大林宣彦(のぶひこ)監督(81)の新作「海辺の映画館-キネマの玉手箱」が、28日から始まる第32回東京国際映画祭で初公開される。3時間におよぶ大作だ。平成28年にがんで余命宣告を受けたが、30年7月から撮影に着手し、このほど完成したばかり。大林監督に話を聞いた。(石井健)
広島県尾道市の海辺の映画館で「戦争映画特集」の上映が始まると、ヒロインを救出しようと客席の青年3人がスクリーンの中へと飛び込んでしまう。
荒唐無稽な設定だが、サイレント、ミュージカル、時代劇、アクション…と映画の様式を総動員する映像は観客を圧倒し、戊辰戦争から太平洋戦争までの戦争の愚かさと悲劇を強く訴えてくる。上映時間は3時間。過去作の要素もちりばめ、集大成と呼ぶにふさわしい大作に仕上げた。
ふるさとでもある尾道市での撮影は20年ぶり。前作「花筺(はながたみ)/HANAGATAMI」(29年)が完成し、関係者から「休暇を兼ねて尾道でエンターテインメント作品を撮ってはどうか」と勧められた。それならばと広島で被爆した移動劇団「桜隊」を軸に据えた企画を練った。
「(原爆投下の)ボタンを押すのか押さないのか。それをあなたが決めなさい、というのが僕の映画です」と大林監督。戦争の悲劇に迫りながらエンターテインメント。エンタメなのに実験作という新作が生まれた。
成海璃子(なるみ・りこ)(27)、常盤貴子(47)、武田鉄矢(70)、さらには犬童一心(いぬどう・いっしん)監督(59)や手塚眞監督(58)まで出演者も多彩だ。
その手塚監督から「僕は、子供たちの平和な未来のための映画を作ります」と新たな決意を聞いたという。「まさに映画は、未来に幸せに生きる若者たちのために存在する。それが映画の誇り」とほほえむ。
「この作品が、僕の遺言」などと口にする一方で、「あと30年は映画を作りますよ」とも。映画への情熱はほとばしり続ける。
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全国公開は来年4月予定。
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【プロフィル】大林宣彦
おおばやし・のぶひこ 昭和13年、広島県尾道市生まれ。「HOUSE ハウス」(昭和52年)で商業映画デビュー。「転校生」(57年)、「時をかける少女」(58年)、「さびしんぼう」(60年)の「尾道3部作」で広く知られる。平成28年、肺がんが判明。いったんは余命宣告を受けたが、治療で改善に向かった。