巨大きょだい地震じしんと津波つなみが世界せかい最悪さいあくクラスの原発げんぱつ事故じこを引ひき起おこした日ひから１２年ねん。われわれは今年ことし、この日ひをこれまでとは全まったく違ちがった状況じょうきょうの中なかで迎むかえることになった。

　「２０３０年代ねんだいに原発げんぱつ稼働かどうゼロを可能かのうとするよう、あらゆる政策せいさく資源しげんを投入とうにゅうする」とした民主党みんしゅとう政権せいけんの政策せいさくは、自民党じみんとう政権せいけん下かで後退こうたいしたものの、原発げんぱつ依存いぞん度どは「可能かのうな限かぎり低減ていげんする」とされていた。岸田きしだ文雄ふみお首相しゅしょうはさしたる議論ぎろんもないままこの政策せいさくを大だい転換てんかんし、原発げんぱつの最大限さいだいげんの活用かつようを掲かかげた。

　今いまなお、収束しゅうそくの見通みとおしが立たっていない悲惨ひさんな事故じこの経験けいけんと、この１２年間ねんかんで大おおきく変かわった世界せかいのエネルギーを取とり巻まく情勢じょうせいとを無視むしした「先祖返せんぞがえり」ともいえるエネルギー政策せいさくの根拠こんきょは薄弱はくじゃくで、将来しょうらいに大おおきな禍根かこんを残のこす。今年ことしの３月がつ１１日にちを、事故じこの教訓きょうくんやエネルギーを取とり巻まく現実げんじつに改あらためて目めを向むけ、政策せいさくの軌道きどう修正しゅうせいを進すすめる契機けいきとするべきだ。

　ロシアのウクライナ侵攻しんこうが一因いちいんとなったエネルギー危機ききや化石かせき燃料ねんりょう使用しようがもたらした気候きこう危機ききに対処たいしょするため、原発げんぱつの活用かつようが重要じゅうようだというのが政策せいさく転換てんかんの根拠こんきょだ。

　だが、東京電力とうきょうでんりょく福島ふくしま第だい１原発げんぱつ事故じこは、大だい規模きぼ集中しゅうちゅう型がたの巨大きょだいな電源でんげんが一瞬いっしゅんにして失うしなわれることのリスクがいかに大おおきいかを示しめした。小規模しょうきぼ分散ぶんさん型がたの再生さいせい可能かのうエネルギーを活用かつようする方ほうがこの種たねのリスクは小ちいさいし、深刻しんこく化かする気候きこう危機ききに対たいしても強靱きょうじん（きょうじん）だ。昨年さくねん、フランスでは熱ねつ波はの影響えいきょうで冷却れいきゃくができなくなり、多おおくの原発げんぱつが運転うんてん停止ていしを迫せまられたことは記憶きおくに新あたらしい。

　原発げんぱつが気候きこう危機きき対策たいさくに貢献こうけんするという主張しゅちょうの根拠こんきょも薄弱はくじゃくだ。気候きこう危機ききに立たち向むかうためには、２５年ねんごろには世界せかいの温室おんしつ効果こうかガス排出はいしゅつを減少げんしょうに向むかわせ、３０年ねんまでに大幅おおはばな削減さくげんを実現じつげんすることが求もとめられている。原発げんぱつの新しん増設ぞうせつはもちろん、再さい稼働かどうも、これにはほとんど貢献こうけんしない。計画けいかくから発電はつでん開始かいしまでの時間じかんが短みじかい再さいエネの急きゅう拡大かくだいが答こたえであることは世界せかいの常識じょうしきとなりつつある。

　岸田きしだ首相しゅしょうの新しん方針ほうしんは、時代遅じだいおくれとなりつつある原発げんぱつの活用かつように多大ただいな政策せいさく資源しげんを投入とうにゅうする一方いっぽうで、気候きこう危機きき対策たいさくの主役しゅやくである再さいエネ拡大かくだいのための投資とうしや制度せいど改革かいかくには見みるべきものがほとんどない。

　この１２年ねんの間あいだ、安全あんぜん対策たいさくなどのために原発げんぱつのコストは上昇じょうしょう傾向けいこうにある一方いっぽうで、再さいエネのコストは急激きゅうげきに低下ていかした。原発げんぱつの運転うんてん期間きかんを延のばせば、さらなる老朽ろうきゅう化か対策たいさくが必要ひつようになる可能かのう性せいもあるのだから、原発げんぱつの運転うんてん期間きかん延長えんちょうも発電はつでんコスト削減さくげんへの効果こうかは極きわめて限定げんてい的てきだろう。

　透明とうめい性せいを欠かく短時間たんじかんの検討けんとうで、重大じゅうだいな政策せいさく転換てんかんを決きめた手法しゅほうも受うけ入いれがたい。

　米よねローレンスバークリー国立こくりつ研究所けんきゅうじょなどの研究けんきゅうグループは最近さいきん、蓄電池ちくでんち導入どうにゅうや送電そうでん網もう整備せいび、政策せいさくの後押あとおしなどにより日本にっぽんで３５年ねんに再さいエネの発電はつでん比率ひりつを７０～７７％まで増ふやせるとの分析ぶんせきを発表はっぴょうした。

　これは一ひとつの研究けんきゅう成果せいかに過すぎないとしても、今いま、日本にっぽんのエネルギー政策せいさくに求もとめられているものは、この種たねの科学かがく的てきな成果せいかや世界せかいの現実げんじつに関かんするデータを基礎きそに、熟議じゅくぎの上うえで合理ごうり的てきで説得せっとく力りょくのある政策せいさくを決きめることだ。

　いくらそれらしい理屈りくつと言葉ことばを並ならべ立たてたとしても、科学かがく的てきな根拠こんきょが薄うすく、決定けってい過程かていに正当せいとう性せいのないエネルギー政策せいさくは、机上きじょうの空論くうろんに終おわるだろう。（共同通信きょうどうつうしん・井田いだ徹治てつじ）