トークンを活用してコミュニティに報酬(インセンティブ)を与え、物理的なインフラを作るアプリケーション「DePIN」。“Decentralized Physical Infrastructure Network”の略で、日本語では「分散型物理インフラネットワーク」と呼ばれる。
既に世界中でさまざまなプロジェクトやサービスが生まれており、たとえば、専用のドライブレコーダーを取り付けられた自動車が走行すると、運転した地形情報がネットワークに送られ、データは地図アプリに反映。ドライバーはその報酬としてトークンを受け取れるサービスがある。また日本では、送電インフラなどを維持するために、個人が電柱やマンホールをスマホで撮影して、写真データを送るとトークンが受け取れるサービスの実証実験も行われたばかりだ。
少子高齢化と人口減少が進む日本では、全国の各種インフラの維持や管理を、行政だけが担い続けるのが難しくなってきている。トークンを報酬として個人のコミュニティへの参加を促し、インフラの維持や管理につなげるDePINは、今後ますます活用が期待される技術、分野だと言えるのではないだろうか。
CoinDesk JAPANを運営するN.Avenueが展開する、Web3をリサーチする大手企業のビジネスリーダーを中心とした限定有料コミュニティサービス「N.Avenue club」は、2024年7月から二期目に突入。その初回のラウンドテーブルVol.13は、まさにこの「DePIN」をテーマに、7月18日に開催された。
ラウンドテーブルには、日本国内でDePINに取り組む企業の代表や、世界中で事業を展開する非営利団体のトップがスピーカーとして参加。事例を紹介するとともに、参加者からの質問にも答えた。
ラウンドテーブルは会員限定のクローズ開催のため、ここでは当日のプレゼンテーションや議論の様子について、概要を紹介する。
【N.Avenue club 7月ラウンドテーブル】DePINが日本で注目される理由──少子高齢化・先進国の新たなインフラ再構築法
冒頭、ゲストスピーカーとしてオンラインでプレゼンしたのは、ヘリウム財団を率いるアベイ・クマールCEOだ。かつてSquare(スクエア)で決済インフラを構築するリードエンジニアを務めたクマール氏は、Heliumブロックチェーンのコア開発者として関わった後、2022年からCEOを務めている。
ヘリウムが提供しているのは、主に企業・ビジネス用途のIoTネットワークと、5G通信サービスを分散的に実現することを目指したモバイルネットワークだ。いずれも専用のデバイスを購入し、インターネットに接続するホットスポットの役割を果たすと、トークンで報酬を受け取れる仕組みだ。
クマール氏は、IoTネットワークが絶滅危惧種の救済に役立てられている事例などを紹介。モバイルネットワークでは、大手通信会社T-Mobileと連携して提供しているヘリウム・モバイル(Helium Mobile)について話した。ヘリウム・モバイルの特徴は、通常1ヵ月で40-100ドルするのと同じ品質の通信が20ドルほどでできることといい、価格面での魅力もあって、ユーザー数を急速に伸ばしているそうだ。
クマール氏は、ヘリウムのユーザーの多くは、決してトークンや暗号資産、ネットワークなどに詳しい人たちではないが、サービスの利用者にとどまらず供給者になって誰かの役に立てること、報酬を受け取れることにやりがいを感じていることを示唆。コミュニティに参加することそのものに楽しみを感じているなどと述べた。
次に、元テレビ東京社員で、Digital Entertainment Asset Pte. Ltd.(DEA)をシンガポールで創業した山田耕三CEOが登壇。同社は、東京電力などとともに、電力インフラの維持管理を目指した陣取り合戦ゲーム「ピクトレ 〜ぼくとわたしの電柱合戦〜」の開発に携わった。
元テレビ東京社員として、ものごとをかみ砕いて分かりやすく説明するのが自らの使命だという山田氏は、DePINの概念や先駆的な事例などを、たとえを交えながら説明。これまでにDePINが直面した課題を整理した上で、その課題を乗り越えるべく、既に「DePIN2.0」の動き・トレンドが生まれていることなどを紹介した。
なお、DEAは19日に開催された「スタートアップワールドカップ」東京予選で優勝。10月にアメリカで行われる決勝大会に日本代表として出場する。
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そして、DEA社とともにピクトレを開発したGreenway Grid Global Pte.Ltd.のInnovation Manager、鬼頭和希氏がスピーチ。同社は、東京電力パワーグリッド(東電PG)や中部電力などがシンガポールに設立した合弁会社で、鬼頭氏ももともと東電PGの出身だ。
鬼頭氏は、東電が電柱を600万本など膨大なインフラを抱えていることを紹介した上で、ピクトレ考案の背景には、点検コストという課題の解決があると述べた。ピクトレは参加者が電柱などのインフラの写真を撮ることで陣取りを競うゲームで、前橋市で実証実験を行ったところ、課題解決に向けて大きな手ごたえを得られたといい、鬼頭氏は「ピクトレなら、新しいインフラメンテナンスのゲームチェンジを起こせる」と力強く訴えた。
ラウンドテーブルでは、スピーカーそれぞれに対して質疑応答が行われたほか、参加者たちはテーブルごとにディスカッション。DePINの活用方法、解決できると考えられる社会課題などについて意見を表明しあった。
毎回クローズドな環境で、先駆的な事例が紹介されるほか、Web3に携わる参加者たちのディープな議論が行われる「N.Avenue club」。事務局は、Web3ビジネスに携わっている、または関心のある企業関係者、ビジネスパーソンに参加を呼び掛けている。
|文・瑞澤 圭
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田圭佑