Firaxis Gamesが
開発した
「マーベル ミッドナイト・サンズ」(
PC /
PS5 /
Xbox Series X|S /
PS4 /
Xbox One)は,
戦術シミュレーションにマーベル・コミックの
世界観をうまく
融合させたタイトルだ。そんな
意欲作のゲームデザインを
語る
講演「From Soldiers to Superheroes: Designing Combat for Marvel's Midnight Suns」が,
「Game Developers Conference 2024」で
行われた。
登壇者は,
本作のリードデザイナーの
Joe Weinhoffer氏だ。
最初にWeinhoffer
氏が
強調したのが,
本作を
開発するにあたって,マーベル・ヒーローの
魅力の1つである
“ヒーロー然とした体験”を
最重視したことだ。プロジェクトの
立ち
上げ
当初は,
「XCOM」のゲームメカニクスをマーベルの
世界に
落とし
込もうと
考えていた。しかしXCOMは,プレイヤーが
常に
劣勢に
立たされるように
設計されているため,そのままではヒーローの
雄姿を
描き
切れないと
気づいたという。
「ハルクの
動きを
制限したり,
攻撃を
外したり,
隠れることを
強いたりするようなルールは
受け
入れづらかった」とWeinhoffer
氏は
語る。そこで
開発チームはまず,
新しい
戦術ゲームのプロトタイプ
制作に
入った。プロトタイプでは,ある
意味,XCOMらしさでもあった
移動制限や
遮蔽物に
隠れる
必要性,
命中判定のランダム
性といった
要素をすべて
除外した。
これにより,ゲームの
核となる
「要素のループ」は
極限まで
単純化された。ヒーローはターン
内であればどこまでも
移動できるし,
射程も
無制限だ。そして
攻撃は100%
命中する。それでこそヒーローという
感じだ。プレイヤーは
自分のターンで
目標の
敵を
選べば,ヒーローは
即座に
攻撃に
移る。……これが
最も
単純化されたヒーロー
体験のループだった。
ただし,このプロトタイプにはゲームとしての
深みが
欠けていた。ただ
敵をなぎ
倒すだけで
面白くないゲームになってしまったのだ。そこで,XCOM
開発で
得た
知見を
生かし,
戦術性と
緊張感を
取り
入れつつ,マーベル
作品らしいヒーロー
体験を
損なわないバランスを
探る
作業に
入った。
戦術性を
取り
入れる
最初の
試みは,ランダム
性の
導入だ。しかし,XCOMで
採用されていた「
命中判定のランダム
化」はヒーローの
強さを
損ねかねない。そこで
着目されたのが,
カードゲームの
発想だった。
ゲーム
内でカードを
使えば,そのカードに
記された
効果は100%
発動するが,プレイヤーが
使えるカードはランダムで
決まる。この
仕組みで
確実性と
不確実性という
相反する
要素を
両立させたのだ。
カードゲームのコンセプトを
採用したメリットはほかにもある。デッキの
概念やカードを
引く,
捨てるといった
慣れ
親しんだルールをわざわざ
説明する
必要はない。さらに,カードそのものが,
能力の
分かりやすい
表現になったという。
その
一方,XCOMの
戦術性をカードゲームに
置き
換えると,
管理するリソースが
大幅に
増えてしまった。XCOMはユニット
単位でリソースを
割り
振っていたが,カードゲームでは
各ヒーローが
個別のリソースを
持つ
必要がある。そこで
開発陣はさまざまな
案を
検討し,
最終的に
「チーム共有のリソースプール」に
行きついた。
与えられたリソース
内で,プレイヤーは
自身の
手札からプレイ
可能なカードを
選ぶ。
能力の
選択は
自由だが,
使えるリソースには
制限がある。このバランスが,
十分な
戦術性を
確保しつつヒーロー
体験も
損なわないポイントになったという。
次にクリアしなければならなかったのが,
移動と
位置取りの
問題だ。
上記のように
移動の
制約は
撤廃されていたが,
新たに
導入された
要素に
伴い,ユニット
配置の
重要性が
増したのだ。
具体的には,
「ノックバック」と
呼ばれる
敵の
強制移動と,
「環境攻撃」だ。ノックバックはヒーロー
攻撃の
追加効果で,
敵を
一定方向に
押し
飛ばす。また
環境攻撃は,マップ
上のさまざまなオブジェクトを
使った
特殊攻撃だ。これらを
行使するには,
敵や
自陣の
位置を
細かく
計算する
必要がある。
しかしヒーローは
自動で
移動するため,プレイヤーはその
位置を
直接コントロールできない。この
矛盾に
開発陣は
頭を
悩ませたが,
最後はこの
矛盾を
受け
入れたそうだ。
自動移動は
簡便さを
理由に
維持し,
「手動で位置調整できる」という
例外的なシステムを
用意,それ
以外の
部分で
工夫を
重ねた。
具体的には,
移動が
可能なマス
目をハイライト
表示したり,キャラクターの
移動ルートを
事前に
提示したりするUIを
設けた。また,ノックバックで
押し
出されたあとの
着地位置から,
最適なアクションを
選べるようにもした。さらに
挟撃のアシストなど,
環境に
合わせた
自動位置調整システムも
組み
込んだ。
戦術システムの
設計と
並行して,
開発では
同時にリソース
管理システムの
構築が
進められた。Weinhoffer
氏は「XCOMではリソースとしてアクションポイントを
使っていましたが,そのままでは
本作に
適さなかった」と
振り
返る。
当初は,カードを
主たるリソースと
位置づけていた。つまり
手札のカード
枚数に
応じて,プレイ
可能な
手数が
与えられる
仕組みだ。しかしプレイテストの
結果,
強力なカードを
引いた
側が
圧倒的に
有利になるなど,バランスが
取れないという
課題が
浮かび
上がった。
そこで,カードリソース
以外に
「ヒロイズム値」という
補助的なリソースを
設けたという。ほとんどのカードは,ヒロイズムを
獲得または
消費でき,ゲームを
通してこのリソースを
管理することになった。
「これが
意外とうまくいった」とWeinhoffer
氏は
語る。
短期的なリソースとして
手札のカードを
使い,
長期的/
戦略的にはヒロイズム
値を
管理する。この
二重の
意識が,ゲームにうまくフィットしたそうだ。
さらにヒロイズム
値獲得の
補助手段も
講じたという。
一度攻撃を
行うと
獲得できるスキルカードや,ザコ
敵を
一撃で
倒せる
「クイック」などを
用意したのだ。こういった
仕組みによってゲーム
中盤以降,リソース
不足に
陥ることなくヒーローの
本来の
力を
存分に
発揮できるようになった。
以上がマーベル ミッドナイト・サンズの
戦術システムが
完成に
至った
過程だ。
講演の
最後に,Weinhoffer
氏は
開発を
通じて
得られた
教訓を
振り
返った。
ゲームデザインにおいて
重要なのは,まずゲームの
核となる
要素を
明確にすることだとWeinhoffer
氏は
説く。それがゲームの
北極星になり,
機能を
追加するたびにその
方向性を
問い
直すことになる。マーベル ミッドナイト・サンズの
場合は「ヒーロー
体験」というコアバリューがあり,それに
反するものは
排除されていったという。
また,シンプルなゲームループを
作ることが
大切だと
強調した。プレイヤーが
最も
頻繁に
行うであろう
行為をあらかじめ
想定し,それを
簡略化する。そのうえでゲームに
複雑性を
付与していく
手法だ。ゲームを
最初から
複雑化してしまうと,
後々の
調整が
困難になると
指摘した。
さらにWeinhoffer
氏は,ゲームデザインにおける
“掟破り”についても
言及した。プレイヤーの
体験を
最優先に
考え,
状況によっては
最初に
作った
規則を
無視するのもアリという
考え
方だ。ゲーム
体験の
向上を
最優先させるべきだと
氏は
語る。
マーベル ミッドナイト・サンズはXCOMの
戦術システムを
出発点に,マーベル・ヒーローの
世界観を
落とし
込みながら
徐々に
進化を
遂げた。その
過程で
数多くの
試行錯誤を
重ねながら,コアバリューからそれることなく,
新しいジャンルの
確立を
目指した。その
精神が
現れた
良いゲームになったと
自負していると
述べ,
講演を
締めくくった。
Joe Weinhoffer氏
![画像集 No.010のサムネイル画像 / [GDC 2024]「マーベル ミッドナイト・サンズ」の独特なシステムができるまでに味わったFiraxis Gamesの苦悩](https://www.4gamer.net/games/590/G059096/20240323013/TN/010.jpg) |