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日経BP総合研究所は、林野庁の令和5年度(2023年度)補助事業における中高層・中大規模木造建築物の設計・施工者育成推進のための提案として、木造建築に取り組む実務者に向けて情報を発信している。JR国立駅南口に2024年3月27日、木の柱と鉄骨の梁(はり)で構成するハイブリッド木構造の地上4階建て商業ビル「nonowa国立SOUTH」が開業する。
JR国立駅南口に降り立つと、右手に地上4階建ての商業ビル「nonowa国立SOUTH」が姿を現す。駅前広場に面する4層のガラス面の奥にはラーメン架構が透けて見える。主な木部は地元多摩産のスギ。階数表示のサインには、国立市内で老朽化を理由に伐採された桜を輪切りした木材を用いている。
JR国立駅南口の駅前広場側から見た「nonowa国立SOUTH」の外観イメージ。ガラス越しにラーメン架構が見える。柱のスパンは6.5m(出所:JR中央線コミュニティデザイン)
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1階、施工中の内観。柱や壁の仕上げには地元多摩産のスギを用いる。スプリンクラーと自然排煙窓を備え、内装制限は適用されていない(写真:大林組)
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このビルを開発・運営するのは、JR東日本グループのJR中央線コミュニティデザイン(CCD、東京都小金井市)。多摩地域一帯を走るJR中央線の沿線にある駅を中心に、商業ビルの開発・運営やまちづくりなどに取り組んでいる。
同社ではこれまで、JR武蔵小金井駅や同八王子駅に直結する商業ビルで、施設コンセプトに基づき内装材に多摩産材を取り入れてきた。しかし構造材にまで木材を取り込んだ例は、「nonowa国立SOUTH」がJR東日本グループとして初となる。
なぜ「木造」なのか──。原点には「持続可能な開発目標(SDCs)」がある。JR中央線コミュニティデザイン業態開発本部施設計画部リーダーの渡辺恵子氏は次のように説明する。「どんな商業ビルであれば地域に受け入れてもらえるのかという観点から検討を重ねた結果、『サステナブル』をキーワードに打ち立て、国立という立地にふさわしい商業ビルを目指すと同時に、二酸化炭素(CO2)の固定化や森林資源の循環利用促進への寄与という視点に立って『木造』への挑戦を決めた」
地域を意識したのには、理由がある。当初構想していた商業ビル開発に対して地域から様々な意見が寄せられ、見直すことになった、という経緯があるからだ。
当時JR東日本は、JR国立駅南口の正面に所有する土地に商業ビル2棟を建設する構想を検討していた。この2棟の間には、JR東日本から土地を譲り受けた国立市が、トレードマークの三角屋根で親しまれた木造の旧国立駅舎を再築・復元する計画を進めていた。
問題視されたのは、JR国立駅南口方向からの景観である。真ん中に旧国立駅舎が再築・復元される一方、その両側に商業ビルが建設されるという構想に地元は揺れ、市議会でも質問が相次いだ。2017年のことだ。