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山下やました 幸子さちこ (やました さちこ) 淑徳大学しゅくとくだいがく

■報告ほうこく題目だいもく

障害しょうがい当事とうじ者しゃ運動うんどうと介護かいご派遣はけん・公的こうてき介護かいご保障ほしょう要求ようきゅう──主おもに1980年代ねんだい大阪おおさかにおける運動うんどうから

■報告ほうこくキーワード

障害しょうがい当事とうじ者しゃ運動うんどう / 介護かいご派遣はけん / 介護かいごの事業じぎょう化か

■報告ほうこく要旨ようし

1. 目的もくてき・対象たいしょう・方法ほうほう

　本ほん報告ほうこくの目的もくてきは、1980年代ねんだい大阪おおさかの障害しょうがい当事とうじ者しゃ運動うんどうにおいて、公的こうてき介護かいご保障ほしょうという発想はっそうに至いたり、その実現じつげんを目指めざしてきたプロセスを明あきらかにすることである。
　本ほん報告ほうこくが大阪おおさかの障害しょうがい当事とうじ者しゃ運動うんどうを対象たいしょうにするのは、大阪おおさかの障害しょうがい当事とうじ者しゃ運動うんどうが、1970年代ねんだいからの障害しょうがい者しゃと健常けんじょう者しゃとの関係かんけい性せいを問とい健常けんじょう者しゃ中心ちゅうしんで構成こうせいされていく社会しゃかいのありようを捉とらえなおし変革へんかくしようとする運動うんどうから、その成果せいかを継承けいしょうしつつも、あらゆる障害しょうがい者しゃの地域ちいき生活せいかつに必要ひつような公的こうてき介護かいご保障ほしょう運動うんどうへと移うつり変かわる様相ようそうの描出びょうしゅつに重要じゅうようだと考かんがえられるためである。
　方法ほうほうは、当時とうじに刊行かんこうされた通信つうしんや、学習がくしゅう会かいやイベント等とうでの配布はいふ資料しりょう、障害しょうがい者しゃ解放かいほうセンターの運営うんえい会議かいぎ資料しりょう等とうを元もとにした資料しりょうによる分析ぶんせきと、当時とうじの運動うんどうを担になってきた方々かたがたへのインタビュー調査ちょうさの方法ほうほうを採とる。本ほん報告ほうこくの研究けんきゅう対象たいしょうについては、定てい藤ふじ邦子くにこによる大阪おおさか青あおい芝しばの会かい全体ぜんたいの運動うんどう史し研究けんきゅう（定てい藤ふじ、2011）が先行せんこう研究けんきゅうの第だい一いちにあげられる。本ほん報告ほうこくは、その成果せいかをもとに、さらに「介護かいご」をめぐる状況じょうきょうに焦点しょうてん化かしていく。

2. 倫理りんり的てき配慮はいりょ

　文献ぶんけん・資料しりょうを用もちいた記述きじゅつについては、『障害しょうがい学がく研究けんきゅう』執筆しっぴつ要項ようこうを遵守じゅんしゅする。インタビュー調査ちょうさについては、プライバシー保護ほごに努つとめ、調査ちょうさ協力きょうりょく者しゃの同意どういを得えての公表こうひょうとする。なお、本ほん研究けんきゅうは淑徳大学しゅくとくだいがく研究けんきゅう倫理りんり審査しんさ委員いいん会かいの承認しょうにんを得えている。

3. 研究けんきゅう成果せいか

　1970年代ねんだい後半こうはんからの障害しょうがい者しゃ解放かいほう運動うんどうの混迷こんめい期き（山下やました、2008）を経へて、まず障害しょうがい者しゃと健常けんじょう者しゃが“共同きょうどう”して、“組織そしき的てき”に運動うんどうを進すすめる方針ほうしんがとられたのだが、その背景はいけいには、「個こと個この関係かんけい」だけでは、あらゆる障害しょうがい者しゃの自立じりつした地域ちいきでの暮くらしには至いたらないという認識にんしきがあった。運動うんどうの混迷こんめいの中なかで、軽度けいど障害しょうがい者しゃや、独力どくりょくで介護かいご者しゃを見みつけ指示しじが可能かのうな障害しょうがい者しゃたちは運動うんどうを離はなれていく傾向けいこうにあった。結果けっか、独力どくりょくでは介護かいご者しゃを見みつけることの難むずかしい重度じゅうど障害しょうがい者しゃや、大勢おおぜいの在宅ざいたく・施設しせつ障害しょうがい者しゃの生活せいかつ課題かだいをどうするかが、運動うんどうの主題しゅだいとなっていったのである。そして、青あおい芝しばの会かいの活動かつどうに随伴ずいはんし介護かいごを担になってきた「グループゴリラ」には、無給むきゅうで毎日まいにちのように介護かいごに入はいらざるを得えない状況じょうきょうが生うまれていた。その介護かいご負担ふたんの大おおきさは障害しょうがい者しゃの自立じりつ生活せいかつを危あやうくした。
　そうした運動うんどうの転換てんかん点てんとなったのが、1980年ねんから大阪おおさか青あおい芝しばの会かいが行おこない始はじめた「生活せいかつ要求ようきゅう一斉いっせい調査ちょうさ」であった。調査ちょうさを通とおして、青あおい芝しばの会かいとその活動かつどうを共ともにした健常けんじょう者しゃ達たちは、障害しょうがい者しゃから切実せつじつな要求ようきゅうとして出だされる一ひとつが介護かいごについてであるのだが、それは専もっぱら家族かぞくの責任せきにんとされ、障害しょうがい者しゃ本人ほんにんや家族かぞくの負担ふたんによってなんとか保たもたれている脆弱ぜいじゃくな状況じょうきょうにあり、制度せいどとして無む施策しさくであるという認識にんしきをもつ。そして、「障害しょうがい者しゃが地域ちいきで生活せいかつしていくための介護かいご保障ほしょうの責任せきにんは行政ぎょうせいにあることを明確めいかくにおさえる」という認識にんしきに立たつことになる。介護かいごを、介護かいごする者ものとされる者ものとの関係かんけい性せいの問題もんだいに焦点しょうてんを置おき、運動うんどう内部ないぶで解決かいけつすべき問題もんだいと捉とらえる方向ほうこう性せいから、制度せいど化か・システム化かを目指めざす方向ほうこうへと移行いこうする契機けいきとなったのである。
　その後ご、1986年ねん後半こうはんから87年ねんにかけて、大阪おおさかでは介護かいごの事業じぎょう化かに関かんする議論ぎろんが行おこなわれてきた。これまで「人間にんげん関係かんけい」として行おこなわれてきた介護かいごを事業じぎょう化かする。これは、生活せいかつ保護ほご他人たにん介護かいご料りょう等とうの介護かいご制度せいどを元手もとでに介護かいごを有償ゆうしょう化かし、介護かいご派遣はけんや介護かいご者しゃ募集ぼしゅうをシステムとして行おこなうことを意味いみする。当時とうじの資料しりょうでは、「生活せいかつに欠かかせない介護かいごは今後こんご多おおくの障害しょうがい者しゃのニーズに応こたえていくためには無償むしょう労働ろうどうとして行おこなうのではなく、社会しゃかい的てきに権利けんりとして保障ほしょうされる方向ほうこうに向むけて労働ろうどうとしての位置いちに介護かいごを近ちかづけていくべきではないか」という議論ぎろんが続つづけられてきたとある。そして、障害しょうがい者しゃが自立じりつした生活せいかつを行おこなうにあたり、どのような介護かいごがどのくらい必要ひつようなのかを明確めいかくにし、行政ぎょうせいに要求ようきゅうしていく根拠こんきょとするという目的もくてきも示しめされた（大阪おおさか中部ちゅうぶ地区ちく障害しょうがい者しゃ解放かいほうセンター、1988、p3）。
　1980年代ねんだい障害しょうがい者しゃ運動うんどうでの介護かいごに関かかわる認識にんしきの変化へんかをまとめる。介護かいご保障ほしょうの責任せきにんは障害しょうがい者しゃと健常けんじょう者しゃとの個この関係かんけいのなかで交かわされるものではなく行政ぎょうせいにあるという認識にんしきは、運動うんどうの方向ほうこう性せいを大おおきく変かえていく。それとともに、運動うんどうの形態けいたいとしても障害しょうがい者しゃと健常けんじょう者しゃが共同きょうどうしての組織そしきとして行政ぎょうせい交渉こうしょうを重かさねていくスタイルに、そして行政ぎょうせいとの交渉こうしょうを重かさねていくために実態じったいを把握はあくし、要求ようきゅうの根拠こんきょを明確めいかくに提示ていじする方向ほうこうへと移うつっていくことになる。そして、介護かいご保障ほしょうを行政ぎょうせいに求もとめるとともに、障害しょうがい者しゃ運動うんどう組織そしき自みずからが介護かいご派遣はけんをシステム化かし、供給きょうきゅうしていくこととなる。そこには、介護かいごを有償ゆうしょう化かし、システム化かすることで社会しゃかい的てきな労働ろうどうへと向むける方向ほうこう性せいがあったのである。

参考さんこう文献ぶんけん
・大阪おおさか中部ちゅうぶ地区ちく障害しょうがい者しゃ解放かいほうセンター（1988）『中部ちゅうぶ障害しょうがい者しゃ解放かいほうセンター通信つうしん　88年ねん5月がつ号ごう』
・定てい藤ふじ邦子くにこ（2011）『関西かんさい障害しょうがい者しゃ運動うんどうの現代げんだい史し―大阪おおさか青あおい芝しばの会かいを中心ちゅうしんに』生活せいかつ書院しょいん
・山下やました幸子さちこ（2008）『「健常けんじょう」であることを見みつめる―1970年代ねんだい障害しょうがい者しゃ／健全けんぜん者しゃ運動うんどうから』生活せいかつ書院しょいん

謝辞しゃじ
本ほん研究けんきゅうはJSPS科か研けん費ひ25780348の助成じょせいを受うけている。

障害しょうがい学会がっかい第だい12回かい大会たいかい（2015年度ねんど）