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上久保 真理子「知的障害のある子どもの父親のケア役割引受をめぐって」
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上久保かみくぼ 真理子まりこ知的ちてき障害しょうがいのあるどもの父親ちちおやのケア役割やくわり引受ひきうけをめぐって」

障害しょうがい学会がっかいだいかい大会たいかい報告ほうこく要旨ようし 於:立命館大学りつめいかんだいがく
20090927


報告ほうこく要旨ようし
 上久保かみくぼ 真理子まりこ医療いりょう法人ほうじん社団しゃだん互啓かい ぴあクリニック)
 「知的ちてき障害しょうがいのあるどもの父親ちちおやのケア役割やくわり引受ひきうけをめぐって」

 ほん報告ほうこくは、知的ちてき障害しょうがいのあるどもの父親ちちおやたいするインタビューデータをもとに@父親ちちおやのケア役割やくわり引受ひきうけ過程かてい、Aケア役割やくわり引受ひきうけ条件じょうけん考察こうさつするものである。障害しょうがいのあるどもの家族かぞくにおける性別せいべつ役割やくわり分業ぶんぎょう固定こていとその要因よういんおおくの研究けんきゅう議論ぎろんされてきた。しかし、固定こてい打開だかいのための具体ぐたいてき方策ほうさくにまでんだ研究けんきゅうおおいとはいえない。そこで、ほん報告ほうこくでは地方ちほう都市とし在住ざいじゅう知的ちてき障害しょうがいのあるどもの父親ちちおや10めいへのききと調査ちょうさとおし、上記じょうき@Aの問題もんだい検討けんとうする。分析ぶんせきには修正しゅうせいばんグラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)をもちいた。記載きさいの【 】〈 〉ないかたりはそれぞれM-GTAにおける「カテゴリー」「概念がいねん」である。
 分析ぶんせき結果けっか以下いかてんあきらかになった。
 @ケア役割やくわり引受ひきうけ過程かてい障害しょうがいのあるどもの父親ちちおやしん役割やくわりには【かせしゅ専業せんぎょう】【ケア役割やくわり引受ひきうけ】【社会しゃかいへの活動かつどう】の3類型るいけいがある。父親ちちおやを【かせしゅ専業せんぎょう】にとどめる要因よういんとして、〈性別せいべつ役割やくわり分業ぶんぎょう根強ねづよ支配しはい〉〈かせしゅ役割やくわり耽溺たんできする大義名分たいぎめいぶん〉や【シフトをはばむもの】が存在そんざいする。しかしながら、父親ちちおやおおくは〈おとこだってケア〉するべきだとかんがえており、日常にちじょうてき送迎そうげい小学校しょうがっこう入学にゅうがくとうのライフイベントへの準備じゅんびなど【シフトをうなが要因よういん】によりケア役割やくわりけていく。さらに、よりのぞましい環境かんきょう獲得かくとくのために〈どものための闘争とうそう〉をおこなうなかで、〈障害しょうがいをオープンに〉し〈先輩せんぱいならではの情報じょうほう発信はっしん〉といった【社会しゃかいへの活動かつどう】を展開てんかいしていく。
 Aケア役割やくわり引受ひきうけ条件じょうけんかせしゅ専業せんぎょうからケア役割やくわりへの【シフトをはばむもの】の除去じょきょのために、父親ちちおやがケア能力のうりょく獲得かくとくする機会きかい時間じかん保障ほしょう父親ちちおや労働ろうどう条件じょうけん改善かいぜん必要ひつようとなる。また、【シフトをうなが要因よういん】の強化きょうか必要ひつようとなる。とくに、ケア役割やくわり引受ひきうけ契機けいきとなるライフイベントにおける療育りょういく機関きかん地域ちいき工夫くふうさらに「受苦じゅく体験たいけんをわかちあうピア」集団しゅうだんでありすでにケア役割やくわりけた「ロールモデル」を一定いっていすうようするおやかいへの積極せっきょくてき支援しえんのぞまれる。

報告ほうこく原稿げんこう ワード

知的ちてき障害しょうがいのあるどもの父親ちちおやのケア役割やくわり引受ひきうけをめぐって」
医療いりょう法人ほうじん社団しゃだん互啓かい ぴあクリニック
上久保かみくぼ真理子まりこ

1 はじめに
 「育児いくじをしないおとこを、ちちとはばない」という厚生省こうせいしょう当時とうじ)のキャッチコピーが発表はっぴょうされた1999ねんから10ねんつ。世論せろん調査ちょうさによれば「おっとそとはたらき、つま家庭かていまもるべきである」とのかんがかたたいして2002ねんには反対はんたいしゃ賛成さんせいしゃはじめて上回うわまわり、2007ねんには反対はんたいしゃが5わり上回うわまわった。「ケアラーとしての父親ちちおや言説げんせつ次第しだい一般いっぱんてきなものになりつつある。
 しかし、障害しょうがいのあるどもの家族かぞくかんする障害しょうがいがく社会しゃかいがくてき研究けんきゅうにおいては、いまだに「父親ちちおやかげうすい」状況じょうきょうつづいている。すなわち2000ねん前後ぜんこうから、ジェンダーの視点してんもちいた研究けんきゅうえているものの、「母親ははおやへの研究けんきゅうおおきくかたよっているのが現状げんじょうである」といえる。これにたいして、父親ちちおや研究けんきゅうとしては「先鞭せんべんをつけた」土屋つちやと、「知的ちてき障害しょうがいしゃ家族かぞくにおける男性だんせい、すなわち父親ちちおやこえすくげ、知的ちてき障害しょうがいしゃ家族かぞくにおける男性だんせいジェンダーとケアについての関係かんけいあきらかにした」中根なかね研究けんきゅうがみられる。
 一方いっぽうで、障害しょうがいのあるどもの家族かぞくかんする障害しょうがいがく社会しゃかいがくてき視点してんからの考察こうさつおおくは身体しんたい障害しょうがい前提ぜんていとした枠組わくぐみを継承けいしょうするものがおおく、知的ちてき障害しょうがいのあるどもの家族かぞくかんする研究けんきゅうとして筆者ひっしゃ把握はあくしているのは前掲ぜんけい中根なかね研究けんきゅうのみである。
 そこで、ほん報告ほうこくでは、
知的ちてき障害しょうがいのあるどもの父親ちちおやがケア役割やくわりける場合ばあい、どのような過程かていけるのだろうか(ケア役割やくわり引受ひきうけ過程かてい
どのような条件じょうけんととのえば父親ちちおやがケア役割やくわりけられるのだろうか(ケア役割やくわり引受ひきうけ条件じょうけん
というふたつの課題かだいについて考察こうさつをしたい。

2 調査ちょうさ経過けいか概要がいよう
2.1 調査ちょうさ対象たいしょう
 ほん調査ちょうさ対象たいしょうは、とある地方ちほう都市とし以下いかしるす)に知的ちてき障害しょうがいのあるどもの父親ちちおやである。「Zしゅをつなぐおやかい」の協力きょうりょくにより、調査ちょうさ趣意しゅいしょおよび協力きょうりょく依頼いらいしょぜん会員かいいん配布はいふし、協力きょうりょくしていただく父親ちちおやつのった。その結果けっかひょう1にしめ父親ちちおや10めい分析ぶんせき対象たいしょうしゃとした。

2.2 方法ほうほう具体ぐたいてき配慮はいりょ
 上記じょうき対象たいしょうしゃたいして2あいだ程度ていどはん構成こうせいてきインタビューをおこなった。インタビューでは、「どもに障害しょうがいがあるとわかったときの気持きもち」「障害しょうがい障害しょうがいのあるどもにたいする気持きもちの変化へんか」「ケア役割やくわり現在げんざいどの程度ていどけているのか」「けにいたった経過けいか」などおおまかなテーマを設定せっていし、自由じゆうかたっていただきながら適宜てきぎこちらが質問しつもんする形式けいしきをとった。
 インタビューの場所ばしょは、どもの障害しょうがい自分じぶん気持きもちなどプライベートな内容ないようおもになることから、@父親ちちおやがリラックスできる、Aだれかにかれるとこまるといった心配しんぱいがない場所ばしょをとあらかじめおねがいしたうえで父親ちちおや自身じしんえらんでいただいた。結果けっかとしては自宅じたく父親ちちおや使つか事務所じむしょなどがおおかった。調査ちょうさ期間きかんは2007ねん5がつ22にちから2008ねん9がつ24にちまでであった。
 インタビューにおいては、許可きょかうえ録音ろくおんし、プライバシーに配慮はいりょしたうえで逐語ちくごろくし、インタビューをおねがいした全員ぜんいんにデータの加除かじょ訂正ていせいをおねがいした。

ひょう1 分析ぶんせき対象たいしょうしゃ背景はいけい省略しょうりゃく

2.3 分析ぶんせき方法ほうほう
 られたインタビュー・データは、「データの解釈かいしゃくから説明せつめいりょくのある概念がいねん生成せいせいおこない、そうした概念がいねん関連かんれんせいたかめ、まとまりのある理論りろんつく方法ほうほう」とされる修正しゅうせいばんグラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA、以下いかM-GTAとしるす)をもちいて分析ぶんせきおこなった。
 M-GTAにおける分析ぶんせきは、データを解釈かいしゃくし、最小さいしょう単位たんいである概念がいねん生成せいせいし、複数ふくすう生成せいせいされた概念がいねんあいだ関係かんけい検討けんとうし、概念がいねん集合しゅうごうたいであるカテゴリーを生成せいせいし、カテゴリー相互そうご関係かんけい結果けっかとして提示ていじするというものである。かく概念がいねん生成せいせいにおいては、概念がいねんめい定義ていぎ具体ぐたいれいからなるワークシートを作成さくせいする。ほん報告ほうこくにおいても同様どうよう分析ぶんせきおこなった。ケア役割やくわり引受ひきうけをめぐる概念がいねん合計ごうけいして21、カテゴリーはいつ作成さくせいした。以下いか、【 】ないはカテゴリー、〈 〉ない概念がいねんである。また、本文ほんぶんちゅうの「01」とう数字すうじは、ひょう1の事例じれい番号ばんごう対応たいおうする。

3 分析ぶんせき結果けっか
3.1 しん役割やくわりみっつのパターン
 舩橋は、基本きほんてき育児いくじせいには、「@扶養ふようどもの生活せいかつかせぎ、供給きょうきゅうすること、A社会しゃかい―しつけや教育きょういく。「規範きはんせい」がかぎになる、B交流こうりゅうあそ相手あいて談笑だんしょう相手あいてになること。「受容じゅようせい」がかぎになる、C世話ぜわ食事しょくじ沐浴もくよくなどまわりのことで、どもが自分じぶんにできないことを支援しえんすること」の4モメントがあるとべる。
 このおや役割やくわりの4モメントを本文ほんぶん用語ようごらしわせると、@「扶養ふよう」は、「かせしゅ役割やくわり」に、A社会しゃかい、B交流こうりゅう、C世話ぜわが「ケア役割やくわり」にふくまれることとなる。もっとも、舩橋はこの4モメントを、「基本きほんてき育児いくじせい」と位置いちづけているように、おやとしての行為こういがこの4モメントにすべ収斂しゅうれんされるわけではない。とくに、障害しょうがいのあるどものしん役割やくわりには、障害しょうがいのあるどもを対象たいしょうとした保育ほいく学童がくどう保育ほいくなどの社会しゃかい資源しげん開発かいはつ行政ぎょうせい福祉ふくし担当たんとうしゃ要求ようきゅうする・どもの障害しょうがいについてひろ理解りかいしてもらうための啓蒙けいもう活動かつどうおこなう・おやかい活動かつどうおこなおや同士どうしのネットワークを形成けいせいするといったAとはことなる意味いみでの「社会しゃかい」が重要じゅうよう意義いぎゆうする。そこで、ほん報告ほうこくでは、この「社会しゃかい」を障害しょうがいのあるどものしん特有とくゆうの5番目ばんめのモメントとして「ケア役割やくわり」にふくまれるものとする。さらに、Aの社会しゃかい区別くべつするために、Aを「どもの社会しゃかい」としょうし、障害しょうがいのあるどものおやにおいてとくもとめられる社会しゃかいひらかれた行為こういをD「「障害しょうがい育児いくじ社会しゃかい」としょうすることとする。
 父親ちちおやがこのいつつのモメントのうちどの要素ようそになうかというてんで、インタビューからみっつの類型るいけいかびがってきた。まずひとつは、@扶養ふようのみをおこな場合ばあい(【かせしゅ専業せんぎょう】)である。つぎに、どもの誕生たんじょうにAからCまでの基本きほんてきモメントをける場合ばあい(【ケア役割やくわり引受ひきうけ】)がある。さらに、前述ぜんじゅつのD「「障害しょうがい育児いくじ社会しゃかい」にけた活動かつどうおこな場合ばあいを【社会しゃかいへの活動かつどう】とする。
 ひょう2からわかるように、どもの誕生たんじょうとほぼどう時期じきにケア役割やくわり取得しゅとくした父親ちちおやは、そのかせしゅ専業せんぎょう】にもどることはなく、【社会しゃかいへの活動かつどう】をになう(02、03、04、06)。
 一方いっぽうどもがまれてしばらくは【かせしゅ専業せんぎょう】だった父親ちちおやも、なんらかのきっかけによって【ケア役割やくわり引受ひきうけ】をて、【社会しゃかいへの活動かつどう】をになう(01、05、08、09、10)。もっとも、07のように、どもの成長せいちょうともない、具体ぐたいてきケアの必要ひつようせいり、【かせしゅ専業せんぎょう】にもどるも、【社会しゃかいへの活動かつどう】をになうという場合ばあいもある。

ひょう2 父親ちちおや役割やくわり変遷へんせん省略しょうりゃく

 1 概念がいねん 父親ちちおやのケア役割やくわり引受ひきうけ過程かていとケア役割やくわり引受ひきうけ条件じょうけん省略しょうりゃく

3.2 ケア役割やくわり引受ひきうけ過程かてい
 課題かだい@「知的ちてき障害しょうがいのあるどもの父親ちちおやがケア役割やくわりける場合ばあい、どのような過程かていけるのだろうか」にかんしては、以下いかのようにかんがえる。
 父親ちちおやしん役割やくわりには前述ぜんじゅつのように、【かせしゅ専業せんぎょう】【ケア役割やくわり引受ひきうけ】【社会しゃかいへの活動かつどう】がある。父親ちちおやを【かせしゅ専業せんぎょう】にとどめる要因よういんとしては、まず「おとこ仕事しごとおんな家庭かてい」という〈性別せいべつ役割やくわり分業ぶんぎょう根強ねづよ支配しはい〉の存在そんざいげられる。また、父親ちちおやにおいて「産業さんぎょう関係かんけいとかそっちの仕事しごとしか」えず(01)、どものケア役割やくわり一身いっしんになう〈つま苦労くろう理解りかいできない〉てん要因よういんといえよう。一方いっぽう療育りょういく福祉ふくしサービス費用ひようなど経済けいざいてき負担ふたんがのしかかるにもかかわらず、専門せんもん機関きかんによる母親ははおや依存いぞん強化きょうかされ母親ははおやが「ケアのになとしての生活せいかつ」を余儀よぎなくされているがために、障害しょうがいのあるどもの家族かぞくにおいては夫婦ふうふ共働ともばたらきの選択せんたくはなされにくい。このため「このにしてやれることは(中略ちゅうりゃく)おかねのこことだ」(01)と仕事しごとにより邁進まいしんするといった事情じじょう(〈かせしゅ役割やくわり耽溺たんできする大義名分たいぎめいぶん〉)などは障害しょうがいのあるどもの家族かぞく特有とくゆう要因よういんといえる。
 とはいえ、父親ちちおやおおくは本当ほんとうどもをケアしたい・すべきだとかんがえている(〈「おとこだって」ケア〉)。しかし、【かせしゅ専業せんぎょう】から【ケア役割やくわり引受ひきうけ】への【引受ひきうけ阻害そがい要因よういん】が存在そんざいする。
 まず、母親ははおやかせしゅ役割やくわり期待きたいできない障害しょうがいのあるどもの家庭かていにおいては、父親ちちおや単独たんどくかせしゅとして「過剰かじょう仕事しごとへの没入ぼつにゅう」をせざるをえない。このようなきびしい労働ろうどう環境かんきょうがケア役割やくわり引受ひきうけはばむ(〈労働ろうどう条件じょうけん≒ケア役割やくわり引受ひきうけ条件じょうけん〉)。そのあらわれとして、本来ほんらいであれば障害しょうがいのないども以上いじょう手厚てあついケアが必要ひつようにもかかわらず、長時間ちょうじかん労働ろうどうなどが原因げんいん父親ちちおやがケアに習熟しゅうじゅくする機会きかいいっすることなどによる〈ケア役割やくわりからの逃走とうそう〉がしょうじたり、どものケアにたいして「苦手にがて意識いしき」をいだき、よりケアからとおざかってしまうこともある(〈ケアは不得意ふとくい〉)。
 また、「普通ふつうなら、比較的ひかくてき中途半端ちゅうとはんぱにぽっぽってはいってもなんとかなるんですけれど、こういう障害しょうがいったこの場合ばあいには〈中途半端ちゅうとはんぱではいられない〉」(05)。すなわち、父親ちちおやは「極端きょくたんうと、どっちをとるかというはなしですよね。仕事しごとをとるのか、家庭かていをとるのか」(08)という「つら選択せんたく」(09)をせまられる。父親ちちおやのケア役割やくわり引受ひきうけそく〈キャリア形成けいせいはあきらめる〉結果けっかともなうことになりかねず、キャリア形成けいせい断念だんねん経済けいざいてき損失そんしつもさることながら、中根なかね引用いんようする父親ちちおや言葉ことばりれば「自殺じさつ行為こういひとしい、おも選択せんたく」との側面そくめんゆうする。よって、ケア役割やくわり引受ひきうけ重要じゅうようせい認識にんしきしつつもあえてけないという選択せんたくをする父親ちちおや存在そんざいするとかんがえられる。
 以上いじょうのような【ケア役割やくわり引受ひきうけ】への【引受ひきうけ阻害そがい要因よういん】が存在そんざいする一方いっぽうで、【引受ひきうけ促進そくしん要因よういん】によってケア役割やくわりける父親ちちおやすくなくない。
 障害しょうがいのあるどものケアもふくめた「介護かいご休暇きゅうか」や父親ちちおや対象たいしょうとした「育児いくじ休暇きゅうか」は漸進ぜんしんてきではあるものの普及ふきゅうしつつある。男性だんせいのワーク・ライフ・バランスを考慮こうりょする言説げんせつ次第しだい一般いっぱんし、父親ちちおやどものケアを理由りゆう休暇きゅうかをとることにたいする社会しゃかい社会しゃかい理解りかいふかまりつつあることで、〈おとこだってケア〉が現実げんじつのものとなっている。
 各種かくしゅ調査ちょうさ父親ちちおや育児いくじ参加さんかうなが要因よういんとして時間じかんてき余裕よゆうとともにげられるのが育児いくじ参加さんか必要ひつようせいである。日常にちじょうの〈生活せいかつをまわす〉〈送迎そうげい不可欠ふかけつ〉、どもの〈ライフイベントをこなす〉という具体ぐたいてき必要ひつようにかられて、【ケア役割やくわり引受ひきうけ】に移行いこうする父親ちちおやすくなくない。
 一方いっぽう障害しょうがいのあるどものおやとして「暗闇くらやみなか子育こそだて」(07)をしているおやたちにとって、セルフ・ヘルプ・グループであるおやかいは、「孤立こりつからの解放かいほう」(02・04・06・07)をうながし、「まれるべくしてわがまれた」(02・04・06・07)といった認識にんしき醸成じょうせいする。このような機能きのうゆうするおやかいのメンバーなどの〈仲間なかまちからきこまれる〉ことや、自分じぶんどものために献身けんしんてきはたら専門せんもん姿すがたなどをみるなど、いわば〈周囲しゅういささえられ背中せなかされ〉ることがきっかけとなり、「自分じぶんひとりらんかおできない」(08)とケア役割やくわりにな場合ばあいもある。

3.3 ケア役割やくわり引受ひきうけ条件じょうけん
 課題かだいA「どのような条件じょうけんととのえば父親ちちおやがケア役割やくわりけられるのだろうか」のいにたいしては、【引受ひきうけ阻害そがい要因よういん】の除去じょきょおよび【引受ひきうけ促進そくしん要因よういん】の強化きょうかげられる。
 【引受ひきうけ阻害そがい要因よういん】の除去じょきょ具体ぐたいとしては、まず、ケア能力のうりょく獲得かくとく機会きかい時間じかん保障ほしょうかんがえられる。障害しょうがいのあるどもを対象たいしょうとした父親ちちおや教室きょうしつ両親りょうしん教室きょうしつ開催かいさいのみならず、このような教室きょうしつ父親ちちおや参加さんかすることが不利ふりにならないような制度せいどてき手当てあて必要ひつようである。また、育児いくじ支援しえん家庭かてい訪問ほうもん事業じぎょうあらたな子育こそだ支援しえんさくとして一部いちぶ自治体じちたいにおいて展開てんかいされているが、障害しょうがいのあるどもの家庭かてい訪問ほうもんにおいては、訪問ほうもん時間じかん父親ちちおや休日きゅうじつわせたり、「子育こそだてOB」として、おなじような障害しょうがいのあるどもの父親ちちおや同行どうこうしてもらうなどの、さまざまな工夫くふうほどこすことがのぞまれる。もちろん、ケア役割やくわりけられるだけの労働ろうどう条件じょうけん緩和かんわ必要ひつようとなる。
 また、〈中途半端ちゅうとはんぱではいられない〉、〈キャリア形成けいせいはあきらめる〉の【引受ひきうけ阻害そがい要因よういん】は、家族かぞく過重かじゅうなケア責任せきにんせられていることにはしはっする。このてんかんして、宮坂みやさかは「育児いくじかく家族かぞくのみでになえるものではなく、共同きょうどう育児いくじ実践じっせんとともに育児いくじ社会しゃかいてきサポートが必要ひつよう不可欠ふかけつである」とべる。同様どうようの「社会しゃかいてきサポート」がもうけられることで、上記じょうきケア引受ひきうけ阻害そがい要因よういん除去じょきょされうるといえよう。
 一方いっぽう、【引受ひきうけ促進そくしん要因よういん】としては、〈ライフイベントをこなす〉〈生活せいかつをまわす〉〈送迎そうげい不可欠ふかけつ〉といった必要ひつようなものをこなすものと、〈仲間なかまちからきこまれる〉〈周囲しゅういささえられ背中せなかされ〉という外部がいぶからのはたらきかけがげられる。
 父親ちちおやのケア役割やくわり引受ひきうけ必要ひつようせいしょうじたときに、個々ここ家庭かていないでの母親ははおやから父親ちちおやへのはたらきかけのみならず、療育りょういく機関きかんのスタッフや地域ちいきでの子育こそだ支援しえんスタッフ、おやかいのメンバーなどが有形ゆうけい無形むけい父親ちちおやのケア引受ひきうけ支援しえんすることが有効ゆうこうであろう。また、入学にゅうがくしき運動会うんどうかいといったイベント参加さんかのための休暇きゅうかをとりやすくするなどの政策せいさくのぞまれる。さらに、おやかい障害しょうがいのあるどものおや障害しょうがい障害しょうがいのあるどもにたいする認識にんしき変化へんか、ケア役割やくわり引受ひきうけ社会しゃかいへの活動かつどうなどさまざまなてんおおきなはたらきをすることにかんがみ、おやかいへの積極せっきょくてき支援しえんおこなうこととうもとめられる。

4 ケアをひらく、ひとをつなぐ――おわりに
 ほん報告ほうこくにおいては、おや役割やくわりみっつのパターンをげ、父親ちちおやの@ケア役割やくわり引受ひきうけ過程かていおよびAケア役割やくわり引受ひきうけ条件じょうけんについて考察こうさつしてきた。この父親ちちおやのケア役割やくわり引受ひきうけをめぐってほん報告ほうこく検討けんとうしきれなかったてんべきれなかったてんについて、今後こんご課題かだいとしてげておきたい。
 まず、知的ちてき障害しょうがいのあるどもの父親ちちおや対象たいしょうとしながらも、知的ちてき障害しょうがい特有とくゆう困難こんなんさ・ケア引受ひきうけ過程かてい引受ひきうけ条件じょうけん明確めいかくにしきれなかったてんである。みずからの意思いし表明ひょうめいすることに困難こんなんかかえることのおお知的ちてき障害しょうがいのあるどもだからこそ、「代弁だいべんしゃ」としての自覚じかくゆうするとの発言はつげんはみられたものの、これを概念がいねん・カテゴリーとして構成こうせいすることができなかった。
 つぎに、ほん報告ほうこくにおいてはどもの年代ねんだい成人せいじん未成年みせいねん区別くべつしなかった。これは、ケア役割やくわりけた知的ちてき障害しょうがいのあるどもの父親ちちおや経験けいけんという「調査ちょうさしゃ読者どくしゃがほとんどいたことのないことのこえく」ことを目的もくてきとする以上いじょう、ある程度ていど対象たいしょうひろくとらえる必要ひつようせいがあるとかんがえたためであった。しかし、障害しょうがい有無うむにかかわらず父親ちちおやのケア役割やくわり取得しゅとくつよもとめられるどもが未成年みせいねん時期じきと、障害しょうがいがなければ父親ちちおやのケアがほとんど必要ひつようとならないどもが成人せいじん以降いこう時期じきとでは、父親ちちおやのケア役割やくわり引受ひきうけ過程かていおよび引受ひきうけ条件じょうけんともにことなるものともかんがえられる。今後こんご、さまざまな父親ちちおやの「こえ」をくとともに、より緻密ちみつ分析ぶんせきもとめられよう。
 また、このことと関連かんれんして、「だつ家族かぞく」の主張しゅちょう父親ちちおやのケア役割やくわり引受ひきうけ必要ひつようせいとの整合せいごうせい問題もんだいとなる。どもが成人せいじんたっしてもなお、家族かぞくないでの父親ちちおやのケア役割やくわり引受ひきうけたして必要ひつようなのか、それは「だつ家族かぞく」の主張しゅちょう対立たいりつするものなのかというてんである。報告ほうこくしゃかならずしも両者りょうしゃ対立たいりつするものではないとかんがえているが、これについては稿こうあらためて検討けんとうする必要ひつようがあるだろう。
 藤崎ふじさきはケアが「本来ほんらいきわめて人間にんげんてき行為こういであり、個人こじんすす現代げんだいにおいて、ひとひととをふたたむすける契機けいきともなる」という広井ひろいのケアろん引用いんようする一方いっぽうで、「そのようなゆたか可能かのうせいめたケアにふかくコミットすればするほど、社会しゃかいから、そしてときには家族かぞくないでも孤立こりつし、疎外そがいされていくという皮肉ひにく現象げんしょうこっている」と指摘してきする。さらに、このような現状げんじょう打開だかいするための提案ていあんひとつとして「社会しゃかい家族かぞくのあいだの、そして家族かぞくない性別せいべつ世代せだいあいだのバランスを考慮こうりょしつつ、ケアの負担ふたん適切てきせつ分担ぶんたんする必要ひつようがある」とべる。知的ちてき障害しょうがいのあるどもの家族かぞくにおける父親ちちおやのケア役割やくわり引受ひきうけは、「社会しゃかい家族かぞくのあいだ」および「家族かぞくない性別せいべつ」におけるケアの負担ふたん適切てきせつ分担ぶんたん招来しょうらいし、本来ほんらいケアがゆうするゆたかな可能かのうせい発揮はっきする契機けいきとなるものとほぐされる。障害しょうがいのあるどもが家庭かていにおいても社会しゃかいにおいてもゆたかなつながりのなかでケアをけられるための方策ほうさくつよもとめられているといえよう。

引用いんよう文献ぶんけん ■
岡原おかはら正幸まさゆき 1990「制度せいどとしての愛情あいじょうだつ家族かぞくとは」安積あさか純子じゅんこ岡原おかはら正幸まさゆき尾中おちゅうぶん哉・立岩たていわしん也編『なま技法ぎほういえ施設しせつらす障害しょうがいしゃ社会しゃかいがく―』藤原ふじわら書店しょてん:75-100
春日しゅんじつキスヨ 1989『父子ふし家庭かていきる おとこおやあいだ』勁草書房しょぼう 
――――1997『介護かいごとジェンダー おとこ看取みとおんな看取みとる』家族かぞくしゃ
2001『介護かいご問題もんだい社会しゃかいがく岩波書店いわなみしょてん
2005「介護かいごとジェンダー」川本かわもと隆史たかしへん『ケアの社会しゃかい倫理りんりがく医療いりょう看護かんご介護かいご・をつなぐ』有斐閣ゆうひかく:251‐280
木下きのした康仁やすひと 2003『グラウンデッド・セオリー・アプローチの実践じっせん弘文こうぶんどう
桜井さくらいあつし 2002『インタビューの社会しゃかいがく―ライフストーリーのききかた』せりか書房しょぼう
土屋つちやよう 2002『障害しょうがいしゃ家族かぞくきる』勁草書房しょぼう
―――― 2003「〈障害しょうがいをもつどもの父親ちちおや〉であること」桜井さくらいあつしへん『ライフヒストリーとジェンダー』せりか書房しょぼう:119‐140
中根なかねしげる寿ことぶき 2006『知的ちてき障害しょうがいしゃ家族かぞく臨床りんしょう社会しゃかいがく 社会しゃかい家族かぞくでケアを分有ぶんゆうするために』明石書店あかししょてん
藤原ふじわら里佐りさ 2006『重度じゅうど障害しょうがい家族かぞく生活せいかつ――ケアする母親ははおやとジェンダー』明石書店あかししょてん
舩橋惠子えこ 1998「現代げんだい父親ちちおや役割やくわり比較ひかく社会しゃかいがくてき検討けんとう黒柳くろやなぎ晴夫はるお山本やまもと正和まさかず若尾わかお祐司ゆうじへん父親ちちおや家族かぞく父性ふせいう― シリーズ比較ひかく家族かぞくだいU 2』早稲田大学わせだだいがく出版しゅっぱん:136‐168
2006『育児いくじのジェンダー・ポリティクス』勁草書房しょぼう
藤崎ふじさき宏子ひろこ 2003「現代げんだい家族かぞくとケア―性別せいべつ世代せだい視点してんから―」「社会しゃかい福祉ふくし研究けんきゅうだい88ごうてつどう弘済会こうさいかい社会しゃかい福祉ふくし21‐26
ほり智久ともひさ 2005「「障害しょうがいおや」が感情かんじょう管理かんりする主体しゅたいとなるとき」「障害しょうがいがく研究けんきゅう1」障害しょうがい学会がっかい:136‐157
宮坂みやさか靖子やすこ 2001「ポスト近代きんだいてきジェンダーと共同きょうどう育児いくじやまこういちへん母性ぼせい父性ふせい人間にんげん科学かがく』コロナしゃ:106‐134
要田かなめた洋江ひろえ 1999『障害しょうがいしゃ差別さべつ社会しゃかいがく岩波書店いわなみしょてん

作成さくせい
UP:20090905 REV:20090921
全文ぜんぶん掲載けいさい  ◇障害しょうがい学会がっかいだい6かい大会たいかい  ◇障害しょうがい学会がっかいだい6かい大会たいかい報告ほうこく要旨ようし
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