「ここは削けずる／ふくらませる」の判断はんだん基準きじゅんって？原作げんさく小説しょうせつを再さい構成こうせいするコミカライズの仕事しごとについて

もともとオリジナルの企画きかくを抱かかえていたものの行いき詰づまってしまい、当時とうじの担当たんとう編へん集しゅうさんに「勉強べんきょうのためにコミカライズに挑戦ちょうせんしてみたい」とお願ねがいしているところでした。その後ご、編集へんしゅうさんがいくつか原作げんさくを紹介しょうかいしてくださった中なかで、『アクアク』の「悪役あくやく令嬢れいじょうと悪役あくやく令息れいそくのケンカップル」というキャッチーな設定せっていに惹ひかれ、コミカライズを担当たんとうさせていただくことになりました。

特とくにネームですね。各かく要素ようその取捨選択しゅしゃせんたく、ストーリーの組くみ立たて方かた、読者どくしゃを飽あきさせないページ構成こうせいなど学まなぶことばかりです。お話はなしづくりに苦手にがて意識いしきを持もっている人ひとは、コミカライズに一いち度ど挑戦ちょうせんしてみるとすごく勉強べんきょうになると思おもいます。

コミカライズはもちろん、連載れんさいも商業しょうぎょう誌しも何なにもかも初はじめてだったので、つまずきまくったのが正直しょうじきなところです（笑）。最初さいしょ、原作げんさくをそのまま順番じゅんばんにマンガに置おき換かえたようなネームを提出ていしゅつして、「ゴチャついてしまっている」と全ぜんボツをくらってしまいました。

原作げんさくの内容ないようを逐一ちくいち再現さいげんするようなコミカライズだと、「マンガとしてのおもしろさ」が成立せいりつしないんだと思おもいます。小説しょうせつはモノローグが使つかえるので、キャラの心情しんじょうを細ささやかに伝つたえることができます。マンガは小説しょうせつほど文章ぶんしょうで細こまかく説明せつめいすることはできませんが、代かわりに絵えでバンと見みせることができるのが魅力みりょくです。そのように形式けいしきが違ちがう以上いじょう、マンガだからこその見みせ方かたというのを意識いしきしないといけません。

初代しょだい編集へんしゅうさんとは「第だい3話わまでが難むずかしそうだ」と話はなし合あっていました。というのも、ブリジットのバックグラウンド、「氷こおりの刃は」や「赤あかい妖精ようせい」といった用語ようごなど、説明せつめいが必要ひつような情報じょうほうがたくさんあるんです。かといって最初さいしょから全部ぜんぶ説明せつめいしようとするとゴチャゴチャしてしまうし、ユーリも早はやく登場とうじょうさせたい。なので、「最初さいしょに説明せつめいしておくべきこと／あとから説明せつめいするのでも大丈夫だいじょうぶなこと」を整理せいりし、何なにをどう削けずるか編集へんしゅうさんとみっちり打うち合あわせしました。

はっきり言葉ことばでアドバイスされたわけではありませんが、打うち合あわせを通とおして、「おもしろさの核かくをまず決きめて、そこを前面ぜんめんに押おし出だすために削けずれるところは全部ぜんぶ削けずる潔いさぎよさが大切たいせつなんだ」というのはなんとなく感かんじ取とりました。第だい一いちの読者どくしゃである編集へんしゅうさんが読よんでいてストレスに感かんじた箇所かしょは思おもい切きってバッサリ削けずってしまうほうが良よい結果けっかに繋つながります。初はじめは「なるべく原作げんさく通どおりに描えがかなければ」と思おもっていましたが、マンガとしてのおもしろさをしっかり立たたせることが大事だいじなんだと途中とちゅうで考かんがえをシフトさせました。

説明せつめいすべき前提ぜんてい情報じょうほうがいろいろあるので第だい3話わまでは大変たいへんでしたが、第だい4話わ以降いこうはわりとスムーズに取とり組くめています。なので今いまは、プロットを立たてて、ネームを描えがいて……という一般いっぱん的てきなマンガ制作せいさくの流ながれ通どおりに作業さぎょうしています。1話わにつき30ページほどなので、そのボリュームにはまって、なおかつ続つづきが気きになるようなところで原作げんさくをちょうど区切くぎれないか考かんがえます。そして「次回じかいは原作げんさくのここからここまでを描えがくエピソードにしよう」と決きめた後のちは、その範囲はんいに出でてくるセリフを全部ぜんぶ書かき出だして、どれを残のこしてどれを削けずるか取捨選択しゅしゃせんたくしつつ、その回かいのハイライトをどこに置おくかも考かんがえていきます。

そういう場合ばあいは、どこかのシーンをふくらませるようにしています。たとえば授業じゅぎょう中ちゅうにニバルの精霊せいれいが暴走ぼうそうするシーンです。原作げんさくではすぐに解決かいけつして次つぎの展開てんかいに移うつるのですが、編集へんしゅうさんに「クライマックス感かんがほしい」とリクエストされて、コミカライズではより絵え的てきにドラマチックになるよう演出えんしゅつしています。ちょっと少年しょうねんマンガっぽくできないかと意識いしきしつつ、ブリジットがニバルを抱だきしめる描写びょうしゃなどを入いれました。

編集へんしゅうさんに「ファンタジーらしい見みせ場ばと恋愛れんあいモノらしい見みせ場ばを毎まい話はなし入いれよう」と言いわれたので、そのように見みせられそうな原作げんさくのシーンはふくらませたり、特とくになければマンガで追加ついかするようにしています。一方いっぽうで、原作げんさく読者どくしゃの方々かたがたには本当ほんとうに申もうし訳わけないんですが、キャラ同士どうしの掛かけ合あいは結構けっこう削けずっています。吹ふき出だしの大おおきさや1ページあたりのコマ数すうに限界げんかいがある以上いじょう、原作げんさくの掛かけ合あいをマンガでそのまま再現さいげんしようとすると、どうしても冗長じょうちょうというか野暮やぼったい印象いんしょうになってしまうんですよね。

筆記ひっき試験しけんのところでしょうか。原作げんさく小説しょうせつは「筆記用具ひっきようぐを盗ぬすまれたブリジットが血ち文字もじで回答かいとうする」という展開てんかいでしたが、マンガだとバイオレンスな見みえ方かたになりすぎてしまうように感かんじたので、精霊せいれいブラウニーを登場とうじょうさせることにしました。『アクアク』のファンタジー感かんを効果こうか的てきに演出えんしゅつできたんじゃないかと思おもっています。

第だい11話わで登場とうじょうするコブラナイです。原作げんさく小説しょうせつで作画さくがを担当たんとうしているさらちよみ先生せんせいのキャラデザのテイストに近ちかづけたかったんですよね。さらちよみ先生せんせいはゲームのお仕事しごとをよくされていますし、ゲームに出でてくるようなミニキャラっぽいデザインにしました。かわいくできたんじゃないかと自画じが自賛じさんしています（笑）。

私わたしはもともと和風わふうの世界せかい観かんのほうに馴染なじみがあったので、あまり西洋せいようファンタジーの素養そようみたいなものがありませんでした。なので少すこしでもそういったものに触ふれて勉強べんきょうしなければと感かんじ、神戸こうべの北野きたの異人いじん館かん街がいに行いきました。あとはベタですが、映画えいがの『ハリー・ポッター』を観みました（笑）。おかげで「西洋せいようファンタジーっぽい雰囲気ふんいき」というものがなんとなくつかめたんじゃないかと感かんじます。

まずひとつは、悪役あくやく同士どうしのケンカップルというキャッチーな設定せっていです。そしてもうひとつ、私わたしは『アクアク』をブリジットの成長せいちょう物語ものがたりとして捉とらえています。ブリジットは大おおきな苦悩くのうを抱かかえていて、そこにユーリとの絆きずなやドキドキする展開てんかいが絡からんでくるのがおもしろいんですよね。ブリジットの成長せいちょうをしっかり描えがくことで、ほかの悪役あくやく令嬢れいじょうものと差別さべつ化かが図はかれるんじゃないかと考かんがえています。

ブリジットが努力どりょくと根性こんじょうで問題もんだいを解決かいけつする展開てんかいには、少年しょうねんマンガ的てきな楽たのしさがありますよね。編集へんしゅうさんとは「少年しょうねんマンガみたいな作つくりの悪役あくやく令嬢れいじょうものにしたい」と話はなしています。だからこそブリジットが乗のり越こえるべきハードルをまず設定せっていし、その課題かだいを解決かいけつする場面ばめんでは「クライマックス感かん」を演出えんしゅつするように意識いしきしています。もちろんユーリのかっこよさも大切たいせつな要素ようそなので、ユーリとのキュンとするような場面ばめんを軸じくに、ブリジットの成長せいちょうシーンを要よう所要しょよう所しょで作つくっていくイメージですね。

細こまかくメモするわけではありませんが、原作げんさく小説しょうせつの中なかで「これが今回こんかいのエピソードの軸じくになるだろう」と感かんじるセリフや場面ばめんを抽出ちゅうしゅつして、そこを軸じくに「マンガとしてのおもしろさ」に適てきした形かたちに再さい構成こうせいしています。

面倒めんどうくさいところを抱かかえたキャラが好すきなので、ジョセフですね。友人ゆうじんに「ジョセフの色気いろけが出でまくっている」と言いわれたことがあるので、描えがいていて無意識むいしきに気合きあいが入はいっているのかもしれません（笑）。物語ものがたりが進すすむにつれてジョセフのバックグラウンドも明あきらかになってくるので、なんだか作者さくしゃの力ちからが入はいっているように感かんじたら、そういうことだと察さっしてください（笑）！

大事だいじな作品さくひんをお借かりしているのだから、原作げんさく小説しょうせつに還元かんげんできるようにマンガとして少すこしでもクオリティの高たかいものを世よに出だしたいと考かんがえています。マンガを読よんでくださった方ほうがそこから原作げんさくにも興味きょうみを持もってくれるようなサイクルを作つくれたら幸さいわいです。そのためにもマンガ家かとして日々ひび勉強べんきょうして成長せいちょうしていかないとですね！