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ダーウィニズムの道徳どうとく的てき遺産いさんは糊塗ことされるべきか？

By: David Klinghoffer
June 12, 2009

去さる6月がつ10日とおか、ホロコースト記念きねん館かんの守衛しゅえいを銃じゅうで殺ころした男おとこが、その病的びょうてきな声明せいめい文ぶんの中なかで進化しんかについて述のべているという事実じじつを指摘してきすることは、卑小ひしょうな、いやらしい、不当ふとうな利用りようとして穏当おんとうを欠かくものだろうか？　この男おとこの言葉ことばを引用いんようし、それ自体じたいに語かたらせることは、品格ひんかくに欠かけることだろうか？　問題もんだいの男おとこJames von Brunnは、白人はくじん優越ゆうえつ主義しゅぎ者しゃ、激はげしい反はんユダヤ主義しゅぎ者しゃ、ユダヤ人じん虐殺ぎゃくさつはでっち上あげの陰謀いんぼうだというホロコースト否定ひてい者しゃで、児童じどう誘拐ゆうかい未遂みすいで連邦れんぽう刑務所けいむしょに6年間ねんかん服役ふくえきしている。こういったことを報道ほうどうするのは常識じょうしきになっていて、誰だれも異議いぎを唱となえる者ものはいない。しかし彼かれが「自然しぜん選択せんたく――種たねは種たね内部ないぶの婚姻こんいんによって向上こうじょうする。自然しぜん選択せんたくと突然変異とつぜんへんい。強つよい者ものだけが生いき残のこる。白しろ人種じんしゅと進化しんかの段階だんかいの低ひくい人種じんしゅとの雑ざつ姻は、白人はくじんの遺伝子いでんしプールを劣化れっかさせる」と書かいていること、これを公表こうひょうするのは適切てきせつでないのか？

この事実じじつを無視むしするメディアをはじめ、これについての私わたしのブログに反応はんのうする何人なんにんかの読者どくしゃはそう言いおうとしているようだ。進化しんかを論ろんずる双方そうほうの当事とうじ者しゃにとって、これが不愉快ふゆかいなことであるのは理解りかいできる。だから一いち歩ほ退しりぞいて冷静れいせいに考かんがえてみよう。

ダーウィン的てき思考しこうが、過去かこ150年ねんの最もっとも非難ひなんすべき社会しゃかい的てき運動うんどうのいくつかをつなぐ糸いとであったことは、歴史れきし的てきに否定ひていすることのできない事実じじつである。私わたしや他たの多おおくの歴史れきしの専門せんもん家か（私わたしはそうでない）を含ふくむ人々ひとびとが、これについて繰くり返かえし様々さまざまな角度かくどから論ろんじてきた。Darwin's Tree of Deathに寄稿きこうした私わたしの最近さいきんの論文ろんぶんを参照さんしょう願ねがいたい。

ダーウィン自身じしんの民族みんぞく虐殺ぎゃくさつの論理ろんりについての考察こうさつから、いとこのフランシス・ゴールトンの影響えいきょう力りょくのあった優生ゆうせい学がく弁護べんご、レーニンの机つくえに飾かざってあったダーウィンの像ぞう、ヒトラーの『わが闘争とうそう』を貫つらぬく進化しんか論ろんテーマ、スコープス裁判さいばんの中心ちゅうしんとなった、人種じんしゅ差別さべつ と優生ゆうせい学がくを唱となえている生物せいぶつ教科書きょうかしょ、ここアメリカでの前ぜん世紀せいきの優生ゆうせい学がく運動うんどう、学生がくせいが自然しぜん選択せんたくを口くちにして起おこす最近さいきんの銃じゅう乱射らんしゃ事件じけん、それに昨日きのうのホロコースト記念きねん館かんの悲劇ひげきやその他たもろもろのこの種たねの事件じけんに至いたるまで、これらをつなぐ糸いとの存在そんざいははっきりしている。ただそれが広ひろく無視むしされているというだけだ。

それは無視むしすべきものか？　決けっしてそうではない。一ひとつ類例るいれいを示しめそう。我々われわれの文化ぶんかは、十字軍じゅうじぐん遠征えんせい、宗教しゅうきょう裁判さいばん、９．11など宗教しゅうきょうの名なにおいて犯おかされたもろもろの犯罪はんざい行為こういについては、平気へいきで口くちにする。皮肉ひにくにも、ホロコースト記念きねん館かん事件じけんが起おこった同おなじ日びに出でた新あたらしいユダヤ人じん向むけウエブ雑誌ざっしTabletが、Paula Fredriksenによる魅力みりょくある学術がくじゅつ論文ろんぶんを発表はっぴょうしている。これは、いかにナチス体制たいせい下かのドイツの神学しんがく者しゃの一部いちぶが、イエスをナチ的てき鋳型いがたにはめようとしたかを論ろんじたもので、彼かれらはキリスト教きりすときょうの伝統でんとうにおいて広ひろく利用りようされた反はんユダヤ的てき文献ぶんけんを引ひいている。

こうしたことを指摘してきするのは穏当おんとうを欠かくか？　もちろんそんなことはない。私わたしは宗教しゅうきょうの暗黒あんこく面めん を記録きろくすることは単たんに適切てきせつというだけでなく、必要ひつようなことだと言いいたい。「反はん名誉めいよ棄損きそん連盟れんめい」は、ホロコースト記念きねん館かん事件じけんについてコメントを出だし、これは「憎にくしみの言葉ことばこそ重大じゅうだいであるということ、我々われわれが憎にくしみを無視むしして許ゆるしておくことができないのは、憎にくしみを売うる者ものがどこにいて、どんな時代じだいであろうとも、憎にくしみの言葉ことばがたやすく憎にくしみの行為こういに変かわりうるからである」ことを思おもい出ださせるものだと指摘してきしている。

まったくその通とおりだ。同時どうじに、観念かんねんは結果けっか を生うむということ、そしてこれらの結果けっかが何なにであったかを知しっているのであれば、それが宗教しゅうきょう的てきであろうと科学かがく的てきであろうと、その特定とくていの観念かんねんに我々われわれが改あらためて懐疑かいぎの眼めを向むけるのは当然とうぜんである。９．11は振ふり返かえってイスラム教いすらむきょうをもう一度いちど見直みなおす十分じゅうぶんな理由りゆうとなる。それを拒絶きょぜつするためではなくて、批判ひはん的てきに再さい考察こうさつするためである。十字軍じゅうじぐん遠征えんせいはキリスト教きょうに対たいして同おなじことをする十分じゅうぶんな理由りゆうとなる。それを拒絶きょぜつするためでなく、新あたらしく考かんがえてみるためである。それだけの理由りゆうだ。

『わが闘争とうそう』という信しんじられないほどの人気にんきと影響えいきょう力りょくがあった作品さくひんが、ダーウィニズムについてもう一度いちど考かんがえてみる理由りゆうになってはならない理由りゆうはない。それを拒絶きょぜつするためでなく、それについて正ただしい知識ちしきをもつために、我々われわれが権威けんいある文化ぶんかやメディアの見方みかたに単たんに流ながされないように、しっかりした心こころ構かまえをもつためである。

『わが闘争とうそう』の遺産いさんの一ひとつに、６百ひゃく万まん人にんのユダヤ人じんの虐殺ぎゃくさつがある。リチャード・ワイカートが『ダーウィニズムからヒトラーヘ』の中なかで綿密めんみつに記述きじゅつしているように、ヒトラーのこの本ほんは、ダーウィンから始はじまって連綿れんめんと続つづきヒトラーに至いたる知的ちてき影響えいきょう力りょくの流ながれの一部いちぶである。それは今日きょうまで続つづいていて、ジェームズ・フォン・ブランの狂くるった思考しこうの中なかで一役ひとやくを演えんじたのである。「主要しゅよう人物じんぶつではないが尊敬そんけいされているアメリカの白人はくじん優越ゆうえつ主義しゅぎ者しゃの一人ひとり」と、彼かれのことをＡＤＬは報ほうじている。

もしぞっとすることをお望のぞみなら、「自然しぜん選択せんたく」という言葉ことばが、よく知しられたネオナチのウエブサイトStormfront.orgで使つかわれている様子ようすをご覧らんになるとよい。このサイトは、ヒトラーが親切しんせつなチャールズ・ダーウィンの言葉ことばに、彼かれ独自どくじの邪悪じゃあくなヒネリ（ダーウィン自身じしんは絶対ぜったいに容認ようにんしなかったであろうような）をかけたという見方みかたを確認かくにんさせてくれる。ジェームズ・フォン・ブランのような進化しんか論ろん者しゃが、進化しんか理論りろんを乱暴らんぼうに理解りかいしているわけでないこともわかる。また今日きょうの進化しんか科学かがく者しゃたちが、かなり最近さいきんまでの彼かれらの先達せんだつとは違ちがって、人種じんしゅ差別さべつ をしているわけでもない（中なかのある者ものは確たしかに、特とくにユダヤ教きょうの神かみに対たいして激はげしい反はん宗教しゅうきょう的てき扇動せんどうをしてはいるが）。

こういったことは現在げんざい・過去かこすべての、宗教しゅうきょうに基もとづいた憎悪ぞうお者しゃについて言いえることである。彼かれらは確たしかに彼かれらの伝統でんとうを歪曲わいきょくする者ものたちだ。しかし彼かれらはそこから出でた者ものでもある。だからここでもそれはやはり、その関係かんけいする宗教しゅうきょう的てき伝統でんとうに改あらためて懐疑かいぎの眼めを向むける十分じゅうぶんな理由りゆうとなる。

非常識ひじょうしきなのは、ダーウィニズムの社会しゃかい的てき影響えいきょうにだけは特別とくべつ に目めこぼしを与あたえて、それを口くちにするのはあたかも不穏当ふおんとうであるかのように禁止きんしすることである。それは常識じょうしき的てきでないどころか、隠いんぺい以外いがいの何なにものでもない。