影響を及ぼしうる主な産業や領域をまとめると──
暗号:サイバーセキュリティ、通信、軍事技術
最適化:金融、物流、エネルギー、交通、サプライチェーン
機械学習:金融取引、医療診断、製造業の自動化
量子シミュレーション:創薬、素材開発、量子化学、バッテリー、エネルギー
古典シミュレーション:生物学、金融、流体、気候モデル、宇宙
となるでしょうか」(湊)
量子コンピューターの“方式”は主に5つ
先程、「専門用語や動作原理等々の解説に入っていくことが本記事の狙いではない」と記したばかりだけれど、やはり、量子コンピューターにおける「情報の基本単位」である「量子ビット(qubit)」には、少しだけ触れておきたいと思う。
古典コンピューター──パソコンやスマホといった日々欠かせないガジェットから、果てはハイパフォーマンスコンピューティング (HPC)に至るまで──における情報の基本単位である「ビット」が、必ず「0」か「1」のどちらかであるのに対し、量子ビットは、「0」と「1」双方の状態──いわば「トスアップしたコインのように、0(オモテ)でもあり1(ウラ)でもある」状態──を取ることができ、この状態を「量子重ね合わせ」と呼ぶ……ということはぜひ押さえておいてほしい。
ちなみに量子ビットのことを「自然界がこの世の中を記述する際に使うことを決めた“メモリー”」と言った研究者もいたけれど、量子情報を記録・処理するための最小単位である「量子ビット」を構成する“物理的要素”は、電子のスピン、イオンのエネルギー状態、光子など、量子コンピューターの方式によって異なると湊はいう。
ILLUSTRATION: JOE OKADA
「量子コンピューターの主要な方式は、超伝導、イオントラップ、中性原子、シリコンスピン、光量子の5つ。この5つは、大きく『光と光以外』に分類可能です。光は、波の性質が強く出やすいので特殊なんです。『光以外』をさらに分類すると、ともに電子の挙動を活用する『超伝導とシリコン』組と、原子系の『中性原子とイオントラップ』組に分けられます。
ちなみに方式によって、動作原理はもちろん、マシンの構成要素も異なります。例えば冷却や制御、読み出しの設計は、超伝導とイオントラップとではまったく──それこそ水力発電と太陽光発電くらい──異なります。現在、各陣営が競い合っていますが、やがて淘汰され、いずれは一強に収斂されていくのではないかと個人的には思っています」(湊)
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製造に不可欠な素材と技術
なるほど。量子コンピューターの「方式」は主に5つあり、方式が異なれば(量子ビットを構成する“物理的要素”が異なれば)、水力発電と火力発電くらい動作原理やマシンの構成要素は異なるのだと。では、それぞれの方式にはどのようなサプライチェーンが構築されているのだろうか。ごくごくシンプルな見立てを、これまた湊に求めた。