■特集:大学の人気ゼミ・研究室
外国語学部というと、語学中心の学びというイメージがありますが、国際的に活躍できるように、多角的な学びを用意する大学も少なくありません。文京学院大学の渡部吉昭教授は、自ら企業を経営するなど、ビジネス経験が豊富。渡部ゼミでは、チームで課題を解決するなかで、「社会人基礎力」を身につけていきます。
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■研究室データ■
文京学院大学 外国語学部
国際ビジネスコミュニケーション専攻
渡部ゼミ
研究分野: 事業戦略、マーケティング
ゼミ生:22人(男6人:女16人) (2024年4月時点)
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英語をツールに活躍できる人材に
文京学院大学外国語学部では、語学を使いこなして社会で活躍できる人材を育てることを目標としています。国際ビジネスコミュニケーション専攻では、経営学の要素を取り入れた学びを展開しており、渡部吉昭教授のゼミはこの専攻の人気ゼミの一つです。
渡部教授は、外国為替専門銀行や外資系コンサルティング会社での勤務経験に加え、自ら会社を経営するなど、ビジネス経験が豊富です。渡部教授が「就職活動でも、ビジネスの世界で活躍する上でも不可欠」と考えるのが、主体性や計画力、ストレス耐性といった「社会人基礎力」です。ゼミでは「チームで課題解決に取り組み、大会で発表する」という活動を通して、この力を身につけていきます。過去には、経済・経営・商業系を専攻する学生を対象にしたプレゼン大会「日本学生経済ゼミナール関東部会大会」で入賞するなどの成果も収めています。
現実の社会問題にチームで取り組む
3年の春原響さんと明田花織さんは、渡部ゼミの10期生です。同期の10人が2グループに分かれ、2年の1月からゼミ活動を始めました。2人が所属するグループが取り組んでいるテーマは、「ステルスマーケティング(ステマ)」。ステマとは、広告であることを隠して商品やサービスを宣伝する行為のことで、学生も被害者になりうる身近な題材を選びました。
ゼミがスタートしてまだ短期間ですが、グループリーダーを務める春原さんは、活動についてこう話します。
「現状を把握するため、インターネットでの情報収集から始めました。そこから問題点を挙げ、『消費者側』『商品を売りたい企業側』『情報を広めるインフルエンサー側』の3つに整理しました」
インターネットだけでは情報が限られるため、消費者庁や内閣府消費者委員会、企業などさまざまな分野の専門家にインタビューを行い、より信憑(しんぴょう)性が高く、内容が詳しい情報を集め、研究をどう進めていくべきか検討しながら活動を進めています。
「ゼミ活動はわからないことばかりで、初手からつまずきました。簡単にネットで検索できると思っていたのですが、ステマに関する法律が整った(景品表示法の規制対象に加えられた)のが2023年10月で、情報がネット上にあまり出回っていません。渡部先生から最近の文献などを調べてみるようアドバイスをもらい、論文検索サイトを調べることにしました。また、消費者庁や消費者委員会といった、信頼度の高い公的機関のホームページから情報を入手することも心がけるようにしました」
現実社会の新しい課題をリアルタイムで取り上げているため、資料も少ないし、解決策は誰にもわかりません。当初は渡部教授の指示がないと動けない状態でしたが、だんだんやるべきことがわかってきて、「まずは自分たちでやってみて、その結果を先生に報告し、フィードバックを得て修正していく」というやり方に変わってきました。
「相手のことを考える」姿勢
活動が始まって2カ月経ったころから、ゼミ生たちの意識や行動に変化が出てきました。相手の気持ちを考えることができるようになったのです。明田さんは、次のように話します。
「私たち10期生は一人ひとりの主張が強くて、初めは話し合いをしてもまとまりませんでした。そんなとき、先生はよく『自分たちがどう思うかではなく、相手がどう思うかを考えなさい』と声をかけてくれました。今は、それぞれの意見があることを意識し、耳を傾けるようになりました。他の人の意見を受け入れたうえで、『それはいい意見だね。こうしたらもっと良くなるんじゃないか』などと前向きな話し合いができるようになりました」
渡部教授の教えは、さまざまな場面で生きています。役所や企業などにヒアリングを依頼するときは、先方の事情を考えて効率よく進められるように準備に力を入れたり、チームで集まるときに個人の都合は後回しにしたりと、メンバーそれぞれが相手の立場を考え、チームのために行動できるようになりつつあります。
また、プレゼン大会というゴールに間に合うように、逆算して活動予定を組まなければならないので、計画力も身についてきました。「社会に出れば当たり前のことが、意外に大変だと気づきました」と春原さんは言います。
今は、問題を解決するためのアイデアを出し始めているところです。明田さんはこう話します。
「企業やインフルエンサー側のステマの大きな問題は、消費者に『宣伝行為』だと気づかせないよう、だましている点です。その解決策として、企業やインフルエンサーを対象にしたセミナーを開催する案が出ています。一方の消費者側は、法の部分では規制されているものの、グレーゾーン(=抜け穴)があることが問題です。正しい判断ができるように、学生や一般消費者向けのセミナーも計画中です」
明田さんは消費者庁でインタビューした際に言われた「ステマは研究や対策が進んでいない未知の部分が多い。自分たちのような行政にはできない、あなたたちだからこそできる対策もあると思う」という言葉が心に残っています。「この秋には消費者庁など関係省庁に私たちなりの意見書を提出する予定です。そして集大成となる11月のプレゼン大会では、自分たちが納得できるような結果を残したいと考えています」
「縦のつながり」を大切に
渡部ゼミには、先輩が後輩をサポートする伝統があり、「縦のつながり」を通して得られるものも少なくありません。「渡部ゼミの先輩たちから活動の様子を聞き、ゼミに入ることを決めた」という春原さんは、こう話します。
「先輩たちは、私たちが不安に思っていると、『大丈夫だよ』『僕たちもこうだった』と励ましてくれたり、経験から適切なアドバイスをしてくれたりします。歴代の先輩たちがプレゼン大会で賞を獲得していることも、刺激になります」
ゼミでの学びについて、明田さんはこう話します。
「一人で難しい問題を考えてもなかなか発展しないし、抱え込んでしまいます。わからないときに、わからないと言える相手がいて、それを一緒に考えてくれる仲間がいるゼミ活動はすごく楽しいです」
渡部吉昭教授からのメッセージ
ゼミでの頑張りを誇りにしてほしい
渡部ゼミは、「課題解決」に向けてチームで活動を行います。実社会では基本的にチームで仕事をしますが、通常の大学の授業では協働作業をする機会はあまり多くありません。ゼミ活動は、学生時代にこうした経験ができる貴重な機会と言えるでしょう。
ゼミでは、調べ物だけで解決策を考えるのではなく、企業やNPO、大学などの外部組織に取材したり、街頭インタビューやアンケートなどの対外的活動によってユーザーの声を聞いたりするように指導しています。こうした行動は、自分たちの提案の実現性を確認する意味もありますが、外部の人とのやりとりを通して「社会人としてのコミュニケーション能力」を身につけるという狙いもあります。
3年生は11月のプレゼン大会を終えると、本格的な就職活動に入ります。ゼミ生はチーム活動の経験をエントリーシートや面接の中で自分自身の言葉でしっかりと伝えています。培った社会人基礎力は、言葉遣いやマナーなど就職活動のさまざまな場面で生かされていきます。
最近の就職先は専門商社やIT企業が多いですが、どのような業種でも、ゼミ活動の経験は役に立つはずです。渡部ゼミでチャレンジして頑張ったことを誇りに、社会で活躍してほしいと考えています。
渡部 吉昭(わたなべ・よしあき)教授/大阪大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)、ブーズ・アレン・ハミルトン、スイフト・ジャパン代表取締役、筑波大学大学院准教授などを経て、2015年から現職。博士(経営管理)。専門は事業戦略、マーケティング。マーケティング・キャピタル代表取締役。
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(文=熊谷わこ、写真=文京学院大学提供)