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土屋 葉「障害と貧困――ジェンダーの視点からみえてくるもの」
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土屋 つちや 葉 よう (愛知大学 あいちだいがく )
「障害 しょうがい と貧困 ひんこん ――ジェンダーの視点 してん からみえてくるもの」
【シンポジウム趣旨 しゅし 】
このシンポジウムの目的 もくてき は、「障害 しょうがい 」と「貧困 ひんこん 」にかかわる問題 もんだい を大 おお きくジェンダーの視点 してん からとらえることです。この問題 もんだい は、さまざまな要素 ようそ が絡 から み合 あ う複 ふく 合 あい 的 てき なものですが、まずはこうした問題 もんだい を可視 かし 化 か する、目 め に見 み えるものにしていくことが重要 じゅうよう であるという立場 たちば をとりたいと思 おも います。というのも、これまで「障害 しょうがい 者 しゃ と/をめぐる貧困 ひんこん 」というテーマにおいては、ジェンダーの視点 してん が、端 はし 的 てき にいうと欠 か けていたからです。
最近 さいきん 「貧困 ひんこん 」問題 もんだい がメディアを賑 にぎ わしており、その文脈 ぶんみゃく に乗 の るかたちで障害 しょうがい をもつ人 ひと 「の」貧困 ひんこん もとりあげられています。もちろん「障害 しょうがい 者 しゃ の貧困 ひんこん 」問題 もんだい は今 いま にはじまったわけではなく、所得 しょとく 保障 ほしょう の文脈 ぶんみゃく などでは論 ろん じられてきましたが、一般 いっぱん 的 てき な「貧困 ひんこん 」問題 もんだい と同列 どうれつ にまた声高 こわだか に語 かた られるのは、おそらく初 はじ めてでしょう。
別 べつ の文脈 ぶんみゃく において、障害 しょうがい をもつ人 ひと のなかでも、ジェンダーによって収入 しゅうにゅう や就労 しゅうろう 状 じょう 況 きょう に差 さ があることが明 あき らかになっています。これは私 わたし もかかわった2005年 ねん と2006年 ねん に行 おこな われた「障害 しょうがい 者 しゃ 生活 せいかつ 実態 じったい 調査 ちょうさ 」の結果 けっか からわかったことです。こうしたことを実感 じっかん として捉 とら えている人 ひと は関係 かんけい 者 しゃ のなかでも多 おお くはないかもしれません。それほど見 み えづらい問題 もんだい であるということです。
しかし、貧困 ひんこん 問題 もんだい はジェンダー問題 もんだい であるとの指摘 してき は、既 すで に女性 じょせい 学 がく などが行 おこな っています。具体 ぐたい 的 てき には男女 だんじょ 間 あいだ の賃金 ちんぎん や雇用 こよう 形態 けいたい 、高齢 こうれい 者 しゃ 年金 ねんきん 支給 しきゅう 額 がく の格差 かくさ などがあります。この背景 はいけい には、女性 じょせい を貧困 ひんこん の状態 じょうたい に陥 おちい らせやすい社会 しゃかい の仕組 しく みが存在 そんざい します。つまり、障害 しょうがい 者 しゃ のなかの収入 しゅうにゅう や雇用 こよう 形態 けいたい の男女 だんじょ 間 あいだ の差 さ は、障害 しょうがい 者 しゃ のみの問題 もんだい ではなく、この社会 しゃかい 構造 こうぞう における問題 もんだい 群 ぐん の1つとして捉 とら えることができるでしょう。
また「障害 しょうがい と貧困 ひんこん 」は、障害 しょうがい をもつ当事 とうじ 者 しゃ の問題 もんだい に留 と まりません。障害 しょうがい をもつ人 ひと の周囲 しゅうい にいる家族 かぞく や支援 しえん 者 しゃ やケアラーとも大 おお きく関連 かんれん し、ジェンダーの問題 もんだい に直接 ちょくせつ 結 むす びつくものです。
いうまでもなく障害 しょうがい をもつ人 ひと のケアは、家族 かぞく 、なかでも女性 じょせい が(ほとんどの場合 ばあい は)無償 むしょう で引 ひ き受 う けています。これが外部 がいぶ 化 か され、市場 いちば での有償 ゆうしょう 労働 ろうどう として行 おこな われる場合 ばあい にも、多 おお くは女性 じょせい が低 てい 賃金 ちんぎん で担 にな っています。家族 かぞく のみのケアは限界 げんかい があり、ケアを行 おこな う家族 かぞく が経済 けいざい 的 てき ・構造 こうぞう 的 てき な「二 に 次 じ 的 てき な依存 いぞん 」1)の状態 じょうたい におかれ、経済 けいざい 的 てき な貧困 ひんこん のみならず家族 かぞく のなかでの閉塞 へいそく 性 せい (≒社会 しゃかい ネットワークの欠如 けつじょ )2)、すなわち関係 かんけい 性 せい としての貧困 ひんこん をまねく恐 おそ れがあります。また、女性 じょせい がケアを担 にな うことを前提 ぜんてい としてつくられた制度 せいど の貧 まず しさのなかで、ケアラーは働 はたら きづらい状況 じょうきょう におかれていますが、これは、障害 しょうがい をもつ人 ひと にとっての基本 きほん 的 てき なニーズが満 み たされない貧困 ひんこん の状況 じょうきょう を招 まね き、ふたたび家族 かぞく にとっても貧困 ひんこん 状態 じょうたい をもたらすことにもなります。
今回 こんかい はシンポジストとして、これまで障害 しょうがい をもつ女性 じょせい たちの問題 もんだい に関心 かんしん をもち、研究 けんきゅう や実践 じっせん を行 おこな ってきた瀬山 せやま 紀子 のりこ さんほか、社会 しゃかい 福祉 ふくし 制度 せいど や政策 せいさく をジェンダーの視点 してん から研究 けんきゅう を重 かさ ねられてきた湯澤 ゆざわ 直美 なおみ さん、家族 かぞく ケアに携 たずさ わった経験 けいけん をもち、現在 げんざい は介助 かいじょ 者 しゃ という立場 たちば にもある佐々木 ささき 彩 あや さんをお招 まね きしました。まず湯澤 ゆざわ さんからジェンダーに非対称 ひたいしょう である社会 しゃかい システムについて、次 つぎ に瀬山 せやま さんからは障害 しょうがい をもつ女性 じょせい と貧困 ひんこん の現状 げんじょう をお話 はなし いただき、貧困 ひんこん をジェンダー問題 もんだい で切 き り取 と っていく視点 してん を提供 ていきょう していただきます。佐々木 ささき さんからは、家族 かぞく ケアや有償 ゆうしょう ケアラーとしての経験 けいけん をベースとして、貧困 ひんこん ――経済 けいざい 的 てき のみならず関係 かんけい 性 せい としての貧困 ひんこん ――を考 かんが える上 うえ での問題 もんだい 提起 ていき を行 おこな っていただきます。また、女性 じょせい 学 がく と障害 しょうがい 学 がく の接点 せってん を探 さぐ る研究 けんきゅう を行 おこな っている、飯野 いいの 由里子 ゆりこ さんにコメントをお願 ねが いしました。
最初 さいしょ に述 の べたとおり、この問題 もんだい はさまざまな要素 ようそ が絡 から み合 あ っており、複雑 ふくざつ な様相 ようそう を呈 てい しています。これに対 たい して、短絡 たんらく 的 てき な解決 かいけつ 方法 ほうほう を示 しめ すのではなく、構造 こうぞう 的 てき な問題 もんだい であることを念頭 ねんとう に置 お いた上 うえ で、注意深 ちゅういぶか くかつ自分 じぶん 自身 じしん の問題 もんだい として粘 ねば り強 づよ く考 かんが えつづけていく試 こころ みを、参加 さんか 者 しゃ のみなさんと共有 きょうゆう できればと思 おも っています。
1) Finemann, M.A., 2004, The Autonomy Myth: A Theory of Dependency, =2009(穐田信子 のぶこ ・速水 はやみ 葉子 ようこ 訳 やく ), 『ケアの絆 きずな ――自立 じりつ 神話 しんわ を超 こ えて』岩波書店 いわなみしょてん ,29.
2 Friedman, J., 1992, Employment: The Politics of Alternative Development,=1995(齋藤 さいとう 千 せん 宏 ひろし ・雨森 あめのもり 孝 たかし 悦 えつ 監訳 かんやく ), 『市民 しみん ・政府 せいふ ・NGO――「力 ちから の剥奪 はくだつ 」からエンパワーメントへ』新 しん 評論 ひょうろん ,117.
*作成 さくせい :