いま世界せかいてきに「宇宙うちゅう」におおきな関心かんしんせられている。かつては国家こっかレベルでしかなかったロケットのげがいまや民間みんかんレベルで活発かっぱつ。2021ねん12月には、日本にっぽん民間みんかんじんはじめて国際こくさい宇宙うちゅうステーションに滞在たいざいし、一気いっき注目ちゅうもくあつまった。
 周知しゅうちのとおり、気象きしょう予報よほう分野ぶんやでは以前いぜんより人工じんこう衛星えいせい観測かんそくデータが活用かつようされており、その分析ぶんせき精度せいどしている。だが、いままでおもいもしなかった分野ぶんや人工じんこう衛星えいせい観測かんそくデータ活用かつようがはじまっている。人工じんこう衛星えいせい観測かんそくデータを、さまざまなインフラの維持いじ管理かんり、あるいは防災ぼうさいげんわざわいのリスクヘッジにも活用かつようできるのだ。

衛星えいせいSAR」の驚異きょういてきなメリット

 NECの宇宙うちゅう事業じぎょうみは、はん世紀せいき以上いじょうもの歴史れきしほこる。やく80衛星えいせい開発かいはつ製造せいぞうし、世界せかいやく300衛星えいせいやく8000だい機器きき供給きょうきゅうしてきた。それらの技術ぎじゅつ経験けいけん結晶けっしょうとして2018ねん1がつ日本にっぽんでは民間みんかん企業きぎょうはじめて地球ちきゅう観測かんそく衛星えいせいげに成功せいこうした。それが地球ちきゅう観測かんそく衛星えいせい「ASNARO-2」である。

 この衛星えいせい最大さいだい特徴とくちょうは、SAR(合成ごうせい開口かいこうレーダ)を搭載とうさいしていることだ。
 SARとは、衛星えいせいから地球ちきゅう地表ちひょうめんにマイクロ照射しょうしゃし、その反射はんしゃ受信じゅしんして画像がぞう生成せいせいする技術ぎじゅつ。マイクロにはどんなあつくもでも通過つうかでき、ひかりりょうにもまったく左右さゆうされないという特性とくせいがある。つまり、いかなる天候てんこうでも、昼夜ちゅうやわず情報じょうほう取得しゅとくできるという利点りてんがあるのだ。
 そしてSARのもうひとつの特記とっきすべき特徴とくちょうが、巨大きょだい開口かいこうのレーダを「仮想かそうてきに」つくせることだ。衛星えいせい1照射しょうしゃ受信じゅしんできる開口かいこうちいさい。しかし、衛星えいせい移動いどうする軌道きどうじょう無数むすう地点ちてん照射しょうしゃ受信じゅしんかえしており、それらの計測けいそく情報じょうほう統合とうごうすることにより、あたかもひとつの巨大きょだいなレーダとして仮想かそうてき合成ごうせいし、たか分解能ぶんかいのう画像がぞう生成せいせいできるのだ。これが「合成ごうせい開口かいこうレーダ=SAR」の名称めいしょう由来ゆらいでもある。
 SAR衛星えいせい地球ちきゅうのあらゆる地表ちひょうデータを収集しゅうしゅうできる。かずひゃくキロにもおよぶ「広域こういきせい」や「越境えっきょうせい」「周期しゅうきせい」といった利点りてんくわえ、SARの特性とくせいの「全天候ぜんてんこうせい」「夜間やかんでも観測かんそく可能かのう」という従来じゅうらい気象きしょう衛星えいせいにはなかったメリットもある。さらにSARはレーダと地表ちひょうとの距離きょり計測けいそくできる「はか距性」によって、地表ちひょうめん建造けんぞうぶつなどの微細びさい変化へんかをミリ単位たんいとらえることができるという画期的かっきてき技術ぎじゅつなのである。

モニタリングケースⅠ:実証じっしょう実験じっけん証明しょうめいされた威力いりょく〜インフラ設備せつび維持いじ管理かんり

 では、衛星えいせいSAR技術ぎじゅつには、具体ぐたいてきにどういった活用かつようほうがあるのか。NECはAIをわせて、すでにインフラ設備せつび維持いじ管理かんりというめん実証じっしょう実験じっけんにも成功せいこうしている。舞台ぶたいとなったのは、和歌山わかやまけん南紀なんき白浜しらはま空港くうこうだ。
 空港くうこうのインフラ維持いじ管理かんり関係かんけいしゃあたまいためるのが、滑走かっそうのメンテナンスだ。わずかなヒビれでも航空機こうくうき離着陸りちゃくりく深刻しんこく影響えいきょうおよぼし、安全あんぜん運航うんこうさまただい惨事さんじにもつながりかねない。これは世界中せかいじゅう空港くうこう施設しせつかかえる共通きょうつう問題もんだいだ。
 近年きんねんではドローンやセンサーなど「IoT」の活用かつようなどのみも活発かっぱつになってきているが、より効率こうりつてき維持いじ管理かんりもとめられている。
 そこで2020ねん3がつ空港くうこうとNECが共同きょうどうでスタートさせたトライアルが、「くるみえ for Cities」。ドライブレコーダーを搭載とうさいした自動車じどうしゃ滑走かっそうをくまなく点検てんけん走行そうこうし、その映像えいぞうとAIで滑走かっそう表面ひょうめん異常いじょう発見はっけんするというNEC独自どくじのソリューションだ。

 これによってさまざまな異常いじょう検知けんち可能かのうとなった。それでもまだ捕捉ほそくできない異常いじょうがある。たとえば、おおきな影響えいきょうをもたらす地盤じばん沈下ちんか検知けんちができない。それを衛星えいせいSARのデータでカバーできるのではないか――。
 同年どうねん11がつ、いよいよ衛星えいせいSARの活用かつようへと発展はってんさせた。

 具体ぐたいてきには、衛星えいせいSARによる宇宙うちゅうからの「マクロ」な情報じょうほうをもとに、ドライブレコーダーでられた「ミクロ」の画像がぞう情報じょうほう分析ぶんせきすることで、SARの特性とくせいをフルに活用かつようし、なおかつ、継続けいぞくてきなデータ受信じゅしんによってどういち箇所かしょ経年けいねん変化へんかもミリ単位たんい把握はあくできる。これにより、
1 滑走かっそうのミリ単位たんい微細びさい地盤じばん沈下ちんか探知たんちする「動態どうたい観測かんそく
2 滑走かっそう縦横じゅうおう微妙びみょうかたむきを探知たんちする「勾配こうばい調査ちょうさ
3 空港くうこう施設しせつ隣接りんせつ航空機こうくうき離発着りはっちゃくさまたげとなるような建造けんぞうぶつあらたにてられていないか確認かくにんする「障害しょうがいぶつ管理かんり」 
4 空港くうこうビルのかたむきなど、空港くうこうインフラを安全あんぜん保守ほしゅ管理かんりするうえでさい重要じゅうようなポイントのカバー
などが可能かのうだと実証じっしょうされたのだ。
 衛星えいせいSARとAIのデータをつなぐことによって、インフラ設備せつび最適さいてき維持いじ管理かんり効率こうりつてきおこなえるようになったのである。

 この実証じっしょう実験じっけん証明しょうめいされた結果けっかは、さらにおおきな可能かのうせいめている。
 この仕組しくみを活用かつようすれば、空港くうこうかぎらず鉄道てつどう電力でんりょく、ガス、水道すいどう堤防ていぼう橋梁きょうりょう高速こうそく道路どうろ港湾こうわんなど、インフラ施設しせつ全般ぜんぱん適用てきようできる。公共こうきょうインフラのなかにはすでに建設けんせつから70ねん経過けいかして老朽ろうきゅう問題もんだい直面ちょくめんしているものもすくなくなく、社会しゃかいてき課題かだいにもなっている。衛星えいせいSAR×AIの技術ぎじゅつは、そうした課題かだい解決かいけつさくとして期待きたいされる。

モニタリングケースⅡ:災害さいがい被害ひがい未然みぜんふせぐ~防災ぼうさいげんわざわい、そして都市とし計画けいかくへの活用かつよう

 前述ぜんじゅつとおり、衛星えいせいSARの特徴とくちょうは、広域こういきせい越境えっきょうせい周期しゅうきせいという衛星えいせいのメリットにくわえ、全天候ぜんてんこう夜間やかん可能かのう、そしてはか距性というSARのメリットをあわつことにある。この技術ぎじゅつによって蓄積ちくせきされたデータをNEC独自どくじの「とき系列けいれつ干渉かんしょう解析かいせき」の技術ぎじゅつで「経年けいねん変位へんいマップ」にとしみ、えるすることで、広範囲こうはんい対象たいしょう地域ちいき施設しせつ設備せつびについて、ミリ単位たんい経年けいねん変位へんいとき系列けいれつ把握はあくできる。
 膨大ぼうだい地域ちいきかずにおよぶインフラ施設しせつ点検てんけん補修ほしゅう一斉いっせいおこなうことは現実げんじつてきには不可能ふかのうであり、だからこそ、緊急きんきゅうたか箇所かしょをスクリーニングすることで優先ゆうせん順位じゅんいをつけ、より効率こうりつてき安全あんぜん維持いじできることはおおきな魅力みりょくなのだ。
 これはそのまま、防災ぼうさいげんわざわいみにも活用かつようできる。

川崎かわさきとNECによる締結ていけつしき

  2022ねん2がつ25にち、NECは川崎かわさきとのあいだで「デジタル技術でじたるぎじゅつ活用かつようした防災ぼうさいまちづくりにかんする協定きょうてい」を締結ていけつした。自治体じちたいにおける全国ぜんこくはつみであり、連携れんけい協力きょうりょくをしていくための協定きょうていだ。

 衛星えいせいSARデータをもちいて、地盤じばん変動へんどうひろ観測かんそくするという最新さいしん技術ぎじゅつ活用かつようし、川崎かわさき多数たすう存在そんざいするがけ継続けいぞくてき変動へんどう観測かんそく実用じつようけてんでいく。このような協定きょうてい自体じたいも、全国ぜんこくはつのことだ。
 経年けいねんでミリ単位たんい計測けいそくおこなうことができる――。今後こんご川崎かわさき以外いがいでも全国ぜんこく自治体じちたい傾斜地けいしゃちでの土砂どしゃ災害さいがいへの対応たいおうつち確認かくにんなど、都市とし計画けいかくでの活用かつよう期待きたいされる。

グローバルビジネスとしての可能かのうせい

 ここにきて、宇宙うちゅうデータ利用りようのビジネス展開てんかい見据みすえ、国内外こくないがい独自どくじ地球ちきゅう観測かんそく衛星えいせいげ、運用うんようするスタートアップが続々ぞくぞくあらわれている。今後こんご5ねんほどで100ちかくの衛星えいせいげられる予定よていであり、実現じつげんすればこう精度せいど衛星えいせいSARデータが10ふん以内いない入手にゅうしゅ可能かのうとなり、情報じょうほうこう精度せいどとともに、リアルタイムにちか分析ぶんせき可能かのうとなる。
 目下もっか日本にっぽんでもスマートシティ、スーパーシティとばれる次世代じせだいがた都市とし開発かいはつすすめられている。欧州おうしゅうではさきんじて活発かっぱつだ。その構想こうそう基本きほんには、IoTやAIを駆使くしした利便りべんせいはもちろんのこと、根底こんていに「防災ぼうさいげんわざわい」あるいは「予防よぼう保全ほぜん」の仕組しくみを確立かくりつさせておくことが肝要かんようだろう。
 こうしたみは、今後こんご全国ぜんこくでの展開てんかい期待きたいできる。ビジネスチャンスは日本にっぽんにとどまらず世界せかいひらかれており、すでにNECはブラジル、メキシコでも防災ぼうさいアラートシステムの検討けんとうすすめようとしている。
 今後こんごますます宇宙うちゅうデータの、地球ちきゅう規模きぼでの活用かつよう注目ちゅうもくしたい。

NEC 電波でんぱ誘導ゆうどう事業じぎょう シニアエキスパート 石井いしい 孝和こうわ
国内外こくないがいおおくの企業きぎょう研究けんきゅう機関きかん、そしてくに自治体じちたいとのきょうそうにより、衛星えいせいSARの技術ぎじゅつ社会しゃかい安全あんぜん安心あんしんまも基盤きばんにしていくこと、そしてだれもが人間にんげんせい十分じゅうぶん発揮はっきできる持続じぞく可能かのう社会しゃかい実現じつげん貢献こうけんすることが、わたしのライフワークです。一緒いっしょはしりませんか!

宇宙うちゅうソリューション(モニタリング)
https://jpn.nec.com/solution/space

(プレスリリース)デジタル技術でじたるぎじゅつ活用かつようした防災ぼうさいまちづくり「川崎かわさきモデル」の構築こうちくけて
~「デジタル技術でじたるぎじゅつ活用かつようした防災ぼうさいまちづくりにかんする協定きょうてい」を締結ていけつしました~
https://jpn.nec.com/press/

特集とくしゅう:SDGs達成たっせい貢献こうけんするNECの
https://www.afpbb.com/articles/