2024
年5
月16
日,アメリカに
拠点を
置くインディーデベロッパであるMidBossの
新作アドベンチャーゲーム
「リードオンリーメモリーズ:ニューロダイバー」(
PC /
Mac /
PS5 /
Nintendo Switch /
Xbox One 以下,ROM:ND)が
発売された。
本作は,2015
年に
発売された
「2064: Read Only Memories」(2064:ROM)の
続編にあたるタイトルだ。
未来の
技術や
文化を
扱うSF
作品は
多くあるが,ROMシリーズはやや
独特なアプローチでそうした
世界を
描いており,そのコンセプトは
続編にも
受け
継がれている。
本稿では,そんなROM:NDのプレポートをお
届けしていく。
なお,
本作には
前作の
世界設定やキャラクターがストーリーに
関係してくる。
記事前半ではネタバレを
避けつつゲーム
内容を
紹介し,
後半では
前作に
関連する
要素に
触れるので,
気になる
人は
注意して
読み
進めてほしい。
人工知能,遺伝子改造,そして超能力!
激変する未来を描くサイバーパンクADV
まずは,ROM:NDの
世界設定とシステムを
紹介していこう。2064:ROMからROM:NDへと
続く「ROM」シリーズは,
近未来のサンフランシスコを
舞台にしたアドベンチャーゲームだ。
人工知能と
遺伝子工学の
技術が
飛躍的に
進歩し,それらが
製品となって
民間に
行き
渡り
始めた
時代が
描かれる。
ロボットたちは「ROM」と呼ばれ,ほぼ人間と同レベルの思考能力を持つ
|
ロボットたちのAIが
人間と
同等の
存在へと
進化する
一方,
遺伝子が
改変された
人間たちにも
変化が
起きていた。その
中で
出現したのが,
他者の
精神に
干渉する
力を
持つ
人間「エスパー」である。
エスパーたちは
他者の
思考を
読み
取れるほか,
高度な
使い
手は
記憶の
改ざんや
破壊といった
行為も
可能だという。その
存在を
知る
人は
限られており,
覚醒したエスパーたちは
自身の
状況を
把握できず,
時には
悪事に
手を
染めることも
少なくない。
それに
対処するのが,エスパー
能力を
研究する
秘密チームを
持つ「ミネルヴァ」の
構成員だ。プレイヤーは,ミネルヴァのエージェント・
ES88となり,エスパー
能力を
悪用する
組織「ゴールデン・バタフライ」と
戦うことになる。
ES88の本名は「ルナ・クルーズ・デ・ラ・ヴェガ」で,まだ23歳と年若い。アニメやマンガを好むタイプで,ちょっとオタク気質なところがある模様
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ボディガードとしてES88と共に活動するゲイト。一見するとおカタい印象を受けるが,意外と物腰柔らかな部分もあり,ES88に勧められたマンガを読んで感想を語る姿も見られた
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基本システムはお
馴染みのポイント&クリック
方式で,
画面内の
気になる
部分をクリックすればES88が
反応してくれる。
前作2064:ROMでは「クリックして
対応(
触れる,
話す,
調べるなど)を
選ぶ」という
仕組みだったが,ROM:NDでは
単に
対象物をクリックすれば
必要な
対応をしてくれる
形式になった。
かつて
可能だった「クルマに
話しかける」「ポスターの
音を
聞く」といった
異常な
行動(ゲーム
的な
意味はほぼない)ができなくなったのは
若干寂しい。
前作はプレイヤー
自身が
主役だったのに
対し,
本作にはES88というキャラクターが
主人公なので,あまりおかしな
行動が
取れないのは
自然だろう。
注目してほしいのは,ドット
絵で
描かれる
表情アニメーションの
豊かさだ。
静止画では
伝わりにくいので,
最序盤のES88の
表情変化を
軽くまとめてみた。
素直で
前向きで,ちょっとナード
感のあるES88の
性格も
相まって,コロコロ
変化する
表情を
見ながら
会話を
読み
進めるだけで
楽しい。
めっちゃかわいい
|
ES88の
主な
仕事は,
失われてしまった
記憶の
修復だ。
強力なエスパーであるES88は,
精神感応に
特化した
人工生命体「ニューロダイバー」を
介することで,
人物の
過去の
記憶へと
潜入(ダイブ)できる。
記憶の
世界で
欠落した
情報を
埋めれば,
現実世界でも
情報を
思い
出せるという
仕組みだ。
ダイブ
中もやることは
基本的に
変わらない。ES88は
記憶に
従って
人物を“
操縦”するような
感覚で
探索を
行い,
欠落してしまった
記憶の
在処を
探すことになる。
ニューロダイバーは異形の存在だが,ES88とは意思疎通が可能で,相棒のような関係にある
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|
ダイブ中は対象者が意識を保っており,ES88と意思疎通できる。本人と会話をしつつ,記憶の中から必要な情報を探り出そう
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記憶の
重大な
欠落は
「記憶の断片化」と
呼ばれ,ノイズがかかった
謎のオブジェクトとして
表示される。
断片化してしまった
部分は,
本来そこにあるべき
記憶を“
別の
何か”で
埋めており,
明らかに
状況にそぐわない
姿をしていることが
多い。
断片化した
記憶は
消滅したわけではなく,
接続が
途切れてしまっているような
状況だ。それを
再びつなぎ
直すには,
断片化した
記憶と
関連性の
強い
要素を
当てはめる
必要がある。
状況や
文脈から,
必要な
物品や
情報を
収集するのもES88の
仕事だ。
ノイズと
共に
現れる
断片化は
異物感がかなり
強く,
出現した
瞬間にはギョッとさせられることも
少なくない。すでに
過ぎ
去った
過去に
交じる
異物と
出会い,その
本人と
会話しながら
除去していくという,なんとも
言えない
不思議な
感覚を
味わえる。
記憶の
内外を
問わず,ゲームの
難度はやや
低め。
行動によるペナルティがかかる
場面はほぼなく,
総当たりを
許してくれる
仕様なので,
普通に
進めていれば
特に
問題なくエンディングまで
到達できるはずだ。
前作と
比較すると,リニアなADVに
寄った
作風で,
探索要素は
世界やキャラクターへの
理解を
深めるためのものとして
取り
入れられている
印象がある。そのため,
推理やパズルを
楽しめる
作品として
考えると
肩透かしを
食らうかもしれない。
そのぶん,
探索に
対する
反応はきちんと
作り
込まれている。
街路樹や
看板など,ほんのちょっとしたオブジェクトにも
細かく
反応が
用意されているので,それを
探すのはかなり
楽しい。
反応する
場所はオンマウスで
白枠が
表示されるので,
反応する
場所を
探すこと
自体は
難しくないのも
嬉しいところだ。
ちょっとした場面でも画作りにこだわりが見え,意味がなさそうな部分にもROM:NDの世界を感じられるメッセージが用意されているなど,没入するための工夫が随所になされている
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前作キャラクターも元気な姿で登場
ストーリーにも深く関わってくる
続いては,
前作とのつながりが
深い
部分やシリーズ
全体を
俯瞰(ふかん)して
感じたことに
触れていく。2064:ROMの
内容に
深く
触れるので,
先に
前作を
遊んでからROM:NDに
入ろうと
思っている
人は
注意してほしい。
ROMシリーズの
世界設定には2つの
柱がある。ひとつは
高度な
仮想知性を
持つサポートロボット「ROM」,もうひとつは
動物の
遺伝子を
人間へと
反映させる
遺伝子操作技術だ。いずれも
極めて
有用な
技術であり,ROMの
普及は
余暇を
拡大し,
遺伝子操作の
一般化は
多くの
難病から
人々を
救った。
しかし,
遺伝子操作によって
外見が
変化した
人々は「ハイブリッド」と
呼ばれて
差別の
対象となっていた。さらに,2064:ROMでは
仮想知性に
留まっていたROMが
一斉に“
真の
知性”を
得る
大事件が
発生し,これまた
社会問題となった。
前作冒頭のナレーション。非常に分かりやすく,本作の世界観が紹介されている
|
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ドラマチックなサイバーパンク
作品なら,ここで「
行き
過ぎた
技術による
社会秩序の
崩壊!」とか「
知性を
得たロボットたちが
反乱を
起こす!」とか,
何かしら
強烈な
展開が
飛び
込んでくるものだが,2064:ROMの
物語は,
少し
違った。
ROMを
開発したパララックス
社は
品行方正な
会社ではないが,
提供したロボットは
正しく
社会に
役立ち,
人々の
生活を
支えている。また,2064:ROMでは
遺伝子改造への
抗議活動を
行う
団体が
登場したが,その
活動は
法規制に
向けたロビー
活動や
合法なデモを
中心とする,
極めて
現実感のあるものだった。
変化の
暗い
側面だけでなく,
人々の
生活に
根付いたそれを,
現代の
価値観の
延長線上で
描く。いわば,
未来へと
移り
変わる
“時代のグラデーション”を
見せてくれる2064:ROMの
雰囲気は,
扱うテーマの
複雑さに
反して
驚くほど
明るい。
遺伝子改造に反対する団体「ヒューマン・レボリューション」の登場シーン。ヤバい奴らだと聞いてきたら,やってるのは警察同伴の合法デモ活動だった
|
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ROM:NDにおいても,
基本的なスタンスは
変化していない。エスパーに
対しては
奇異の
目が
向けられることもあるが,そもそも「
社会問題になるまえに
手を
打とう」という
組織が
主役なのも,
非常にROMシリーズらしいといえる。
地味と
言ってしまえばそれまでなのだが,それこそがシリーズの
魅力なのだ。
ハイブリッドの存在はかなり一般化し,外見による差別は軟化しつつあるようだ。一方で,法律や制度の面ではいまだ解決していない問題も多い。新たに登場したエスパーたちも,受け入れられるには時間がかかる
|
そんな
雰囲気のタイトルなので,
前作のキャラクターたちは6
年後の
世界でも
元気に
生きている。
私立探偵になったレクシー・リバーズ,
凄腕ハッカーのトムキャット,ハイブリッドの
権利向上を
訴えるジェス・ミーズ,
前作で
主人公と
共に
活躍したチューリングなど,
人気キャラクターがそろい
踏みだ。
物語にも
深く
絡み,
馴染みのキャラクターたちが6
年の
間にどんな
変化を
遂げたのか,
今はどんな
生活をしているのかも
丁寧に
描写される。デザインも
新たに
描き
起こされているようで,
前作のファンは
馴染みの
顔が
登場するたびに
喜べるはずだ。チューリングが
園芸自慢をしている
間,
筆者はニヤニヤ
顔が
止まらなかった。
作品を通じてキャラクターの成長を感じられる描写もあり,そういった場面が出てくるたびに笑顔になってしまう
|
|
ただ,わがままない
分になってしまうが,
前作キャラクターへの
扱いが
丁寧すぎる
気がしなくもない。
彼らが
物語上で
重要なポジションにあり,
既存のプレイヤーが
喜べる
要素がたくさんあるということは,
同時に
前作の
知識による
楽しさが
多いという
意味でもある。
当然,
前作の
知識は
必須ではない。ストーリーの
軸足はあくまでES88を
中心としたエスパーたちにあり,
前作からの
登場キャラクターについても
一定の
説明がなされる。ちゃんと
独立した
作品として
成立しているので,
本作から
遊んでも
問題なく
楽しめるはずだ。
しかしながら,
彼らが
物語の
重要な
部分に
関係する
以上,
知っていた
方が
楽しみが
濃くなるのは
間違いない。
先述の
通り,
探索によって
世界やキャラクターを
深堀りするのが
楽しい
作品だけに,そういった
側面が
強く
現れているようにも
感じられた。
この世界が現実と地続きの未来であることを感じさせる描写も少なくない。こういった要素も,ROMシリーズの味が出ている部分だ
|
|
総じて,ROM:NDは
前作の
良い
部分を
引き
継ぎつつ,
新しい
展開を
見せてくれた
良作だと
思う。
変化している
部分にはキチンと
意図を
感じるし,
多くの
場面で
演出がリッチになり,
手触りも
非常に
良くなった。
一方で,ボリュームは
前作より
縮小されている
感は
否めず,
前作がボリューミーだったぶん
寂しさもある。
新たなキャラクターやテーマも
魅力的なので,もう
少し
掘り
下げがあれば
嬉しいところだった。
個人的には,DLCなどの
形で
新規エピソードが
登場すれば
嬉しい。
本作で
初めてROMシリーズを
知った
人や,まだ2064:ROMを
遊んでいない
人は,
先に
紹介したような
世界観を
踏まえたうえで
遊ぶのが
良いだろう。
可能であれば
前作をプレイし,
筆者と
同じく「
早くチューリングの
姿を
見せてくれ!」と
叫びながら
遊んでほしい。