2023
年は
各所で
「当たり年」「豊作」などと
評されるぐらいに,
非常に
多くの
傑作,
話題作が
発売された1
年だった。
特に
秋から
年末ごろにかけての
発売ラッシュは
凄まじく,
今でもまだそのころに
発売された
作品をプレイ
中,という
人もいるのではなかろうか。だが
今年も2か
月が
経過し,すでに
数多くのビデオゲームが
発売されている。
大作ゲームや
名作の
続編などに
区切りをつけ,ここらでなにか“
一風変わった”ゲームを
遊んでみたいと
感じてきたのなら,
「Pacific Drive」(
PC/
PlayStation 5)はうってつけの
作品となるだろう。
Pacific Driveは
Ironwood Studiosが
開発し,2
月22
日に
発売されたゲームだ。ストアページの
説明文によれば,ゲームのジャンルは
「ドライビング・サバイバル・アドベンチャー」とのこと。おそらく
多くのプレイヤーにとって
耳馴染みのないジャンルであろうし,
実際にかなり
変わった
内容となっている。
ゲームの
舞台となるのは「オリンピック
半島」。
政府によってなんらかの
実験場とされた
場所で,
今では
侵入経路が
封鎖されている。
明確に
言及されるわけではないが,おそらく
配達ドライバーであったらしい
主人公は,なぜかそんなオリンピック
半島に
迷い
込み,
超常現象によって「
隔離ゾーン」(
作中では
単に「ゾーン」と
呼ばれることが
多い)の
内部に
囚われてしまうこととなる。ということで,
「ゾーンからの脱出を目指す」のが
本作の
大きな
目的だ。
物語のジャンルは「
超常現象SF」で,
不気味かつややレトロな
質感はドラマシリーズ
「ストレンジャー・シングス」や,その
原点となっている
古典的なアメリカ
映画などを
彷彿とさせる。また、
隔離地域を
「ゾーン」,
超常現象を
「アノマリー」と
呼称するところなどはストルガツキー
兄弟の
小説「ストーカー」を
元ネタとしたビデオゲーム
「S.T.A.L.K.E.R」シリーズが
想起されるなど、
随所にさまざまな
作品の
影響が
見られる。
純粋なホラーゲームというわけではないが,
全体的に
重く
暗い
雰囲気であり,
突然びっくりするようなことも
起こるので,
心臓の
弱い
人や
大きい
音の
苦手な
人は,プレイする
際にやや
注意が
必要であろう。
前述したように,
本作は
変わった
内容の
作品だ。ゲームプレイとしては,
自動車でエリアの
中を
探索し,
物を
収集して
拠点に
帰り,
拠点や
自動車をアップグレードして
新しい
場所へ
向かうというサイクルの
繰り
返しが
主となっている。
失敗してしまうと(
初期設定であれば)
所持していたアイテムの
一部を
紛失してやり
直しになるというわけだ。
「
失敗」といっても,
人間や
怪物に
追いかけ
回されて
殺されたりするわけではなく,あくまでアノマリーによる
事故や,ダメージを
受けるゾーンにオーバーステイしてしまったための
死亡であってFPS
的な「
戦闘」があるわけではない。こういう(FPS
視点の,
純粋なストーリーゲームではなく,
繰り
返しが
主体となっている)
作品で
「戦闘」がない,というのはかなり
珍しいことであろう。
本作のSteamレビューなどを
見ると「ローグライク/ローグライト」という
言葉が
散見されるし,
筆者の
考えでは(
前述の「S.T.A.L.K.E.R」シリーズに
影響を
受けた)
「Escape From Tarkov」に
代表される
「脱出(Extraction)シューター」との
類似性があるように
思う。とはいえどちらも
類似しているというだけで,そのものではないようにも
感じられる。
本作は既存のジャンルでそのまま説明することが難しい作品になっている。
ここからはPacific Driveの
大まかな
流れを
紹介していこう。まず,
拠点で
行き
先を
決める。ストーリークエストがある
場合は,その
目的地が
表示されるのでそこを
目指すのがよいだろう。もちろん,クエストを
無視してほかの
場所に
行くこともできる。マップは
完全なオープンワールドではなく,エリアごとに
分けられているが,
各エリアはかなり
広い。
目的地を
決めたら
車に
乗り
込み
運転開始だ。ドアを
開け,
乗り,ドアを
締め,キーを
回し,ギアをドライブにいれるというのをすべて
操作しなければならないため,
最初はかなり
面倒に
感じられるだろう。というか,
本作は
意図的に
面倒くさく
作られており,プレイヤーが
モタモタしやすくなっている。戦闘が
存在しないので,「モタモタしているうちに
死ぬのか,なんとか
打開するのか」というハラハラ
感を
生み
出すための
装置になっているのだ。
目的地を
目指すために
必須である「マップ」もいちいち
首を
右に
向けて
確認しなければならない。もちろん,その
間も
超常現象は
起きるし,
雨の
坂道だったら
勝手に
滑っていってしまったりもする。
目的地を
目指しがてら,
忘れてはいけないのが
「探索と収集」だ。ゲーム
開始時点では
非常に
物資が
乏しいため,
素材をこまめに,
手当たり
次第集めるのが
重要となってくる。
道に
放棄された
廃車からガソリンを
抜き
取ったり,パネルを
解体して
金属にしたり……ともかくなにか
建造物を
発見したらいちいち
車を
停車し,
見に
行ってみるのがよい。
車はちゃんと
平らなところに
駐車しておかないと,どこかに
行ってしまったりするので
要注意だが。
金属を
解体するための「スクラッパー」,ドアの
鍵を
破壊するための「バール」などの
装備にも
耐久力が
設定されており,
壊れたら
素材からクラフトする
必要がある。つまり,
素材が
足りないと
素材収集用の
装備も
作れないというような
ジリ貧の
状況になり
得るのだ。こういう
理由もあって,
目的地だけを目指さずにじっくり探索するというのが非常に重要なゲームプレイになっている。とはいえ,あまり
滞在しすぎると「
不安定前線」というダメージを
受けるゾーンが
迫ってきてしまうので,どこかで
見切りをつけなければならないタイミングもあるのだが。
この「探索と収集」,そして「切り上げ時の見極め」は本作のキモというか,一番楽しいところだ。コツコツ
物を
集めるのが
好きな
収集好きのプレイヤーにはたまらない
要素だろうし,
生還できたときの
達成感はかなりのものがある。
素材も
無限に
収集できるわけではなく,インベントリを
管理するというような
要素もある。バックパックに
入り
切らない
分は,いちいち
車のトランクに
持ち
帰って
空きを
作ってから
再度拾いに
行かねばならない。
素材を
充分に
収集し,そろそろ
帰るかとなったらマップ
上にあるアンカーを
目指し,そこにあるエネルギーを
車に
蓄える
必要がある。そのエネルギーによって
ゲートウェイを
開け,ゲートウェイを
通過できれば
拠点であるオートショップに
帰れる。SF
的な
説明はやや
難しいが,ゲーム
的な
要素だけを
言えば「
何箇所か
巡って,
最後にゴールにたどり
着かなければならない」ということだ。ゲートウェイが
開くと
嵐が
起こり,
非常に
危険度が
高いため,かなり
焦って
目指したほうがよい。
ゲートを
通過できれば
無事拠点に
帰還。その
後は,
車の
修理や
必要なアイテムを
作るなど、
次のドライブに
向けた
準備を
進める
時間だ。
集めてきた
素材は
車の
修理にも
用いることになる。
車はタイヤ
一つ
一つ,パネル
一枚一枚にすべて
耐久力が
設定されており,こちらもかなり
面倒くさい
要素だ。
場合によってはアノマリーがひしめく
危険な
道中でも
緊急的に
修理しなければならないタイミングがやってくるかもしれない。このあたりは
宇宙船がボロボロ
壊れる
宇宙探索ゲームである
「Outer Wilds」を
少し
連想させる。
拠点で
落ち
着いて
修理をする
場合は,
ちょっとしたリラックス効果も
感じられる。
「House Flipper」や
「PowerWash Simulator」などの
作業シミュレータ
系ゲームと
近い
感覚なのだ。
ひとつのゲームを説明するときに「Escape From Tarkov」と「House Flipper」が同時に出てくるなんてことはあまり起こらないので,これは本作が変わったゲームであることの証左かもしれない。
素材は
車の
修理,
道具の
制作のほか
拠点自体の
強化にも
用いることになる。
拠点を
強化することによって
拠点で
行えることが
増え,ゲームの
進行が
有利になる。
拠点では
車にステッカーを
貼ったり,
装飾することも
可能だ。
拾った
装飾用アイテムを
車内に
配置することもできるので,
車に
愛着が
湧きやすくなっている。ちなみに,ゲーム
内の
説明によれば
主人公が
乗っている
車は「レムナント」であり,
人間をどんどん
執着させ,
最後は
持ち
主が
行方不明となる
危険な
物体の
一種とのこと。
執着しすぎない
程度に
装飾するのがよいだろうか。
ここまで
読んで,
本作を「
難しそうだ」と
感じた
人は
安心してほしい。
本作には
非常に
充実したゲームプレイオプションがあり,
難度をプレイヤー好みに変えられる。たとえばドライブ
失敗時にアイテムを
落とさないようにしたり,
車両がダメージを
受けないようにしたり,なんだったらプレイヤーの
死亡自体をオフにしたりもできる。また,
緊張感のためかやや
画面が
見づらい
場面も
多い
本作であるが,そのあたりは
アクセシビリティオプションで
調整可能だ。
筆者もまだ
序盤部を
遊んだだけだが,
本作のことを
非常に
気に
入った。ゲームプレイが
面白いのはもちろんのこと,グラフィックスの
格好良さや,
カーラジオから流れる楽曲の素晴らしさなど,
細部まで
気の
利いたとてもよく
出来た
作品だと
感じる。
知っている
作品の
要素は
数多くあるが,
総合すると何とも似ていない,オリジナリティに溢れた新しいゲーム体験となっていた。「Pacific Drive」,
非常におすすめなので,ぜひとも
遊んでほしい。