ゲーム
開発者向けカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2021 ONLINE」,
初日となる2021
年11月27
日には
「体験型エンターテインメントとは何か? 〜広がるゲーム的手法〜」と
題した
講演が
行われた。マーダーミステリー(マダミス)やイマーシブシアター(
体験型演劇),
謎解きゲームといった
新たなエンターテインメントの
概要,ビデオゲームとの
類似点などについて
語られている。
エレメンツ ゲームデザイナーの石川淳一氏
|
本講演を
行った
石川淳一氏は,
「天下統一」や
「大戦略」シリーズなどに
携わった,
業界歴35
年以上を
数えるゲームデザイナー。そんな
石川氏が,
近年話題を
呼んでいるマーダーミステリーなど,ビデオゲーム
以外のメディア
※を
使ったインタラクティブ
性のあるコンテンツを
「体験型エンターテインメント」と
分類し,ゲームデザイナーとしての
視点から
語るのが,
講演の
主旨である。
※ここでいうメディアは,マスコミではなく,CDや書籍といった「情報媒体」のこと。
氏がいう「
体験型エンターテインメント」とは
謎解きやARG(Alternate Reality Game,
代替現実ゲーム),マーダーミステリー,イマーシブシアター,
人狼など,リアル
空間や
既存のメディアを
使った,インタラクティブ
性を
持つ
遊びのこと。
日本でも
話題のマーダーミステリーが
中国で4
万もの
店舗を
構え,2021
年の
売上が2735
億円と
予測されているなど,その
市場規模は
拡大しているという。
理由としては,“パソコンや
携帯電話の
前で
一日中過ごすようになったため,
外出時には
感覚に
訴える
冒険的な
体験を
求めるようになったから”“インタラクティブ
性に
優れたビデオゲームの
発展により,
他のエンターテインメントがこれからどうすべきかを
模索したから”といった
考察がされているという。
石川氏は
体験型エンターテインメントを,
今までになかった遊びを提案するARGや謎解きゲーム,マーダーミステリーなどを「新規型」と,
演劇から発展したイマーシブシアターや,書籍にインタラクティブ性を持たせた体験型書籍といった既存メディアを工夫した「発展型」に
大別。それぞれについて
現状を
分析した。
謎解きゲーム
リアル
世界で
手がかりを
探して
歩き
回り,
提示された
謎を
解いていく。この
謎解きゲームは
世界規模のコンテンツとなりつつあり,
低年齢層にも
広まっている。
謎解きと
体験を
重視する2つの
方向性を
持ち,
少人数でも
作れることから
尖った
作品も
登場。
ARG(代替現実ゲーム)
SNSやインターネットなど,
実在するメディアを
使って
提供された
情報をもとに,プレイヤーが
行動する。
普段使っているメディアを
用いるため,フィクションとノンフィクションの
境目が
曖昧になるリアル
感を
与えられる。
オンライン体験型イベント
ネット
上の
動画から
手がかりを
探し,
証拠をTwitterに
提出することでエンディングが
変わる「オンライン・パパラッチ
新郎失踪の
真相を
暴き
出せ」や,
実際にLINEでやりとりする「イキサキ
探し」など,コロナ
禍においてオンライン
寄りのものが
発展している。オンライン
寄りのものは
場所の
制約を
受けないのも
大きく,
言語の
壁はあるものの,
日本から
海外公演に
参加することもできる。
マーダーミステリー
日本では「マダミス」の
愛称で
呼ばれ,
話題となりつつある。プレイヤーのそれぞれが,
異なるバックボーンを
持つ
登場人物になりきり,
調査を
進めつつ,
己の
目的の
完遂を
目指す。パッケージが
販売されるものや
店舗で
行われる
公演への
参加,オンライン
対応など
形態は
様々。
少人数で
作れるため,
実験的な
作品も
増えている。
LARP
ライブアクションロールプレイング。ライブRPGとも。プレイヤーが
皆で
集まり,
仮装などリアルの
身体による
行動を
伴うロールプレイを
楽しもうというイベント。
規模が
大きいものは「ConQuest of Mythodea」のように1
万人クラスのプレイヤーを
集めることも。バトルやファンタジー
色のないもの,
無理に
演技しなくても
参加感を
楽しめるものも
登場している。
イマーシブシアター
体験型演劇。
舞台と
客席に
区別がない,
独特の
空間で
公演が
進む。
観客が
自由に
移動できたり,
演者に
話しかけることができたり,
選ばれた
1人が
物語の
一幕に
参加するようなこともあり,
通常の
演劇とは
一線を
画する。
実際の
町工場のあちこちで9
人のキャラクターが
演技するのを
自由に
選んで
見られる「スパイは3
度,ベルを
鳴らす」など,
自分だけの
体験ができるものの,その
醍醐味は
現場でしか
味わえないため,
参加機会が
限られる
弱点がある。
xR系(AR,MR,SRなど)
技術の
力で
現実世界と
仮想世界を
融合させた
遊び。
実際に
徒歩で
移動し,
現実の
地図を
反映した
仮想空間に
出現するポケモンを
捕まえる「ポケモンGO」や,
現実を
仮想空間化したミラーワールドなど。
技術が
重要になるだけに,ハードウェアの
普及がキーとなる。
物語系ボードゲーム
物語的な
体験を
重視し,1
回だけ
遊べるボードゲーム。LINEを
使った「シャーロック・ホームズの
追悼」や,パッケージに
封入されたコミックの
登場人物が
手に
入れたのと
同じボードゲームを
遊んでいくことによって,
謎が
明らかになる「ザ・イニシアティブ」など。
体験型書籍
リアルの
証拠品を
封入したミステリ
本など,
様々な
試みが
繰り
返されてきた。
読む
順番で
物語が
変化する「N」。
短編小説にYouTubeへのQRコードが
記されており,
物語とリンクした
音を
聞ける「
聞こえる」など,
現在も
取り
組みが
続けられている。
体験型映画・TV
イギリスで
話題の
映画上映イベントであるシークレット・シネマでは,
映画のセットを
模した
飾り
付けをした
会場で,
上映とともに
役者がパフォーマンスを
行う。「ブレード・ランナー」の
上映では,
会場に
雨が
降りしきる
中,
参加者はレインコートと
傘を
装備して
観賞。ゾンビのような
感染者と
生き
残った
人類を
描く「28
日後…」では
感染者が
観客を
追いかけるなど,
映画の
世界に
入ったような
体験ができる。イギリスでは,「ブレード・ランナー」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」など,シークレット・シネマで
扱われた
映画が
週間興業ランキングに
入るといった
経済効果も。
テーマパーク
大阪のテーマパーク・USJに
登場した「スーパー・ニンテンドー・ワールド」では,「スーパーマリオブラザーズ」の
世界を
再現し,リアル「マリオカート」
体験ができるなど,
没入感が
重視されている。2022
年にディズニーが
開業する「Galactic Star Cruiser」は「スター・ウォーズ」をテーマとしたホテル。2
名2
泊約50
万円と
高価ながらも,“
宇宙客船でのクルーズ”という
設定の
元,ライトセーバーの
訓練など
様々なアクティビティを
楽しめる。
専用施設を
作れるため
没入感は
高まるが,コストも
高くなることに。
アトラクション/イベント
“
従来の
受動型娯楽を
参加型にするもの”,“イベントを
能動的なものとするもの”の2
系列が
存在。
前者は
閉園後の
遊園地を
使い,
観客がミッションに
従って
動き
回るところにお
化けが
出現する
能動的お
化け
屋敷「
幽霊たちの
結婚式〜
闇に
消えた
先輩記者〜」など。
後者は「ストリートファイター」
展覧会「
俺より
強いやつらの
世界展」における,
画面の
前で
波動拳のポーズを
取ると,
画面内で
波動拳が
発射されるアトラクションなど。
体験型アート
インスタレーションなどにインタラクティブ
性を
持たせる
取り
組みも
進む。ゲームブックを
手に
実際の
町を
歩く「
演劇クエスト」や,
既存の
美術作品展示にナレーションで
物語性を
与える「THE FIRST CLASS」など。
音楽系
これまで
音楽の
世界観はアルバムによって
表現されてきたが,1
曲単位で
配信される
時代だけに,
他メディアの
力を
借りた
表現も
進む。「ヨルシカ
盗作」では,CDに
小説とカセットテープが
付属。
小説では
曲の
主人公である
盗作家と
少年の
物語が
描かれ,カセットには
少年が
弾いた
曲が
収録されており,CDとあわせて
曲の
世界観を
表現している。
こうした
体験型エンターテインメントの
中で
石川氏が
注目するのは,
舞台と
客席の
区別がない
空間で
展開する
演劇であるイマーシブシアターだ。その
理由は,ザッピング
要素のあるアドベンチャーゲームと
近い
構造を
持ち,インタラクティブ
性がありつつも,
参加者に
知識や
操作を
求めないハードルの
低さであるという。
イマーシブシアターは
演劇であるため,
参加者のすることは
追いかける
役者を
決めて
鑑賞するだけでOKとハードルが
低い。
ビデオゲームでは,
“どのコマンドを選ぶか”“どういった戦術を採るか”といった
能動的な
選択がストレスとなり,
成果を
得られることでカタルシスを
得られる
仕組みになっている。しかし,イマーシブシアターではその
選択が
“どの役者を追うか”“どの位置で見るか”といったライトな
形になっており,
前述した
選択に
伴うストレスを
感じにくいにもかかわらず,インタラクティブ
性は
実現されている。
また,
他の
形態と
異なり,
仮装やロールプレイ,
謎解きなど,
人によっては
難しいと
感じられる
能動的な
行為を
求められないのもメリットといえるだろう。その
一方で,
選ばれた
観客が
招かれて
演者とともに
作業するなどして
演劇に
参加する「1on1」のように
特別な
体験も
存在する。
一方,
参加者は
傍観者であるためビデオゲームと
比べて
没入感は
弱い。また,
観客が
自由に
移動していい
形式の
公演では
物語が
分かりにくくなる
危険性も
存在する,と
石川氏は
指摘する。
前者に
対してはイマーシブシアターにしてミッションや
謎解きを
入れたり,
後者については
観客のルートを
固定する,1
公演で
複数回のループを
行う,
物語の
概要が
掴める
主人公的な
存在を
設定するなどの
対策も
練られているという。
最後に
石川氏は「
体験型エンターテインメントの
世界はこれからもまだまだ
広がっていくと
思います。
皆さんも
体験や
制作をして
知見を
積み
上げていきましょう」と
講演を
締めくくった。
ビデオゲームの
世界では
当たり
前に
享受しているインタラクティブ
性。これを
他のメディアで
実現するために
様々な
工夫が
成されているということで,ビデオゲームを
深く
知る
人にとっては
新鮮な
事例が
挙げられた
講演であると
感じられた。
ビデオゲーム
制作にあたってこうした
取り
組みから
学べることも
少なくないだろう。こうした
知見が,
体験型エンターテインメントとビデオゲームの
双方に
良い
影響をもたらすことを
期待したい。