爪は体の健康状態を反映する器官の一つとして知られている。北海道大の研究チームは最近、冬眠を経たハムスターの爪が、極端な体温変化といったストレスを受けてもきれいに伸びることなどを発見した。冬眠は厳しい冬を乗り切る生存戦略だが、呼吸や心拍数の抑制、体温低下など生理学的に大きな変化を伴う。それに耐える冬眠機構の解明は、低体温療法や移植臓器の保存期間延長といったヒトへの応用を視野に注目を集めている。
爪は健康状態を反映する
爪は皮膚が変化した器官で、指先の保護などの役割を持っている。内臓疾患や重度の栄養不足などがあると爪の健全な成長が阻害され、異常をきたす。このため爪は、健康のバロメーターともいわれる。また、爪を美しく保つことは身だしなみや装飾的観点からも関心が高い。
爪の健全な成長を支えているのは根元にある幹細胞の集団で、そこから作り出された爪が押し出されることによって伸びる。爪幹細胞が種々のストレスにどう応答するのか詳しくは分かっていないという。爪の異常に関する症例はよく知られているが、命に直接かかわることが少ないため、基礎研究も比較的少ないようだ。
深い眠りで成長停止、覚醒で再開
一方、北海道大の山口良文教授(分子冬眠学)らの研究チームは素朴な疑問を持った。冬眠は細胞の増殖を抑制することが小腸の幹細胞などで知られている。もし爪幹細胞の分裂も止まるなら、爪自体に異常は生じるのか。また、冬眠中に爪は伸びるのだろうか。
この問題を解決するため、研究チームはハムスターの一種、シリアンハムスターを人工的に冬眠させ、爪の成長を観察した。シリアンハムスターはゴールデンハムスターとも呼ばれ、自然界ではシリア、トルコなどに生息。低温で日が短くなると、地中に掘った穴で冬眠に入る。