｢観光かんこう＋環境かんきょう｣を一緒いっしょに学まなぶ　注目ちゅうもくが集あつまる今いまどきの学部がくぶ、授業じゅぎょう内容ないようは？

■親おやのための学部がくぶ・学科がっか講座こうざ（後編こうへん）

観光かんこう学がくというと観光かんこう産業さんぎょうに関かんする研究けんきゅうをイメージしがちですが、それだけではありません。日本にっぽんや世界せかいが抱かかえるさまざまな問題もんだいに対たいし、観光かんこうという切きり口くちから解決かいけつ策さくを探さぐる学問がくもんでもあるのです。観光かんこうとサステナビリティ（持続じぞく可能かのうな社会しゃかい）を結むすびつけ、ともに学まなべる新あたらしい学部がくぶにも注目ちゅうもくが集あつまっています。（写真しゃしん＝立たて命いのち館かんアジア太平洋たいへいよう大学だいがく提供ていきょう）

環境かんきょう問題もんだいを観光かんこうから学まなぶ

2022年ねん9月がつ、米国べいこくのスタンフォード大学だいがくが70年ねんぶりに新しんスクール（学部がくぶ）を開設かいせつしました。「Stanford Doerr School of Sustainability」、つまり「サステナビリティ学部がくぶ」です。気候きこう変動へんどう問題もんだいをはじめ、持続じぞく可能かのうな社会しゃかいに向むけて解決かいけつすべき地球ちきゅう規模きぼの問題もんだいに、学問がくもん分野ぶんやを超こえて取とり組くむ姿勢しせいを示しめしています。

日本にっぽんの大学だいがくで環境かんきょう問題もんだいを学まなべるのは、ほとんどが理工りこう系けいの学部がくぶでした。しかし最近さいきんでは、文系ぶんけいの学問がくもんの視点してんを取とり入いれ、環境かんきょう学がくやサステナビリティ学がくを学まなべる学部がくぶが誕生たんじょうしています。そのキーワードとなっているのが「観光かんこう」です。

観光かんこうを主軸しゅじくにすえ、文理ぶんりの垣根かきねを越こえる

長野大学ながのだいがくは、「地域ちいき独自どくじの自然しぜんや文化ぶんかの魅力みりょくと、観光かんこうが持もつ『人ひとを惹ひきつける力ちから』を組くみ合あわせる」をコンセプトに、07年ねんに環境かんきょうツーリズム学部がくぶを設置せっちしました。ちなみに長野大学ながのだいがくは17年ねんに公立大こうりつだい学がくになっています。また国学院大学こくがくいんだいがくは、22年ねんに観光かんこうまちづくり学部がくぶを開設かいせつし、観光かんこうを基盤きばんにした日本にっぽん各地かくちの持続じぞく可能かのうなまちづくりに取とり組くんでいます。

さらに23年ねん4月がつ、立たて命いのち館かんアジア太平洋たいへいよう大学だいがく（APU）は、サステイナビリティ観光かんこう学部がくぶを開設かいせつしました。持続じぞく可能かのうな社会しゃかいの形成けいせいを目指めざす「サステイナビリティ学がく」と、21世紀せいき最大さいだいの産業さんぎょうともいわれるツーリズムを学まなぶ「観光かんこう学がく」の両方りょうほうの専門せんもん性せいを高たかめる学部がくぶです。

「観光かんこう学がくとサステイナビリティ学がくは、切きり離はなせない関係かんけいにあります」と話はなすのは、李り燕つばめ（リ・エン）学がく部長ぶちょうです。

「サステイナビリティ学がくとは、いかにして限かぎりある資源しげんを持続じぞく可能かのうな形かたちで循環じゅんかんさせ、次つぎの世代せだいにつなげていくかを考かんがえる学問がくもんです。それは観光かんこう学がくと共通きょうつうするものがあります。観光かんこう学がくで扱あつかっている『観光かんこう』とは、単たんに『光ひかりの当あたる場所ばしょを観かんに行いく』ということではありません。観光かんこうは不動産ふどうさん、鉄道てつどう、ホテル、飲食いんしょくサービスなど、地域ちいき社会しゃかいや地域ちいき経済けいざいと結むすびついていますから、地域ちいきが抱かかえる問題もんだいを解決かいけつし、地域ちいき全体ぜんたいを持続じぞく可能かのうにしていく必要ひつようがあります。また地域ちいきの自然しぜんや文化財ぶんかざいを保護ほご・保全ほぜんすることは、観光かんこうの面めんでとても重要じゅうようなテーマです」

APUは、国際こくさい学生がくせい（留学生りゅうがくせい）が学生がくせいのほぼ半数はんすうを占しめます。李り学まなぶ部長ぶちょうが言いう「地域ちいき」とは、国内こくないだけを指さしているのではありません。

「サステナビリティは世界せかい的てきなテーマですが、各国かっこくのトップが話はなし合あって解決かいけつできるものではありません。世界せかい各地かくちの一ひとつひとつの地域ちいきが持続じぞく可能かのうになることで、世界せかい全体ぜんたいが持続じぞく可能かのうになるのです」

ホテルと一緒いっしょにイベント　理論りろんと実践じっせんの両輪りょうりんで学まなぶ「課題かだい解決かいけつ」

サステナブルな社会しゃかいを実現じつげんするための課題かだいは山積さんせきしています。理工りこう系けいの学問がくもんだけで解決かいけつできるテーマではないと、李り学まなぶ部長ぶちょうは強調きょうちょうします。

「気候きこう変動へんどうや脱だつ炭素たんそのメカニズムの研究けんきゅうは理工りこう系けいですが、持続じぞく可能かのうな社会しゃかいを実現じつげんするためには、環境かんきょう、社会しゃかい、経済けいざい、文化ぶんかの4つが必要ひつようです。文系ぶんけいのアプローチは欠かかせません」

同どう学部がくぶでは文理ぶんりの壁かべを取とり払はらい、学生がくせいたちが自みずからの専門せんもん分野ぶんやを選択せんたくしていけるよう、9つの専門せんもん科目かもく群ぐんを用意よういしています。環境かんきょう学がく、資源しげんマネジメント、国際こくさい開発かいはつ、観光かんこう学がく、観光かんこう産業さんぎょう、ホスピタリティ産業さんぎょう、社会しゃかい起業きぎょう、地域ちいきづくり、データサイエンスと情報じょうほうシステムの9つです。学生がくせいたちは目指めざすキャリアや興味きょうみ関心かんしんに応おうじてこのうちの３みっつを選えらび、学まなびをカスタマイズします。

もう一ひとつの柱はしらは、学外がくがいでの実践じっせん学習がくしゅうです。プログラムには、フィールドスタディ、専門せんもんインターンシップ、専門せんもん実習じっしゅうの３みっつがあります。フィールドスタディは、長期ちょうき休暇きゅうかなどを利用りようしてイタリア、スペイン、ポルトガルなどに行いき、世界せかい遺産いさんと観光かんこうの事例じれいなどに直接ちょくせつ触ふれ合あいます。

専門せんもんインターンシップは、企業きぎょうや自治体じちたいなどと連携れんけいしてイベントを実施じっしするなど働はたらくことを通とおして学まなびます。専門せんもん実習じっしゅうは、座ざ学がくと実習じっしゅうを組くみ合あわせた体験たいけん学習がくしゅうを行おこないます。

フィールドスタディの様子ようす（写真しゃしん＝立たて命いのち館かんアジア太平洋たいへいよう大学だいがく提供ていきょう）

「サステイナビリティ観光かんこう学部がくぶ開設かいせつ前まえの昨年さくねんは、大分おおいた県けんから委託いたくを受うけて、学生がくせいたちが『大分おおいた県けんの魅力みりょくを発掘はっくつする』というプロジェクトを立たち上あげ、YouTubeでも発信はっしんしました。企業きぎょうとの連携れんけいも多おおく、たとえば杉すぎ乃井ホテルと一緒いっしょにイベントを企画きかくし、その広告こうこくから実践じっせんまでの一連いちれんの流ながれにインターンとして参加さんかしています。観光かんこう都市としの別府べっぷにある大学だいがくですから、地ちの利りを生いかした実践じっせん的てきな学まなびが可能かのうなのです」（李り学まなぶ部長ぶちょう）

環境かんきょうへの配慮はいりょがある人材じんざいは、どんな業種ぎょうしゅでも活躍かつやくできる

李り学まなぶ部長ぶちょうは、社会しゃかいのイノベーター、地域ちいき観光かんこうのプロデューサーを育そだてていきたいと話はなします。

「観光かんこう学部がくぶの卒業そつぎょう後ごの進路しんろというと、観光かんこう業ぎょうへの就職しゅうしょくをイメージするかもしれませんが、そうとは限かぎりません。大だい企業きぎょうであればあるほど、環境かんきょうへの配慮はいりょと責任せきにんが求もとめられる時代じだいです。サステナビリティの知識ちしきをもつ人材じんざいはどんな業種ぎょうしゅでも活躍かつやくできると思おもいます。それに、APUで学まなんだスキルや能力のうりょくがあれば、異ことなる分野ぶんやに就職しゅうしょくしても、あるいは異ことなる文化ぶんかの土地とちに行いったとしても、そこで自みずから学まなんで道みちを開ひらいていけるはずです。そのような人材じんざいを育そだてることこそ、大学だいがくの本来ほんらいの役目やくめだと考かんがえています」

地域ちいきへの目線めせんから世界せかいが抱かかえるさまざまな社会しゃかい問題もんだいに解決かいけつ策さくを投とうじる――それが今後こんごの観光かんこう学部がくぶの新あたらしい姿すがたともいえるでしょう。

（文ぶん＝神かみ 素子もとこ）

日本にっぽん経済けいざい、底上そこあげの｢トリガー｣？　大学だいがくの｢観光かんこう学部がくぶ｣が続々ぞくぞくと開設かいせつ、なにを学まなぶのか