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現実を変容させる第2世代のサイバーパンク「スノウ・クラッシュ」(ゲーマーのためのブックガイド:第9回)
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  • CD PROJEKT
  • 発売はつばい:2020/12/10
  • 価格かかく:8778えん税込ぜいこみ
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印刷2022/12/01 12:00

連載れんさい

現実げんじつ変容へんようさせるだい2世代せだいのサイバーパンク「スノウ・クラッシュ」(ゲーマーのためのブックガイド:だい9かい

画像集 No.003のサムネイル画像 / 現実を変容させる第2世代のサイバーパンク「スノウ・クラッシュ」(ゲーマーのためのブックガイド:第9回)

 「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味きょうみちそうな内容ないようほんや,ゲームのモチーフとなっているものの理解りかいにつながるような書籍しょせきを,ジャンルをわず幅広はばひろ紹介しょうかいする隔週かくしゅう連載れんさいだ。気軽きがるほんってもらえるような紹介しょうかい記事きじから,とことんふか濃厚のうこうげるものまで,さまざまなテーマでおとどけする。
 「サイバーパンク2077」であらためて注目ちゅうもくあつめるサイバーパンク。それらの作品さくひんは,ときに現実げんじつがわにも影響えいきょうあたえてきた。ほん連載れんさいだい9かい紹介しょうかいするのは,そんな作品さくひん代表だいひょうさくともいえる1992ねん小説しょうせつで,2022ねん1がつ新版しんぱん刊行かんこうされたニール・スティーヴンスン小説しょうせつ「スノウ・クラッシュ」だ。


スノウ・クラッシュ〔新版しんぱんじょうした(ニール スティーヴンスン/早川書房はやかわしょぼう


「サイバーパンク エッジランナーズ」
画像集 No.008のサムネイル画像 / 現実を変容させる第2世代のサイバーパンク「スノウ・クラッシュ」(ゲーマーのためのブックガイド:第9回)
 あなたはサイバーパンクといて,どんな作品さくひんぐんおもかべるだろうか。攻殻機動隊こうかくきどうたい「ニンジャスレイヤー」か,映画えいがなら「ブレードランナー」「マトリックス」。コアなゲーマーなら「シャドウラン」「VA-11_HALL-A」げるひともいるかもしれない。しかし近年きんねんのブームの火付ひつやくえば,やはりCD Projekt REDの「サイバーパンク2077」PC / PS5 / PS4 / Xbox Series X / Xbox One)だろう。Netflixで公開こうかいされているアニメ「サイバーパンク エッジランナーズ」評判ひょうばんび,さらには原作げんさくにあたるテーブルトークRPG「サイバーパンク2.0.2.0」つらなる最新さいしんばん「サイバーパンクRED」今年ことしはいって日本語にほんごばん発売はつばいされている。

 こうしたサイバーパンク作品さくひん登場とうじょうする進歩しんぽしたコンピュータ・テクノロジーの描写びょうしゃは,サイエンス・フィクションとしての説得せっとくりょく物語ものがたりあたえるととともに,ときとして現実げんじつ科学かがく技術ぎじゅつ発展はってんにもおおきく影響えいきょうあたえてきた。そうした側面そくめんからも注目ちゅうもくあつめているのが,このたび新版しんぱん刊行かんこうされたニール・スティーヴンスン小説しょうせつ「スノウ・クラッシュ」(1992ねん)だ。

 本書ほんしょえがかれるのは,アメリカというくにがバラバラに寸断すんだんされ,フランチャイズされた都市とし国家こっかのひしめくきん未来みらい視点してん人物じんぶつはヒロ・プロタゴニストという名前なまえだが,プロタゴニスト(Protagonist)は主人公しゅじんこうという意味いみなので,いかにもひとっている。かれはピザの〈配達はいたつじん〉にすぎないが,じつ凄腕すごうで剣士けんし。おまけに,仮想かそう空間くうかんメタヴァース(Metaverse)に参画さんかくするアヴァターの技術ぎじゅつ開発かいはつした腕利うでききのハッカーでもあるのだ……。

画像集 No.001のサムネイル画像 / 現実を変容させる第2世代のサイバーパンク「スノウ・クラッシュ」(ゲーマーのためのブックガイド:第9回)
スノウ・クラッシュ〔新版しんぱんじょうした

著者ちょしゃ:ニール スティーヴンスン
翻訳ほんやく日暮ひぐらし雅通まさみち
版元はんもと早川書房はやかわしょぼう
発行はっこう:2022ねん1がつ25にち
価格かかく:1080えん(+ぜい)※電子でんし書籍しょせきばんは1069えん税込ぜいこみ
ISBN:9784150123543/9784150123550

購入こうにゅうページ:
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Amazon.co.jp うえした
Amazon.co.jp(電子でんし書籍しょせきうえした
※Amazonアソシエイト


ハヤカワオンライン「スノウ・クラッシュ〔新版しんぱん〕(うえ)」ページ


 こうくと,いかにもなすんでかんかんじるひとおおいかもしれない。ハッカー剣士けんしのキッチュな雰囲気ふんいきは,「ニンジャスレイヤー」想起そうきさせる。サイバーパンク作品さくひんにおける基本きほんてき技術ぎじゅつやガジェット――それこそ「サイバーパンク2077」にも登場とうじょうするICE(侵入しんにゅう対抗たいこう電子でんし機器きき)やサイバーウェア,サイバースペースなども呼称こしょうちがえど登場とうじょうするので,そうした意味いみでもあたらしさはかんじられないかもしれない。
 では,本書ほんしょのいったいなにがそんなにすごかったのか。それをるにはサイバーパンクというジャンルのちに,すこしばかりおもいをはせる必要ひつようがある。

 サイバーパンクというかたりは,ブルース・ペスキが1980ねん執筆しっぴつした短編たんぺん小説しょうせつ「サイバーパンク」をその由来ゆらいとする。そしてほぼどう時期じきの1981ねん,コロラドしゅうデンバーで開催かいさいされただい39かい世界せかいSF大会たいかい(ワールドコン)で,サイバーパンクの代表だいひょうてき作家さっかであるウィリアム・ギブスンブルース・スターリング出逢であい,ここから“運動うんどう”としてのサイバーパンクがまくける。

 1982ねん,ギブスン冒険ぼうけんてきなハッカーをえが短編たんぺん「クローム襲撃しゅうげき発表はっぴょうさきげたサイバーパンク作品さくひんにおける基本きほんてきなガジェットは,この時点じてんでほぼ出揃でそろっている。その,ギブスンきん未来みらい都市とし舞台ぶたいにした「ニューロマンサー」(1984ねん)を上梓じょうしし,ハイ・テクノロジーとオリエンタリズムが同居どうきょした,サイバーパンクてき世界せかいかん基礎きそ確立かくりつする。
 一方いっぽうスターリングは,1983ねんから「チープ・トゥルース」というフリーペーパーを周囲しゅうい作家さっかたちともにゲリラてき刊行かんこうし,旧弊きゅうへいなSFやファンタジーをりにしていく。そして1985ねん遺伝子いでんし工学こうがくとサイバネティックスの対立たいりつ太陽系たいようけい全体ぜんたい規模きぼえが「スキズマトリックス」(1985ねん)を発表はっぴょうよく1986ねんには,「チープ・トゥルース」の作家さっかじんによるアンソロジー「ミラーシェード」が,スターリング編著へんちょによって出版しゅっぱん。この「ミラーシェード」で提示ていじされた多様たよう世界せかいかんが,現在げんざいいたるまでのサンバーパンクてきイメージの源泉げんせんとなった。……逆説ぎゃくせつてきえば,1980ねん初頭しょとうはじまったサイバーパンク運動うんどうは,ここでひとつの完成かんせいたのである。

 「スノウ・クラッシュ」にはなしもどそう。つまり本書ほんしょは,こうしたサイバーパンクだい1世代せだい作品さくひん精緻せいちして更新こうしんすべく登場とうじょうした,だい2世代せだい「ポスト・サイバーパンク」小説しょうせつなのだ。サイバーパンク黄金おうごんのビジョンが浸透しんとうした1990年代ねんだい登場とうじょうした本書ほんしょ画期的かっきてきだったのは,アクションとおなじくらい技術ぎじゅつてきな“奥行おくゆき”を丁寧ていねいえがくことで,しん世代せだいのテクノ・キッズたちがデートの口実こうじつ使つかうほどには,「これこそ自分じぶんたちのための小説しょうせつだ」とおもわせたてんにある。

ウィリアム・ギブスン「ニューロマンサー」(※リンクはAmazonアソシエイト)
画像集 No.006のサムネイル画像 / 現実を変容させる第2世代のサイバーパンク「スノウ・クラッシュ」(ゲーマーのためのブックガイド:第9回)
 本書ほんしょ登場とうじょうするメタヴァースは概念がいねん世界せかいではなく,さん次元じげんてきな〈ストリート〉にきちんとかれ,拡張かくちょう工事こうじちゅう看板かんばん随所ずいしょられるなど,現実げんじつ世界せかいした世界せかいとしてえがかれている。そうでありながら,現実げんじつではめるべきものであるはずの欲望よくぼうしになり,それこそ人種じんしゅ差別さべつ主義しゅぎしゃ隔離かくり区画くかくがあったりもする。たりまえのようで,これがあたらしかった。

 翻訳ほんやく大野おおののりひろしが「SFマガジン」の連載れんさい指摘してきしているが,「ニューロマンサー」に登場とうじょうするサイバースペースは,インターネットそのものではなかった。本来ほんらいなら「プラグイン」とくべきケーブル端子たんし接続せつぞくを,あえて「ジャックイン」いていることからも,それはあきらかだ。えがいているのは実際じっさいのインターネットではなく,意識いしきごと没入ぼつにゅうする別世界べっせかいなのだから。
 つまりギブスン技術ぎじゅつてきただしさよりも,フィクションとしてのビジュアルイメージを優先ゆうせんさせた。万華鏡まんげきょうのようなめくるめくビジョンがせてくるが,電脳でんのう空間くうかん具体ぐたいてきにどう構成こうせいされているのかはよくからない,概念的がいねんてき世界せかい。それでいて,突然とつぜんゾンビがおそってきたりするから油断ゆだんできないのだが。

 「ニューロマンサー」が,ネット空間くうかん描写びょうしゃをあえてとしたのだとしたら,「スノウ・クラッシュ」はそのまったくぎゃくで,描写びょうしゃあつみと生々なまなましさが特徴とくちょうてきだった。そして,そこにまれた想像そうぞうりょくには,現実げんじつがわ後追あとおいをさせるほどの熱量ねつりょうがあった。
 それこそ作中さくちゅう登場とうじょうする仮想かそう通貨つうかやクラウドファンディング,そしてメタヴァースといったアイデアは先駆せんくてきであり,現在進行形げんざいしんこうけい現実げんじつ変容へんようしつつある。すくなくとも,2021ねんにFacebookが社名しゃめいをMetaとあらためるくらいには,だ。

伊藤いとうけい虐殺ぎゃくさつ器官きかん(※リンクはAmazonアソシエイト)
画像集 No.009のサムネイル画像 / 現実を変容させる第2世代のサイバーパンク「スノウ・クラッシュ」(ゲーマーのためのブックガイド:第9回)
 そうそう,「スノウ・クラッシュ」は人間にんげんにもコンピュータにも同時どうじ感染かんせんするウイルスの名前なまえなのだが,これにたいするアンサーソング,もとい小説しょうせついたのが伊藤いとうけい劃氏だ。代表だいひょうさく虐殺ぎゃくさつ器官きかんでは序盤じょばんのピザのくだりから中核ちゅうかくとなる「虐殺ぎゃくさつ言語げんご」のアイデアまで,「スノウ・クラッシュ」へのリスペクトがかんじられる。
 また「スノウ・クラッシュ」にりばめられたなぞ言語げんご暗号あんごう解読かいどくといったモチーフはスティーヴンスン「クリプトノミコン」4さくにそのままつうじる。こちらはだい世界せかい大戦たいせん暗号あんごうやぶり(コードブレイカー)として活躍かつやくしたローレンス・ウォーターハウスとそのまごえがいた小説しょうせつで,ロシアのウクライナ侵攻しんこうによっていっそう重要じゅうようとなった,クリプトアナーキズム(国家こっかによる技術ぎじゅつ管理かんり拒否きょひする姿勢しせい)を正面しょうめんからあつかったタイトルとなっている。このたび日本語にほんごばん電子でんし書籍しょせき復刊ふっかんしたので,「スノウ・クラッシュ」をえたら,こちらもぜひダウンロードしていただきたい。



主要しゅよう参考さんこう文献ぶんけん】(日本語にほんごめるもののみ)
  • たつみ 孝之たかゆき「サイバーパンク・アメリカ 増補ぞうほ新版しんぱん」(勁草書房しょぼう)2021ねん10がつ出版しゅっぱん
  • 大野おおののりひろし「サイバーカルチャートレンド[だい79かい]」(早川書房はやかわしょぼう)SFマガジン 2018ねん10がつごう
  • 日暮ひぐらし雅通まさみち「スティーヴンスンのスタイル」(青土おうづちしゃ)ユリイカ 2002ねん10がつごう

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■■おか和田わだ あきら(SF評論ひょうろん翻訳ほんやく)■■
翻訳ほんやく文芸ぶんげい評論ひょうろん。スターリングのクールなサイバーパンク・フリーペーパー「チープ・トゥルース」をリスペクトしている。ちなみに「スノウ・クラッシュ」は,筆者ひっしゃ翻訳ほんやく創作そうさく参加さんかしたTRPG「エクリプス・フェイズ」(しん紀元きげんしゃ)にてくる“エクスサージェント・ウイルス”のもとネタ。「ソースブック サンワード」や小説しょうせつしゅうさいそう(リスリーヴ)の記憶きおく」も発売はつばいちゅうなので,ぜひよろしく。
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    サイバーパンクRED

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