豪華客船クルーズ、海外旅行に頻繁に行くのは当たり前――。2000年代前半、そんな消費に意欲的なシニア像の熱に浮かされた企業の多くが、肩すかしをくらった。「アクティブシニア」を狙って多くのマーケターが施策を打ったが“笛吹けども踊らず”。期待の大きさとは裏腹にシニアの消費は爆発しなかった。主な原因は「シニア」という層を“ひとくくり”にして粗く捉えてしまったこと。その反省も踏まえ、「団塊の世代」が全員75歳以上となる25年を本格的なシニアマーケティングの好機と捉え、高齢者から本当に支持される方法について検証する。
(写真提供/SENRYU - stock.adobe.com)
「2025年問題」とは、日本で最大のボリュームを誇る「団塊の世代(1947~49年ごろに生まれた人々)」が全員75歳以上の後期高齢者になることによって起こる、様々な深刻な問題を指す。社会保障費の負担が増大したり、医療・介護体制の維持が困難になったりするマイナス面が強調され、対策の必要性が叫ばれているのは周知の通りだろう。
だが、2025年問題は負の側面だけではない。「消費」という観点で捉えれば、大きなプラスの顔が見えてくる。それは、団塊の世代が加わることで、75歳以上の人口が2180万人になり、国民の5人に1人が含まれる、史上最高、世界最大級の後期高齢者マーケットが誕生するということだ。前期高齢者を含めた約3600万人の高齢者市場にスポットライトが当たってもおかしくない。企業にとっては紛れもなく“好機”となる。
しかし、高齢者マーケティングは分からないことが多過ぎて、実は難易度が高い。相手はお金も時間もありそうなのに、うまく消費を刺激することができない……と考えているマーケターも恐らく多いだろう。
現在、事業戦略やマーケティングを実際に担っている現役世代は、自分自身が「高齢者」や「後期高齢者」になった経験が、当然のことながらない。そのため、実感と経験に基づく、ニーズや行動の想定、仮説の構築、理解、検証などが行いづらい。特に後期高齢者は未知の領域であり、その分扱いづらい。
そうした理由もあって、多角的で精緻な分析が行われる若者マーケティングに対し、高齢者マーケティングはほぼ手つかずの“空白地帯”となっている。
目の前に巨大なマーケットが口を開けて待っている。それなのに攻め手に欠く。ひと言でいえば、実にもったいない、由々しき事態だ。
幻想だった「アクティブシニア」
一方、企業はただ手をこまぬいていたわけではない。00年代前半、日本のマーケティング業界は、あるキーワードが席巻し、一種のバブル状態になっていた。言わずと知れた「アクティブシニア」だ。アクティブシニアとは、現代的な定義で言えば、仕事や趣味、あるいは消費活動や地域貢献活動に積極的な、文字通り高齢になっても活発なシニア層のこと。だが、その時代は、主に「消費」を意欲的に行うシニア層を指した言葉だった。
書籍『「シニア」でくくるな! “壁”は年齢ではなくデジタル』(日経BP)
中心となって仕掛けたのは広告代理店。アクティブシニアは広告パーソンが企画を売り込む際に使える、最強かつ鉄板のテーマとなった。「高額商品が飛ぶように売れる」「本命は豪華客船クルーズ」「海外旅行に頻繁に行くのは当たり前」――。関係者の間ではそんな高齢者像がまことしやかにささやかれ、企業側もその提案を受け入れ、多くの業界がアクティブシニアの熱に浮かされた。
アクティブシニアバブルの発端の一因となったのが、団塊の世代の存在だ。世代論の観点で見た場合、「平成」をひと言でいえば「若く現役だった団塊の世代が、前期高齢者(65歳以上、75歳未満)になるまでの時代」だ。平成元年(1989年)、団塊の世代はまだ40~42歳だった。それが平成中期の15年になると、その彼ら、彼女らも54~56歳になる。すなわち、あと10年もすれば高齢者になるカウントダウンが始まった時期であり、西暦だとちょうど2000年代前半に当たる。
この事実が、新たな市場を模索する多くのビジネスパーソンや経営者の心を揺さぶった。くしくも、時代は少子化が加速し、人口減少社会の幕開けに業界関係者は震撼(しんかん)していた。そんな中、唯一の望みであり、拡大が見込める高齢者市場が脚光を浴び、マーケティングや広告業界はこぞって参戦し、初めて本格的にシニア攻略戦を繰り広げるようになったのだ。
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