11 bit studiosの新作しんさく「The Alters」ファーストインプレッション。“別べつの人生じんせいを歩あゆんだ自分じぶん”を使つかって，崩壊ほうかい危機ききにある惑星わくせいから脱出だっしゅつせよ

　2024年ねん5月がつ中旬ちゅうじゅん，11 bit studiosが本拠ほんきょを構かまえるポーランドのワルシャワにて，同社どうしゃの新作しんさくゲーム群ぐんをメディア向むけに公開こうかいするハンズオンイベントが開催かいさいされ，4Gamerも招待しょうたいを受うけて参加さんかしてきた。

　海外かいがいゲームに少すくなからず詳くわしい読者どくしゃの皆みなさんならご存ぞんじのように，11 bit studiosは2014年ねんにリリースされた「This War of Mine」が高たかく評価ひょうかされ，「意味いみのあるゲーム」（Games with Meaning）というカンパニーモットーを掲かかげて大人おとな向むけのゲーム開発かいはつを続つづける，現在げんざいのポーランドゲーム業界ぎょうかいのユニークさと活気かっきを象徴しょうちょうするようなメーカーだ。近年きんねんではStarward Industriesの「The Invincible」やFool's Theoryの「The Thaumaturge」といった独特どくとくのテイストに溢あふれるアドベンチャーやRPG作品さくひんのパブリッシングも展開てんかいしており，最近さいきんではOdd Meterによるアドベンチャー「Indika」がリリースされたばかり。その社名しゃめいを頻繁ひんぱんに耳みみにするようになっているはずだ。

11 bit studiosの新作しんさくハンズオンイベントが開催かいさいされた，ワルシャワ市内しないにあるArtBox。2010年ねんに設立せつりつされた11 bit studiosにとって，自社じしゃのメディアイベントを開催かいさいするのは初はじめてだという

　そんな11 bit studiosにとっても，メディア関係かんけい者しゃを“自分じぶんのホームグラウンド”に招待しょうたいして新作しんさくゲームを公開こうかいするのは初はじめてのことであり，AMDなどの協賛きょうさんを得えてワルシャワにあるイベントスペースにてプレイヤブル公開こうかいされたゲームの1つが「The Alters」（PC / PS5 / Xbox Series X|S）だ。
　本ほん作さくは2022年ねん6月がつに開発かいはつが発表はっぴょうされているが，同どうじ顔がんを持もつキャラクターたちで溢あふれる不思議ふしぎな映像えいぞうが話題わだいになったことで知しっているゲーマーも多おおいだろう。

これまでの11 bit studiosにはないストーリーテリングの手法しゅほう

　「The Alters」のストーリーは，ごく平凡へいぼんな作業さぎょう員いんである主人公しゅじんこうのヤン・ドルスキー（Jan Dolski）が，宇宙うちゅう開発かいはつ企業きぎょうAllyCorpのクルーたちと共ともに遠とおい宇宙うちゅうを航行こうこうしていた際さいに，謎なぞの惑星わくせいに不時着ふじちゃくしてしまったところから始はじまる。他たのクルーは小型こがたポッドでバラバラに脱出だっしゅつした際さいに落命らくめいしており，もっとも能力のうりょく値ちが低ひくそうな自分じぶんだけが生いき残のこっているという事実じじつにパニックになりながらも，ヤンはオートバイのタイヤのような形状けいじょうをした巨大きょだいな移動いどう式しき基地きち，“モバイルベース CEBA”を発見はっけんする。
　そこで，太陽たいようからの何なんらかの影響えいきょうにより惑星わくせいそのものが崩壊ほうかいしつつあることを知しったヤンは，強力きょうりょくなX線せんが降ふり注そそぎ始はじめる“サンライズ”という現象げんしょうを迎むかえるまでに，CEBAを稼働かどう可能かのうな状態じょうたいに戻もどして安全あんぜん地帯ちたいに逃にげ延のび，さらにサバイバルのための道みちを模索もさくしていくことになるのだ。

「The Alters」の主人公しゅじんこうは，過酷かこくな惑星わくせいで生いき残のこってしまったヤン・ドルスキー。走はしったり，掘削くっさくしたり，機器ききとインタラクトしたりと，3人称にんしょう視点してんのアクションアドベンチャーとしても作つくり込こまれている

　サバイバルシムの大家たいかとも言いえる存在そんざいにまで成長せいちょうした11 bit studiosだが，「This War of Mine」の中核ちゅうかくとなるメンバーたちが，そのアイデアをさらに推おし進すすめた“精神せいしん的てきな後継こうけい作さく”を制作せいさくしていることは事前じぜんに耳みみにしていた。。しかし，イントロシーンが終おわってゲームプレイに入はいるやいなや，3人称にんしょう視点してんで異い世界せかいの探索たんさくが始はじまるアドベンチャー要素ようそが「DEATH STRANDING」のような雰囲気ふんいきで，想像そうぞうしていたゲームとはかなり違ちがっている。

　もちろん，「The Alters」は「This War of Mine」の伝統でんとうである拠点きょてん建設けんせつを継承けいしょうしているが，自分じぶんの足あしを使つかってエリアを自由自在じゆうじざいに探索たんさくしたり，資源しげんの収集しゅうしゅうを行おこなったりといったゲームプレイの比重ひじゅうも高たかい。ほかのキャラクターたちとの選択せんたく式しきの会話かいわシーンは，さらにカメラを近ちかくに寄よせて同社どうしゃ初はつとなるパフォーマンスキャプチャによる演技えんぎが堪能たんのうできるイベントとして描えがかれるなど，より個々ここのキャラクターに焦点しょうてんをあてた手法しゅほうでのストーリーテリングが行おこなわれているのだ。

モバイルベース“CEBA”の外観がいかんは，どこかオートバイのタイヤのような形状けいじょうで，輪郭りんかくとは独立どくりつして平行へいこうを保たもつモジュール式しきの施設しせつを増ふやしたり，その配置はいちを自在じざいに換かえたりできる。危険きけんなX線せんを放射ほうしゃする太陽光たいようこうから逃にげ回まわれ

11 bit studiosで「The Alters」のゲームデザイナーを務つとめるラファウ・ヴロセック氏し

　「The Alters」のゲームデザイナーであるラファウ・ヴロセック（Rafał Włosek）氏しによると，「This War of Mine」の開発かいはつ中ちゅうに，彼かれらがヒトの人生じんせいについて考かんがえ直なおすことになったのが，本ほん作さくの企画きかくにつながったのだそうだ。
　「危機ききに際さいして生いき残のこった人ひとと命いのちを落おとした人ひとでは，その場所ばしょや環境かんきょう以外いがいに何なにが違ちがったのか。もし，人生じんせいで異ことなる経験けいけんやスキルを積つんでいれば，生死せいしの分わかれ目めで異ことなる結果けっかを生うんだのではないのか」というような発想はっそうの中なかから，SFテーマと危機きき的てき状況じょうきょうをバックグラウンドにしながら“別べつの人生じんせいを歩あゆんだ自分じぶん”を体験たいけんしていくという，「The Alters」の基礎きそが作つくり上あげられている。

別べつの自分じぶんを作つくることで，惑星わくせいでのサバイバルを続つづけよ

　冒頭ぼうとうのミッションで基地きちの内部ないぶに潜入せんにゅうを果はたしたヤン・ドルスキーだが，残のこされていた前任ぜんにん調査ちょうさチームのIDを借かりて量子りょうしコンピューターにアクセスしてみると，すでに「避難ひなん命令めいれい」が発令はつれいされた後のちということが判明はんめいする。どうやら，この惑星わくせいが含ふくまれる星ほし系けいは3つの太陽たいようが中心ちゅうしんにあるために天体てんたいや気象きしょう環境かんきょうが激化げきかしやすい状態じょうたいにあり，以前いぜんに派遣はけんされていた調査ちょうさチームは脱出だっしゅつしたあとだったようだ。

　不気味ぶきみなのは，どこにあるのかもわからない宇宙うちゅうステーションの本部ほんぶとのコミュニケーションだ。ようやく救助きゅうじょしてもらえると楽観らっかん的てきな様子ようすで応答おうとうするヤンだったが，やり取とりの相手あいては非常ひじょうに低ひくい声こえの，実在じつざいの人物じんぶつなのかAIなのかもわからない無む感情かんじょうなトーンを続つづけ，しかも信号しんごうが乱みだれるので，相手あいてが話はなす詳くわしい内容ないようがわからない。イメージとしては2016年ねんにリリースされたナラティブADV「Firewatch」のような展開てんかいで，自分じぶんの命いのちを託たくしているはずの無線むせんの向むこう側がわの相手あいてが信用しんようできるのか，信用しんようできないのかが掴つかめない状況じょうきょうだ。
　すでに脱出だっしゅつ用ようのポッドは先遣せんけん隊たいが使つかっていることもあり，まずヤンは「サンライズ」（日出にっしゅつ？）という現象げんしょうが始はじまる“30日にち後ご”に向むけて，すぐに基地きち外部がいぶに出でて“メタル”を掘削くっさくしたり，青あおいガスが噴ふき出だす場所ばしょに“Pylon”と呼よばれる施設しせつを設置せっちして有機ゆうき物質ぶっしつ“オーガニックス”を収集しゅうしゅうしたりしながら，必要ひつようとなる機器ききや食料しょくりょうを自作じさくしていくことを求もとめられる。

屋外おくがいでオーガニックスを採取さいしゅしている場面ばめん。オーガニックスの在あり処かは青白あおじろい水蒸気すいじょうきが目印めじるしとなり，ここからパイプでCEBAへとつながなければならない。探索たんさくや資源しげん採取さいしゅは“Miner”（炭鉱たんこう労働ろうどう）が本職ほんしょくのオリジナルの仕事しごとだ

　タイヤ状じょうの推進すいしん装置そうちを輪郭りんかくとし，その中央ちゅうおうに常つねに平行へいこうを保たもつように作つくり上あげられているCEBAには，倉庫そうこや寝室しんしつといった施設しせつのモジュールを加くわえたり，自由じゆうに配置はいちを変更へんこうできたりする。内部ないぶも3Dグラフィックスで描えがかれているが，「This War of Mine」や「Fallout Shelter」のような，ほぼ真横まよこに固定こていされたカメラ視点してんでプレイする部分ぶぶんが，探索たんさく部分ぶぶんとは異ことなる雰囲気ふんいきを持もっている。
　CEBAの施設しせつモジュールはコンテナがつなぎ合あわせられたような外観がいかんで，ここにワークショップやキッチンなどの新あたらしいモジュールを組くみ込こんでいくが，ゲーム開始かいし時点じてんでは残のこり半分はんぶんほどのスペースが空あいた状態じょうたいになっていた。この時点じてんではCEBAのエンジンは完全かんぜん停止ていししているので，それを何なんらかの方法ほうほうで解決かいけつしなければならない。

かなりモジュールを詰つめ込こんだ後のちのCEBA。Command CenterやCommunication Room，Workshopなど必要ひつよう不可欠ふかけつな施設しせつの他ほか，それぞれの職種しょくしゅを専門せんもんとするヤンが誕生たんじょうするたびに，彼かれらの仕事しごと部屋へやを作つくらなければならないし，キッチンやジム，公園こうえんなどの心身しんしんの平穏へいおんに必要ひつような施設しせつも組くみ込こんでいく

CEBAの内部ないぶも完全かんぜん3Dで描えがかれているが，内部ないぶでの操作そうさは2Dな場面ばめんがほとんどだ。装置そうちや機械きかい，他たのアルターたちと交流こうりゅうしたり，エレベーターで他たの階かいへと移動いどうしたりすることができる

　洞窟どうくつ内ないにはさまざまな色いろに輝かがやくスパイク状じょうの光ひかりが地上ちじょうから突つき出だしている場所ばしょがあり，その内部ないぶは放射線ほうしゃせん量りょうが強つよく，プレイヤーキャラクターの耐たい性せい値ちも急激きゅうげきに減少げんしょうしていく。そこで採掘さいくつできる稀少きしょうな鉱物こうぶつ“ラピディウム”を持もち帰かえり，本部ほんぶに連絡れんらくすると「ラピディウムを利用りようして自分じぶんの複製ふくせいである“アルター”を作つくり，惑星わくせいから脱出だっしゅつするための方法ほうほうを見みいだせ」というお達たっしが入はいる。

サバイバルのために自分じぶんの複製ふくせいとして登場とうじょうする“アルター”たち

　この時点じてんで“アルター”が何なになのかは，主人公しゅじんこうのヤンと同様どうようにプレイヤーにはまったく伝つたわってこないが，量子りょうしコンピューターにログインするとアクセスできるのが「Mind Record」（心しんの記録きろく）というものである。ヤンのこれまでの人生じんせいの節目ふしめが数すう十じゅうか所しょに分わかれて，ソーセージのようにつながっている。彼かれにとってのターニングポイントになっていたであろう節目ふしめの解説かいせつを，ゲーム序盤じょばんからじっくりと読よみ込こむことも可能かのうだ。

「Mind Record」は，人生じんせいの転機てんきとなった小袋こぶくろ状じょうのイベントが，ソーセージか鍾乳洞しょうにゅうどうのように連つらなっていく心しんの記録きろくだ。職能しょくのうや性格せいかくまでが変化へんかした自分じぶんの化身けしんであるアルターたちと向むき合あうことで，自分じぶんの過去かこについても考かんがえていく

　おおまかに，ヤンの人生じんせいを振ふり返かえっておくと，酔よっ払ぱらいの父親ちちおやに愛想あいそを尽つかして19歳さいで家出いえでするが，学業がくぎょうに集中しゅうちゅうできずに大学だいがくも中退ちゅうたいしてしまう。心しんの支ささえとなってくれたLena（レナ）という女性じょせいと出会であうものの35歳さいで離婚りこんしたことで，自暴自棄じぼうじきになってAllyCorpが人材じんざいを募集ぼしゅうしていた「ドリー計画けいかく」に応募おうぼし，それほどの経歴けいれきを必要ひつようとしない鉱物こうぶつ掘削くっさくの作業さぎょう員いん（Miner/本稿ほんこうでは，便宜べんぎ的てきに“オリジナル”と表記ひょうき）として宇宙うちゅう開発かいはつ調査ちょうさ団だんの一員いちいんに加くわわった。ヤンには自分じぶんの過去かこの記憶きおくをデータ化かされた記憶きおくなどなく，プレイヤーは連絡れんらくを取とってくる太ふとい声こえの主あるじの不気味ぶきみさに加くわえて，AllyCorpという企業きぎょうの行おこないにも疑うたがいの目めを向むけることになる。

　アルターとは，オリジナルの持もちえない能力のうりょくや知識ちしきを補おぎなうため，量子りょうしコンピューターが対象たいしょう人物じんぶつの人生じんせいの節目ふしめで分岐ぶんき点てんを作つくり出だし，そこから生うまれた“アルタナティブ”な存在そんざいのことである。こうした分岐ぶんき点てんはアルターが加くわわるごとに増ふえ，「Tree of Life」（生命せいめいの樹き）のように“他たの自分じぶん”の半生はんせいが枝えだとなって成長せいちょうしていくのが可視かし化かされるのだ。
　冒頭ぼうとうの展開てんかいだけでは，DNAレベルで新あたらしく生産せいさんされた存在そんざいなのか，どこかのパラレルワールドから引ひっ張ぱり出だされてきた存在そんざいなのかといった詳細しょうさいについては不明瞭ふめいりょうだが，最初さいしょのアルターとして登場とうじょうする“ヤン・テクニシャン”は自分じぶんの過去かこの記憶きおくから生うみ出だされたアイデンティティをしっかりと持もっており，自分じぶんが本物ほんもののヤンであると考かんがえている。

Mind Recordが記録きろくされている量子りょうしコンピューター（Quantum Computer）で，必要ひつような人材じんざいを選えらぶと「The Womb」と呼よばれる別べつの施設しせつでアルターが生成せいせいされる。そもそも誰だれがヤンの半生はんせいを記録きろくしたのか？　何なんとも不気味ぶきみな展開てんかいとなりそうだ

　こうして量子りょうしコンピューターに選えらばれた新あたらしいヤン・テクニシャンが，オリジナルの見守みまもる前まえでインキュベーター「The Womb」で生産せいさんされる。オリジナルのヤンよりも基地きちのメンテナンス能力のうりょくが50％も効率こうりつが良よいという能力のうりょくを持もっている彼かれは，すぐにエンジンの問題もんだいを解決かいけつして対処たいしょ法ほうもオリジナルに教おしえるが，瓜ふり二ふたつの自分じぶんが目めの前まえに現あらわれたことに戸惑とまどいを感かんじており，「言いわれた作業さぎょうはするが近寄ちかよらないでくれ」と怒いかり心頭しんとうだ。

　ヤン・テクニシャンは，オリジナルが19歳さいの時ときに家庭かてい内ない暴力ぼうりょくを振ふるう父ちちに愛想あいそを尽つかして出でていったのではなく，母ははの傍はたに立たって父ちちに歯向はむかい，鍵かぎを閉とざして父ちちを家いえに入いれるのを拒こばんだことにより，オリジナルのヤンとは違ちがう人生じんせいが分岐ぶんきしていった。母ははを支ささえる中なかで修理工しゅうりこうとなるべく専門せんもん学校がっこうに通かようものの，その母ははもまもなく病死びょうし。孤独こどくとなった彼かれは麻薬まやくにも手てを出だすが，やがて父ちちのような存在そんざいとなる師匠ししょうに出会であったことで腕うでの良よいメインテナンス作業さぎょう員いんに成長せいちょうしていくという，オリジナルのヤンとは違ちがう人生じんせいを辿たどってきた。

会話かいわの選択せんたくでアルターたちとの人間にんげん関係かんけいも変かわっていく

　前述ぜんじゅつしたゲームデザイナーのヴロセック氏しは，「本ほん作さくには3つのストーリーが重かさねられるように存在そんざいしています。ヤンという人物じんぶつの人生じんせい。それからヤンとアルターが立たち向むかうサバイバルのストーリー。そして，プレイヤーが選えらぶ会話かいわによって変化へんかしていく，それぞれの人間にんげん関係かんけいが紡つむぎ出だすストーリーです」と話はなす。本ほん作さくはサバイバルシムでありながらも，ナラティブアドベンチャーとして三重みえ構造こうぞうのストーリーが練ねり上あげられているのだ。最終さいしゅう的てきには，楽観らっかん的てきなエンディングと悲観ひかん的てきなもの，そして中立ちゅうりつ的てきなものの3つのマルチエンディングに帰結きけつすることになるという。

アルターたちは，自分じぶんが送おくってきた“別べつの生いき方かた”により，髪型かみがたや着きこなし，話はなし方かた，性格せいかくなどが変化へんかし，それぞれに異ことなる不安ふあんや目標もくひょうを抱かかえている

　ヤン・テクニシャンが作業さぎょうを終おえたあと，コミュニケーションルームでCEBAの移動いどうが始はじまったことを伝つたえるために連絡れんらくを入いれると，今いままでの野太のぶとい声こえとは違ちがう，より甲高かんだかい若わかい男性だんせいがコンタクトを取とってきた。ルーカスという名なの「宇宙うちゅう管制かんせい局きょく」に所属しょぞくしている人物じんぶつらしい。彼かれはオリジナルも「新あたらしい自分じぶん」が目めの前まえに現あらわれて戸惑とまどっていることを親身しんみになって聞きいたうえで，テクニシャンが会話かいわを拒否きょひしていることに，「共通きょうつうの話題わだいでも話はなしてみれば？」などと助言じょげんする。

　こうしてオリジナルは，キッチンから動うごこうとしないテクニシャンにアプローチ。なにせ，19歳さいの時ときに家いえを出でていくまでは記憶きおくを共有きょうゆうしている間柄あいだがらだ。オリジナルは，19歳さいで母親ははおやを守まもるために酔よっ払ぱらいの父親ちちおやに歯向はむかったテクニシャンの勇気ゆうきを称賛しょうさんするとともに，その後ごの人生じんせいについて質問しつもんしたり，共有きょうゆうする母ははの記憶きおくを話はなしたりして，会話かいわのキャッチボールを続つづけていく。
　その中なかで，テクニシャンの心しんを和なごませたのが，“母ははの味あじ”であるピエロギ（スラブ系けい民族みんぞくの伝統でんとう料理りょうりで，餃子ぎょうざに似にたダンプリン）の記憶きおくだ。そこで，オリジナルはあり合あわせの材料ざいりょうでピエロギを作つくることを提案ていあん。うまく味あじを再現さいげんすることができなかったが，一緒いっしょにテーブルで食事しょくじをすることに成功せいこうし，以前いぜんよりも打うち解とけた間柄あいだがらになることができた。

「精製せいせい作業さぎょう員いん」（Refiner）とは，欧米おうべいの飲のみ会かいではなくてはならない遊あそび，“ビアポン”で打うち解とけていくことになるようだ

“感情かんじょうステータス”を上手うまく制御せいぎょして危機ききを乗のり越こえよう

　ヤンのアルターは，それぞれが「科学かがく者しゃ」（Scientist）や「精製せいせい作業さぎょう員いん」（Refiner），「植物しょくぶつ学者がくしゃ」（Botanist）など異ことなる専門せんもんを持もっており，以前いぜんに公開こうかいされている映像えいぞうなどから10人にんほどが登場とうじょうすると思おもわれる。それぞれが，Mind Recordに記録きろくされている人生じんせいの分岐ぶんき点てんから量子りょうしコンピューターに選えらばれることで登場とうじょうするが，ヴロセック氏しによると同おなじ職種しょくしゅのキャラクターが生成せいせいされることはなく，そのアルターの人生じんせいの分岐ぶんき点てんや性格せいかくは事前じぜんに決定けっていしているとのことだ。

後半こうはんになると複雑ふくざつさを増ますであろう，任務にんむの振ふり分わけなどのマネジメント部分ぶぶんにまで踏ふみ込こむことはなかったが，それぞれのアバターたちと向むき合あい，その能力のうりょくを最大限さいだいげんに生いかしながらも，この惑星わくせいから脱出だっしゅつするまでの試練しれんが描えがかれていく

　テクニシャンはチュートリアル部分ぶぶんのキャラクターとして，すべてのプレイヤーが最初さいしょにアクセスできるアルターだが，それ以降いこうはストーリーの流ながれの中なかで，例たとえば「科学かがく者しゃと精製せいせい作業さぎょう員いんのどちらを選えらぶか」といった選択せんたくを行おこないながらも，最終さいしゅう的てきには同おなじメンバーで脱出だっしゅつを図はかることになるとヴロセック氏しは話はなす。筆者ひっしゃがプレイできたのは冒頭ぼうとうの2時じ間あいだほどであり，CEBAが動うごき始はじめてチュートリアルが終了しゅうりょうし，ようやく第だい1チャプターに移うつって新あたらしい問題もんだいに直面ちょくめんし，付近ふきんを探索たんさくするうちに第だい3のアルターをメンバーに加くわえる必要ひつよう性せいが出でてきたところまでだった。どのような順序じゅんじょでアルターをアンロックしようが，それぞれの解決かいけつ策さくを見出みいだして次つぎのチャプターへと進すすんでいくという流ながれになっているようだ。

十人十色じゅうにんといろの声こえでヤン役やくを演えんじる，イギリス人じん俳優はいゆうのアレックス・ジョーダンさんもイベントに参加さんかしていた。ポーランドつながりでは，「サイバーパンク 2077」のミスター・ハンズでも知しられる

　「This War of Mine」的てきな要素ようそとしては，それぞれのアルターには「傷きず」「放射線ほうしゃせん量りょう」「空腹くうふく」というムードにも関かかわる健康けんこうパラメータとともに，「感情かんじょうステータス」（Emotional Status）が用意よういされていることが挙あげられる。個々ここのアルターの感情かんじょうは，「Insecurity」（不安ふあん），「Anxiety」（心配しんぱい），「Gloom」（憂鬱ゆううつ），「Fun」（楽たのしさ），「Frustration」（不満ふまん）といった心しんの在あり方かたが，プレイヤーの選えらぶ会話かいわの反はん応おうとして細こまかく変動へんどうしていくことで作つくり出だされていく。
　この感情かんじょうステータスはオリジナルとの友好ゆうこう関係かんけいだけでなく，ミッションに取とり掛かかる際さいのモチベーションにも関かかわってくるようだ。それぞれのアルターが抱かかえる心しんの問題もんだいや野心やしん，不安ふあんなどと，どのようにプレイヤーが向むき合あっていくのかで，オリジナルを含ふくむヤンたちの最終さいしゅう的てきな運命うんめいも決きまっていくことになるのだろう。

そもそも，ゲーム中ちゅうに登場とうじょうする鉱石こうせき“ラピディウム”とは何なになのか？　「rapid」（急速きゅうそくな）というニュアンスからは，DNAから急速きゅうそくに生物せいぶつを育そだて上あげるような現象げんしょうにも思おもえるが，記憶きおくまで生成せいせいできるというのが本ほん作さくの大おおきな謎なぞとなるだろう

　「もしあの時とき，あの決断けつだんをしていたら？」とか，「ずっと願ねがっていた思おもいを遂とげていたら，今いまの自分じぶんはどんなだっただろう？」なんてことは，誰だれでもふと考かんがえてみたことがあるはず。「The Alters」は，そんな“別べつの人生じんせいを歩あゆんだ自分じぶん自身じしん”に出会であい，彼かれらの生いき方かたを羨うらやんだり同情どうじょうしたり，あるいは同おなじ自分じぶんであるはずなのに肌はだの合あわない性格せいかくになっているかもしれない自分じぶんと向むき合あっていく。そもそも“オリジナル”のヤン自身じしんも本物ほんものと言いえるのだろうか？　SFベースのサバイバルシムながらも，人生じんせいについて改あらためて考かんがえさせられるような哲学てつがく的てきなテーマを描えがき上あげるストーリーテリングは，今いまから期待きたいせずにはいられない。

　「The Alters」は，インタフェースとテキストが日本語にほんご化かされて2024年ねん8月がつ中ちゅうに各かくプラットフォーム向むけにリリースされる予定よていだ。気きになる人ひとはウィッシュリストに追加ついかして，発売はつばいまでは4Gamerで続報ぞくほうをチェックしていただきたい。

「The Alters」公式こうしきサイト