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朝日あさひ まどか (あさひ まどか) 北海道ほっかいどう医療いりょう大学だいがく

■報告ほうこく題目だいもく

「訪問ほうもん作業さぎょう療法りょうほう」の効果こうかをめぐる言説げんせつについて──学術がくじゅつ誌しにおける批判ひはん的てき言説げんせつ分析ぶんせきから

■報告ほうこくキーワード

訪問ほうもん作業さぎょう療法りょうほう / 権力けんりょく / 医療いりょう化か

■報告ほうこく要旨ようし

はじめに

　近年きんねん、医療いりょうに関かんする議論ぎろんの中なかで、「患者かんじゃ中心ちゅうしん」という語かたりが出でてこないことの方ほうが稀まれであるほど、患者かんじゃ本人ほんにんの意思いし・価値かち基準きじゅんを重視じゅうしすべきとの認識にんしきが広ひろがっている（松まつ繁しげる2010：1）。作業さぎょう療法りょうほうにおいてもクライアントと協業きょうぎょうすることの重要じゅうよう性せいが謳うたわれ、「クライアント中心ちゅうしんの作業さぎょう療法りょうほう」が実施じっしされている（Law 2000:3）。松まつ繁しげるは「患者かんじゃ中心ちゅうしんの医療いりょう」について、概念がいねんの曖昧あいまいさや高度こうどな医学いがくの「専門せんもん知識ちしき」と「患者かんじゃ中心ちゅうしん」というコンセプトがどのように折おり合あいがつけられるのかという点てんに疑問ぎもんをなげかける（松まつ繁しげる2010：1－2）。
　作業さぎょう療法りょうほうはリハビリテーションのなかでも、より「生活せいかつ」に着目ちゃくもくした支援しえんをするが、「生活せいかつ」は個人こじん的てきで恣意しい性せいが高たかいものであり、そのようなものに作業さぎょう療法りょうほうの言説げんせつをもちつつ、患者かんじゃ中心ちゅうしんのコンセプトを掲かかげどのように支援しえんをしているかは疑問ぎもんである。また、作業さぎょう療法りょうほうにおける言説げんせつやそこに秘ひめられる権力けんりょく性せいなど、作業さぎょう療法りょうほうの言説げんせつを批判ひはん的てきに分析ぶんせきした研究けんきゅうはこれまであまりされていない。
　そこで本ほん研究けんきゅうでは、作業さぎょう療法りょうほうのなかでもより対象たいしょう者しゃの恣意しい的てきな生活せいかつを支援しえんする訪問ほうもん作業さぎょう療法りょうほうに着目ちゃくもくし、訪問ほうもん作業さぎょう療法りょうほうが求もとめる効果こうかにまつわる言説げんせつやそこに秘ひめられる権力けんりょくを明あきらかにすること、また言説げんせつの対象たいしょう者しゃへの適用てきようや権力けんりょくが強化きょうかされる背景はいけいとして、作業さぎょう療法りょうほうと社会しゃかい構造こうぞうとの関係かんけい性せいを批判ひはん的てきに分析ぶんせき、考察こうさつすることを目的もくてきとする。

対象たいしょうと方法ほうほう

　訪問ほうもん作業さぎょう療法りょうほうの言説げんせつが反映はんえいされていると思おもわれる学術がくじゅつ誌し「作業さぎょう療法りょうほうジャーナル」「作業さぎょう療法りょうほう」「訪問ほうもんリハビリテーション」「地域ちいきリハビリテーション」「臨床りんしょう作業さぎょう療法りょうほう」を資料しりょうとし、この中なかから「訪問ほうもん作業さぎょう療法りょうほう」のワードで検索けんさくし、訪問ほうもん作業さぎょう療法りょうほうが対象たいしょう者しゃに求もとめる効果こうかについて触ふれているものを対象たいしょうとした。資料しりょうは、2011～2015年ねん現在げんざい（2015年ねん7月がつ14日にち）とし20本ほんが対象たいしょうとなった。対象たいしょうとする学術がくじゅつ誌しは公開こうかいされており倫理りんり的てき問題もんだいはないと考かんがえる。
　本ほん研究けんきゅうでは批判ひはん的てき言説げんせつ分析ぶんせき（以下いか、CDA：critical discourse analysis）を用もちい分析ぶんせきする。CDAは、談話だんわを構成こうせいする多元的たげんてきなコンテクストに意識いしきを向むけ、そこに含ふくまれる潜在せんざい的てきな意味いみを読よみ取とろうとする批判ひはん的てき態度たいどや、表面ひょうめん上じょうは見みえない形かたちで談話だんわに埋うめ込こまれた権力けんりょく性せいを具体ぐたい的てきな社会しゃかいとの関連かんれんの中なかで問題もんだい視しする批判ひはん的てき態度たいどをもつ（野呂のろ2009：17-18）。本ほん研究けんきゅうにおいても、訪問ほうもん作業さぎょう療法りょうほうの言説げんせつやその言説げんせつが生うまれる社会しゃかいとの関連かんれんを多角たかく的てきに、批判ひはん的てき態度たいどで分析ぶんせきする必要ひつよう性せいがあると考かんがえた。

結果けっかと考察こうさつ

1. 秩序ちつじょある多様たよう性せい
　訪問ほうもん作業さぎょう療法りょうほうは、その人ひとらしい「意味いみのある作業さぎょう」の実現じつげんという個別こべつ性せいを尊重そんちょうした関かかわりをもつ。しかし、そのような多様たよう性せいを尊重そんちょうしつつも、不ふ活発かっぱつな姿勢しせいから意欲いよく的てきで活動かつどう的てきな「静せいから動どうへ変化へんかする姿勢しせい」や、障害しょうがいをもっても諦あきらめず、新あらたなことに挑戦ちょうせんする「戦たたかう障害しょうがい者しゃ像ぞう」を期待きたいする。そのような姿勢しせいは「活動かつどう的てきで社会しゃかい参加さんかに富とんだ生活せいかつ」「できなかったことができる生活せいかつ」といった「過去かこへの回帰かいき」という一定いっていの秩序ちつじょを作業さぎょう療法りょうほうの効果こうかとして求もとめ、生活せいかつそのものを医療いりょう化かする。さらにそのような生活せいかつが、作業さぎょう療法りょうほう士しが不在ふざいの際さいも自動じどう化かされるよう「規律きりつの内面ないめん化か」を求もとめる。このように、訪問ほうもん作業さぎょう療法りょうほうは対象たいしょう者しゃの多様たよう性せいを尊重そんちょうしつつも、ある一定いっていの秩序ちつじょを求もとめ「秩序ちつじょある多様たよう性せい」（田中たなか2014：144）を期待きたいする。

2. 意味いみのある作業さぎょうの手段しゅだん化か
　作業さぎょう療法りょうほう士しにとって「意味いみのある作業さぎょう」は、対象たいしょう者しゃが主体しゅたい的てきとなりその方ほうらしさを獲得かくとくする作業さぎょうと捉とらえられ、作業さぎょう療法りょうほうの目標もくひょうとして互たがいに共有きょうゆうされる。作業さぎょう療法りょうほう士しは対象たいしょう者しゃに興味きょうみがある作業さぎょうや生活せいかつ課題かだいを尋たずね、その作業さぎょうを「意味いみのある作業さぎょう」とする。表出ひょうしゅつされない場合ばあい、作業さぎょう療法りょうほう士しから何なんらかの提案ていあんがされる。また「意味いみのある作業さぎょう」は、機能きのうや閉とじこもり等とうの予防よぼうの手段しゅだんとして利用りようされ、さらに作業さぎょうの継続けいぞく性せいや広ひろがりを対象たいしょう者しゃに期待きたいする。

3. 生活せいかつを管理かんりする権力けんりょく
　「秩序ちつじょある多様たよう性せい」の実現じつげんは、高齢こうれい化かの問題もんだいや医療いりょう費ひの赤字あかじを抱かかえ、健康けんこう寿命じゅみょうを唱となえる国くにの政策せいさくと共鳴きょうめいしやすい問題もんだいであり、社会しゃかい的てき承認しょうにんを希求ききゅうする作業さぎょう療法りょうほうにとって動機どうきづけとなりやすい。さらに、これは介護かいご者しゃ家族かぞくや多た職種しょくしゅの期待きたいとも共鳴きょうめいしやすく、リハ的てきな視点してんでの生活せいかつを対象たいしょう者しゃに求もとめる。そのため、訪問ほうもん作業さぎょう療法りょうほうは家族かぞくや多た職種しょくしゅと容易よういに連携れんけいがとれ、その連携れんけいは作業さぎょう療法りょうほう士しが不在ふざいの際さいも管理かんり機能きのうを果はたし、さらなる対象たいしょう者しゃの「生活せいかつの管理かんり」という権力けんりょくを発揮はっきし、訪問ほうもん作業さぎょう療法りょうほうとしての効果こうかを得えることに繋つながる。

文献ぶんけん

ロウ『クライアント中心ちゅうしんの作業さぎょう療法りょうほう　カナダ作業さぎょう療法りょうほうの展開てんかい』（＝2000，宮前みやまえ珠子たまこ、長谷ながたに龍太郎りゅうたろう監訳かんやく　協同きょうどう医書いしょ出版しゅっぱん社しゃ．）
松まつ繁しげる卓哉たくや（2010）『「患者かんじゃ中心ちゅうしんの医療いりょう」という言説げんせつ－患者かんじゃの「知ち」の社会しゃかい学がく』立教大学りっきょうだいがく出版しゅっぱん会かい．
野呂のろ香代子かよこ（2009）「クリティカル・ディスコ―ス・アナリシス」野呂のろ香代子かよこ、山下やました仁ひとし編著へんちょ　『新装しんそう版ばん「正ただしさ」への問とい‐批判ひはん的てき社会しゃかい言語げんご学がくの試こころみ‐』三さん元げん社しゃ．
田中たなか耕一こういち（2014）『＜社会しゃかい的てきなもの＞の運命うんめい』関西学院大学かんせいがくいんだいがく出版しゅっぱん会かい．

障害しょうがい学会がっかい第だい12回かい大会たいかい（2015年度ねんど）