日本にっぽん製鉄せいてつ社員しゃいん「自じ死し」が労災ろうさい認定にんてい…会社かいしゃでの“パワハラ”被害ひがい「証拠しょうこ」の重要じゅうよう性せい

自じ死しに追おい込こまれた社員しゃいんのご遺族いぞくが、会社かいしゃを訴うったえるようです。

2年ねん前まえの2020年ねん2月がつ、国内こくない最大手さいおおての鉄鋼てっこうメーカー「日本にっぽん製鉄せいてつ」の社員しゃいんが、自じ死しに追おい込こまれました。自じ死しの原因げんいんは主おもに、長時間ちょうじかん労働ろうどうと上司じょうしからの叱責しっせきによりうつ病びょうを発症はっしょうしたことにあります。

報道ほうどうによれば、ご遺族いぞくが今年ことし4月がつ、労災ろうさい認定にんていを得えたため、今後こんご、日本にっぽん製鉄せいてつに対たいして損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅうを求もとめる方針ほうしんとのことです。

現在げんざい、長時間ちょうじかん労働ろうどうをしている方ほうや上司じょうしからの叱責しっせきに疲弊ひへいしている方ほうには、とても身近みぢかなトピックではないでしょうか。この事件じけんでは、亡なくなった社員しゃいんの方ほうが、後日ごじつ恋人こいびとに送信そうしんしたLINEの内容ないようが、労災ろうさい認定にんていの証拠しょうことして採用さいようされた可能かのう性せいがあるので、証拠しょうこの重要じゅうよう性せいもお伝つたえします（弁護士べんごし・林はやし 孝たかし匡ただし）。

自じ死しに至いたった経緯けいい

報道ほうどうによると、社員しゃいん（以下いか、Aさん）が自じ死しに至いたった経緯けいいは、以下いかの通とおりです。

• 2010年ねん
  入社にゅうしゃ（技術ぎじゅつ職しょく）日本にっぽん製鉄せいてつ
• 2019年ねん10月がつ
  発電はつでん設備せつびの定期ていき修繕しゅうぜんを1人ひとりで任まかされることになりました。
  3か月げつ後ごには、別べつの大型おおがた発電はつでん設備せつびの修繕しゅうぜんも任まかされました。
  このころ、残業ざんぎょうが大幅おおはばに増ふえたようです。
  時間じかん外がい労働ろうどうが月つき76時じ間あいだ。
  前月ぜんげつに比くらべて3倍ばいに跳はね上あがりました。
  このころ、上司じょうしから「何なにを考かんがえているんだ」などと叱責しっせきを3回かい受うけました。
  工期こうきが2月がつに迫せまってたのに、思おもうように業務ぎょうむが進すすんでいなかったからです。
• 2020年ねん1月がつ中旬ちゅうじゅん
  AさんはLINEで恋人こいびとにメッセージを送おくりました。
  「上司じょうしからボロカスに言いわれた」「心身しんしんともに疲つかれた」などの内容ないようを送信そうしんしていました。
• 2020年ねん2月がつ6日にち
  Aさんは、社員しゃいん寮りょうのベランダから転落てんらくしました。
  その後ご、搬送はんそう先さきで亡なくなりました。
  寮りょうの部屋へやには遺書いしょが残のこされていました。
• 2021年ねん10月がつ
  ご遺族いぞくは労災ろうさい申請しんせいを行おこないました。
• 2022年ねん4月がつ20日はつか
  労災ろうさい認定にんていが下おりました。
  理由りゆうは、2020年ねん2月がつにはうつ病びょうを発症はっしょうしていたというものです。

「労災ろうさい認定にんてい」に至いたるまで

労災ろうさい認定にんていを受うけるための第だい1関門かんもんは、業務ぎょうむによる心理しんり的てき負荷ふかが【強つよし】であることです。

以下いかフローチャートは、労働ろうどう基準きじゅん監督かんとく署しょが労災ろうさいを認みとめるかどうかを検討けんとうする時ときの思考しこう順序じゅんじょです。

精神せいしん障害しょうがいの労災ろうさい認定にんていフローチャート（厚生こうせい労働省ろうどうしょう）

業務ぎょうむによる心理しんり的てき負荷ふかが【強つよし】と判断はんだんされれば、第だい1関門かんもんクリアです。その後ごは、減点げんてん要素ようそがあるかが吟味ぎんみされます。

業務ぎょうむ以外いがいのストレスはなかったか？　その人ひとがストレスに弱よわかっただけでは？　などが検討けんとうされます。そういった点てんもなければ、労災ろうさい認定にんていが下おりるという流ながれになります。

詳くわしく知しりたい方ほうは、精神せいしん障害しょうがいの労災ろうさい認定にんてい（厚生こうせい労働省ろうどうしょう）をご覧らんください。

Aさんのご遺族いぞくが労災ろうさい申請しんせいしてから認定にんていが出でるまで、約やく1年ねん3か月げつかかりました。平均へいきんとしては、6か月げつ〜1年ねんくらいで結果けっかがでます。ご遺族いぞくは、遺族いぞく(補償ほしょう)等とう給付きゅうふを受うけ取とることになります。

もしご存命ぞんめいの場合ばあいには、ご本人ほんにんが療養りょうよう給付きゅうふや休業きゅうぎょう給付きゅうふを受うけ取とることができます（こちらも詳細しょうさいは「労災ろうさい保険ほけん給付きゅうふの概要がいよう（厚生こうせい労働省ろうどうしょう）」をご覧らんください）。

「安全あんぜん配慮はいりょ義務ぎむ違反いはん」の認定にんていがポイント

前出ぜんしゅつの通とおり、Aさんのご遺族いぞくは、日本にっぽん製鉄せいてつに対たいして損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅうを求もとめる方針ほうしんとのことです。

裁判さいばんでは「安全あんぜん配慮はいりょ義務ぎむに違反いはんした」と主張しゅちょうすることが一般いっぱん的てきです（労働ろうどう契約けいやく法ほう5条じょう）。「会社かいしゃはAさんの業務ぎょうむ量りょうを適切てきせつに調整ちょうせいする義務ぎむがあったのにその義務ぎむを怠おこたった」という趣旨しゅしの主張しゅちょうになります。過去かこには、長時間ちょうじかん労働ろうどうなどで女性じょせい社員しゃいんが自じ死しに追おい込こまれた電通でんつう事件じけん（最高裁さいこうさい H12.3.24）で安全あんぜん配慮はいりょ義務ぎむ違反いはんが認定にんていされています。

また、近年きんねん、長時間ちょうじかん労働ろうどうに加くわえてパワハラも原因げんいんで社員しゃいんが自じ死しに追おい込こまれた事件じけんで、会社かいしゃの責任せきにんを認みとめた判決はんけつが増ふえてきています。

• 岡山県貨物運送おかやまけんかもつうんそう事件じけん（仙台せんだい地裁ちさい H25..6.25）
• 公立八鹿病院こうりつようかびょういん組合くみあいほか事件じけん（広島ひろしま高裁こうさい松江まつえ支部しぶ H27.3.18）
• A庵あん経営けいえい者しゃ事件じけん（福岡ふくおか高裁こうさい H29.1.18）

民事みんじ訴訟そしょうにおける損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅうでは、労災ろうさい保険ほけん給付きゅうふを上回うわまわる、慰謝いしゃ料りょうなどの損害そんがいについて請求せいきゅうできます。

ただし、民事みんじ訴訟そしょうにおいては、業務ぎょうむと死亡しぼうとの間あいだの相当そうとう因果いんが関係かんけいの立証りっしょうが必要ひつようです。

この事件じけんでは、すでに労災ろうさい認定にんていがなされているため、因果いんが関係かんけいは認みとめられやすいでしょう。とは言いっても、会社かいしゃが控訴こうそすれば5年ねん以上いじょうかかるケースもあるため、ご遺族いぞくの精神せいしん的てき負担ふたんは計はかり知しれないものになります。

「上司じょうしからボロカスに言いわれた」

ここで、カナリ重要じゅうようなお話はなしを。

労災ろうさい認定にんていを受うけるためにも、民事みんじ訴訟そしょうで訴訟そしょうするためにも、なにより証拠しょうこが重要じゅうようです。

Aさんは恋人こいびとにLINEを送おくっていました。「上司じょうしからボロカスに言いわれた」「心身しんしんともに疲つかれた」の内容ないようです。このLINEが労災ろうさい申請しんせいの際さいに添付てんぷされた可能かのう性せいは高たかいと思おもいます。

労災ろうさい申請しんせいや民事みんじ訴訟そしょうを考かんがえている方ほうは、証拠しょうこを一ひとつでも多おおく集あつめるようにしてください。

証拠しょうことしては、

• 録音ろくおん
• 写真しゃしん
• メール・SNS
• 日記にっき・メモ
• 同僚どうりょうの証言しょうげん
• 動画どうが
• 診断しんだん書しょ・カルテ
• 領収りょうしゅう書しょ

などが有効ゆうこうです。

何なにが裁判官さいばんかんの心しんに刺ささるかは未知数みちすうなので、多おおく集あつめてください。1つの矢やなら折おれてしまうけど、5つの矢やなら折おれない。

証拠しょうこも合あわせ技わざで強つよい武器ぶきになります。

心しんも体からだも限界げんかいであれば

コンプライアンスを遵守じゅんしゅしている傾向けいこうが強つよい大手おおて企業きぎょうでさえ、過労かろう死しライン（月つき80時じ間あいだ）ギリギリの残業ざんぎょうを強しいている有様ありさま。今回こんかいのケースは氷山ひょうざんの一角いっかくだと思おもいます。中小ちゅうしょう企業きぎょうで働はたらいている約やく2700万まん人にんの方ほうの多おおくも長時間ちょうじかん労働ろうどうに悩なやまされていると推測すいそくできます。

いまも、心しんも体からだもギリギリの状態じょうたいで働はたらき、限界げんかいに来きている方ほうがいらっしゃると思おもいます。例たとえば電話でんわ相談そうだんなどの利用りようも有効ゆうこうになるかもしれません。また、もちろん社外しゃがいの労働ろうどう組合くみあいや弁護士べんごしに相談そうだんするのもひとつの方法ほうほう、解決かいけつへの近道ちかみちになり得えます。