今年のオークス。その表彰式は、笑顔にあふれたものだった。
プレゼンターの佐々木希さんが登場し、歩み出た優勝馬チェルヴィニアのオーナー、調教師、騎手、調教助手、生産者に次々と花束を渡したのである。『世界の美女100人』に選出されている佐々木希さんが、飛び切りの笑顔を添えて。しかも、心のこもった両手の握手とともに。
渡されたほうも本当にうれしそうだった。その様子を見ながら、長老記者がポツリ。「まるで幾代餅(いくよもち)みたいだな」
「幾代餅って、あの落語の」
「そうそう。心根(こころね)が似てるよね」
落語『幾代餅』は、吉原きっての売れっ子幾代太夫(いくよだゆう)が、自分にほれる金無しの職人のもとへ、年季明けで嫁ぐという人情話。あぶった切り餅にあずき餡(あん)をつけて幾世餅という名で二人が商売にすると、これが売れに売れた-という江戸の実話がもとになっている。
あの幾代太夫が、これほどの働き者だったとは。美人のことを傾城(けいせい)というが、「傾城に、誠(まこと)無しとは、誰(た)が言うた」というのが、この落語の締め。
たしかに、佐々木希さんがこれほどの働き者で、家族に尽くしているのは、幾代餅にそっくりかもなあと、長老記者に同感することしきりだった。
「先輩は、こういう花束贈呈を、いつぐらいから見てますか?」
「50年前かな。1974年の日本ダービーをコーネルランサーが勝ったとき、百恵ちゃんが出てきたんだよ」
「山口百恵さん!?」
「うん。スタンド前の芝コースの上で、コーネルランサーから下りた中島啓之(ひろゆき)騎手に、百恵ちゃんが花束を渡してな。横じまのワンピースにハイヒールをはいて、かわいかったなあ。前の年にデビューしたばかりで、まだ高校1年。もしかしたら、プレゼンターの最年少かもな」
長老は、本命にしたキタノカチドキが3着に敗れた悔しさを、百恵ちゃんですっかり忘れたという。プレゼンターの効用だなあ。(競馬コラムニスト)