「女子じょしは理数りすう系けいが苦手にがて」はホント？　根強ねづよい偏見へんけん、世界せかいと比くらべると…

2023/07/05

■特集とくしゅう：文系ぶんけい、理系りけい…どっち？「文理ぶんり選択せんたく」を考かんがえる

日本にっぽんでは理工りこう系けいに進すすむ女子じょしが少すくなく、政府せいふや各かく大学だいがくが女子じょしを増ふやす取とり組くみを進すすめています。女子じょしは理数りすう系けいが苦手にがてなのでしょうか？　IT分野ぶんやのジェンダーギャップの解消かいしょうを目指めざすNPO法人ほうじん「Waffle」の代表だいひょう・田中たなか沙弥さや果はてさんに、日本にっぽんの現状げんじょうや女子じょしの進路しんろ選択せんたくについて聞ききました。（写真しゃしん＝中高生ちゅうこうせい向むけのイベント「Technovation Girls 2023」日本にっぽん公式こうしきピッチイベントの様子ようす、Waffle提供ていきょう）

科学かがく・工学こうがく系けい女子じょしはOECDで最下位さいかい

田中たなかさんは、理工りこう系けいの女子じょしの現状げんじょうを次つぎのように話はなします。

「日本にっぽんの大学だいがくで工学部こうがくぶに在籍ざいせきする女子じょしの割合わりあいは14.5％で、データを公表こうひょうしている世界せかい116カ国かこくの中なかでは109位いという低ひくさです。しかも、その割合わりあいは昔むかしも今いまもあまり変かわっておらず、Waffle独自どくじの調査ちょうさでは、このままでは工学部こうがくぶの女子じょしの割合わりあいが50％に達たっするまでに77年ねんもかかるという結果けっかが出でています。さらに15歳さいを対象たいしょうにした国際こくさい的てきな調査ちょうさ学習がくしゅう到達とうたつ度ど（PISA）によると、『科学かがく・工学こうがく分野ぶんやの専門せんもん職しょくに就つきたい』という女子じょしは日本にっぽんではわずかに3.4％で、評価ひょうか対象たいしょうとなった63カ国かこく・地域ちいきで最下位さいかいというのが現状げんじょうです」

（『わたし×IT＝最強さいきょう説せつ　女子じょし＆ジェンダーマイノリティがITで活躍かつやくするための手引てびき書しょ』Waffle著ちょ、リトルモア刊かんから抜粋ばっすい）

では、日本にっぽんの女子じょしは理数りすう系けいが苦手にがてなのでしょうか。日本にっぽんの女子じょしの学力がくりょくは、PISAによると、数学すうがくで世界せかい7位い、科学かがくで6位いと、他国たこくと比較ひかくしてもトップレベルといえます。また、下したのグラフを見みてもわかる通とおり、PISAにおける日本にっぽんの女子じょしの成績せいせきはIT大国たいこくのアメリカの男子だんしと比くらべても、ずっと成績せいせきがいいことがわかります。

まだまだ根強ねづよい偏見へんけん

それにもかかわらず、理工りこう系けいに進すすむ女子じょしが少すくないのはなぜでしょうか。田中たなかさんは、さまざまな原因げんいんが考かんがえられると言いいます。

「まず理工りこう系けい学部がくぶにそもそも女子じょしが少すくなく、ロールモデルがいないことがあります。入試にゅうしの数学すうがくは難むずかしいと思おもい込こんでいる女子じょしも少すくなからずいます。さらに身近みぢかな大人おとなたちの影響えいきょうが考かんがえられます。先生せんせいや保護ほご者しゃが『女子じょしは数学すうがくが苦手にがて』『理工りこう系けいは研究けんきゅうを長時間ちょうじかんやるので大変たいへん』などと何なにげなく言いった言葉ことばが、生徒せいとの進路しんろ選択せんたくに影響えいきょうすることもあります」

また、「女性じょせいも手てに職しょくを」と言いうものの、その職しょくとして思おもい浮うかべるのは医師いしや看護かんご師し、薬剤師やくざいしなどで、ITのような新あたらしい分野ぶんやは不安定ふあんていというイメージを持もたれがちです。しかし、今いまはあらゆるものにIT技術ぎじゅつが使つかわれており、「ITエンジニアこそ、令れい和わ版ばんの『手てに職しょく』だと思おもっています」と田中たなかさんは言いいます。

まずは理系りけいの楽たのしさを広ひろめる

こうした状況じょうきょうを受うけて、女子じょしの意識いしきを変かえたり、理系りけい進学しんがくを後押あとおししたりしようという取とり組くみが、高校こうこうや大学だいがくで増ふえています。例たとえば、昭和女子大学しょうわじょしだいがく附属ふぞく昭和しょうわ中学校ちゅうがっこう・高等こうとう学校がっこうでは、小学生しょうがくせい向むけに実験じっけんイベントを開催かいさいしているほか、在校生ざいこうせい向むけに大学だいがくと連携れんけいしてデータサイエンスのシンポジウムを開ひらいたり、理系りけいの大学だいがくの学生がくせいにメンターとして授業じゅぎょうのサポートに入はいってもらったりしています。この結果けっか、理系りけいに進学しんがくする生徒せいとが増ふえています。

大学だいがく側がわも、理工りこう系けいに進すすむ女子じょしを増ふやそうとする動うごきが広ひろがっています。東京工業大学とうきょうこうぎょうだいがくでは、2024年度ねんど入試にゅうしから学校がっこう推薦すいせん型がた選抜せんばつと総合そうごう型がた選抜せんばつで「女子じょし枠わく」を導入どうにゅうします。芝浦工業大学しばうらこうぎょうだいがくでは、18年度ねんど入試にゅうしから公募こうぼ制せい推薦すいせんに「女子じょし枠わく」を設もうけ、22年度ねんど入試にゅうしからは一般いっぱん選抜せんばつで成績せいせき優秀ゆうしゅうな約やく100人にんに入学にゅうがく金きん相当そうとう額がく（28万まん円えん）を奨学しょうがく金きんとして支給しきゅうしています。

23年ねん5月がつには、東京大学とうきょうだいがくや京都きょうと大学だいがくなど国立こくりつ10 大学だいがくの理学部りがくぶがタッグを組くみ、ポータルサイト「理学りがくナビ」を開設かいせつしました。理学部りがくぶでの大学だいがく生活せいかつや卒業そつぎょう後ごのキャリアの情報じょうほうを提供ていきょうするなどしています。

昭和女子大学しょうわじょしだいがく附属ふぞく昭和しょうわ中学校ちゅうがっこう・昭和しょうわ高等こうとう学校がっこうで行おこなわれた理工りこう系けい分野ぶんやを学まなぶ大切たいせつさを紹介しょうかいするシンポジウム会場かいじょう（写真しゃしん＝同校どうこう提供ていきょう）

文系ぶんけいの知識ちしき×理系りけいの技術ぎじゅつで課題かだい解決かいけつ

女子じょしが理工りこう系けいに進すすむメリットは何なにでしょうか。田中たなかさんは「例たとえば、今いまはあらゆるところにIT技術ぎじゅつが使つかわれていますが、その作つくり手しゅの多おおくは男性だんせいです。そこに男性だんせい以外いがいのマイノリティーが入はいることで、広ひろい視点してんで世よの中なかの課題かだいを解決かいけつできる可能かのう性せいが広ひろがります。また、IT技術ぎじゅつ職しょくは人材じんざいが足たりていないため、高こう収入しゅうにゅうである確かく率りつも高たかく、働はたらき方かたも柔軟じゅうなんな企業きぎょうが増ふえてきていて、結婚けっこんや出産しゅっさんなどのライフイベントの影響えいきょうが比較的ひかくてき少すくなく、長期ちょうき的てきに働はたらき続つづけることができます」と言いいます。

これは、IT業界ぎょうかいに限かぎりません。女性じょせいがメンバーに入はいることで商品しょうひん開発かいはつや企業きぎょう経営けいえいに新あたらしい視点してんが加くわわり、管理かんり職しょくに女性じょせいが多おおい企業きぎょうは業績ぎょうせきが伸のびるという調査ちょうさ結果けっかもあります。工学こうがく系けいの中なかでも特とくに女子じょし学生がくせいが少すくない電気でんきや機械きかいの業界ぎょうかいは、新卒しんそつの女子じょしに対たいして企業きぎょうから引ひく手てあまたの状況じょうきょうです。さらに企業きぎょう側がわは入社にゅうしゃした女性じょせいが働はたらきやすいよう、さまざまな対応たいおうをしつつあります。ところが、このような現状げんじょうはあまり知しられていません。

ここに来きて理工りこう系けいの大学だいがくの女子じょしの志願しがん者しゃは増ふえつつあります。女子じょし校こうと理系りけい大学だいがくとの高大こうだい連携れんけいや、高校こうこうでの探究たんきゅう学習がくしゅうなどを通つうじて女子じょしが理系りけい分野ぶんやに興味きょうみを持もつようになっているという指摘してきもあります。

一方いっぽうの文系ぶんけいはどうでしょうか。

「社会しゃかいを見渡みわたしてみると、テクノロジーがいたるところで活用かつようされていることがわかります。今いま、ITとかけ合あわせて課題かだい解決かいけつする力ちからが必要ひつようとされています。つまり、文系ぶんけいの知識ちしきを究きわめつつ、ITの技術ぎじゅつも学まなんでおくことが、これからの社会しゃかいで活躍かつやくするためには大事だいじなことではないかと思おもいます」（田中たなかさん）

例たとえば、津田塾大学つだじゅくだいがく総合そうごう政策せいさく学部がくぶのように、文系ぶんけい学部がくぶでもデータサイエンスを学まなぶところがあります。逆ぎゃくに言いえば、理系りけいに進すすんでも専門せんもん分野ぶんやだけを究きわめればいいわけではなく、幅広はばひろい知識ちしきが必要ひつようとされるのです。

田中たなかさん自身じしん、高こう1で理系りけいクラスを選えらんだものの、短期たんき留学りゅうがくをきっかけに外国がいこく語ご学部がくぶに進学しんがくしました。ところが留学りゅうがく先さきでテクノロジーの祭典さいてんに参加さんかしたことをきっかけにIT技術ぎじゅつの面白おもしろさを知しり、「この世界せかいで働はたらきたい」とプログラミングを学まなんだ経緯けいいがあります。

ChatGPTをはじめ、AI（人工じんこう知能ちのう）の進歩しんぽが連日れんじつのようにニュースで取とり上あげられたり、2025年ねん1月がつ実施じっしの大学だいがく入学にゅうがく共通きょうつうテストから新あたらしい教科きょうか「情報じょうほう」が追加ついかされたりするなど、よりテクノロジーが身近みぢかな存在そんざいになりつつあります。

保護ほご者しゃの方ほうも、女子じょしの理工りこう系けい進学しんがくの状況じょうきょうが変かわりつつあることを知しり、「女子じょしは文系ぶんけいがいい」などといった先入観せんにゅうかんにとらわれないことが大切たいせつです。そして、我わが子こが好すきな分野ぶんやを究きわめられるよう、応援おうえんしてあげたいものです。

（写真しゃしん＝Waffle提供ていきょう）

田中たなか沙弥さや果はて（たなか・さやか）／NPO法人ほうじんWaffle 理事りじ長ちょう。1991年ねん生うまれ。2017年ねん、NPO法人ほうじんみんなのコード入いれ職しょく。19年ねんにIT分野ぶんやのジェンダーギャップを埋うめるために一般いっぱん社団しゃだん法人ほうじんWaffleを設立せつりつ。20年ねんForbes JAPAN誌し「世界せかいを変かえる30歳さい未満みまん30人にん」受賞じゅしょう。内閣ないかく府ふ若者わかもの円卓えんたく会議かいぎ委員いいん、経済けいざい産業さんぎょう省しょう「デジタル関連かんれん部活ぶかつ支援しえんの在あり方かたに関かんする検討けんとう会かい」委員いいん。Waffleの著書ちょしょに『わたし×IT＝最強さいきょう説せつ　女子じょし＆ジェンダーマイノリティがITで活躍かつやくするための手引てびき書しょ』（リトルモア刊かん）。