[近景遠景]
新型コロナウイルスの影響で収入が減った個人事業主や中小企業を対象とした「持続化給付金」の不正受給問題は会社員や大学生、主婦など職業や年齢を問わず広がっている。複数の事例を踏まえると知人に紹介して数万円の紹介料が得られる“うまみ”が不正受給の拡大につながった可能性が浮き彫りとなった。県警も事態の広がりを把握する中、反社会勢力の関わりを捜査の柱としている。(社会部・銘苅一哲、城間陽介、比嘉太一)
取材で確認された複数の不正受給の手口には基本的なパターンがあった。誘われた人物が勧誘者に数万円の紹介料を払い、コンサルタントなど給付申請を代行する人物や会社に数十万円の手数料を支払っている。
多くの場合、受給した側は代行で提出された申請の内容を把握していなかった。代行者が申請者を個人事業主として確定申告書や売り上げ台帳の偽装、捏造(ねつぞう)をした可能性が高い。
また、申請者は代行者の素性を把握していなかった。行政書士法では、第三者が報酬を得て給付金などの手続きを申請できるのは行政書士の資格を持ち、行政書士会に登録した人物としている。無資格や無登録で申請した場合は違法となる。取材で確認できた例で代行者側に正式な行政書士がいたかは不明だ。
■紹介料がうまみ
不正受給が広まった要因には紹介料が挙げられる。100万円の不正受給を証言した県内の大学生は手数料として60万円を提示された。
別の60代のパート女性も知人から手数料60万円の条件で受給を持ち掛けられた。自らも紹介料10万円を懐に入れようと、友人や職場の同僚に70万円の手数料で勧誘していた。複数の勧誘者を介して手数料が膨らんだ格好だ。本島中部に住む40代の男性も「知人が100万円を不正受給し手数料25万円を払った。知人も紹介料10万円をもらうため複数の友人を誘い受給させた」と明かす。
■押収書類千件超
「持続化給付金は制度がとても緩い。学生、主婦、会社役員、マスコミ関係者、銀行員、ひょっとしたら公務員まで出てくるかもしれない。一つ一つはとても追えないだろう」
9月初旬、県警組織犯罪対策課などが那覇市の税理士事務所などを家宅捜索した際、県警関係者の一人は語った。その後、会社員、学生、主婦などの不正受給疑いが次々と明るみに出た。他の職種でもうわさは立つが、確認に手間取っている。
県警は千件以上に上るとみられる給付申請書類を関係先から押収した。捜査関係者によると暴力団や半グレと呼ばれる反社会勢力と関係する人物に絞って精査を進めている。
全国的に警察は不正受給問題を組織的犯行などの悪質性に照らし、詐欺容疑で摘発している。捜査関係者は「詐欺で立件するには『だますつもりだった』という犯意を立証しないといけない。人に誘われるがまま無自覚に申請した人もいるかもしれない。だから難しい」とこぼした。