総務そうむ省しょうはなぜ「分離ぶんりプラン」を徹底てっていさせたいのか？　電気でんき通信つうしん事業じぎょう部長ぶちょうに聞きく（1/3 ページ）

[田中たなか聡さとし，ITmedia]

　通信つうしん料金りょうきんと端末たんまつ代金だいきんを分わけた「分離ぶんりプラン」が、2019年ねんのモバイル業界ぎょうかいを大おおきく変かえようとしている。分離ぶんりプランでは、通信つうしん契約けいやくを伴ともなう端末たんまつ代金だいきんの割引わりびきや、端末たんまつ購入こうにゅうに伴ともなう通信つうしん料金りょうきんの割引わりびきが禁止きんしとなるため、ドコモの「月々つきづきサポート」、auの「毎まい月割つきわり」、ソフトバンクの「月つき月割つきわり」といった端末たんまつ購入こうにゅう補助ほじょは提供ていきょうできなくなる。

　この分離ぶんりプランを推進すいしんしているのが総務そうむ省しょうだ。同省どうしょうが2018年ねん11月に発表はっぴょうした「モバイルサービス等とうの適正てきせい化かに向むけた緊急きんきゅう提言ていげん」で、分離ぶんりプランの必要ひつよう性せいを訴うったえ、この内容ないようを盛もり込こんだ「電気でんき通信つうしん事業じぎょう法ほうの一部いちぶを改正かいせいする法律ほうりつ案あん」を、2019年ねん3月がつ5日にちに国会こっかいへ提出ていしゅつ。つまり分離ぶんりプランを法律ほうりつで義務ぎむ化かしようというのだ。

• →総務そうむ省しょうが緊急きんきゅう提言ていげん　通信つうしん料りょうと端末たんまつ代だいの完全かんぜん分離ぶんりを要請ようせい　代理だいり店てんの在あり方かたにもメス
• →端末たんまつ割引わりびきはOK、docomo withはNG　「完全かんぜん分離ぶんりプラン」の中身なかみを整理せいりする

　NTTドコモは2019年度ねんど第だい1四半期しはんきに、分離ぶんりプランを軸じくにした新あらたな料金りょうきんプランを発表はっぴょうする予定よていで、2〜4割わりの値下ねさげを予告よこくしている。KDDIとソフトバンクは、既すでに分離ぶんりプランを提供ていきょうしているが、ドコモの動うごき次第しだいで料金りょうきんプランを改定かいていする可能かのう性せいが高たかい。

　法律ほうりつで義務ぎむ化かしてまで徹底てっていさせたい分離ぶんりプランの狙ねらいはどこにあるのか？　本当ほんとうにユーザーにとってメリットのある施策しさくなのか？　総務そうむ省しょう 総合そうごう通信つうしん基盤きばん局きょく 電気でんき通信つうしん事業じぎょう部長ぶちょうの秋本あきもと芳徳よしのり氏しに疑問ぎもんをぶつけた。

完全かんぜん分離ぶんりプランで「抜ぬけ」をなくしたい

――　緊急きんきゅう提言ていげんから法ほう改正かいせい案あん提出ていしゅつに至いたった狙ねらいをあらためて教おしえてください。

秋本あきもと氏し　緊急きんきゅう提言ていげんをとりまとめていただいた意義いぎは、モバイル市場いちばの競争きょうそう阻害そがい行為こういをあらためてあぶり出だしていただき、禁止きんし行為こうい規制きせいを導入どうにゅうすることによって、通信つうしんサービスと端末たんまつの競争きょうそう環境かんきょうを整ととのえることです。緊急きんきゅう提言ていげんであらためて整理せいりいただき、法案ほうあんの形かたちでまとめて国会こっかいに提出ていしゅつしたことは、意義いぎが大おおきいと思おもいます。

――　改正かいせい法案ほうあんでは「完全かんぜん分離ぶんりプラン」という言葉ことばが出でていますが、「完全かんぜん」にはどんな意味いみが込こめられているのでしょうか？

秋本あきもと氏し　「抜ぬけがないように」ということですね。

――　例たとえば、どんな「抜ぬけ」が想定そうていされますか？

秋本あきもと氏し　現行げんこう法ほうのもとでは、行いきすぎた端末たんまつ購入こうにゅう補助ほじょを通信つうしんキャリアが行おこなった場合ばあい、ガイドラインに沿そって業務ぎょうむ改善かいぜん命令めいれいの対象たいしょうになり得えますが、対象たいしょうは通信つうしんキャリアです。別べつの主体しゅたい、例たとえば販売はんばい代理だいり店てんさんが、独自どくじに端末たんまつ購入こうにゅう補助ほじょをする場合ばあいは、業務ぎょうむ改善かいぜん命令めいれいの対象たいしょうにはなりません。

　また、期間きかん拘束こうそくの有無うむによって料金りょうきん水準すいじゅんが違ちがう、違約いやく金きんの水準すいじゅんが高たかすぎるという問題もんだいもあります。これに対たいして、どういう場合ばあいに業務ぎょうむ改善かいぜん命令めいれいをするのかは必かならずしも明確めいかくではありませんでした。

　通信つうしん契約けいやくとひも付ついた端末たんまつ代金だいきんの割引わりびきに加くわえ、行いきすぎた期間きかん拘束こうそくについても禁止きんし行為こういの対象たいしょうとし、禁止きんし行為こうい規制きせいに反はんした場合ばあいは業務ぎょうむ改善かいぜん命令めいれいもあり得える。それは通信つうしんキャリアだけではなく、販売はんばい代理だいり店てんも対象たいしょうとします。

――　販売はんばい代理だいり店てんに届出とどけで制度せいどを導入どうにゅうする狙ねらいについても教おしえてください。

秋本あきもと氏し　端末たんまつ販売はんばいだけでなく、勧誘かんゆうの仕方しかたについても改善かいぜん（すべき）点てんが見みられるので、事業じぎょう者しゃの名称めいしょうを告つげずに勧誘かんゆうすること、目的もくてきを告つげずに勧誘かんゆうすることを禁止きんしするためです。そういう規律きりつも法案ほうあんに盛もり込こんでいます。これは通信つうしんキャリアと販売はんばい代理だいり店てん双方そうほうが対象たいしょうになります。

　私わたしども行政ぎょうせいは個々ここの代理だいり店てんさんのことを直接ちょくせつは把握はあくしていませんので、販売はんばい代理だいり店てんに対たいしてもこうした規制きせいを徹底てっていするには、届出とどけで制せいにして、私わたしどもが直接ちょくせつ確認かくにんさせていただく必要ひつようがあると考かんがえました。

端末たんまつ購入こうにゅうによって料金りょうきんが変かわるのは不公平ふこうへい

――　端末たんまつ代金だいきんと通信つうしん料金りょうきんが一体いったいとなったプランは「分わかりにくい」という指摘してきがあったことも大おおきかったのですか。

秋本あきもと氏し　有識者ゆうしきしゃ会議かいぎで、独禁法どっきんほうや競争きょうそう政策せいさくを専門せんもんとされている方ほうからは、「分わかりにくくすることが、独占どくせん、寡占かせんに向むけての1つのやり方かたなんだ」という指摘してきがありました。シンプルにすることによって、一般いっぱん消費しょうひ者しゃが容易よういに複数ふくすう事業じぎょう者しゃの通信つうしん料金りょうきん水準すいじゅんを比較ひかくできる。端末たんまつについても比較ひかくできるようにする。「自分じぶんが何なににいくら払はらっているのかを分わかりやすくすることは、競争きょうそうを促進そくしんさせる」という指摘してきもいただきました。

　消費しょうひ者しゃ団体だんたいからご指摘してきいただいていたのは「不公平ふこうへいじゃないか」ということ。同おなじ通信つうしんキャリアが提供ていきょうするデでータ通信たつうしん容量ようりょう、月つきあたり5GBなら、同おなじ5GBのプランであるにもかかわらず、購入こうにゅうする端末たんまついかんで料金りょうきん水準すいじゅんが異ことなる。端末たんまつを買かい替かえない長期ちょうき利用りよう者しゃほど通信つうしん料金りょうきんの水準すいじゅんが高たかい。それは不公平ふこうへいで分わかりにくいというのが、今いまの料金りょうきんプランの課題かだいです。事業じぎょう者しゃごとにコスト構造こうぞうが違ちがうのは当然とうぜんですが、同おなじ事業じぎょう者しゃのデータ容量ようりょうのプランなのに料金りょうきんが違ちがうのは、なぜなのかと。

――　ユーザーには端末たんまつを買かい替かえる選択肢せんたくしはあります。機種きしゅ変更へんこうをしない人ひとは、それもユーザーが選えらばなかった結果けっかだから、いいじゃないか、という意見いけんもあります。

秋本あきもと氏し　割引わりびきを誰だれがするのか？　割引わりびきの原資げんしは何なになのか？　ということです。割引わりびきをするのが主しゅとして通信つうしんキャリアさんで、その原資げんしが、頻繁ひんぱんに買かい替かえない人ひとからの料金りょうきんも含ふくめた通信つうしん料金りょうきん収入しゅうにゅう全体ぜんたいだとすると、端末たんまつの買かい替かえ需要じゅように依存いぞんしたビジネスモデルです。

　有識者ゆうしきしゃの中なかには「キャリアは通信つうしん事業じぎょう者しゃと端末たんまつ販売はんばいのどちらに力点りきてんを置おいているのか？」という声こえがありました。不公平ふこうへいで分わかりにくい料金りょうきんプランで、キャリアを乗のり換かえようと思おもってもタイミングが限定げんていされる。期間きかん拘束こうそくの有無うむで料金りょうきん水準すいじゅんが大おおきく違ちがう結果けっか、ずっと1事業じぎょう者しゃと契約けいやくし続つづけてしまう。乗のり換かえのチャンスがなくなるという点てんが、阻害そがい行為こういだという指摘してきがありました。