――『ソードアート・オンライン（以下いか、SAO）』は、MMORPGです。伊藤いとう監督かんとく自身じしんは、MMORPGをプレイされたことはありますか？

やりましたよ。自分じぶんはキリトをロールプレイしようと思おもっていたので、ストイックにひたすらレベル上あげをしていましたけど（笑）。リアルタイムで何なん百ひゃく人にんが接続せつぞくしていて、すれ違ちがった人ひとたちが知しり合あいでなくても話はなしかけてくるあたりは、不思議ふしぎな感覚かんかくだなあと思おもいました。それに、戦闘せんとうで自分じぶんがピンチになったときにすっと回復かいふくアイテムを出だしてくれた男性だんせいキャラクターがいて、「かっこいい」と思おもったのですが、その人ひとの実際じっさいの年齢ねんれいや性別せいべつはわからないわけで。ここにいる人ひとたちは現実げんじつではどういう人ひとなんだろう、とついつい想像そうぞうしてしまうのも面白おもしろいところでした。あとは原作げんさくにあるMMORPGならではの記述きじゅつや感覚かんかくが、実体験じつたいけんとしてわかったことも良よかったですね。そういったことをアニメにも活いかしていきたいと思おもいます。

――ではMMORPGの世界せかい観かんを、どうアニメにしようと考かんがえましたか。

ファンタジーはアニメと相性あいしょうのいい題材だいざいなので、そこをきちんとやった上うえで、ゲーム感かんを上手うまくプラスしていければ、と考かんがえました。ただ、仮想かそうの世界せかいだけを描えがいていくと、普通ふつうのファンタジーアニメにしか見みえなくなるんじゃないか、という心配しんぱいもあります。「どこか遠とおいところでの自分じぶんと関係かんけいない世界せかい」という風ふうに見みられると、感情かんじょう移入いにゅうをしてもらえないんじゃないか、と。現実げんじつ世界せかいの延長えんちょうにある世界せかいとして、ひとりひとりのキャラクターに現実げんじつでの生活せいかつや葛藤かっとうがあることを見みせていけると、より深ふかみが出でるんじゃなかとは思おもっています。

――その上うえで、舞台ぶたいとなるアインクラッドの世界せかい観かんは、どんなイメージで考かんがえられましたか。

一番いちばん最初さいしょに、漠然ばくぜんと「南米なんべいの遺跡いせきはどうだろう」とイメージしたんです。ファンタジーというと一般いっぱん的てきに中世ちゅうせい西洋せいようが思おもい浮うかぶのですが、そこからずらしたところで、ちょっと違ちがう見栄みばえにできないかな、と。「ぜひ南米なんべいがいい」という積極せっきょく的てきな理由りゆうというよりは、あまり他所よそではやってない場所ばしょだから、ということですね。個人こじん的てきに旅行りょこうに行いったこともあるので、そのときに撮影さつえいした写真しゃしんを活いかして、旅行りょこう代だいの元もとをとってやろう、ということもあったりはします（笑）。もちろん全部ぜんぶではなく、普通ふつうに西洋せいよう風ふうなロケーションも当然とうぜんの如ごとく出でてきますけど。

――原作げんさくの川原かわら礫つぶて先生せんせいは、アニメにはどういう形かたちで参加さんかをされているのでしょうか。

まず脚本きゃくほん会議かいぎには、ほぼ毎回まいかい参加さんかしていただけました。風邪かぜで欠席けっせきということはありましたけど、それ以外いがいは皆勤かいきんでしたよ。ご意見いけん伺うかがいを受うけ付つける立場たちばではなく、脚本きゃくほんをあげるためのいちメンバーという関かかわり方かただったのも、大変たいへんありがたかったです。それに原作げんさくには出でてこなかった街まちの名前なまえをアニメ化かにあたって決きめてくれたり、キリトの装備そうび品ひんの設定せっていをこと細こまかに教おしえてくれたり。一番いちばん最初さいしょ、仮想かそう世界せかいにログインしたばかりのキリトが身みに付つけている初期しょき装備そうびにも、全部ぜんぶ名前なまえがあるんですよ（笑）。こちらから「教おしえてほしい」とお願ねがいをしたのではなく、川原かわはらさんの方ほうから率先そっせんして教おしえていただけたのも、うれしいことでした。

――キャラクターについてもお聞きかせください。まず主人公しゅじんこうのキリトの印象いんしょうはいかがですか？

キリトについては「うらやましい」と思おもいました。ありていに言いってしまうと、強つよいし女性じょせいにモテるところが、うらやましいなと（笑）。ただ彼かれは、アインクラッドという仮想かそう世界せかいから脱出だっしゅつをしなければならないという思おもいがありながら、その反面はんめんでは仮想かそう世界せかいに現実げんじつにはない居心地いごこちの良よさを感かんじてしまっている。きっとキリト以外いがいにも、あの世界せかいにはそういう思おもいをもった人ひとがたくさんいるんだろうけど、キリトはその代表だいひょうなのかもしれませんね。

――ではヒロインのアスナは？

アスナは「いい女おんな」ですよね。アニメコンテンツエキスポのステージイベントでも、アスナ役やくの戸松とまつ（遥はるか）さんを前まえに「アスナはいい女おんなです」って言いいましたし（笑）。基本きほん的てきに完璧かんぺき女子じょしじゃないですか。優やさしくて美人びじんで料理りょうりもできて同性どうせいからも嫌きらわれない。そんな完璧かんぺきなキャラクターだと近寄ちかよりがたいイメージがあったんですけど、コンテを描えがいているうちに愛着あいちゃくが増ましました。意外いがいに欠点けってんもあるんですよね。アスナが「可愛かわいい」と確信かくしんをもてたことで、このアニメはいける、と手応てごたえを感かんじてきました。

――キリト役やくの松岡まつおか禎ただし丞すすむさん、アスナ役やくの戸松とまつ遥はるかさんについての印象いんしょうは？

キリトは、内面ないめんのナイーブさがありつつ、やるときはやる男おとこっぽい声こえも出だせて、だけどできるだけ男おとこっぽい雄ゆう（オス）っぽいフェロモンが出でない声こえ、というイメージがありました。オーディションを受うけていただいた方ほうの中なかで、そこに松岡まつおかさんがハマったんです。戸松とまつさんの方ほうは、オーディションで聴きいてみて、キャラクター的てきにはもちろんのこと、なにせ上手うまかったです。あの年代ねんだいの役者やくしゃさんの中なかでも、あのレベルの人ひとはそうそういないでしょう。松岡まつおかさんも戸松とまつさんも、なにも心配しんぱいすることはないし、アフレコが始はじまるのを楽たのしみにしています。

――お話はなしに出でたアニメコンテンツエキスポでは、エリュシデータ（キリトの剣けん）が実際じっさいに作つくられて展示てんじされました。

元々もともとは作画さくがの資料しりょうとして剣けんがあると便利べんりなので、安やすいものを買かおうとは思おもっていたんですよ。エリュシデータは片手かたて剣けんにしては長ながいのですが、そんな剣けんを振ふるうとどんな感かんじで、どんな動うごきになるのか、って。そうしたらプロデューサーの柏田かしわださんが「だったら実際じっさいに作つくりましょう」と言いってくれたんです。しかもエリュシデータだけでなく、アスナのランベントライトも作つくろうという話はなしになって。イベントがないときは、作画さくがスタッフ用ようの資料しりょうとして、みんなでソードスキルを練習れんしゅうするつもりです（笑）。

――『SAO』に先駆さきがけて、同おなじ川原かわら先生せんせいが原作げんさくの『アクセル・ワールド』もアニメ化かされます。あちらを意識いしきされることはありますか？

あまり気きにし過すぎても仕方しかたがないので、こちらはこちらでわき目めをふらず全力ぜんりょくで『SAO』に取とり組くむつもりです。意識いしきというよりは、「一緒いっしょに盛もり上あがっていきましょう！」とエールを送おくりたいですね。

――最後さいごに、現在げんざいまで制作せいさくを進すすめられての手応てごたえをお聞きかせください。

信頼しんらいできるアニメーターや、腕うでのいいアクション作さく監かんもいて、チームに恵めぐまれていることが大おおきいと感かんじています。特とくに美術びじゅつは、舞台ぶたいとなる世界せかいがいくつもあるアニメなので、かなりの物量ぶつりょうをお願ねがいすることになります。でもそこは作品さくひんが要求ようきゅうしていることだし、しっかりやりきらないとアニメにする意味いみがないですから。いろいろ無茶むちゃ振ぶりが増ふえてしまったけど、美術びじゅつのバンブーさんはそこに応おうじてくれるし、出来できも素晴すばらしい。PVの美術びじゅつがあがってきたときには、「おおっ」と大おおきな手応てごたえを感かんじました。webに掲載けいさいされていたころからのファンもいれば、文庫ぶんこ化かされてからのファンもいる作品さくひんで、いろいろなファンに応こたえたいというプレッシャーもあります。でも原作げんさくリスペクトの姿勢しせいでベストをつくしていますので、あとはぜひ出来上できあがった映像えいぞうを見みていただいて、評価ひょうかをしていただきたいと思おもいます。