海軍増強の是非を議論した大正9年の衆院本会議に、いまも語り草の一幕がある。時勢に照らして「艦隊の充実」を説いたのは蔵相、高橋是清だった。「陸海軍とも難儀を忍んで長期の計画といたし、陸軍10年、海軍8年の…」
▼言葉を継ごうとしたそのとき、「ダルマは9年」と野党の席から声が飛んできた。9年の座禅で悟りを開いた達磨大師。いかめしくも愛嬌(あいきょう)のある風貌から「ダルマ」とあだ名された高橋。双方に掛けた即妙のやじだった。声の主は、後に「やじ将軍」と呼ばれる三木武吉である。
▼議場は爆笑に包まれたと聞く。機知に富み、いたずらに人を辱めるわけでもない。「議場の華」といわれるやじの、会心の一打だろう。当時の三木は30代半ば、やりとりの老熟ぶりが際立つ。それに引きかえ、現代の政治模様の幼さはどうだろう。