看護かんご者しゃの原点げんてん看護かんご反戦はんせん pp.48-56

発行はっこう日び 1971年ねん2月がつ1日にち Published Date 1971/2/1

DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661915916

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文献ぶんけん概要がいよう
1ページ目め

1．闘たたかいの出発しゅっぱつ点てん

　被告ひこくと呼よばれている多田ただなを看護かんご婦ふとわれわれがはじめて話はなし合あいをもったのは，事件じけん当日とうじつから1年ねん2か月げつ余あまりも経過けいかした時ときであった。彼女かのじょはすでに減俸げんぽうの行政ぎょうせい処分しょぶんを受うけており，44年ねん10月がつ17日にちには，千葉ちば地方ちほう検察庁けんさつちょうから「業務ぎょうむ上じょう過失かしつ致死ちし」容疑ようぎで刑法けいほう第だい211条じょうによって起訴きそされている時ときであった。

　千葉大ちばだいの看護かんご学校がっこうを卒業そつぎょうし，臨床りんしょう3年ねん目めを迎むかえたという彼女かのじょは，若々わかわかしい身体しんたいをまるで喪服もふくとしかいいようのない黒くろづくめの服装ふくそうであった。一言ひとこと一言ひとこと事件じけんの経過けいかとその罪つみの重おもさを自分じぶんに語かたりかけるような調子ちょうしで話はなし，犠牲ぎせい者しゃとなった杉井すぎいさんの死しのところにくると，悲かなしみとも怒いかりともつかない沈黙ちんもくの末すえ，化粧けしょうの全まったくない顔かおを涙なみだでくしゃくしゃにし，話はなそうと努力どりょくしても言葉ことばにならないのであった。そして多田ただ看護かんご婦ふは，「自分じぶんはなにも知しりはしないのに，知しっているような錯覚さっかくのなかで，命令めいれいされなくても率先そっせんして仕事しごとをこなす，でしゃばりな看護かんご婦ふであった」ことを強調きょうちょうし，「私わたしはこの事件じけんだけで裁さばかれようとは思おもっていない。私わたしの過去かこは医療いりょう事故じこでいっぱいだったのだから。私わたしはいつも人ひとを殺ころしても気きがつかなかった。だから私わたしは起訴きそされても当然とうぜんだと思おもっているし，どんな重おもい罪つみも受うけるつもりです」と語かたった。