Jonathan Wells
May 24, 2010

「夢ゆめと悪夢あくむの原材料げんざいりょうである人工じんこう生命せいめいが現あらわれた」と、エコノミスト誌しは５月がつ20日はつか、J. Craig Venterを中心ちゅうしんとする科学かがく者しゃチームが、バクテリア細胞さいぼう内ないの自然しぜんのＤＮＡを、彼かれらが人工じんこう的てきに合成ごうせいしたＤＮＡに置おき換かえたと発表はっぴょうしたとき、そう宣言せんげんした。

ペンシルヴェニア大学だいがくの哲学てつがく者しゃ・生命せいめい倫理りんり学者がくしゃArthur Caplanによれば、「ヴェンターとその同僚どうりょうは、物質ぶっしつ世界せかいを操作そうさして我々われわれが生命せいめいと認識にんしきするものを作つくり出だすことができることを実証じっしょうした。これによって彼かれらは、数すう千せん年ねんも続つづいた生命せいめいの性質せいしつについての議論ぎろんに終止符しゅうしふを打うった。彼かれらの業績ぎょうせきは、生命せいめいの性質せいしつについての基本きほん的てきな信念しんねんを覆くつがえすもので、これは我々われわれ自身じしんと宇宙うちゅう内ないの我々われわれの場所ばしょの見方みかたに対たいして、ガリレオやコペルニクス、ダーウィン、アインシュタインの発見はっけんに比ひすべき、重要じゅうような意味いみをもつものになりそうである。」

ワオ！　ちょっと待まってもらいたい！

ヴェンターとそのチームがやったことは、最もっとも単純たんじゅんなバクテリアの1つのＤＮＡ配列はいれつを決定けっていし、この配列はいれつ情報じょうほうを利用りようして、生物せいぶつ学用品がくようひん会社かいしゃの売うっているサブユニットからそのＤＮＡのコピーを合成ごうせいし、そのＤＮＡの合成ごうせいコピーを、あらかじめ自然しぜんのＤＮＡを抜ぬき取とっておいた生いきたバクテリア細胞さいぼうに注入ちゅうにゅうした、ということである。

Nicholas Wadeがニューヨーク・タイムズで指摘してきしたように、Eckard Wimmerとその同僚どうりょうが2002年ねん、ポリオウィルスのＲＮＡを合成ごうせいして同おなじようなことをやっている。ウィマーらはこのとき、その合成ごうせいＲＮＡを使つかって機能きのうするポリオウィルスを作つくり出だした。しかしウィルスは生いきた細胞さいぼうではない。これまで誰だれ一人ひとりとして生いきた細胞さいぼうをそのＤＮＡから作つくり出だした者ものはおらず、クレイグ・ヴェンターも例外れいがいでない。

ウィルスとは、タンパク質たんぱくしつカプセルに入はいったＲＮＡまたはＤＮＡにすぎない。ウィルスＲＮＡまたはＤＮＡは、自分じぶんを増ふやすこともカプセルを作つくることもできない。それらはまず生いきた細胞さいぼうの中なかに入いれなければならない。（あるいはウィマーの実験じっけんの場合ばあいのように、注意深ちゅういぶかく用意よういされた生いきた細胞さいぼうからの抽出ちゅうしゅつ物ぶつに中なかに入いれなければならない。）なぜなら、細胞さいぼう（またはその抽出ちゅうしゅつ物ぶつ）だけが、ＲＮＡやＤＮＡを複製ふくせいしたりタンパク質たんぱくしつカプセルを作つくるのに必要ひつような、複雑ふくざつな分子ぶんし機械きかいをもっているからである。

しかし単独たんどくでは、ＲＮＡやＤＮＡは生物せいぶつ学がく的てきに無力むりょくである。生いきた細胞さいぼうだけが生いきて活動かつどうし、我々われわれの実験じっけんでは生命せいめいは常つねに生命せいめいから生しょうずる。これが生命せいめいの自然しぜん発生はっせいということが起おこらない理由りゆうであり、生命せいめい起源きげんの研究けんきゅう者しゃたちが問題もんだいを解とく入口いりくちにさえ近付ちかづけない理由りゆうである。そしてヴェンターとそのチームが生命せいめいを創造そうぞうできなかった理由りゆうでもある。彼かれらはそこからスタートしなければならなかった。生いきた細胞さいぼう、比較的ひかくてき単純たんじゅんな細胞さいぼうにさえ、アーサー・カプランの哲学てつがくが夢見ゆめみる以上いじょうのものがあるのだ。

カプランの大おおげさな主張しゅちょうとは対照たいしょう的てきに、カルテックの生物せいぶつ学者がくしゃでノーベル賞しょう受賞じゅしょう者しゃDavid Baltimoreは、ヴェンターは自分じぶんの成果せいかの「重要じゅうようさを過大かだいに見みせかけている」、それは科学かがく的てきな難問なんもん突破とっぱというより「技術ぎじゅつ的てきな離はなれわざ」というべきだ、と言いっている。ヴェンターは生命せいめいを創造そうぞうしたのではなく、それを模倣もほうしただけだ」とバルティモアは評ひょうする。

ボストン大学だいがくの生命せいめい工学こうがく者しゃJames Collinsは、ヴェンターの仕事しごとをこう評価ひょうかしている――

それは生物せいぶつの工程こうていをなぞる我々われわれの能力のうりょくの重要じゅうような進歩しんぽではあるが、生命せいめいを初はじめから作つくり出だしたのではない。正直しょうじきなところ、科学かがく者しゃは生命せいめいを創造そうぞうできるような生物せいぶつ学がくの知識ちしきは持もっていない。ヒト・ゲノム計画けいかくは細胞さいぼうのパーツ・リストを拡大かくだいはしたが、それらをくっつけて生いきた細胞さいぼうを作つくり出だす組くみ立たてマニュアルは存在そんざいしない。それはちょうど完全かんぜんに機能きのうするジャンボジェット機じぇっときを、そのパーツ・リストから組くみ立たてようとするようなもので、不可能ふかのうだ。一部いちぶの合成ごうせい生物せいぶつ学がくの研究けんきゅう者しゃは、この壮大そうだいな計画けいかくの幻想げんそうを抱だいているが、我々われわれの目標もくひょうはそれどころかほんの手前てまえにあるのだ。

こうした現実げんじつ的てきな評価ひょうかはおそらく、あのエコノミスト誌し記事きじの匿名とくめいの執筆しっぴつ者しゃに対たいして、何なんの障害しょうがいにもならないだろう。彼かれはこう不平ふへいを述のべるからである――「知しったかぶりをする連中れんちゅうは、これら研究けんきゅう者しゃたちがそのＤＮＡに仕事しごとをさせるためには、存在そんざいする虫むし（bug）の殻から（shell）を利用りようしなければならなかった、と言いってはぐらかすだろう。」

「殻から」？　しかし、おお、それは何なにという驚おどろくべき殻からであることか！　そして生命せいめいのその殻からからどんな発見はっけんが現あらわれるかわからないということ、障害しょうがいはそこにある。