アリの巣すをめぐる冒険ぼうけん　昆虫こんちゅう分類ぶんるい学がくの果はてなき世界せかい

アリに乗のる！ 餌えさをねだる!! アリを食たべる!!!
アリの巣すの居候いそうろう、キミらは一体いったい何者なにものだ？

アリの行列ぎょうれつをじっと眺ながめていると、アリ以外いがいの生いき物ものが何なに食くわぬ顔かおで混まじっていることがある。
アリの巣すにはさまざまな昆虫こんちゅうが居候いそうろうしているのだ。
そんな好こう蟻あり性せい昆虫こんちゅうに魅みせられて、昆虫こんちゅう分類ぶんるい学がくの見地けんちから研究けんきゅうを続つづける著者ちょしゃ。
居候いそうろうたちの正体しょうたいとは？ どんな目的もくてきで棲すんでいる？ アリはなぜ居候いそうろうを追おい払はらわないのか？
そこには驚おどろくほど多様たような、虫むしたちの生存せいぞん戦略せんりゃくがあった。
まだ誰だれも見みたことのないすごい虫むしを見みつけたい――
世界中せかいじゅうの森もりの地面じめんに這はいつくばって挑いどんだ汗あせと忍耐にんたいと興奮こうふんの冒険ぼうけんを、若わかき昆虫こんちゅう学者がくしゃが綴つづった名著めいちょの新装しんそう版ばん。

●新種しんしゅを見みつけたら、どこにどうやって発表はっぴょうするのか
●100年ねん前まえの昆虫こんちゅう標本ひょうほん（体長たいちょう数すうミリ）をお湯ゆでもどして解剖かいぼう
●命名めいめいは慎重しんちょうに。一度いちどつけた学名がくめいは変更へんこうできない
●珍奇ちんきな姿すがたで大人気だいにんきのツノゼミもアリと共生きょうせい
●虫むし探さがしの道中どうちゅうでヒトの遺体いたいまで発見はっけん
●狙ねらいの虫むしを採とる過程かていは推理すいり小説しょうせつに似にている
●「かっこいい研究けんきゅう」とはどういうものか など

新書しんしょ版ばんまえがき

　本書ほんしょの原著げんちょは、東海大学とうかいだいがく出版しゅっぱん会かい（現在げんざいは東海大学とうかいだいがく出版しゅっぱん部ぶ）の「フィールドの生物せいぶつ学がく」シリーズの一いち冊さつとして、「未踏みとうの調査ちょうさ地ちは足下あしもとに」の副題ふくだいをつけて、2012年ねんに初版しょはんが出版しゅっぱんされたものである。

　それから12年ねんがたち、私わたしも50歳さいを迎むかえる。人生じんせいの折おり返かえし地点ちてんもとうにすぎ、研究けんきゅう者しゃとしては残のこすところ十じゅう数すう年ねん、長ながくてせいぜい20年ねんだろう。記憶きおく力りょくも衰おとろえ、研究けんきゅうの終おわりを意識いしきする年齢ねんれいとなった。

　今回こんかい、東海大学とうかいだいがく出版しゅっぱん部ぶと幻冬舎げんとうしゃのご厚意こういにより、原著げんちょを新書しんしょ版ばんとして出版しゅっぱんできる機会きかいに恵めぐまれた。読よみ返かえすと何なんとも恥はずかしい部分ぶぶんもあるのだが、こんなに元気げんきだったのかという感慨かんがい深ふかさもある。当時とうじより多少たしょうとも視野しやは広ひろがり、優秀ゆうしゅうな学生がくせいたちに鍛きたえられて、研究けんきゅうをもっと楽たのしめるようになったが、視野しやならぬ視力しりょくは衰おとろえ、何なにより体力たいりょくは落おちた。

　また、研究けんきゅうをとりまく状況じょうきょうも変かわった。私わたしが学生がくせいだったころは、論文ろんぶん数すうや研究けんきゅう費ひの面めんで、日本にっぽんの研究けんきゅうが活発かっぱつな時代じだいのピークだったそうだ。それが現在げんざいでは、大学だいがくや博物館はくぶつかんなど、研究けんきゅう施設しせつの予算よさんは軒並のきなみ削けずられ、教授きょうじゅたちは雑用ざつように振ふり回まわされ、研究けんきゅうもままならないという状況じょうきょうに変かわった。もちろん、それによって日本にっぽんの研究けんきゅう力りょくが目めも当あてられないほど下さがったのは各種かくしゅ報道ほうどうにあるとおりである。

　また、昆虫こんちゅうに関かんしては、さまざまな法ほう規制きせいが増ふえ、たとえば沖縄おきなわ県けんや鹿児島かごしま県けんの島々しまじま（南西諸島なんせいしょとう）では、多おおくは科学かがく的てきに根拠こんきょのない規制きせいにより、まともに調査ちょうささえできなくなりつつある。

　外国がいこくでも、熱帯ねったい雨林うりんを擁ようする東南とうなんアジアや中南米ちゅうなんべい諸国しょこくでは、生物せいぶつ資源しげんに対たいする権利けんり（生物せいぶつ由来ゆらいの薬品やくひん開発かいはつの可能かのう性せいなど、生物せいぶつの持もつ価値かち）に関連かんれんし、昆虫こんちゅう採集さいしゅうそのものや国外こくがいへの持もち出だし、さらには研究けんきゅうさえも難むずかしくなりつつある。そこへきて気候きこう変動へんどうや農薬のうやくの使用しよう、過剰かじょうな開発かいはつなどにより、世界せかい的てきに昆虫こんちゅうが減少げんしょうし、せっかく採集さいしゅうに行いっても、わずかな数かずしか見みつからないことも多おおくなった。決けっして大おおげさではなく、充分じゅうぶんな調査ちょうさ研究けんきゅうができぬまま、多おおくの昆虫こんちゅうが人知ひとしれず絶滅ぜつめつに向むかっているという恐おそろしい状況じょうきょうにある。

　しかしそれでも、まだまだ研究けんきゅうには夢ゆめが残のこっていると私わたしは思おもう。とにかく昆虫こんちゅう（もちろん、ほかの生いきものも）はわからないことだらけで、わくわくするような発見はっけんが無限むげんにある。実際じっさい、学生がくせいたちは目めを輝かがやかせて研究けんきゅうをしているし、私わたし自身じしん、とても楽たのしい研究けんきゅう生活せいかつを送おくっていることには変かわりない。昔むかしがよかったという点てんは間違まちがいなくあるが、今いまさらそれを嘆なげいても仕方しかたない。

　情報じょうほうにあふれ、研究けんきゅう技術ぎじゅつが発達はったつした今いまだからこそできることもたくさんある。制約せいやくのなかで可能かのうなことだけでも、楽たのしいことはいっぱいあるのだ。そして何なにより、私わたしたちがおこなっている研究けんきゅうは、失うしなわれつつある生物せいぶつ多様たよう性せいへの理解りかいという点てんで、どんな些細ささいな記録きろくであっても、ますますその重要じゅうよう性せいが高たかまっている。

　本書ほんしょは分類ぶんるい学がくという一いち基礎きそ研究けんきゅうにおける、若手わかて研究けんきゅう者しゃの記録きろくである。
　12年ねん前まえに原著げんちょを書かいた時ときには、読者どくしゃとして後進こうしんの若者わかものを意識いしきした。それはもちろんそのままとして、読よみ返かえして今いま思おもうのは、何なにかと暗くらい話題わだいが多おおい昨今さっこん、楽たのしそうな研究けんきゅう者しゃを傍はたから見みて、それを面白おもしろがってくれる人ひとがいたらという気持きもちである。

　当時とうじの表現ひょうげんはできるだけそのままにしたが、原著げんちょで内容ないようがわかりにくい部分ぶぶんは適宜てきぎ補足ほそくあるいは訂正ていせいした。研究けんきゅう成果せいかがその後ご出でたものについては、必要ひつように応おうじて新書しんしょ版ばん注ちゅうを加くわえ、本書ほんしょの最後さいごでも近況きんきょうを紹介しょうかいしている。個人こじん名めいや所属しょぞくに関かんしては、人ひとによっては立場たちばも変かわった場合ばあいもあり、近年きんねんの個人こじん情報じょうほうに関かんする扱あつかいも尊重そんちょうしつつ、一部いちぶ変更へんこうあるいは削除さくじょした。また、12年ねんという歳月さいげつの間あいだ、交流こうりゅうのあった著名ちょめい研究けんきゅう者しゃのなかには亡なくなった方ほうもおり、没年ぼつねんを追加ついかした。

目次もくじ

新書しんしょ版ばんまえがき
まえがき

第だい1章しょう 好こう蟻あり性せい昆虫こんちゅう学がくことはじめ　

アリクイエンマムシの発見はっけん
アリクイエンマムシの発見はっけん
ハネカクシの世界せかいの門もんを叩たたく
好こう蟻あり性せい昆虫こんちゅうの分類ぶんるい学がくアリの巣すをめぐって、名なもなき虫むしを見みつける
分類ぶんるい学がくの研究けんきゅうをはじめる
〈コラム〉分類ぶんるい学がくは科学かがくかという議論ぎろん
旧きゅう北きた区くのクサアリハネカクシ
好こう蟻あり性せい昆虫こんちゅうからアリへ

第だい2章しょう アリの行列ぎょうれつの百鬼夜行ひゃっきやこう

新しん属ぞく、また新しん属ぞく　
〈コラム〉属ぞくってなんだろう　
ヒメサスライアリを探さがせ　
歩道ほどうの掃除そうじから　
〈コラム〉痛いたい虫むし、いやな虫むし　
軍隊ぐんたいアリ化か現象げんしょう　
〈コラム〉ワズマン型がた擬態ぎたい　
ランビル国立こくりつ公園こうえんのハネカクシ
〈コラム〉よいこの標本ひょうほん作製さくせい　
何なにもかもが未知みちだったタイ　
〈コラム〉ついでになんでも採とって喜よろこぶ　
マレまれー半島はんとうの決着けっちゃく　
〈コラム〉採集さいしゅうの神器じんぎ　
グンタイアリを求もとめて　
〈コラム〉採集さいしゅう時じの服装ふくそう

第だい3章しょう 研究けんきゅうの枝葉えだはを伸のばす

日本にっぽんのアリスアブ相しょう　
アリヅカコオロギと小松こまつ君くん　
愛いとしきヒゲブトオサムシ　
〈コラム〉最近さいきんの発見はっけん １　
ツノゼミへの興味きょうみ　
シロアリの巣すもめぐる　
〈コラム〉最近さいきんの発見はっけん ２　
マンマルコガネと熱帯ねったいの法則ほうそく　
悩なやみを抱かかえて海岸かいがんへ
本当ほんとうの生物せいぶつ多様たよう性せい未踏みとうの地ちはどこに　

第だい4章しょう 冒険ぼうけんは続つづく

三みつ子ごの魂たましいと進路しんろ　
生いき物もの漬づけ生活せいかつ　
〈コラム〉びっくり３選せん　
〈コラム〉採集さいしゅう法ほうの奥深おくふかさ　
虫むしと青春せいしゅん　
〈コラム〉在野ざいや研究けんきゅう者しゃと職業しょくぎょう研究けんきゅう者しゃ　
生いき物ものの多様たよう性せいのすばらしさを伝つたえたい

［新書しんしょ版ばん追記ついき］アリの巣すをめぐる　その後ごの冒険ぼうけん

あれから12年ねん　
その後ごの活動かつどう　
いくつかの研究けんきゅう成果せいか　

新書しんしょ版ばんあとがき

幻冬舎げんとうしゃplusにて関連かんれん情報じょうほうを公開こうかい中ちゅう！

• 人気にんき昆虫こんちゅう学者がくしゃ、初はじめての新種しんしゅ発見はっけん！アリクイエンマムシとの運命うんめいの出会であい
• それは本当ほんとうに新種しんしゅなのか？人気にんき昆虫こんちゅう学者がくしゃが語かたる新種しんしゅ記載きさいの難むずかしさ
• 針はりに刺させない数すうミリの大おおきさの虫むしをどうやって標本ひょうほんにするのか？そこには驚おどろきの方法ほうほうがあった

著者ちょしゃインタビュー

• アリに乗のる、餌えさをねだる、アリを食たべる！ 昆虫こんちゅう学者がくしゃが教おしえる「アリの巣すに居候いそうろうする昆虫こんちゅう」の意外いがいな正体しょうたい

• コップいっぱいにミミズを入いれても怒おこられなかった…人気にんき昆虫こんちゅう学者がくしゃの両親りょうしんが「絶対ぜったいにやらなかったこと」