【コラム】ざきのすけ。の作家さっか性せいを伝つたえるドラマ『合理ごうり的てきにあり得えない』主題歌しゅだいか「彼かれは誰だれどき」の凄すさまじさ

そのクリエイティビティの行ゆく末すえは未知みちである。5月31日にち、メジャーデビュー・シングル「彼かれは誰だれどき」をリリースしたソロアーティスト、“ざきのすけ。”。「彼かれは誰だれどき」は、天海あまみ祐希ゆき主演しゅえんドラマ『合理ごうり的てきにあり得えない ～探偵たんてい・上水流かみずる涼子りょうこの解明かいめい～』（カンテレ・フジテレビ系けい。NetflixやFODでも配信はいしん中ちゅう）の主題歌しゅだいかになっている。本稿ほんこうではざきのすけ。のバックグラウンドを紹介しょうかいし、「彼かれは誰だれどき」と『合理ごうり的てきにあり得えない』の考察こうさつから、ざきのすけ。の作家さっか性せいについて紐解ひもといていく。

ざきのすけ。とは、北海道ほっかいどう札幌さっぽろ市し出身しゅっしん、現在げんざい22歳さいのアーティスト。2021年ねんに行おこなわれた、人気にんきYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』が主宰しゅさいするオーディション『THE FIRST TAKE STAGE』にて、4人にんのファイナリストに残のこったことで注目ちゅうもくを集あつめた。その後ご、昨年さくねん5月がつに1st EP『Identification』をリリースし、1年ねんの時ときを経へて、ついにメジャーデビューのゲートを開ひらいた。

▲Major 1st Single「彼かれは誰だれどき」ジャケット

ざきのすけ。の音楽おんがくの基盤きばんにあるのは、あらゆるジャンルへの好奇心こうきしんと実験じっけん精神せいしんだといえる。音楽おんがく理論りろんや“お決きまり”を知しった上うえで、それを壊こわそうとする気概きがいが、ざきのすけ。の音楽おんがくからは溢あふれ出でている。彼かれのルーツを辿たどると、幼少ようしょうの頃ころからジャンルの枠わくに捉われず様々さまざまな音楽おんがくに触ふれていたことがわかる。もともと両親りょうしんが音楽おんがく好すきで、父親ちちおやはドラムを叩はたき、母親ははおやは歌うたが得意とくいだった（ざきのすけ。いわく、地方ちほうの温泉おんせんのステージなどで歌うたっていたそう）。音楽おんがくが身近みぢかにある家庭かていで育そだつ中なか、小学校しょうがっこう4年生ねんせいの頃ころから近所きんじょのジャズドラム教室きょうしつでドラムを叩たたくように。その後ご、ギターとベースも触ふれるようになり、Linkin Park、Slipknotなどの洋楽ようがくロックや、東京とうきょう事変じへんと椎名しいな林檎りんごを入口いりくちに高橋たかはし優ゆう、amazarashiなどの邦楽ほうがくを愛あい聴する。

中学ちゅうがく時代じだいは、バンドでギターボーカルも務つとめながら、吹奏楽すいそうがく部ぶでコントラバスを担当たんとうし、さらに『フリースタイルダンジョン』にハマったことがきっかけで自作じさくのラップソングをSoundCloudにアップしていた。そしてヒップホップの歴史れきしをディグる中なかで、ブルースにも興味きょうみを持もつようになる。

高校生こうこうせいの頃ころは札幌さっぽろのヒップホップシーンに身みを置おいていたが、「ヒップホップとはこうあるべき」という価値かち観かんに縛しばられることには違和感いわかんを抱だいていた。なぜならざきのすけ。は、ジャズセッションとラップを融合ゆうごうさせた鎮座ちんざDOPENESSをリスペクトし、同どう時代じだいに海外かいがいでメインストリームに増ふえつつあったチャンス・ザ・ラッパーをはじめとする美声びせいの歌うたとラップを行いき来きするヒップホップ／R&Bにも惹ひかれていたから。ひとつのジャンルにとどまらず、クラシック、ジャズ、ロック、ヒップホップ、R&B、ブルース、J-POPなどを同時どうじに吸収きゅうしゅうする感性かんせいを子こどもの頃ころから養やしなっていた好奇心こうきしん旺盛おうせいな音楽おんがくラバー、それがざきのすけ。だ。

そんなざきのすけ。が、アーティストとしてのアイデンティティを模索もさくし4曲きょく4様ように示しめしたEP『Identification』の制作せいさくを経へて、メジャーデビュー曲きょくとして発表はっぴょうしたのが「彼かれは誰だれどき」だ。この楽曲がっきょくの制作せいさくでは、“種たね”を掴つかむまでに相当そうとうな時間じかんがかかったという。それもそうだろう。この曲きょくはドラマのストーリーや登場とうじょう人物じんぶつの心情しんじょうと、ざきのすけ。自身じしんの生いき様ざまを何なん層そうにも重かさね合あわせて、それを“彼かれは誰だれどき”というワンテーマで見事みごとにい当いあてた、凄すさまじい仕上しあがりになっている。



“彼かれは誰だれどき”とは、薄暗うすぐらくて目めの前まえにいる人ひとでさえはっきりと見みえずに「彼かれは誰だれ？」と思おもわず言いってしまうような明あけ方がたの時間じかん帯たいを指さす。『合理ごうり的てきにあり得えない』は、敏腕びんわん弁護士べんごしだった上水流かみずる涼子りょうこ（天海あまみ祐希ゆき）がとある傷害しょうがい事件じけんをきっかけに弁護士べんごし資格しかくを剥奪はくだつされて、探偵たんていとして様々さまざまな事件じけんを解決かいけつしていくストーリー。「上水流かみずるをハメた『彼かれ』は誰だれなのか」。それは7話わを終おえた現げん段階だんかいでも解明かいめいされておらず、ドラマ全体ぜんたいに流ながれる謎なぞとなっている。さらに踏ふみ込こむと、上水流かみずるの天才てんさいバディ・貴き山やま伸彦のぶひこ（松下まつした洸こう平たいら）はIQ140の頭脳ずのうを生いかして毎回まいかい事件じけん解決かいけつへと導みちびくが、どうやら彼かれも上水流かみずるの事件じけんの何なにかを知しっている気配けはいがする。「貴き山やま伸彦のぶひこという『彼かれ』は誰だれなのか」。上水流かみずるの目めの前まえにいるのに、彼かれの本当ほんとうの姿すがたがはっきりと見みえていない。そんなドラマの脚本きゃくほんを、ざきのすけは。“彼かれは誰だれどき”というワードで見事みごとにい表いあらわした。

『合理ごうり的てきにあり得えない』の登場とうじょう人物じんぶつは皆みな、人生じんせいにおける“夜明よあけ前まえ”のような薄暗うすぐらい日々ひびにいる人ひとたちだ。明あかるく振舞ふるまっている上水流かみずるも、自分じぶんの過去かこに疑問ぎもんと傷きずを抱だいたまま生いきている。貴き山やまだって、家族かぞくが事件じけんに巻まき込こまれていたことが第だい6話わで明あかされた上うえに、今いまも父親ちちおやは病院びょういんのベッドで眠ねむりながら会話かいわもできない状態じょうたい。そして毎まい話はなし登場とうじょうする上水流かみずるへの依頼いらい者しゃも、主おもに権力けんりょく者しゃが施ほどこした“合理ごうり的てきにあり得えない”ほどの不条理ふじょうりな事態じたいに巻まき込こまれた弱者じゃくしゃたち。“彼かれは誰だれどき”のように薄暗うすぐらい場所ばしょにいる人ひとたちがまた明あかるい日々ひびを取とり戻もどせるように、上水流かみずると貴き山やまが問題もんだいを解決かいけつしていくのがこのドラマのメインテーマである。

そこに、ざきのすけ。自身じしんの人生じんせいの状況じょうきょうも重かさねていると読よみ取とることができる。メジャーデビューという陽ひが昇のぼる直前ちょくぜんの、この楽曲がっきょくの制作せいさく中ちゅうの状況じょうきょうを“彼かれは誰だれどき”と表あらわしているようだ。《何者なにものかに なりたいと願ねがった》と歌うたう通とおり、まだ何者なにものにもなれていない夜明よあけ前まえにいる自分じぶん自身じしん。捨すてきれない夢ゆめへの想おもい、理想りそうの自分じぶんに達たっしていない想おもいが、自分じぶんを突とっき動うごかしていると歌うたっているように聴きこえてくる。歌詞かしカードを見みると、彼かれは曲きょく中ちゅうで《彼かれ誰だれ時じ》と書かきながらも「ブルーアワー」と歌うたっているが、ブルーアワーは芸術げいじゅつ的てきな写真しゃしんを切きり取とれる瞬間しゅんかんとも言いわれていて、陽ひが当あたる直前ちょくぜんの足掻あがいているこの瞬間しゅんかんにこそ芸術げいじゅつ的てきな作品さくひんが生うまれるという希望きぼう、そしてこの曲きょくが先さきで自分じぶんの音楽おんがく活動かつどうの道みちを照てらしてくれるものになることへの願ねがいを、この曲きょくに託たくしているようだと私わたしは感かんじ取とった。

また、“彼かれは誰だれどき”というテーマを主題歌しゅだいかの“種たね”にしながら、歌詞かしの随所ずいしょでもざきのすけ。の作家さっか性せいとドラマのストーリーの見事みごとな掛かけ合あわせを見みることができる。ドラマの中なかでは、「善悪ぜんあく」「信しんじる」「嘘うそ」「正義まさよし」「理想りそう」といったことの多面ためん性せいについても炙あぶり出だされるが、それらは曲きょくの中なかでも鋭するどく、滑なめらかに、表現ひょうげんされている。具体ぐたい的てきに挙あげると、たとえば「決けっして嘘うそはつかないこと」が上水流かみずると貴き山やまのあいだで約束やくそくになっているにもかかわらず、第だい1話わでは上水流かみずるの「覚おぼえときな。人ひとを不幸ふこうにする嘘うそは詐欺さぎだけど、幸しあわせにする嘘うそは救すくいなの」というセリフがあった。第だい2話わで「人ひとは信しんじるな。どれだけ善人ぜんにんに見みえても、どれだけ心しんを許ゆるしても、人ひとはあっさり裏切うらぎる。自分じぶんの目めでちゃんと人ひとを見抜みぬく力ちからをつけなさい」という言葉ことばが上水流かみずるから飛とび出だしたことも印象いんしょう的てきだ。


ざきのすけ。はこれまでも、人間にんげんや物事ものごとの多面ためん性せいを浮うかび上あがらせて、生いきるとは何なにかを問とう作品さくひんを生うみ出だしてきた。『合理ごうり的てきにあり得えない』と「彼かれは誰だれどき」に出でてくる「善悪ぜんあく」「信しんじる」「嘘うそ」「正義まさよし」「理想りそう」といったことも、白黒しろくろはっきりわけられるものではない。すべての事柄ことがらが両極端りょうきょくたんではなくグラデーションである、という思想しそうが、ざきのすけ。の根底こんていにはあるように思おもう。そのあたりからも彼かれが学生がくせいの頃ころからamazarashiに惹ひかれていた理由りゆうが伝つたわってくるし、過去かこにInstagramに載のせていた本棚ほんだなの写真しゃしんに『コード理論りろん大全たいぜん』と同おなじ分厚ぶあつさの『哲学てつがく大だい図鑑ずかん』と『パラドックス大だい図鑑ずかん』が並ならんでいたこと、さらには近代きんだい文学ぶんがくが好すきで“ざきのすけ。”の名前なまえの由来ゆらいも“芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけ”にあることからも、彼かれが音楽おんがくを表現ひょうげんする上じょうで、音おと以外いがいに何なにを大切たいせつにしているかが見みえてくる。

細こまかいところも挙あげると、《あぁ、後追あとおいの数字すうじが 作つくり出だした価値かち観かんが 僕ぼくを睨にらんでいる》という歌詞かしも個人こじん的てきにはお気きに入いり。上水流かみずるは、依頼いらいの金額きんがくの大おおきさで引ひき受うけるかどうかを判断はんだんするのに、第だい5話わでは解決かいけつ後ごに依頼いらい金きん代かわりの200万まん円えんのアクセサリーを「結婚けっこん祝いわい」として依頼いらい者しゃに返かえしてしまう。上水流かみずるは、金かねに飛とびつくように見みえて結局けっきょく金きんで物事ものごとを判断はんだんしないことがわかる、“金かね”と“人間にんげん”の多面ためん性せいも表現ひょうげんするシーンだった。この一いち行ぎょうの歌詞かしが表あらわすものをざきのすけ。の視点してんに置おき換かえると、アーティストが作品さくひんを出だした後のち、作品さくひんの本質ほんしつ的てきな価値かちや評価ひょうかとは異ことなる“数字すうじ”が作つくり出だす価値かち観かんがどうしたってつきまとってしまって、それと対峙たいじしなければならない心情しんじょうが浮うかび上あがってくる。

「彼かれは誰だれどき」のカップリングには、椎名しいな林檎りんご「丸ノ内まるのうちサディスティック」のカバーを収録しゅうろく。SANABAGUN.の大樋おおひ祐大によるネオソウル〜ミクスチャーロック〜ヒップホップアレンジで、「彼かれは誰だれどき」とは異ことなるざきのすけ。の一いち面めんを見みることができる。冒頭ぼうとうに書かいた通とおり、ジャンルに縛しばられず、文学ぶんがくや哲学てつがくからもエッセンスを取とり入いれて、ビルド＆スクラップで自分じぶん自身じしんの表現ひょうげんを作つくるざきのすけ。から、今後こんごどんなクリエイションが出でてくるのかはまったく想像そうぞうがつかない。彼かれの中なかにある沸にえ々としたものが爆発ばくはつする瞬間しゅんかんを、この先さきも楽たのしみにしていたい。

文ぶん：矢島やじま由佳子ゆかこ

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