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グリム Grimm 矢崎源九郎訳 赤ずきん

あかずきん

グリム Grimm

矢崎やさき源九郎げんくろうやく




 むかしむかし、あるところにちっちゃな、かわいいおんながおりました。そのは、ちょっとただけで、どんなひとでもかわいくなってしまうようなでしたが、だれよりもいちばんかわいがっていたのは、こののおばあさんでした。おばあさんは、このかおると、なんでもやりたくなってしまって、いったいなにをやったらいいのか、わからなくなってしまうほどでした。
 あるとき、おばあさんはこのに、あかいビロードでかわいいずきんをこしらえてやりました。すると、それがまたこのにとってもよくにあいましたので、それからは、もうほかのものはちっともかぶらなくなってしまいました。それで、このは、みんなに「あかずきんちゃん」「あかずきんちゃん」とよばれるようになりました。
 ある、おかあさんがあかずきんちゃんをよんで、いいました。
あかずきんちゃん、ちょっとおいで。ここにおかしがひとつと、ブドウさけしゅがひとびんあるでしょう。これをね、おばあさんのところへもっていってちょうだい。おばあさんは病気びょうきびょうきで、よわっていらっしゃるけれど、こういうものをあがると、きっと元気げんきになるのよ。じゃ、あつあつくならないうちに、いってらっしゃい。それからね、そとへでたら、おぎょうぎよくあるいていくのよ。横道よこみちよこみちへかけだしていったりするんじゃありませんよ。そんなことをすれば、ころんで、びんをこわしてしまって、おばあさんにあげるものが、なんにもなくなってしまうからね。それから、おばあさんのおへやにはいったら、いちばんさきに、おはようございますって、あいさつするのをわすれちゃだめよ。そうして、はいるといっしょに、そこらじゅうをきょろきょろまわしたりするんじゃありませんよ。」
「だいじょうぶよ。」
と、あかずきんちゃんはおかあさんにいって、約束やくそくやくそくのしるしにゆびきりをしました。
 ところで、おばあさんのうちは、あるいて、むらから半時はんときあいだもかかるもりのなかにありました。あかずきんちゃんがもりのなかへはいりますと、オオカミがひょっこりでてきました。でも、あかずきんちゃんは、オオカミがわるいけだものだということをちっともりませんでした。ですから、べつにこわいともおもいませんでした。
「こんにちは、あかずきんちゃん。」
と、オオカミがいいました。
「こんにちは、オオカミさん。」
「こんなにはやくから、どこへいくの。」
「おばあさんのとこよ。」
「まえかけのしたにもっているのは、なあに。」
「おかしとブドウさけしゅ。きのう、おうちでやきいたのよ。おばあさんが病気びょうきびょうきで、よわっているでしょう。これをあがると、からだにちからがつくからよ。」
「おばあさんのおうちはどこなの、あかずきんちゃん。」
「もっともっともりのおくで、まだじゅうふんぐらいかかるわ。おおきなカシのさんほんっているそのしたに、おばあさんのおうちがあるのよ。まわりには、クルミのせいかきがきがあるわ。あなた、っているでしょう。」
と、あかずきんちゃんはいいました。
 オオカミははらはらのなかでかんがえました。
(わかいやわらかそうなしょうむすめめ、こいつはあぶらがのってて、うまそうだ。ばあさんよりゃうまかろう。よし、なんとかくふうをして、両方りょうほうともごちそうになってやれ。)
 そこで、オオカミは、しばらくのあいだあかずきんちゃんとならんであるいていきましたが、やがて、
あかずきんちゃん。まあ、そこらじゅうにさいているきれいなはなてごらんよ。きみは、なんだって、まわりをながめてみないんだい。ほら、小鳥ことりことりがあんなにかわいいこえうたをうたっているんだぜ。だけど、それもきみのみみにはまるではいらないみたいじゃないか。きみは、学校がっこうへでもいくように、まっすぐまえばかりむいてあるいているね。もりのなかは、こんなにたのしいってのになあ。」
と、いいました。
 いわれて、あかずきんちゃんはをあげてみました。すると、おさまのひかりのあいだからもれてきて、あっちでもこっちでもダンスをしています。それから、あたりいちめんきれいなおはながいっぱいです。それをて、あかずきんちゃんは、
(おばあさんに、つんだばかりのはなはなたばをこしらえて、もってってあげたら、きっとおよろこびになるわ。まだこんなにはやいんだから、だいじょうぶ、時間じかんまでにはいかれるわ。)
と、おもいました。
 そして、横道よこみちよこみちにそれて、いろんなはなをさがしながら、もりのおくへはいっていきました。そうして、はなをひとつおるたびに、もっとさきへいったら、もっときれいなはながあるようながするのでした。
 こうして、はなからはなをさがしてあるいているうちに、だんだんもりのおくへおくへとはいりこみました。
 ところが、オオカミのほうは、そのあいだに、まっすぐおばあさんのいえへかけていって、トントンとをたたきました。
「どなたですかね。」
あかずきんよ。おかしとブドウさけしゅをもってきたの。あけてちょうだい。」
をおしておくれ。」
と、おばあさんがおおきなこえでいいました。
「おばあちゃんはね、からだがよわっていて、おきられないんだよ。」
 オオカミがをおしますと、がいきおいよくあきました。オオカミはなんにもいわずに、いきなりおばあさんの寝床ねどこねどこのところへいって、おばあさんをひとくちにのみこんでしまいました。
 それから、おばあさんの着物きものきものをきて、おばあさんのずきんをかぶって、おばあさんの寝床ねどこねどこよこになって、寝床ねどこのまわりにあるカーテンをひいておきました。
 いっぽう、あかずきんちゃんは、あいかわらずはなをさがして、かけまわっていました。そして、あつめるだけあつめて、これいじょうもう一本いっぽんももてなくなったとき、やっとおばあさんのことをおもいだしました。そこで、いそいでおばあさんのところへいくことにしました。
 あかずきんちゃんがいえのまえまできてみますと、おばあさんのいえがあいています。それで、あかずきんちゃんはへんだとおもいながら、おへやにはいりました。すると、なんとなく、なかのようすがいつもとちがっているようながします。あかずきんちゃんは、
(あら、どうしたんでしょう。きょうは、なんだかきみがわるいわ。いつもなら、おばあさんのおうちへくれば、とってもたのしいのに。)
と、おもいました。
 それから、おおきなこえで、
「おはようございます。」
と、よんでみましたが、なんのへんじもありません。
 そこで、寝床ねどこねどこのところへいって、カーテンをあけてみました。すると、そこにはおばあさんがよこになっていましたが、ずきんをすっぽりとかおまでかぶっていて、いつもとちがった、へんなかっこうをしています。
「ああら、おばあさん、おばあさんのおみみおおきいのねえ。」
「おまえのいうことが、よくきこえるようにさ。」
「ああら、おばあさん、おばあさんのおめはおおきいのねえ。」
「おまえがよくえるようにさ。」
「ああら、おばあさん、おばあさんのおてはおおきいのねえ。」
「おまえがよくつかめるようにさ。」
「でも、おばあさん、おばあさんのおくちはこわいほどおおきいのねえ。」
「おまえがよくべられるようにさ。」
 オオカミはこういいおわるかおわらないうちに、いきなり寝床ねどこねどこからとびだして、かわいそうなあかずきんちゃんを、ぱっくりとひとのみにしてしまいました。
 オオカミは、おなかがいっぱいになりますと、また寝床ねどこにもぐりこんで、ねむってしまいました。そうして、ものすごいいびきをかきだしました。ちょうどそのとき、狩人かりゅうどかりゅうどいえのまえをとおりかかりました。そして、
(ばあさんが、おっそろしいいびきをかいてるが、どうしたのかな。てやらにゃなるまい。)
と、おもいました。
 そこで、狩人かりゅうどかりゅうどは、へやのなかへはいりました。そして、寝床ねどこねどこのまえまでいってみますと、そこにはオオカミがねているではありませんか。
「この野郎やろうやろう、とうとうつけたぞ。よくもながいあいださわがせやがったな。」
と、狩人かりゅうどかりゅうどはいいました。
 そして、すぐさま鉄砲てっぽうてっぽうをむけようとしましたが、そのときふと狩人かりゅうどは、オオカミがばあさんをのんでいるかもしれない、そして、もしかしたら、ばあさんのいのちいのちはまだたすかるかもしれないぞ、と、おもいつきました。それで鉄砲てっぽうをうつのはやめにして、そのかわり、はさみをだして、ねむっているオオカミのおなかを、ジョキジョキりはじめました。
 ふたはさみばかりりますと、あかいかわいいずきんが、ちらとえてきました。もうふたはさみばかりりますと、おんながピョンととびだしてきました。そして、
「ああ、びっくりしたわ。オオカミのおなかのなかって、まっくらねえ。」
と、おおきなこえでいいました。
 それから、おばあさんもまだきていて、オオカミのおなかのなかからでてきました。でも、おばあさんはよわりきって、やっといきいきをしていました。
 あかずきんちゃんは、すばやくおおきないしをたくさんもってきて、それをオオカミのおなかのなかにつめこみました。
 やがて、オオカミはをさまして、とびだそうとしましたが、いしがあんまりおもたいので、たちまちそのにへたばって、んでしまいました。
 これをて、さんにんだいよろこびです。狩人かりゅうどかりゅうどは、オオカミの毛皮けがわけがわをはいで、それをうちへもってかえりました。
 おばあさんは、あかずきんちゃんのもってきてくれたおかしをべ、ブドウさけしゅをのみました。それで、またすっかり元気げんきになりました。
 でも、あかずきんちゃんは、
(これからもう二度にどと、ひとりっきりで、もりのなかの横道よこみちよこみちにはいっていくようなことはよそうっと。おかあさんがいけないとおっしゃったんですもの。)
と、かんがえました。





底本ていほん:「グリム童話どうわしゅう(1)」偕成社かいせいしゃ文庫ぶんこ偕成社かいせいしゃ
   1980(昭和しょうわ55)ねん6がつ1さつ
   2009(平成へいせい21)ねん6がつ49さつ
入力にゅうりょく:sogo
校正こうせい:チエコ
2020ねん12月27にち作成さくせい
青空あおぞら文庫ぶんこ作成さくせいファイル:
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