NHK総合で放送中の武術トークバラエティー「明鏡止水」の新シリーズ「武の五輪」。“武術翻訳家”岡田准一と、格闘技通のケンドーコバヤシがMCを務め、武術の達人たちやスポーツのトップアスリートたちが登場。スポーツの神髄に迫る。今回のシリーズは「運動」を原点から最先端まで幅広く捉え直すとともに、格闘競技を含むスポーツの数々を武術ならではの身体操作の視点で解明していきます!!
今回は、武術翻訳家の岡田さんに番組の魅力をインタビューさせていただきました!
――新シリーズが始まりましたが、いかがですか?
「僕の好きなことをやっている番組と思われていますが、そういうわけでもなく、たくさんの人たちに文化として武術や格闘技、体を動かすことの魅力を伝えるお手伝いができればと思いながら臨んでいます。ただ、自分が培ってきてあまり見せてこなかった、真剣にやってきた部分のことなので、いろいろ話せることもありますし、伝えられることもたくさんあります。コアなファンの方がついてくださっているので、もっともっとコアな番組を作っていきたいです」
――今シーズンは、オリンピックに向けて武道以外のスポーツも取り上げていますが、「明鏡止水」ならではのスポーツの視点を教えてください。
「“身体操作”というテーマの中で、武術とスポーツは親和性があってつながっていることもあるし、全然違うこともあるんです。体の使い方、動かし方のつながりを持って競技を掘り下げているので、オリンピックも違った視点で楽しんでいただけると嬉しいです。武術のコアな部分もありますが、皆さんの親しみやすいスポーツを取り上げているので、分かりやすくなっていると思います」
――収録中に楽しさや面白さを感じるのはどんなところでしょうか。
「出演者の皆さんがお互いの武術やスポーツでやってきたことをリスペクトしているんです。だからほかを否定することもなく、本当に楽しそうに話してくださるんです。『好きなことを話す時ってこんなに生き生きと話してくださるんだな』と。好き過ぎて脱線するところをケンコバさんが止めてくださることもありますが、そういう好きなものをどんどん話していただく時間は、とても興味深いです。あと、熟練者が普段意識せずに自然にやっていることや、天才の人たちが言語化できないことを、自分なりに分析して伝えることを意識しています。僕は、人間が積み重ねてきた技術はなんでも面白いと思っているのですが、知っていけばもっと物事は面白くなっていくので、それを『どう分かりやすく伝えられるか』ですね」
――ちなみに、「もっと動きやすい衣装で収録に挑みたい」という思いはないんですか?
「僕もずっと思っているんですけど、僕は“武術翻訳家”なので、本当は実演しなくてもいいんです(笑)。視聴者の方から『道着で出たらどうですか?』という声がたくさん来ているのは知っています。でも、僕が動きやすい格好で出たら、ケンコバさんが寂しいと思うので、僕がスーツを着ているのはケンコバさんへの愛情です。レスリングの回の収録も最初から靴下を脱いでいようと思ったんですけど、僕が脱いでいるとケンコバさんも脱がないといけなくなってしまうので、最初は履いていたんです」
――“武術翻訳家”としての出演は、他の番組出演などと気持ちの面で違う部分もあるんでしょうか。
「毎回、打ち合わせをしていますね。僕がスタッフより詳しい部分もあるので、まずテーマをぶつけていただいて、僕の意見を返してというやりとりを何回かやっています。だから、スタッフの皆さんが“武術番組で終わらない筋の通ったもので、見ていても面白い”といういいバランスのものを作ろうとされている熱意に、胸が熱くなりますね。現場で皆さんが楽しそうにやってくださるのが1番の幸せです。番組が始まった当初から、武術がまったく分からなかったスタッフがどんどん詳しくなってきたりするのも面白いですね」
――岡田さんは、“翻訳家”として視聴者に言語化して伝えていますが、どういうことを意識しているのでしょうか。
「言葉で言うのはすごく難しいですけど、『へえ~』と思いやすい状況を意識しています。昔は武術って秘匿(ひとく)だったのですが、今の武術家の方は、分かってもすぐできないことを体現できることがすごいので、皆さんに伝えることを許してくださる方も多いんです。分かっただけではできないということも含めて、“分かった”という気持ちになってもらうことが僕の役割だと思って言葉を選んでいます」
――今シーズンで特に印象に残っている収録があれば教えてください!
「どれも良かったんですけど、柔道の回はバランスが良かったですね。野村(忠宏)さんの投げが怖いくらい奇麗でした。収録は2時間くらいあったので、かなりカットされているなと思いながら見ました。そもそも30分に収まる台本ではないんですよね(笑)」
――番組で学んだことが日常生活や仕事に生きた場面はありましたか?
「僕は普段から意識をしているタイプなので、『もっと伝えたい』と思うことばかりです。歩き方に関しても、『もっとうまく伝えられたら膝が痛い方を癒やせるのに、もっと生活を楽にできるのに』と思うことがいっぱいあるので。でも、そういうことが、番組を通して伝わっていくのがうれしいです。昔は、作法、舞、たしなみとして、みんなが習っていたものが、今は習うことができなくなってきているので、そういった“知ればもっと楽になること”を伝えるのがこの『明鏡止水』だと思っています。最近は番組の認知度が上がってきていてうれしいですね」
――収録ではすごくマニアックなワードが飛び交っていますが、武術のお話はどなたとされているんですか。
「道場に行った時に会う人たちですかね。普段はできないですよね。でも、僕は昔からアクションの振り付けをしているので、役者さんたちに詳しい人だと思われています。だから『教えてください』という声も多いです」
――岡田さんの門下生も増えていますよね。
「名乗ってくださっている人は多いですね。玉木(宏)くんとは芸能の柔術部として部活をやっています。僕が部長で、彼が副部長です」
――一般の人に向けて、体力を付けることや体を整えることで、日常で実践できるアドバイスはありますか?
「体力よりも、正しく使うことを僕は提案したいです。だから、今シーズンは、『歩く』とか基本から始めていて。武術は、単純に言うと『体をうまく使う能力』なんです。持っている体を最小限のエネルギーで大きく使うにはどうすればいいですかというのが、日本の武術の在り方で。車で例えると、低燃費で長く走れる車ですね。武術も同じなんです。『あまり力を使わずに、最大限に効果を長く使うにはどうすればいいんだろう』というのが武術の考え方です。そういう意味では、武術を知っていると重いものも体を壊さずに持ち上げられるし、膝の痛みも日ごろの歩き方で改善できたり。基本をちょっとでも知っていると、故障しにくくなるんです」
――筋力や体力を付けるだけではないんですね…。
「そうなんです。筋力を付けただけでは持続しないので。意識を高めるのではなく、体に意識を向けることが技術の始まりで、そこをちゃんと意識すると生活は楽になるんです。そういうことを知ってもらえる番組にすることが、NHKでこの番組をやる意義だと思っています」
――今年のパリオリンピックで特に注目している競技、見どころなどはありますか?
「全部気になるんですけど、日本で“達人”といわれる人が多いのは、柔道とかレスリングのレスラーなんですよね。その達人の頂点にいる柔道のトップ選手とかは、本当に化け物で。そういう人たちの強さを知っている分、楽しめることが多いのでいつも注目して見ています。柔道が好き過ぎて、この前井上康生さんとプライベートでお会いしました。『今年柔道はどうですか?』とずっとインタビューしていました」
――ありがとうございました!
現在発売中の「週刊TVガイド6/28号」でも岡田さんのグラビアを掲載中。ぜひチェックをお願いします♪
【番組情報】
「明鏡止水 武の五輪」
NHK総合
毎週水曜午後11:00~11:30
取材・文/Kizuka 撮影/為広麻里