Evolution News & Views

『ジャンクＤＮＡ神話しんわ』出版しゅっぱん後ごの新あたらしい科学かがく論文ろんぶんは、すべてウエルズの観点かんてんを確証かくしょうしている

Casey Luskin
July 15, 2011

『ジャンクＤＮＡ神話しんわ』の中なかでJonathan Wellsは、「何なにであれ、ある生物せいぶつの特性とくせいが機能きのうを持もたないと想定そうていすれば、それ以上いじょう研究けんきゅうは進すすまないことになる。この点てんで〈ジャンクＤＮＡ〉という神話しんわはサイエンス・ストッパーになってしまった」と予言よげんした（p.107）。最近さいきんの研究けんきゅう文献ぶんけんは、このウエルズの観点かんてんを圧倒的あっとうてきに確証かくしょうしており、ジャンクＤＮＡという神話しんわにしがみついている進化しんか科学かがく者しゃは、次々つぎつぎと科学かがく刊行かんこう物ぶつから拒否きょひされている。

私わたしたちは以前いぜん、雑誌ざっし「ＲＮＡ」の2011年ねん5月がつ号ごうに載のった、ニセ遺伝子いでんしの機能きのうを報告ほうこくする論文ろんぶんをここで取とり上あげた――

ニセ遺伝子いでんしは長ながいこと「ジャンク」ＤＮＡと呼よばれ、ゲノムの進化しんか途上とじょうで起おこる遺伝いでん　　子こコピーのミスによるものとされてきた。しかし最近さいきんの研究けんきゅう成果せいか はこのあだ名なが間違まちがっていることを証明しょうめいしつつある。ニセ遺伝子いでんしのあるものは現げんに、タンパク質たんぱくしつをコードする彼かれらの兄弟きょうだいたちを制御せいぎょする潜在せんざい能力のうりょくを持もっているようだ。もの言いわぬ 遺物いぶつどころか、多おおくのニセ遺伝子いでんしはＲＮＡに転写てんしゃされ、あるものはその組織そしき独特どくとくの活性かっせい化かのパターンを示しめしている。ニセ遺伝子いでんしの転写てんしゃ 物ぶつは、ＲＮＡi 経路けいろを通つうじてコードする遺伝子いでんしを制御せいぎょする、短みじかい干渉かんしょうＲＮＡへと加工かこうされることがある。また別べつ の注目ちゅうもくすべき発見はっけんでは、ニセ遺伝子いでんしは、マイクロＲＮＡオトリ(decoy)として働はたらくことによって、腫瘍しゅよう抑制よくせい遺伝子いでんしと発はつガン遺伝子いでんしを制御せいぎょすることができることが分わかった。ガンが進行しんこうしている間あいだ、ニセ遺伝子いでんしはしばしば制御せいぎょ機能きのうを奪うばわれるという発見はっけんは、ニセ遺伝子いでんしの機能きのうの真しんの範囲はんいのさらに深ふかい研究けんきゅうの意義いぎを保証ほしょうする。この論文ろんぶんでは我々われわれは、ニセ遺伝子いでんしがコードする遺伝子いでんしにどのような影響えいきょうを与あたえるかを説明せつめいし、正常せいじょうな細胞さいぼうの制御せいぎょに役立やくだつ、ますます複雑ふくざつになっていくノン・コーディングＲＮＡ網もうにおける、ニセ遺伝子いでんしの役割やくわりを探さぐる。

(Ryat Charles Pink, Kate Wicks, Daniel Paul Caley, Emma Kathleen Punch, Laura Jacobs, and David Paul Francisco Carter,“Pseudogenes: Pseudo-functional or key regulators in health and disease?”RNA, Vol. 17:792-798(2011)強調きょうちょう引用いんよう者しゃ)

別べつの2011年ねん5月がつの論文ろんぶんは、ＤＮＡにおける内うち生せい的てきレトロウィルス遺伝子いでんしを含ふくむ反復はんぷく遺伝子いでんしの、無む機能きのう性せいを想定そうていすることに警告けいこくを発はっしている――

哺乳ほにゅう動物どうぶつのレトロトランスポゾン、すなわち、あるＲＮＡを介かいして加工かこうされる転移てんい可能かのうな遺伝子いでんしは、短みじかい所々ところどころに配置はいちされる遺伝子いでんし（ＳＩＮＥ）、長ながい所々ところどころに配置はいちされる遺伝子いでんし（ＬＩＮＥ）、内うち生せい的てきレトロウィルスを含ふくむ長ながい終末しゅうまつ反復はんぷくレトロ遺伝子いでんし（ＬＴＲ）として種類しゅるい分わけされる。転移てんい可能かのう遺伝子いでんしの自律じりつ的てき増殖ぞうしょく能力のうりょくは、利己りこ的てきあるいはジャンクＤＮＡという当初とうしょの性格せいかく付づけの動機どうきとなった。しかし現在げんざい分わかってきたことは、それらはあるゲノム内ないで特定とくていの細胞さいぼう機能きのうを獲得かくとくする場合ばあいがあり、宿主しゅくしゅの防衛ぼうえいメカニズムに深ふかくかかわっているということである。
(G.C.Ferreri, J.D.Brown, C.Obergfell, N.Jue, C.E.Finn, M.J.O’Neill, R.J.O’Neill, “Recent amplification of the kangaroo endogenous retrovirus, KERV,limited to the centromere,”Journal of Virology, Vol.85(10):4761-71.　(May,2011)強調きょうちょう引用いんよう者しゃ)

この論文ろんぶんはさらに、カンガルーの内うち生なまレトロウィルス（ＫＥＲＶ）の機能きのうを暗示あんじする発現はつげんパターンを報告ほうこくしている――「ＫＥＲＶの配列はいれつの保存ほぞん、持続じぞくして現あらわれること、centromere（動どう原げん体からだ）への局地きょくち化か、synteny（ゲノム間あいだでの遺伝子いでんし相しょう同どう）が破やぶられること、そして有ゆう袋ふくろ類るいにほとんど一様いちように配分はいぶんされていることは、それがこれまでに観察かんさつされたＥＲＶとは違ちがうことを明あきらかにしている。」

2010年ねん末まつのいくつかの論文ろんぶんもまた、「ジャンクＤＮＡ」という考かんがえ方かたが成なりたないことを示しめしている。論文ろんぶんの一ひとつは、反復はんぷくＤＮＡを「ジャンクＤＮＡ」と呼よぶことはもはや適当てきとうでないと言いっている――

真ま核かく生物せいぶつのゲノムの近年きんねんの高たかい配列はいれつ処理しょり能力のうりょくは、以前いぜんにはジャンクＤＮＡと言いわれていた反復はんぷく配列はいれつの構造こうぞうと機能きのうに対たいする興味きょうみを復活ふっかつさせた。移動いどう可能かのうな遺伝子いでんしを含ふくむ反復はんぷく配列はいれつは、今いまや、ゲノムの分化ぶんかや進化しんかにおいて重要じゅうような役割やくわりを果はて たしていると信しんじられている。
(Motonori Tomita,“Revolver and Superior: Novel Transposon-Like Gene Families 　of the Plant Kingdom,”Current Genomics, Vol.11:62-69 (2010))

もちろんここで進化しんかにおける「役割やくわり」を果はて たすと言いっているのは、反復はんぷく配列はいれつが、自然しぜん選択せんたくによって残のこされるであろう有用ゆうような機能きのうを果はて たすということである。この論文ろんぶんはさらにこう言いう――

これらの反復はんぷく領域りょういきはさまざまなゲノムの70％以上いじょうを占しめるのに、しばしばジャンクＤＮＡと呼よばれている。ＤＮＡ配列はいれつ決定けっていの高たかい処理しょり能力のうりょくの出現しゅつげんにより、移動いどう可能かのうな遺伝子いでんしが、ほとんどの真ま核かく生物せいぶつゲノムの反復はんぷくＤＮＡ要素ようその、高たかい割合わりあいを占しめることが明あきらかになった。すなわち人間にんげんゲノムの少すくなくとも45％、ある種しゅの草くさのゲノムの50-80％、・・・ゲノムのかなりの割合わりあいが、制御せいぎょ機能きのうをもつノン・コーディングＲＮＡとして表あらわれ、そのあるものは移動いどう可能かのうな要素ようそから再さい構成こうせいされる。

このように、人間にんげんや草くさや他たのゲノムの膨大ぼうだいな部分ぶぶんが、このコードしない反復はんぷくＤＮＡの機能きのうを研究けんきゅうすることなしには理解りかいできないのである。

2010年ねんの別べつの論文ろんぶんも同様どうようの見解けんかいを述のべている――

ゲノムの移動いどう可能かのうな遺伝子いでんし、すなわちトランスポゾンは、ゲノムの内部ないぶで異ことなった場ば　所ところへ移動いどうできるＤＮＡ配列はいれつである。この過程かていで、それらは染色せんしょく体たいを再さい配列はいれつし、また遺伝子いでんし表出ひょうしゅつに変化へんかを起おこさせることができる。多おおくの種たねのゲノムにおいてそれらが優勢ゆうせいであるにもかかわらず、それらの機能きのうはほとんど未知みちのままで、そのためにそれらは「ジャンク」ＤＮＡと呼よばれてきた。・・・この論文ろんぶんが提出ていしゅつするのはトランスポゾンの生物せいぶつ学がく的てき役割やくわりについての新あたらしい仮説かせつである。この仮説かせつでは、発生はっせい途上とじょうにおける体からだ細胞さいぼうの移動いどうが細胞さいぼうの分化ぶんかの駆動くどう力りょくとなり、生殖せいしょく細胞さいぼうの移動いどうは進化しんかを促うながす不可欠ふかけつの手段しゅだんである。したがって移動いどう可能かのうな要素ようそは、「ジャンク」であるどころか、多た細胞さいぼう生物せいぶつにおいて最もっとも重要じゅうような役割やくわりの一ひとつを担になっている。
(Alssandro Fontana, “A hypothesis on the role of transposons,”BioSystems, Vol. 101:187-193(September,2010) 強調きょうちょう引用いんよう者しゃ)

フォンターナ論文ろんぶんはさらに言いう――

トランスポゾンはゲノムの大おおきな部分ぶぶんを占しめる（哺乳類ほにゅうるいで30-40％）。このような見みかけ上じょう役立やくだたない部分ぶぶんが大量たいりょう に存在そんざいすることから、当初とうしょ、研究けんきゅう者しゃはこれを「ジャンクＤＮＡ」と呼よんだが、研究けんきゅうが進すすむにつれて、それは大おおきな生物せいぶつ学がく的てき役割やくわりをもつらしいことが分わかってきた。

だから、コードしないＤＮＡはジャンクだと仮定かていしてきた人々ひとびとは、「生物せいぶつ学がくにおける最もっとも重要じゅうような役割やくわりの一ひとつ」を果はて たしている哺乳類ほにゅうるいのＤＮＡの、30-40％を見逃みのがしてきたかもしれないことになる。これこそまさにサイエンス・ストッパーである。

最後さいごに、2010年ねん後半こうはんのある論文ろんぶんは、「ジャンクＤＮＡ」の機能きのうの研究けんきゅうは、重要じゅうような医学いがく的てき応用おうようの可能かのう性せいをもつと言いっている――

かつて「ジャンクＤＮＡ」と考かんがえられていたものが、現在げんざいでは、多おおくの新あたらしい遺伝子いでんし制御せいぎょメカニズム解明かいめいの鍵かぎを握にぎっている。そしてこれらの領域りょういきの遺伝子いでんしの変化へんかが、おそらく発病はつびょうし易やすさの主要しゅような部分ぶぶんを説明せつめいする。最近さいきんまで、タンパク質たんぱくしつをコードしないノン・コーディングＤＮＡと発病はつびょう学がくを結むすびつける生化学せいかがく的てきメカニズムは、ほとんど知しられていなかった。しかし病気びょうきの診断しんだんと患者かんじゃの治療ちりょう法ほうを変かえる可能かのう性せいのあるこの領域りょういきの新あたらしい情報じょうほうが、奔流ほんりゅうのごとく現あらわれつつある。
(Kasey C.Vickers, Brian T.Palmisano, and Alan T.Remaley,“The Role of Noncoding ‘Junk DNA’in Cardiovascular Disease,”Clinical Chemistry, Vol.56(10): 　　　　　　1518-1520 (2010)強調きょうちょう引用いんよう者しゃ)　

ノン・コーディングＤＮＡが重要じゅうような機能きのうをもっているのだから、ジャンクＤＮＡの機能きのうを探究たんきゅうしないことは、医学いがく研究けんきゅう者しゃに病気びょうきの重要じゅうような原因げんいんを見逃みのがさせることになるだろう。この論文ろんぶんは、ノン・コーディングＤＮＡの機能きのうを研究けんきゅうすれば、心臓しんぞう血管けっかんの病気びょうきの原因げんいんを理解りかいするのに役立やくだつことを示唆しさしている。

同おなじような論文ろんぶんのリストを作つくろうとすればキリがない。しかし共通きょうつう して言いえることはこういうことだ――話題わだいがニセ遺伝子いでんしであれ、ＥＲＶ（内うち生せいレトロウィルス）であれ、トランスポゾンであれ、他たの反復はんぷく遺伝子いでんしであれ、ノン・コーディングＤＮＡが「ジャンク」だという想定そうていは、生物せいぶつ学がくと医学いがくの研究けんきゅうの発達はったつを妨さまたげるものである。