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リチャード・レンスキーの新あたらしい仕事しごと

chael Behe
October 21, 2009

Richard Lenskiのグループによる新あたらしい論文ろんぶんが『ネイチャー』に出でて、かなりのマスコミの注目ちゅうもくを集あつめている。

この新あたらしい論文ろんぶんは、レンスキーが何なん年ねんも前まえから発表はっぴょうし続つづけてきた壮大そうだいな実験じっけん報告ほうこく――E.coli（大腸菌だいちょうきん）を長ながく培養ばいようして進化しんかを細密さいみつに観察かんさつできるようにする実験じっけん――の続編ぞくへんである。報告ほうこくの本当ほんとうに新あたらしい部分ぶぶんと言いえるのは、技術ぎじゅつ的てき改善かいぜんの点てんだけである。最近さいきんは大腸菌だいちょうきんのゲノム全体ぜんたいを「再さい配列はいれつする」（つまり研究けんきゅうしている特定とくていの大腸菌だいちょうきんの全ぜんＤＮＡの配列はいれつを確定かくていする）ことが支弁しべん可能かのうなコストで可能かのうになっている。（報酬ほうしゅうを払はらってそうしようとする会社かいしゃもある。）そういうわけでレンスキーと協同きょうどう研究けんきゅう者しゃたちは、彼かれらが過去かこ20年ねんにわたって培養ばいようしてきた大腸菌だいちょうきんの全ぜんゲノム――個々ここのヌクレオチドすべて――の配列はいれつを確定かくていした。彼かれらは、これまでの過程かていのあらゆる時期じきのバクテリア培養基ばいようきの一部いちぶを冷凍れいとう保存ほぞんしているから、今いまでは彼かれらは、開始かいし時点じてんから2000世代せだい、１万まん世代せだい、４万まん世代せだいというふうに、あらゆる時点じてんにおける進化しんかする培養ばいようの正確せいかくな配列はいれつを手てにしている。だから彼かれらは、どんな突然変異とつぜんへんいがいつ現あらわれたかを正確せいかくに知しることができる。これはほとんど完全かんぜんな過去かこの記録きろくである。なんと頭あたまのよいやり方かただろう！

彼かれらはこの情報じょうほうを基もとにして、彼かれらが有益ゆうえきに働はたらくかもしれないと言いっている40ばかりの突然変異とつぜんへんいを同定どうていしている。それはほとんど確実かくじつに間違まちがいないだろう。しかし彼かれらが強調きょうちょうしていないことは、有益ゆうえきな突然変異とつぜんへんいの多おおくは「劣化れっか性せい」（degradative）のものだということ、すなわちその変異へんいは、一ひとつの遺伝子いでんしまたはそのタンパク質たんぱくしつの機能きのうを減へらすものだということである。そうした突然変異とつぜんへんいの約やく半数はんすうは彼かれらがすでに以前いぜんの論文ろんぶんで同定どうていしたものだが、いくつかはここで初はじめて報告ほうこくしている。それら新あたらしいものが何なにをするのかを彼かれらは論ろんじていない（まだ分わかっていないのかもしれない）が、おそらくは、その大だい部分ぶぶんがやはり劣化れっか性せいのもので、タンパク質たんぱくしつの機能きのうを止とめるか、または劣化れっかさせるものと思おもわれる。いずれにせよ、これらのものが何なんらかの複雑ふくざつな新あたらしいシステムを作つくり出だす途上とじょうにあるという兆候ちょうこうはまったくない。

面白おもしろいことに、この論文ろんぶんはこの大腸菌だいちょうきんの株かぶが「変異へんい種しゅ」（mutator）になったと報告ほうこくしている。これは、そのものがそのＤＮＡを修復しゅうふくする能力のうりょくの少すくなくとも一部いちぶを失うしなったことを意味いみする。だからこそ変異へんいが現在げんざい、通つう 常つねの70倍ばいの速はやさで蓄積ちくせきしているのである。レンスキーは何なん年ねんも前まえに、他たのいくつかの進化しんかしつつある個体こたい群ぐん（彼かれらは12の別べつ 々の培養基ばいようきから始はじめた）の系統けいとうもまた変異へんい種しゅになったと報告ほうこくしている。だからＤＮＡ修復しゅうふくの能力のうりょくを失うしなうことが、これらの条件じょうけんのもとではよく起おこるものであるらしい。

レンスキーは大変たいへんすぐれた自己じこプロモーターで（批判ひはんして言いっているのではない――これはよいことで、科学かがく者しゃは他人たにんの目めを自分じぶんの仕事しごとに惹ひきつけなければならない）、彼かれは常つねにポジティヴな面めん を強調きょうちょうする。だから一ひとつの遺伝子いでんしが変異へんいによって跡形あとかたがなくなっても、彼かれは平然へいぜんと、それはバクテリアがより速はやく成長せいちょうするのを助たすける有益ゆうえきな変化へんかだと言いっているのである。このバクテリアが遺伝いでん情報じょうほうを失うしないつつあることを見抜みぬくためには、データを深ふかく掘ほり下さげてみなければならない。この論文ろんぶんの新聞しんぶん記事きじでは、彼かれはこのバクテリアの進化しんかにおいて「新あたらしいダイナミックな関係かんけいが確立かくりつされた」と断言だんげんしている。また、これがそのＤＮＡの通つう 常つねの修復しゅうふく能力のうりょくに危険きけんをおよぼす劣化れっか的てき突然変異とつぜんへんいによるものだということを見みて取とるためには、論文ろんぶんの詳細しょうさいをしっかり読よまなければならない。

研究けんきゅう結果けっかを彼かれのように語かたって聞きかせたい気持きもちはよく分わかるが、レンスキーの長年ながねんの仕事しごとは、ＩＤ派はが予想よそうしたことと見事みごとに一致いっちする――莫大ばくだいな量りょう のトライを重かさねるうちに、小ちいさな変化へんか、ほとんどが劣化れっか的てき変化へんかであるものは起おこる、しかし新あたらしい複雑ふくざつなシステムは生しょうじないということである。ランダムな変異へんいと自然しぜん選択せんたくのなしうるのはその程度ていどのものである。この領域りょういきでの彼かれの仕事しごとに対たいして我々われわれは感謝かんしゃしなければならない。空想くうそう的てきなシナリオについて論ろんずるよりも、それは指ゆびさすべき確固かっこたる結果けっか を我々われわれに与あたえている。