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植うえ戸ど 貴子たかこ (うえと たかこ) 神戸女子大学こうべじょしだいがく健康けんこう福祉ふくし学部がくぶ

■報告ほうこく題目だいもく

知的ちてき障害しょうがい児じ・者しゃの親おやによるケアから社会しゃかい的てきケアへの移行いこう──親おやへのアンケート調査ちょうさから

■報告ほうこくキーワード

知的ちてき障害しょうがい / 社会しゃかい的てきケア / アンケート調査ちょうさ

■報告ほうこく要旨ようし

I. 研究けんきゅうの背景はいけい・目的もくてき

　知的ちてき障害しょうがい者しゃの地域ちいき生活せいかつ移行いこうが進すすむ一方いっぽう、知的ちてき障害しょうがい者しゃのケアを担になう母親ははおやの高齢こうれい化か・病気びょうき等とうにより本人ほんにんのQOLが低下ていかしたり、母親ははおやが倒たおれて本人ほんにんが入所にゅうしょ施設しせつへ移行いこうしたりというケースが数多かずおおく報告ほうこくされている。ケアに行いき詰づまった親おやによる子こどもの殺害さつがいや心中しんちゅうの事件じけんも起おきており、知的ちてき障害しょうがい者しゃの地域ちいき生活せいかつ継続けいぞくのための支援しえんが喫緊きっきんの課題かだいである。
　このような現状げんじょうの背景はいけいには「親おやによるケアの抱かかえ込こみ」や「母子ぼし密着みっちゃく」があると指摘してきされている（西村にしむら　2009、植うえ戸ど　2014）。そして、知的ちてき障害しょうがい者しゃの「地域ちいき生活せいかつ継続けいぞく」のためには、「親おやによるケアから社会しゃかい的てきケアへの移行いこうに向むけた支援しえん」が必要ひつようとなるが、これまでの知的ちてき障害しょうがい者しゃ福祉ふくし分野ぶんやの実践じっせん研究けんきゅうには、「地域ちいき生活せいかつ継続けいぞく支援しえん」の視点してんが十分じゅうぶんではない。そこで本ほん研究けんきゅうでは、「親おやによるケアから社会しゃかい的てきケアへの移行いこう」に向むけた相談そうだん支援しえんに資しするため、社会しゃかい的てきケアへの移行いこうの阻害そがい要因よういんや促進そくしん要因よういんを明あきらかにしていく。

II. 調査ちょうさの概要がいよう

(1) 調査ちょうさ方法ほうほう
　2009～2012年度ねんどにかけて、相談そうだん支援しえん事業じぎょう所しょや通所つうしょ施設しせつの相談そうだん支援しえん従事じゅうじ者しゃ等とうへのき取きとり調査ちょうさを行おこない、知的ちてき障害しょうがい者しゃと家族かぞくに対たいする相談そうだん支援しえんの現状げんじょうや課題かだいを明あきらかにした。そして、知的ちてき障害しょうがい者しゃをケアしてきた母親ははおやの置おかれている状況じょうきょうや思おもいを理解りかいするため、親おやへのアンケート調査ちょうさを実施じっしした。
　2014年ねん2月がつ、A市しの知的ちてき障害しょうがい者しゃの親おやの会かいから全ぜん会員かいいんに、依頼いらい文ぶん・質問しつもん票ひょう・返信へんしん用よう封筒ふうとうを郵送ゆうそうしてもらい、回答かいとうは調査ちょうさ者しゃに返送へんそうしてもらった。質問しつもん項目こうもくは、本人ほんにんに関かんする質問しつもん（基本きほん属性ぞくせい・生活せいかつ状じょう況きょう・自立じりつ度ど・行動こうどう特性とくせい等とう）、親おやに関かんする質問しつもん（基本きほん属性ぞくせい・ケアに関かんする意識いしき・社会しゃかい参加さんか状じょう況きょう・ソーシャルサポート・子こへの思おもいや関かかわり・専門せんもん職しょくとの関係かんけい等とう）、サービス利用りよう状じょう況きょうや経済けいざい状況じょうきょうに関かんする質問しつもんである。
　倫理りんり的てき配慮はいりょとして、事前じぜんに親おやの会かいの役員やくいんに質問しつもん票ひょうを示しめして調査ちょうさの目的もくてき・概要がいようについて口頭こうとうと文書ぶんしょで説明せつめいし、調査ちょうさ協力きょうりょくの承諾しょうだくを得えた。会員かいいんへの協力きょうりょく依頼いらい文ぶんでは、回答かいとうは自由じゆう意思いしによること、無む記名きめいであること、個人こじんが特定とくていされないよう統計とうけい的てきに処理しょりすること、結果けっかは学会がっかい等とうで発表はっぴょうすることを記しるした。また、「神戸女子大学こうべじょしだいがくヒト研究けんきゅう倫理りんり委員いいん会かい」の承認しょうにんを得えた。

(2) 調査ちょうさ結果けっか
　送付そうふした977通つうの質問しつもん票ひょうに対たいして451票ひょうの回答かいとうがあり（回収かいしゅう率りつ46.2%）、無効むこう票ひょう・白票はくひょうを除のぞく449票ひょうを有効ゆうこう票ひょうとみなした。本人ほんにんの属性ぞくせいとしては、平均へいきん年齢ねんれいは38.1歳さい（16~72歳さい）、男性だんせいが66.8%に対たいして女性じょせいが32.1%、療育りょういく手帳てちょうは重度じゅうどが17.1%、中ちゅう度どが26.5%、軽度けいどが17.1%であった。84.4%の人ひとが親おやと同居どうきょし、日にち中ちゅう活動かつどうの場ばは通所つうしょ事業じぎょう所しょが66.4%であった。回答かいとう者しゃの属性ぞくせいとしては、母親ははおやが79.3%、平均へいきん年齢ねんれいは65.2歳さい（39～90歳さい）でとなっていた。

(3) 結果けっかの分析ぶんせきと考察こうさつ
　「社会しゃかい的てきケアへの移行いこう度ど」を測はかるため、「母子ぼしが離はなれる時間じかん」「サービスの積極せっきょく的てき利用りよう」「ケアを他者たしゃに委ゆだねる意向いこう」「子この自立じりつに向むけた関かかわり」を従属じゅうぞく変数へんすうに設定せっていし、それらに関連かんれんすると考かんがえられる要因よういんとして、「母親ははおやの要因よういん」「子この要因よういん」「父子ふしの関かかわりの要因よういん」「経済けいざい的てき状況じょうきょう」を独立どくりつ変数へんすうに設定せっていし、相関そうかん分析ぶんせき及および一元いちげん配置はいち分散ぶんさん分析ぶんせきを行おこなった。「社会しゃかい的てきケアへの移行いこう」に関連かんれんする要因よういんについて、仮説かせつどおりの結果けっかが得えられた主おもなものは以下いかのとおりである。
①「独立どくりつ規範きはん意識いしき」の強つよい母親ははおやは「ケアを委ゆだねようという意向いこう」が強つよく「子この自立じりつに向むけた関かかわり」が多おおい。
②就労しゅうろうや地域ちいき活動かつどう」に多おおくの時間じかんを使つかう母親ははおやは「ケアを委ゆだねようという意向いこう」が強つよく「子この自立じりつに向むけた関かかわり」が多おおい。
③「子この自立じりつ度ど」の高たかい母親ははおやは「母子ぼしが離はなれる時間じかん」が多おおく「ケアを委ゆだねようという意向いこう」が強つよく「子この自立じりつに向むけた関かかわり」が多おおい。
④「子この年齢ねんれい」の高たかい母親ははおやは「ケアを委ゆだねようという意向いこう」が強つよい。
⑤「経済けいざい的てきなゆとり」の大おおきい母親ははおやは「母子ぼしが離はなれる時間じかん」が多おおい。
　一方いっぽう、仮説かせつに反はんして、「母親ははおや役割やくわり意識いしき」の強つよい母親ははおやは「ケアを委ゆだねようという意向いこう」が強つよく「子この自立じりつに向むけた関かかわり」が多おおい、という結果けっかが得えられた。
　先行せんこう研究けんきゅうや相談そうだん支援しえん従事じゅうじ者しゃへのき取きとりでは「母子ぼし密着みっちゃく」が指摘してきされていたが、今回こんかいの分析ぶんせきからは、母親ははおやの価値かち観かん、子こどもの属性ぞくせい、社会しゃかいとの関かかわり、経済けいざい的てき状況じょうきょう等とう、多様たような要因よういんが絡からみ合あって「ケアの抱かかえ込こみ」に至いたっている可能かのう性せいが考かんがえられる。

III. まとめ

　現時点げんじてんでの分析ぶんせきでは、社会しゃかい的てきケアへの移行いこうに関連かんれんする要因よういんの一部いちぶが見みえてきた。今後こんごは、仮説かせつとは異ことなる結果けっかが出でたものも含ふくめて、さらなる分析ぶんせきを進すすめていきたい。

参考さんこう文献ぶんけん

西村にしむら愛あい（2009）「親おや役割やくわりを降おりる支援しえんの必要ひつよう性せいを考かんがえる：『親おや亡なき後あと』問題もんだいから一いち歩ほ踏ふみ出だすために」『青森あおもり保健ほけん大学だいがく雑誌ざっし』10(2), 155-164
植うえ戸ど貴子たかこ（2014）「知的ちてき障害しょうがい者しゃの地域ちいき生活せいかつ継続けいぞくのための先駆せんく的てき相談そうだん支援しえん実践じっせん：障害しょうがい者しゃ相談そうだん支援しえん事業じぎょう所しょに対たいするき取きとり調査ちょうさから」『神戸女子大学こうべじょしだいがく健康けんこう福祉ふくし学部がくぶ紀要きよう』6, 15-28

障害しょうがい学会がっかい第だい12回かい大会たいかい（2015年度ねんど）