現地時間2024
年3
月18
日から22
日まで,アメリカのサンフランシスコで
開催された
「GDC 2024」で,
「Venba」(
PC /
PS5 /
Xbox Series X|S /
Xbox One /
Nintendo Switch)の
サウンドをテーマとした
講演「Independent Games Summit: 'Venba': An Intimate Journey Through Sound」が
行われた。
Independent Games Festival Awards 2024で
最優秀賞となるSEUMAS MCNALLY GRAND PRIZEを
受賞し,Game Developers Choice Awardsでは2
冠を
果たしたVenbaは(
関連記事),IGF,GDC Awards
共にオーディオ
部門にもノミネートされていた。インドの
家庭料理をテーマとしたゲームで,
本当にキッチンに
立っているかのような,
懐かしささえ
感じられる
音が
特徴の1つだ。そんなVenbaのサウンドは,どのような
考えで
形作られたのか,コンポーザー/サウンドデザイナーの
Neha Patel氏が
説明を
行った。
Venbaは,1980
年代にカナダへと
移住したインド
人家族の
物語を
描く
料理ゲームだ。
母親の
視点でさまざまな
料理を
作り,
失われたレシピを
復元しながら,
家族や
愛,
喪失などをテーマにした
物語を
体験していく。
Patel
氏がゲームのサウンドスケープを
作る
際のモットーとしたのが,
「ゲームが表現する文化に忠実である」ということ。
具体的には,カナダで
暮らす
家族のルーツであるインドの
歴史や
文化,
地域性,そして
料理の
調理方法を
理解することだった。
「ここで
美しいインドをご
覧ください」。そういってモニターにインド
亜大陸の
地図を
映し
出したPatel
氏は,インドはとても
広大で,
小さな
国と
地域がたくさん
集まっており,1つの
国ではなく,ヨーロッパのように
大陸として
見ることが
重要だと
話した。Venba
開発陣も
出身やルーツはそれぞれ
異なり,
歴史的背景もあって,
触れてきた
文化も
違えば
理解できる
言葉も
異なる。
インド
料理は,とくに“まとめて
見られるもの”の
代表だ。レシピは,
山の
近くか
海沿いかでも
大きく
変わるし,
隣接する
地域,
文化圏によって
異なるにもかかわらず,
「残念なことに,ぜんぶまとめてそう呼ばれる」とPatel
氏が
話すように,「インド
料理」として
括られがちだ。
Patel
氏自身も,Venbaの
開発を
通してインドの
料理について
新たに
学ぶことが
多かったという。そういった
学びを
踏まえて,フランス
料理やイタリア
料理のように,1つの
国ではなく,ヨーロッパのような
大陸として
考えるのが
一番だと
語る。
ゲームに
登場する
家族は,インド
南部に
暮らしていたという
設定だ。そのため,
南アジアの
家庭のリアルな
雰囲気を
持った
音作りに
取りかかった。テーマにしたのが
「幼少期の故郷の音を聴く」で,インドでは
料理にステンレスの
調理器具をよく
使うので,その
音がたくさん
必要だった。
音作りには,インド
家庭にある
特別の
調理器具も
必要になる。
サウンドを
作るにあたっては,
研究する
時間を
与えられ,
仕事をする
時間を
与えられ,そしてミスをすることも
許されたと
述べる。ちょうどCOVID-19(
新型コロナウイルス
感染症)が
流行した
時期でそうした
状況にも
関わらず
時間をくれたという。
なぜなら,ゲーム
開発チームがPatel
氏のサウンドが
不可欠だと
考えていたためで,
当時はパブリッシャも
決まっていない
状態だったが,4〜5
人の
小さな
開発チームは,Patel
氏を
信じることを
止めなかったのだ。
3月20日に掲載した聴講レポートにあるとおり,やがてチームはパブリッシャやプラットフォームホルダーの
支援を
得て
資金面での
不安を
払拭。サウンド
制作に,さらに
力を
入れられることになった。
圧力鍋の
蒸気の
音,インドの
家庭料理で
定番のステンレスの
調理器具に
蓋をしたり
片付けたりする
音,コップやマサラケース(スパイスを
入れる
容器)を
使うときの
音など,Patel
氏にとって
懐かしい
音を
思い
浮かべながら,
実際の
器具や
食材を
使って
収録を
進めた。
油を
引いて
加熱する
音が
レベル1,そこにシードスパイスを
入れたときのパチパチッという
音が
レベル2,そこに
野菜を
入れた
音が
レベル3というように,レイヤーを
分けて
音を
配置し,
調理の
段階を
追ってアクティブに
入れ
替わるような
処理を
施した。
各工程のサウンドは
基本的にループしているが,ループ
用だけでは,
最初に
食材を
入れたときのインパクトがない。そこで,スパイス,
野菜,
肉といった
素材別に
「エントリーレベルの調理音」を
制作。「ジャッ!」というインパクトある
音から
次第にフェードアウトするワンオフの
音が,
自然にループ
音に
切り
替わるといった
調整をした。
また,
「料理の音だけが音ではない」とPatel
氏は
言う。
料理をしながら
流れるラジオの
音,
南アジアの
女性が
着用する
民族衣装のサリーが
擦れる
音,
食器がカチャカチャと
触れ
合う
音。それらの,
母性的で
自分自身の
心にも
残る
音も
残さず
収録したという。
録音方法は,アイデアとセンスによる
手作り(DIY)がメインで,
機材もシンプル。これぞまさにインディーというスタイルだ。そのことについてPatel
氏は,「お
金がないとか,パンデミックでスタジオに
行けないとかもあったが,
持っているものを
使うことが
大事だと
考えた。そこから
何かクールなものを
作れるんだ」と
話した。
異文化を
学び,それを
応用することはとても
大事なこと。
作品が
持つ
文化的な
背景を
考慮したサウンド
作りには,プリプロダクションとサポートは
絶対に
欠かせないものだったとPatel
氏は
振り
返った。そして
最後に「(いいサウンドを
作るためには)いつも
派手な
道具が
必要なわけではありません」と
聴講者にメッセージを
送って
講演を
終えた。