SZ MEMBERSHIP

スニーカーに3Dプリント革命かくめいをもたらす世界せかいのスタートアップ

3Dプリンティングはスニーカーのデザインに待望たいぼうのイノベーションをみつつあるが、大手おおて苦戦くせんする──あるいはあしむ──領域りょういき実際じっさい主導しゅどうしているのは、小規模しょうきぼブランドだ。
White Lotus(左)と、ナイキのAir Olympic Prototypes(右)
White Lotus(ひだり)と、ナイキのAir Olympic Prototypes(みぎCourtesy of White Lotus and Nike

紹介しょうかいした商品しょうひん購入こうにゅうすると、売上うりあげ一部いちぶが WIRED JAPAN に還元かんげんされることがあります。

アディティブ・マニュファクチャリング(積層せきそう造形ぞうけい)が現実げんじつ登場とうじょうするより40ねんまえに、わたしたちがいまや「3Dプリンティング」と技術ぎじゅつおどろくほどの先見せんけんせいえがいていた作家さっかがいる。多作たさくられた米国べいこくじんSF作家さっかマレイ・ラインスター1945ねん発表はっぴょう短編たんぺん小説しょうせつだった。

ラインスターのえが主人公しゅじんこうダーク・ブラディックは、ほしからの侵略しんりゃくしゃかうために、ロボットアームにめいじてそうかさねながら自作じさく宇宙船うちゅうせんをつくる。「プラスチック建造けんぞうやすみなくはたらく」とブラディックは説明せつめいする。「光電管こうでんかん走査そうさえがいた図面ずめんしたがって空中くうちゅうぞうえがく。うごいているアームの先端せんたんからプラスチックがてきて、それがたちまちかたまる。この工程こうてい宇宙船うちゅうせん片端かたはしからはじまって、反対はんたいがわまでできあがっていく」

ブラディックの宇宙船うちゅうせんは、完成かんせいまでに24時間じかん以上いじょうかかっていた。今日きょうねつ溶解ようかい積層せきそう方式ほうしき(FDM)の3Dプリンターからかなり複雑ふくざつなつくりのスニーカーがつくりされるよりすこながい。3Dプリンターでつくられるスニーカーのなかには、射出しゃしゅつ成形せいけいしたクロックスのようなタイプもある。一方いっぽう、グリップりょくのある頑丈がんじょうなソール、布地ぬのじのような伸縮しんしゅくせい通気つうきせいのあるアッパー、内部ないぶ格子こうしじょうのメッシュ構造こうぞう密度みつど最適さいてきされたミッドソールという構造こうぞうをもつ一体いったい成形せいけいタイプは、適度てきど反発はんぱつせい支持しじせいそなえている。

そういった一体いったい成形せいけいのスニーカーを3Dプリンターで製造せいぞうし、自身じしんのブランドZellerfeld(ゼラーフェルド)で販売はんばいしているのが、コーネリアス・シュミットだ。特注とくちゅうのFDM 3Dプリンターすうひゃくだい使つかって、ぜん世界せかい顧客こきゃくけて各種かくしゅ未来みらいてきなシューズを製造せいぞうしており、製品せいひんはすべて工場こうじょうから直送ちょくそうされる。ドイツのハンブルクにある、プリンターぐんなら工場こうじょうからだ。28さいのシュミットは、宇宙船うちゅうせんともえんふかい。Zellerfeldは、スペースXの最初さいしょ投資とうしでもあった資産しさんピーター・ティールから1,500まんドル(やく23おくえん)の投資とうしけているからだ。

だが、Zellerfeldも、3Dプリンティングという壮大そうだい可能かのうせいけて成功せいこうねらすうおおくの革新かくしんてき企業きぎょうのひとつにすぎない。一方いっぽうで、大手おおてのスニーカーブランドは実現じつげんけて苦戦くせんしている。

大手おおてのなかでもっとつよくこれをしているのは、ナイキだ。ナイキはアディティブ・マニュファクチャリングによるフットウェア製造せいぞう最初さいしょ特許とっきょを2012ねん出願しゅつがんしている。当時とうじCOO(最高さいこう執行しっこう責任せきにんしゃ)をつとめていたエリック・スプランクは、3Dプリンティングによってすうねんには「製品せいひんフットウェアの製造せいぞう革命かくめいこる」と予言よげんした。「効率こうりつがって廃棄はいきぶつるような製法せいほうで、注文ちゅうもんおうじて短期間たんきかん納品のうひんする」というのだ。

だが、その予言よげん簡単かんたんには実現じつげんしていない。ナイキは都合つごうのいいトークをつづけており、3Dプリンターせい多種たしゅ多様たようなスニーカーを喧伝けんでんしているものの(そのひとつが、「AIR」シリーズで「もっとおもった」24ねんモデルだ)、そのいずれも商品しょうひんはされていない。スプランクが予言よげんした2015ねんから9ねんたっても、ナイキのショップにって、あしをスキャンし、1あいだには3Dプリンターでできたあざやかないろのスニーカーをいててくる、という具合ぐあいにはなっていない。ちかいうちにそうなるという気配けはいもない。

アディダスは、そのなんさきすすんでいる。15ねんに3Dプリンターせいのミッドソールを実験じっけんてき製造せいぞうしたのち、一体いったい成形せいけい格子こうし構造こうぞうのスリッポンタイプのリカバリーシューズを3Dプリンターで製造せいぞうしており、これを24ねん10がつまつから販売はんばいしている。ただし店頭てんとう販売はんばいはなく、オフホワイトの「Climamog」を156ドル(やく24,000えん)で購入こうにゅうできるのは、アディダスのスマートフォンアプリ「Confirmed」からの注文ちゅうもんのみとなる。

アディダスの「Climamog」。

Courtesy of Adidas

最大さいだいのライバル企業きぎょうプーマも、3Dプリンターせいのスニーカーを販売はんばいしている(ドイツ企業きぎょうのアディダスとプーマは、それぞれアドルフとルドルフのダスラー兄弟きょうだいによって創業そうぎょうされ──「アディダス」の社名しゃめいはアドルフ・ダスラーに由来ゆらいする──、ふたりの確執かくしつかたぐさになっている)。ラッパーのエイサップ・ロッキーとのコラボレーションで、樹脂じゅしせい未来みらいてきなスリッポン「Mostro」を開発かいはつ。そのあらたないろ使づかいが話題わだいになって、はやくもインフルエンサーの投稿とうこう登場とうじょうはじめた。

フットウェア業界ぎょうかいのシリコンバレー

スプランクが予言よげんしたフットウェア製造せいぞう進化しんかとはだいぶちがうようにおもえるが、本人ほんにんはそのコンセプトにいまも自信じしんしめしている。ただし、ナイキの主導しゅどうではなくなった。スプランクは現在げんざい複数ふくすう会社かいしゃ取締役とりしまりやくつとめており、ゼネラル・ミルズ、ボンバルディア、そしてHilos(ヒロス)というフットウェアブランドもそれにふくまれている。

スプランクが投資とうしもしているHilosは、オレゴンしゅうポートランドに本拠ほんきょスタートアップだ。ポートランドからビーヴァートンにかけてひろがる土地とちは、フットウェア業界ぎょうかいのシリコンバレーともばれており、ナイキやアディダス・アメリカをはじめとするスポーツシューズブランドもこの一帯いったい拠点きょてんかまえている。Hilosの本社ほんしゃがあるのは、1おく2,500まんドル(やく1,900おくえん)をとうじた「Made in Old Town」という都市としさい開発かいはつ計画けいかく中心ちゅうしんで、この計画けいかくはポートランドのなにもない一帯いったいをフットウェアとアパレルのイノベーションハブにえるという構想こうそうすすめられている。

同社どうしゃは、スニーカーなどのくつのソールやそののパーツを3Dプリンターで製造せいぞうするさい粉末ふんまつゆか溶融ようゆう結合けつごう使つかっている。ウェブサイトにかかげられている文言もんごんはこうだ。「3Dは、従来じゅうらいのモールドや機械きかいではとどかないあらたな次元じげん自由じゆうなデザインをひらきます」

Hilosの創業そうぎょうしゃでありCEOもつとめるエリアス・スタールは、『WIRED』にたいしてつぎのようにかたっている。「[従来じゅうらいの]スニーカーの場合ばあい製造せいぞうには1そくあたり平均へいきん4あいだかかります。なが作業さぎょうで400の工程こうてい必要ひつようです。こういうむかしながらの産業さんぎょう国内こくない回帰かいきさせるには、3Dプリンティングのようなあたらしい技術ぎじゅつ導入どうにゅうするしかありません」。スタールは、特殊とくしゅ部隊ぶたい退役たいえき軍人ぐんじんでもある。

アディティブ・マニュファクチャリングによるスニーカーの製造せいぞう可能かのうなことを実証じっしょうしようとしている米国べいこく企業きぎょうはほかにもある。たとえば、カリフォルニアのKoobzは23ねんから16kWの3Dプリンターで製造せいぞうしたスニーカーを販売はんばいしている。また、ロサンゼルスに本拠ほんきょく3DプリンティングのスタートアップElastium最近さいきん、3Dプリンターせいのスニーカー「ORCA」を発表はっぴょうしており、これはカリフォルニア最大さいだいくつメーカーLaLaLand(ラ・ラ・ランド)でつくられた。

一方いっぽう、スイスのスニーカーブランド、On(オン)は、シューレースのない競技きょうぎようシューズ「Cloudboom Strike LS」を330ドル(やく50,000えん)で販売はんばいしており、その製造せいぞうにはスプレー製法せいほうのアディティブ・マニュファクチャリングが利用りようされている。全長ぜんちょう1.5km、バイオベースプラスティックせい単一たんいつフィラメントをロボットアームで噴射ふんしゃすることによって、メッシュじょう素材そざい形成けいせいし、もなくミッドソールと一体化いったいかして、フォームにフィットする軽量けいりょうのアッパーがわずか3分間ふんかんでつくりされる。

だが、こうした長足ちょうそく進歩しんぽがあるにもかかわらず、大手おおてのスニーカーブランドが3Dプリンティングに移行いこうする動機どうきには、あまりなっていない。3Dプリンティングを使つかわなくても、しんじられないほど安価あんか普通ふつうのスニーカーを大量たいりょうおくせるからだ。

大手おおてのスニーカーブランドは、「射出しゃしゅつ成形せいけいしたスニーカー1そくを、たいていは10ドル(やく1,540えん)もかからずに製造せいぞうできるからです」とはなすのは、全米ぜんべいくつ流通りゅうつう販売はんばいぎょう協会きょうかい(FDRA)のアンディ・ポークだ。それが、平均へいきん130ドル(やく20,000えん)でられている。Climamogは1そくあたりの製造せいぞう単価たんかが28ドル(やく4,300えん)で、それでもアディダスにとっての利益りえきおおきい。しかし、従来じゅうらい製法せいほうのスニーカーとくらべると3ばいちかくとなるため、利益りえきりつひくくなり、したがって成長せいちょう重視じゅうし企業きぎょうにとっては魅力みりょくがるのだ。

有名人ゆうめいじん提携ていけいしたスニーカー、とく性能せいのうめん技術ぎじゅつ巨額きょがくをかけていない製品せいひんは、おどろくほど利率りりつたかく、製造せいぞう容易よういで、しかもかなりの高値たかねれる場合ばあいおおい。これこそ、スニーカーブランドがおおきな利益りえきをあげる伝統でんとう実績じっせき裏打うらうちされた手法しゅほうだ。大手おおてスニーカーブランドからると、アディティブ・マニュファクチャリングは依然いぜんとして確実かくじつもうけをせる手段しゅだんにはなっていないのである。

しかしナイキが後手ごてまわり、アディダスが実験じっけんてき段階だんかいにとどまり、それ以外いがいのスポーツシューズブランドも3Dプリンティングをまったく敬遠けいえんしている一方いっぽうで、ゼラーフェルド、Hilos、Elastium、Koobzといった革新かくしんてき企業きぎょう実際じっさい製品せいひん製造せいぞう販売はんばいしている。中国ちゅうごくのスニーカーメーカー、Peak Sport同様どうようで、複雑ふくざつな3Dプリンターせいのスニーカー国内こくないけに出荷しゅっかはじめてからすくなくとも3ねんがたつ。

Peak Sportは、フィラメント溶解ようかい製法せいほう(FFF)を使つかっている。3Dプリンティングで製造せいぞうするスニーカーに多色たしょくのパターンをほどこせる積層せきそうプロセスであり、おなじことをFDM方式ほうしきのプリンターで実現じつげんしようとするとかなりの時間じかんとコストが必要ひつようになる。

従来じゅうらいの「かた」をやぶ

3Dプリンターせいスニーカーの近年きんねん販売はんばいすうは10まん単位たんいにのぼる可能かのうせいがある、とポークは『WIRED』にかたった。実際じっさいには100まん単位たんいという可能かのうせいもあるが、大量たいりょう生産せいさんといえば中国ちゅうごくせいまっているので、販売はんばいすう裏付うらづけをとることはできない。

もちろん、100まん単位たんいだとしても微々びびたるものだ。米国べいこく年間ねんかん27おくそくくつ輸入ゆにゅうしており、そのうち従来じゅうらい製法せいほうのスニーカーが5おくそくちかくをめている。スポーツシューズは健全けんぜんなビジネスでもある。ぜん世界せかいのスニーカー市場いちばで、げは年間ねんかん890おくドル(やく137ちょうえん)にたっする

そのうちの一部いちぶ獲得かくとくできるだけでも、シュミットはがっている。Zellerfeldを「シューズ業界ぎょうかいのYouTube」にするのが目標もくひょうだとかたるシュミットが、ノートPCのカメラをつうじて、プリンターがならひろさ30,000平方へいほうフィート(やく2,800平方へいほうメートル)ほどの工場こうじょうせてくれた。ハンブルクの工業こうぎょう団地だんちにあるオフィスビルの5かいだ。

大手おおてスニーカーブランドのデザインは、すうじゅう年間ねんかんほとんどわっていない、とシュミットは不満ふまんをこぼした。

「なーんにもわってません。毎年まいとしおなじです」。その言葉ことばとは裏腹うらはらに、口調くちょう真剣しんけんだ。

Zellerfeldの方向ほうこうせいはそれとせい反対はんたいだ。しん境地きょうちひらいたデザイナーたちによる斬新ざんしんなスニーカーデザインをウェブサイトにアップロードし、その革新かくしんせい奨励しょうれいしており、デザイナーにはプリントごとに著作ちょさくりょう支払しはらっている。また、ルイ・ヴィトン、へロン・プレストン、モンクレールなどの高級こうきゅうブランドにかんしては販売はんばいすう限定げんていする。ジャスティン・ビーバーやルイス・ハミルトンといった有名人ゆうめいじんがZellerfeldのくついている写真しゃしん出回でまわるようになった。

「デザイナーが従来じゅうらいのスニーカー製造せいぞうほうではつくれないデザインをアップロードしてくれるとむくわれます」とシュミットはかたる。

Courtesy of Zellerfeld

Zellerfeldのスニーカーは需要じゅようおおく、予約よやくは5カ月かげつさきまでまっている。顧客こきゃくは10ドル(やく1,540えん)という少額しょうがく前払まえばらきん生産せいさんわく確保かくほし、順番じゅんばんまわってきた時点じてんえらんだスニーカーを最終さいしゅう決定けっていする。顧客こきゃくの80%はオーダーメイドのスニーカーを希望きぼうし、サイズと形状けいじょうはスマートフォンで自分じぶんあし左右さゆうからスキャンして送信そうしんする。

製造せいぞう所要しょよう時間じかん改善かいぜんされつつある。ピーター・ティールが投資とうしした2011ねん以前いぜんは、市販しはんのFMDプリンターが4だいしかなく、シューズの片方かたがたをプリントするだけでも数日すうじつようしていた。いまでは特注とくちゅうのプリンターすうひゃくだいによってそれが20あいだまで短縮たんしゅくしており、シュミットのはなしによると段階だんかいてき改良かいりょう最終さいしゅうてきにはぶん単位たんいまで短縮たんしゅくできるはずだという。

この計画けいかくおおきな比重ひじゅうめるのがスニーカー専用せんよう新型しんがた3Dプリンター。それが大量たいりょう生産せいさんにゅうろうという段階だんかいだ。

専用せんようプリンターはシューズの全体ぜんたいをプリントし、完成かんせいしたくつはこのあなとされます」。シュミットはそういながら、ちいさなしろいアルミニウムせいとびらけ、次世代じせだいプリンターの開口かいこうとそのうわそらあいだしめす。「それから、つぎのシューズのプリントがはじまります」

シュミットがこの業界ぎょうかいあしれたのは、なかば偶然ぐうぜんからだった。みずかみとめるとおり、むかしからスニーカーマニアではあった。クラウスタール工科こうか大学だいがくではインダストリアルエンジニアリングを専攻せんこうしていたが、3Dプリンターで細々こまごましたものをプリントすることにうんざりしていた。そんなある週末しゅうまつ、ふとシューズに関心かんしんけたのである。

「わたしにとって、3Dプリンターはこのもっと魅力みりょくてき機械きかいです。その週末しゅうまつにスニーカーをプリントしてみようとおもったのが、8ねんのいまおもえば、すべてのはじまりでした」とシュミットはかえる。

せまられるビジネスモデルの変革へんかく

12月はじめにバルセロナでひらかれる「Footwearise」に、シュミットはスピーカーとして登壇とうだんする。Footweariseは、フットウェア業界ぎょうかいのコンサルタントであり3Dプリンティングの専門せんもんでもあるニコリン・ヴァン・エンターが主催しゅさいするイベントで、24ねんで2ねんとなる。だい1かいは23ねんひらかれた「Footprint 3D」で、チケットがれるほど人気にんきだった。24ねんはじめにオレゴンしゅうポートランドでひらかれたスピンオフイベントもソールドアウトになっている。Footweariseには、デザイナー、技術ぎじゅつしゃ大手おおてスニーカーブランドの経営けいえいしゃなど300にん以上いじょう参加さんかする予定よていだ。

フットウェア業界ぎょうかいなが経験けいけんかさねてきたヴァン・エンターは、3ねんまえにバルセロナにうつり、そこでフットウェア訓練くんれん学校がっこうFootwearology」をげた。そこで、3Dによるフットウェアのプリント製造せいぞうについて定期ていきてきなウェビナーを開催かいさいし、個人こじんレッスンも展開てんかいしている。

当初とうしょ計画けいかくでは、ベトナムに拠点きょてんうつし、そこでフットウェア製造せいぞうのイノベーションハブをはじめるつもりでしたが、ちょうどコロナになってしまったので、ヨーロッパにとどまることにしたのです。当時とうじのビジネスパートナーがバルセロナの出身しゅっしんだったので、アジアではなくこのえらびました。いい選択せんたくでした。スニーカーの製造せいぞうをヨーロッパと米国べいこくもどしたいと、おおくの企業きぎょうがいいだしていたからです」と、ヴァン・エンターはかたる。

ヴァン・エンターが目指めざしているのは、フットウェアのサプライチェーンを改革かいかくし、しかるべき場所ばしょ展開てんかいすることだという。自動じどうによって、地域ちいきごとにオンデマンドのフットウェア製造せいぞう実現じつげんし、廃棄はいきぶつらせることを企業きぎょうつたえており、その構想こうそうには製品せいひん寿命じゅみょうのリサイクルシステムまでふくまれている。

「ひとつ誤解ごかいがあります。フットウェアの3Dプリンティングは、技術ぎじゅつてき対応たいおうしていないため拡張かくちょうできないという誤解ごかいです。これはまさしくありません。おおきな問題もんだいはビジネスモデルをえなければならないてんにあります。3Dプリンティングでシューズを製造せいぞうしたければオンデマンドのビジネスモデルにえる必要ひつようがあり、これはスニーカーの大手おおてができないこと、あるいはしようとしないことです。ナイキもアディダスも、プーマやニューバランスなども大量たいりょうのシューズをアジアから輸入ゆにゅうし、在庫ざいこから販売はんばいしています」

地域ちいき流通りゅうつうできるちから資金しきん、そしてオンデマンド印刷いんさつした書籍しょせき販売はんばい実績じっせきがある企業きぎょうなら、いつのかフットウェア業界ぎょうかいこすかもしれない。

「3Dプリンターを完備かんびした配送はいそうセンターを、アマゾンなら用意よういできるのではないかと期待きたいしています。オーダーメイドの製品せいひんをオンラインで注文ちゅうもんできるからです。それを書籍しょせきのオンデマンド印刷いんさつではなく、シューズなどで展開てんかいするのです。顧客こきゃくあしの3Dスキャンデータがアマゾンに保存ほぞんされていて、注文ちゅうもんすると自宅じたくちかいハブでシューズがプリントされてふるくなったものはリサイクルしてくれます」

もちろん、いまのアマゾンにオンデマンドのスニーカーというプログラムはないが、ヴァン・エンターはすでに3Dプリンターせいのシューズをいている。

「わたしがいているシューズは、Fused Footwearせいです。3ねんまえからいています。かなり使つかんでいますけど、いまだに新品しんぴんみたいです」

Fused Footwearは、香港ほんこんにあるちいさなプリント工場こうじょうの3Dプリンターでスニーカーを製造せいぞうし、毎月まいつき100そく販売はんばいしているひとり企業きぎょうだ。オランダのプロダクトデザイナー、フィリップ・ホルトハイゼンによって17ねん創業そうぎょうされた。ホルトハイゼンも、大手おおてのスニーカーブランドが大々的だいだいてきに3Dプリンティングに移行いこうすることはないとかんがえている。

あつかっている製造せいぞう規模きぼ巨大きょだいだからです。小規模しょうきぼな3Dプリンティングが、そのビジネスモデルにっていません。フットウェアをプリントするという発想はっそうに、成長せいちょう一部いちぶとしては関心かんしんしめしていますが、そこからられる利益りえき見合みあわないのです。ですから、おもしろい技術ぎじゅつという見方みかたつづけるとしても、本気ほんきむことはないでしょう」

FDRAのアンディ・ポークからると、スニーカー大手おおてが3Dプリンティングに移行いこうしない理由りゆうは、利益りえき見込みこみがちいさいことだけではない。管理かんりせいうしなうという問題もんだいがあるという。

「ナイキやアディダスのような企業きぎょうは、シューズのフィットかんもとづく知的ちてき財産ざいさん(IP)を所有しょゆうしており、ブランド認知にんち確立かくりつしています。たとえば、ビルケンシュトックからナイキにえてみると、ちゅうそこがまったくちがうことにすぐづきます。消費しょうひしゃかんじているシューズの感触かんしょくにかかわるようなIPはうしないたくないはずです。大手おおてがリスクをおかそうとしないとっているわけではなく、計算けいさんことごとくなのだといたいのです。3Dプリンティングの使用しよう考慮こうりょされるとしても、限定げんていてきになります」

だが、大手おおてのブランドが3Dプリンターによるデザインを発表はっぴょうしたら、それがベーパーウェア[へん註:発表はっぴょうされただけで、実際じっさいには発売はつばいされていない商品しょうひん]でわることはない。

大手おおてのブランドから3Dプリンティングにかんする広報こうほうがあるたびに、テクノロジーは進歩しんぽしています」とポークが説明せつめいする。

「3Dプリンティングで利用りようできるしん素材そざいについては、大手おおてもしっかり研究けんきゅうしていますが、大手おおてブランドが安心あんしんできるのはそこではありません。はん体制たいせいてきなブランドがしん素材そざいあたらしいデザインをためせるのは、固定こていきゃく想定そうていしていないからです」

本当ほんとうのカスタマイズが可能かのう

15ねんトロイ・ナハティガルがオランダのある政治せいじのために3Dプリンターでオーダーメイドのシューズを共同きょうどう制作せいさくしたときにさい優先ゆうせんしたのは、こまかいところまでとどいた快適かいてきさだった。ナハティガルは当時とうじ、アイントホーフェン工科こうか大学だいがくのWearable Senses Labで、マリー・キュリー・フェロー研究けんきゅういんとして個別こべつとフットウェアを研究けんきゅうしていた。このくつは、スニーカーではなく礼装れいそうようで、ゆるやかなたて曲線きょくせんはいったやわらかい素材そざいでできており、プリントには100時間じかん以上いじょうかかっている。政治せいじはこのくつり、いままでにいたくつのなかでいちばんだとかたった。

それでもなお、3Dプリンターせいくつ柔軟じゅうなんせいける、プラスチックっぽい、心地ごこちがよくないという印象いんしょう払拭ふっしょくされていない。

ナハティガルは『WIRED』にこうかたっている。「3Dプリンターせいのシューズはクールですが、わたしたちのようにまよわず購入こうにゅうするほど夢中むちゅうになっているのは、ごく一部いちぶ人間にんげんだけです。普通ふつう消費しょうひしゃからは敬遠けいえんされています。[3Dプリンターせいのシューズが]いったい自分じぶん人生じんせいにどんなプラスになるのかとおもっているようです。しかし、データサイエンスと機械きかい学習がくしゅうのおかげで、これもわり、メーカー各社かくしゃ個々人ここじんわせた本当ほんとうのカスタマイズが可能かのうになります」

そうなれば、データサイエンスと人間にんげんうごきが融合ゆうごうして、革新かくしんてき企業きぎょう本領ほんりょう発揮はっきできる理想りそうてき世界せかいまれる、とナハティガルははなす。「歩行ほこうとはとても複雑ふくざつなものであり、快適かいてきさは重要じゅうようです。計算けいさん製造せいぞう技術ぎじゅつ応用おうようで、3Dプリンティングの工場こうじょうあしかたちだけでなく、個人こじん体重たいじゅう圧力あつりょく分布ぶんぷまで考慮こうりょしてデザインできるようになります。大手おおてスニーカーメーカーがこの世界せかい参入さんにゅうするのはおくれるでしょう。いま自分じぶんたちにてきした産業さんぎょうシステムに、しっかりまれているからです」

それでも、この業界ぎょうかい最終さいしゅうてきわっていくとナハティガルは確信かくしんしている。「いまは、その移行いこうです。1950年代ねんだいに、オランダのくつ業界ぎょうかい国内こくないからしてアジアにかったように、とおざからず[製造せいぞう技術ぎじゅつめんで]おなじような変化へんかこり、あたらしい素材そざい使つかわれるようになる可能かのうせいがあります。先日せんじつわたしは香港ほんこんって、ポリウレタンを専門せんもんとする教授きょうじゅからはなし機会きかいがありました。アジアのメーカーはFDMフィラメントを導入どうにゅうする方向ほうこうすすんでいるそうです。これはおどろくべき変化へんかです。いろいろと混合こんごうしたうえで、それがプリントに実際じっさいてきしているかをたしかめるわけですから」

「3Dプリンティングを使つか最先端さいせんたん工場こうじょうでは現在げんざい、シューズのうごきをプリントし、反発はんぱつ柔軟じゅうなんせいをプリントして、そのすべてをふかいところで制御せいぎょする研究けんきゅうすすんでいます。この研究けんきゅうで、さらにすぐれたくつまれます」

そのうえでげもえるとかんがえるナハティガルは、こうくわえる。「フットウェアは、みがいのあるすばらしい世界せかいです。美観びかんから可塑かそせい、そして素材そざい伸縮しんしゅくせいなど、ありとあらゆる要素ようそ同時どうじ考慮こうりょする世界せかいだからです。そこに人工じんこう知能ちのう(AI)もわせれば、かつてなかったほどたか精度せいど人間にんげん移動いどうという複雑ふくざつ現象げんしょうあつかえるようになるでしょう」

(Originally published on wired.uk, translated by Akira Takahashi/LIBER, edited by Michiaki Matsushima)

※『WIRED』によるスニーカーの関連かんれん記事きじはこちら3Dプリンターの関連かんれん記事きじはこちら


Related Articles
Nike Footwear, Shoe, Red Background
ぜんCEOによるコロナでの破滅はめつてきなビジネス戦略せんりゃく、イノベーションの減退げんたい人材じんざい流出りゅうしゅつ、「史上しじょう最悪さいあくのスニーカー」のレッテルをられたこの世界せかい最大さいだいのスポーツブランドの業績ぎょうせき低迷ていめいしている。あたらしいCEOには、途方とほうもない挑戦ちょうせんっていることになる。
Firearm, Weapon, Gun, and Handgun
べい医療いりょう保険ほけん大手おおてCEOの殺害さつがい事件じけんで、容疑ようぎしゃのルイジ・マンジョーネが所持しょじしていたとされるじゅうは、インターネットじょう入手にゅうしゅ可能かのう設計せっけいをもとに製作せいさくされていたとみられる。今回こんかい事件じけんは、3Dプリントじゅうたしかな殺傷さっしょう能力のうりょくをもつ段階だんかいたっしていたことをしめ出来事できごととなった。

雑誌ざっし『WIRED』日本にっぽんばん VOL.55
「THE WIRED WORLD IN 2025」発売はつばいちゅう

『WIRED』の「THE WIRED WORLD IN 20XX」シリーズは、未来みらい可能かのうせい拡張かくちょうするアイデアやイノベーションのエッセンスが凝縮ぎょうしゅくされた毎年まいとし恒例こうれいだい好評こうひょう企画きかくだ。ユヴァル・ノア・ハラリやオードリー・タン、安野やすの貴博たかひろきゅうだん理江りえをはじめとする40めい以上いじょうのビジョナリーが、テクノロジーやビジネス、カルチャーなどぜん10分野ぶんやにおいて、2025ねん見通みとおさい重要じゅうようキーワードをかかげている。ほん特集とくしゅうは、未来みらい実装じっそうするものたちにとって必携ひっけい手引てびきとなるだろう。 詳細しょうさいはこちら