マンガ大賞 『プリニウス』 ヤマザキマリ とり・みき(新潮社)
受賞コメント
ヤマザキマリ
『テルマエ・ロマエ』の連載中から次作として描こうと決めていた大プリニウスですが、彼が生きた二千年前の世界や思想を二次元でどう蘇らせるか、読者にどれだけ興味を持ってもらえるか、まるで古代ローマからの使命を司っているような気持ちで描いてきた立場として、今回の賞は大変栄誉なことです。全ての道、つまり漫画の道もまた「ローマに通ず」。
とり・みき
物心ついたころ、最初に「面白くて怖くて、でも切ない不思議なマンガ」と認識したのが鈴木出版版手塚治虫全集の『大洪水時代』と『太平洋X點(ポイント)』のカップリングでした。やがてそのひねた少年は長じてマンガ家になるわけですが、そのきっかけになった新人賞の審査員の一人が手塚治虫でした。めぐる因果を喜ばないわけがありません。
受賞記念イラスト© ヤマザキマリ とり・みき/新潮社
受賞記念イラスト© ヤマザキマリ とり・みき/新潮社
『プリニウス』© ヤマザキマリ とり・みき/新潮社
『プリニウス』© ヤマザキマリ とり・みき/新潮社
ヤマザキマリ
漫画家・文筆家・画家。1967年東京都出身。東京造形大学客員教授。84年よりフィレンツェ国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010、第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。著書に『ヴィオラ母さん』『続 テルマエ・ロマエ』など。
とり・みき
マンガ家。1958年熊本県生まれ。79年デビュー。94年『DAI-HONYA』、98年『SF大将』で星雲賞、95年『遠くへいきたい』で文藝春秋漫画賞を受賞。著書に『クルクルくりん』『愛のさかあがり』『石神伝説』といったマンガ作品の他に、『街角のオジギビト』などの研究書もある。
新生賞 坂上暁仁『神田ごくら町職人ばなし』(リイド社)
江戸の職人の技に込めた思いを卓抜した画力で描いた独自性に対して
受賞コメント
小学生の頃、手塚作品を読んでストーリー漫画を描き始めた自分にとって、今回の受賞はこの上なく名誉なことで心から嬉しく思います。「漫画で〝和〟の世界観を描きたいのに、どうも嘘臭い絵になってしまう」という悩みから、僕の関心は日本の職人に向いていきました。伝統的な建築や工芸品には必ず職人たちによる「細部への工夫」が散りばめられており、それらは日本の「湿度の高さ」「地震の多さ」といった風土的特徴や「奢侈禁止令」などの政治的束縛から必要に迫られて生み出されたものでもあります。「和風」「和様」という言葉の奥にあるリアリティを捉えつつ、読んで楽しい活劇を描きたい……その両立にいつも腐心しております。今回の受賞を励みに、いっそう精進して参ります。この度は誠にありがとうございました。
『神田ごくら町職人ばなし』 ©坂上暁仁/トーチweb
『神田ごくら町職人ばなし』 ©坂上暁仁/トーチweb
『神田ごくら町職人ばなし』 ©坂上暁仁/トーチweb
坂上暁仁
1994年、福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒。2014年より「すいかとかのたね」同人。2017年『死に神』で第71回ちばてつや賞一般部門入選。2020年『神田ごくら町職人ばなし』で商業誌デビュー。現在、同作を「トーチweb」で連載中。
短編賞 『ツユクサナツコの一生』 益田ミリ(新潮社)
受賞コメント
絵を描くことはずっと好きでしたが、子供の頃、漫画家を夢見たことはありませんでした。自分に漫画が描けるわけがないと思っていましたし、それは諦めではなく、読むことで満ち足りていたのです。手塚作品は、特にテレビで観ていた『リボンの騎士』のサファイヤ姫に憧れ、誕生石がサファイヤの友達がうらやましかったものでした。上京し、漫画デビューをしたのは32歳のときです。この度、短編賞をいただいた『ツユクサナツコの一生』は、「小説新潮」で2年近く連載していた作品です。コロナ禍の外出自粛がつづいていた頃に取り組んでいたのですが、心の中だけはどんなときも自由なんだと強く思いながら机に向かっていました。
『ツユクサナツコの一生』©益田ミリ/新潮社
益田ミリ
1969年生まれ。2001年『OLはえらい』で漫画デビュー。2006年『すーちゃん』で脚光を浴びる。日々のできごとを綴った日記的漫画『今日の人生』がロングセラーに。現在『anan』『週刊文春』等で連載。漫画の他にエッセイも執筆している。
特別賞 コミティア実行委員会(吉田雄平代表)
オリジナル作品に限定したマンガ同人誌の展示即売会を40年間続け、アマチュア作家ならびにプロ志望の多くの描き手を応援してきた功績に対して
受賞コメント
開催40年目の節目にこのように評価いただき、たいへん嬉しく光栄に思います。
この賞はコミティアの参加者すべての方に与えられたものでもあります。心からの感謝と祝福をこれまで関わっていただいた皆さんに贈ります。手塚先生の多大な功績は、コミティアを含めた同人誌即売会にも影響を及ぼしています。かつて虫プロダクションが発行し、先生が『火の鳥』を連載されていた雑誌「COM」の読者投稿コーナー「ぐら・こん」を通した交流は、アマチュアの同人活動の裾野を広げ、即売会誕生の原動力となりました。その「魂」はコミティアにも確実に受け継がれています。
本賞を励みに先生、そしてコミティアの「魂」を末永く継承できるよう、さらなる努力を積み重ねて参ります。ありがとうございました! (実行委員会代表・吉田雄平)
コミティア実行委員会
1984年より続くオリジナル作品限定の同人誌即売会「自主制作漫画誌展示即売会 COMITIA」(コミティア)を主催する、有志のボランティアスタッフで構成される組織。コミティアは現在、東京ビッグサイトを会場として年4回、3500~5000サークルの規模で開催され、1万5千~2万5千人の来場がある。2024年、これまでの歴史をまとめた単行本『コミティア魂』(著:ばるぼら・あらゐけいいち)がフィルムアート社より刊行された。
贈呈式・記念トークイベント
6月6日(木)に第28回手塚治虫文化賞の贈呈式を開きます。式後の記念トークイベントでは、特別賞のコミティア実行委員会の中村公彦会長と吉田雄平代表、リイド社トーチweb編集長で、新生賞・坂上暁仁さんの担当編集者、中川敦さんが語り合います。
選考委員(敬称略・50音順)
秋本治(漫画家)
里中満智子(マンガ家)
高橋みなみ(タレント)
中条省平(学習院大学フランス語圏文化学科教授)
トミヤマユキコ(ライター・東北芸術工科大学芸術学部准教授)
南信長(マンガ解説者)
矢部太郎(芸人・漫画家)
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宮田喜好(朝日新聞社執行役員・編集担当)
喜多克尚(朝日新聞文化部長)
※肩書は最終選考委員会当時
選考経過
第28回は2023年に刊行・発表されたマンガを選考の対象にしています。マンガ関係者、書店員、一般の約200人による推薦結果も参考に、まず7人の社外選考委員がポイント投票を行いました。持ち点は各15点で、最高点を5点として配分します(ただし5点を入れられるのは1作のみ)。
この1次選考上位作品と、関係者、書店員、一般推薦1位の『【推しの子】』を合わせた10作品が、マンガ大賞にノミネートされました(『【推しの子】』は選考委員投票でも上位)。最終選考委員会での審議の結果、ヤマザキマリ氏、とり・みき氏による『プリニウス』がマンガ大賞には選ばれました。
また、各選考委員が推薦する作者・作品について審議した結果、新生賞に坂上暁仁氏(『神田ごくら町職人ばなし』で江戸の職人の技に込めた思いを卓抜した画力で描いた独自性に対して)、短編賞に益田ミリ氏の『ツユクサナツコの一生』、特別賞にコミティア実行委員会(オリジナル作品に限定したマンガ同人誌の展示即売会を40年間続け、アマチュア作家ならびにプロ志望の多くの描き手を応援してきた功績に対して)が選ばれました。
マンガ大賞予想投票
第28回のマンガ大賞にノミネートされた10作品のうち、どの候補作が受賞するかを予想するアンケートを2024年2月19日~3月31日に読者などから広く募り、722名が投票に参加しました。
その結果、票数が多い順に『【推しの子】』(285票)、『プリニウス』(85票)、『違国日記』(64票)、『神田ごくら町職人ばなし』(62票)、『血の轍』(57票)、『ツユクサナツコの一生』(48票)、『環と周』(40票)、『東京ヒゴロ』(36票)、『ぼっち死の館』(23票)、『サターンリターン』(22票)となりました。