「Gothic」「Risen」「ELEX」など,小粒ながら多くのファンに愛されてきたシリーズで知られるドイツのPirannha Bytesが困難な状況にある。スタジオを率いてきたクリエイティブディレクターのビョーン・パンクラツ氏はPithead Studioを設立し,新たな船出へと舵取りを始めたようだ。おそらく新作もダークファンタジー系のアクションRPGになると思われるが,これまでの彼らの軌跡を紹介しておこう。
四半世紀の歴史を持つドイツの古豪もリストラ対象に
当連載の
読者には
説明不要かもしれないが,スウェーデンのEmbracer Groupと
言えば,ここ10
年の
欧米経済の
好況と
凋落を
体現したような
大手パブリッシャだ。
2008
年にNordic Gamesとして
創設されて
以降,さまざまな
企業を
買収しながら
肥大化。
最盛期の2022
年には,
世界40か
国に13レーベル,138のパブリッシャ,
約1
万6600
人の
従業員を
抱えるほどに
成長し,Ubisoft Entertainmentとヨーロッパの
双璧を
成すまでになった。
ところが,2023
年6
月にサウジアラビアのSavvy Games Groupから20
億ドルの
追加融資を
受ける
交渉が
決裂したことで,この1
年にわたって
急激なリストラを
進めている。
「ボーダーランズ」シリーズのGearbox SoftwareをTake-Two Interactiveに
売却,「World War Z」などを
開発したSaber Interactiveも,その
創業者が
新たに
興したBeacon Interactiveに
譲渡するといったように,
名の
知れた
傘下企業を
次々に
手を
放している
状況だ。
今年4
月に
大きな
組織改革が
行われたことは,
以前にもお
伝えしている。
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経営再建中のEmbracer Groupが,Asmodee Group,Coffee Stain & Friends,Middle-earth Enterprises & Friendsという3つの会社に分社化し,それぞれがスウェーデンのNasdaq Stockholmに再上場する予定であることが発表された。取締役会と経営幹部により株主に提案され,承認されているという。
[2024/04/23 16:21]
そんなEmbracer Groupだが,2019
年5
月に
買収したドイツの
Piranha Bytesは
実質的な
閉鎖状態にあるようだ。クリエイティブディレクターとしてスタジオを
率いていた
ビョーン・パンクラツ(Bjorn Pankratz)氏は,
脚本家でありプロダクトマネージャーとして
長らくゲーム
開発を
行ってきた
ジェニー・パンクラツ(Jenny Pankratz)氏と
共に,
新たなスタジオとなる
Pithead Studioの設立を
発表している。
新スタジオの起業書類を提出したばかりというパンクラツ氏夫妻。イベントで何度かお会いしたが,いつも真っ黒な身なりのパンクロッカー風で笑顔の絶えないカップルといった印象だ(画像はPithead Studio公式Xより)
![画像集 No.004のサムネイル画像 / Access Accepted第798回:リストラ対象になったドイツの古豪メーカーと再起を図るクリエイター](https://www.4gamer.net/games/036/G003691/20240712049/TN/004.jpg) |
THQ Nordicブランドの
傘下にあったPiranha Bytesは,2023
年末から
公式サイトのアップデートなどが
滞り,
年が
明けてからもリストラの
噂が
絶えなかった。2022
年にアクションRPG「
ELEX II」をリリースして
以降,その
続編と
思われるプロジェクトを
進めていたが,ドイツ
連邦経済エネルギー
省によるゲーム
企業への
投資リスト(
※リンク)から
消えていたことも
噂に
拍車をかけ,Piranha Bytesは
公式Xの
声明で
困難な
状況を
認めつつも,「まだ
諦めないでほしい」として
再起を
目指していた。
Pithead Studioとして再起を図る
THQ Nordicレーベルでは「ELEX II」のみをリリースするに
留まったPiranha Bytesだが,
日本の
古参ゲーマーにとってはパッケージ
版が
発売された
「Gothic」シリーズや
「Risen」シリーズなどでお
馴染みだろう。
現在,THQ Nordicは
別のメーカーに
委託する
形で「
Gothic 1 Remake」を
開発中であり,
同IPを
生かしたフランチャイズ
化を
狙っていた
中でのリストラだったのかもしれない。
ドイツと
言えば,
小規模なメーカーが
多く,ゲーム
産業の
育成に
余念がない。Embracer Group
時代の
開発メンバーは30
人程度だったが,それでも
国内トップ40のリストに
名を
連ねていたようだ。
Piranha Bytesは,1997
年にドルトムント
近郊のエッセンに
設立された。ドイツでも
古豪に
属するメーカーだ。1999
年にはアーケードシューター「クレイジーチキン」で
大成功していたPhenomediaに
買収されたが,スタジオ
名を
変更することなく,2001
年に
独自ゲームエンジンによる
「Gothic」をリリースした。
同作はパフォーマンスの
未調整などが
目立っていたような
記憶はあるが,ダークファンタジーの
世界観やストーリーに
惹かれたゲーマーは
少なくなかった。2002
年に「
Gothic II」,2006
年には「
Gothic 3」がリリースされ,2011
年には
自社開発ではなかったが「
ArcaniA Gothic 4」も
登場している。
THQ Nordicから発売予定とされている「Gothic 1 Remake」。Pithead Studioの新作には,これ以上のクオリティが求められるだろう
![画像集 No.005のサムネイル画像 / Access Accepted第798回:リストラ対象になったドイツの古豪メーカーと再起を図るクリエイター](https://www.4gamer.net/games/036/G003691/20240712049/TN/005.jpg) |
また,2009
年から2014
年にかけて
「Risen」三部作を,2019
年には
武器と
魔法が
混在するSF
系アクションRPG「
ELEX」を
世に
送り
出している。ビョーン・パンクラツ
氏はPiranha Bytesの
全作品に
関わり,ジェーン・パンクラツ
氏は「
Risen 2: Dark Waters」から
脚本チームにクレジットされている。
2019
年のEmbracer Groupによる
買収以降は,ロック
好きなオシドリ
夫婦が
開発チームのリーダーとしてPiranha Bytesを
率いていた。
彼らが
新たなスタートを
切るPithead Studioの
由来は,
拠点となるエッセンの
産業遺産として
知られるツォルフェアアイン
炭鉱業遺産群,その
鉱山の
入り
口から
名付けられている。
引き
続き,ドイツのエッセンに
根差したメーカーであり
続けるようだ。
これまで
個人として
利用していた
YouTubeアカウントを
社用に
変更し,この7か
月近くコミュニケーションができていなかったことをファンに
謝罪すると
共に,Q&Aセッションを
頻繁に
行っていくと
伝えている。
Pithead Studioの
新作については,1
点のアートワークが
公開されている。ドクロが
置かれた
洞窟のような
場所に,
帽子や
食器などの
鉱山や
砂金取りを
彷彿とさせるアイテムが
見られ,ダークファンタジー
系のアクションRPGになることを
予想させる。
Pithead Studioが手がける新作のアートワーク。Pirannha Bytesの経営不振が取り沙汰されるようになったあたりから,独立を視野に入れて企画を練っていたのではないだろうか
![画像集 No.006のサムネイル画像 / Access Accepted第798回:リストラ対象になったドイツの古豪メーカーと再起を図るクリエイター](https://www.4gamer.net/games/036/G003691/20240712049/TN/006.jpg) |
Gearbox Publishingは
売却にあたり,すべての
自社IPを
所有するほどの
待遇を
受けていたが,THQ Nordicの「Gothic 1 Remake」に
関するアップデートは
行われていないため,そのIPの
所在はそのままなのだろう。また,「Risen」シリーズや「ELEX」シリーズはどうなるのだろうか。
昨今,
欧米のゲーム
企業ではリストラや
廃業のニュースが
目立つが,そんな
荒波の
中に
船出したPithead Studioはどんな
新しいゲームを
作り
出してくれるのか。
彼らの
今後に
期待したいところだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
※次回の更新は2024年7月29日の予定です