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長谷川はせがわ 唯ゆい (はせがわ ゆい) 日本にっぽん学術がくじゅつ振興しんこう会かい / 京都府立大学きょうとふりつだいがく

■報告ほうこく題目だいもく

難病なんびょうの障害しょうがい学がくに向むけて──疾病しっぺいと障害しょうがいの共存きょうぞんへの批判ひはん

■報告ほうこくキーワード

難病なんびょう / 疾病しっぺいと障害しょうがいの共存きょうぞん / 不利益ふりえき集中しゅうちゅう

■報告ほうこく要旨ようし

　障害しょうがい者しゃ権利けんり条約じょうやくの批准ひじゅんに向むけた国内こくない法ほう整備せいびにおいて、障害しょうがいの範囲はんいに難病なんびょうが含ふくまれたことは記憶きおくに新あたらしい。障害しょうがい者しゃ基本きほん法ほう第だい2条じょうでは、「障害しょうがい者しゃ」を、身体しんたい障害しょうがい、知的ちてき障害しょうがい、精神せいしん障害しょうがい（発達はったつ障害しょうがいを含ふくむ）その他たの心身しんしんの機能きのうの障害しょうがいがある者ものあつて、障害しょうがいおよび社会しゃかい的てき障壁しょうへきにより継続けいぞく的てきに日常にちじょう生活せいかつ又または社会しゃかい生活せいかつに相当そうとうな制限せいげんを受うける状態じょうたいにあるもの」として規定きていしている。ここでの難病なんびょう者しゃは、その他たの心身しんしんの機能きのうの障害しょうがいがある者ものとして解釈かいしゃくされる。また障害しょうがい者しゃ総合そうごう支援しえん法ほうでは、「治療ちりょう方法ほうほうが確立かくりつしていない疾病しっぺいとその他たの特殊とくしゅの疾病しっぺいであって政令せいれいで定さだめるものによる障害しょうがいの程度ていどが厚生こうせい労働ろうどう大臣だいじんが定さだめる程度ていどである者ものであって十じゅう八はち歳さい以上いじょうであるもの」として明記めいきされた。
　2014年ねん5月がつには、「難病なんびょうの患者かんじゃに対たいする医療いりょう等とうに関かんする法律ほうりつ」（難病なんびょう法ほう）が成立せいりつし、難病なんびょう者しゃの人権じんけんが法的ほうてきに位置付いちづけられた。それによれば、難病なんびょう者しゃは、「発病はつびょうの機構きこうが明あきらかでなく、かつ、治療ちりょう方法ほうほうが確立かくりつしていない希少きしょうな疾病しっぺいであって、当該とうがい疾病しっぺいにかかることにより長期ちょうきにわたり療養りょうようを必要ひつようとすることとなるものをいう」と規定きていされている。そして第だい2条じょうでは、「難病なんびょうの克服こくふくを目指めざし、難病なんびょうの患者かんじゃがその社会しゃかい参加さんかの機会きかいが確保かくほされること及および地域ちいき社会しゃかいにおいて尊厳そんげんを保持ほじしつつ他たの人々ひとびとと強制きょうせいすることを妨さまたげられないことを旨むねとして、難病なんびょうの特性とくせいに応おうじて、社会しゃかい福祉ふくしその他たの関連かんれん施策しさくとの有機ゆうき的てきな連携れんけいに配慮はいりょしつつ、総合そうごう的てきに行おこなわなければならない」と明記めいきされている。
　こうして社会しゃかいモデルを基礎きそとした障害しょうがい者しゃ権利けんり条約じょうやくの完全かんぜん実施じっしに向むけた取とり組くみの一環いっかんとして、難病なんびょう者しゃについて法的ほうてきに整備せいびされてきた。しかし実際じっさいには、難病なんびょう者しゃの人権じんけん保障ほしょうやその生活せいかつには、様々さまざまな社会しゃかい的てき障壁しょうへきが存在そんざいしている。たとえば、特定とくてい医療いりょう費ひ助成じょせいの対象たいしょうとなっているのは306疾患しっかんであり、それ以外いがいは対象たいしょうにはならない。さらに、他たの障害しょうがい者しゃにかかる施策しさくは、その判断はんだんにあたって、難病なんびょうそのものを対象たいしょうとしているのではなく、難病なんびょうに起因きいんして生しょうじてくる身体しんたい障害しょうがいにもっぱら焦点しょうてんがあてられ、「身体しんたい障害しょうがい者しゃ」として認みとめられなければ制度せいどを活用かつようして生活せいかつすることができない状態じょうたいにおかれている。それはいいかえれば、難病なんびょうが難病なんびょうとしてではなく、そこから起因きいんして生しょうじる身体しんたい障害しょうがいをもちえなければ、障害しょうがい者しゃとして認みとめられないということを意味いみする。
　難病なんびょう者しゃやそこにかかわる団体だんたいや人々ひとびとは、難病なんびょうによって社会しゃかい的てき不利益ふりえきを被こうむる状態じょうたいの解消かいしょうを目指めざして、社会しゃかいモデルに基もとづく施策しさくの実現じつげんや支援しえんの在あり様さまを主張しゅちょうしている。ここで重要じゅうようなのは、「社会しゃかいモデル」の理解りかいに誤解ごかいが生しょうじているということだ。このことは、難病なんびょう者しゃが医療いりょうを必要ひつようとする患者かんじゃであり、障害しょうがい者しゃでもあるという議論ぎろんの枠組わくぐみから読よみ取とれる。そこでの議論ぎろんは、難病なんびょう者しゃの目的もくてきには治なおすことや治療ちりょう研究けんきゅうを進すすめることがある一方いっぽうで、それは社会しゃかいモデルではなく医療いりょうモデルの考かんがえ方かたであるという批判ひはんを含ふくむものだと理解りかいされてしまっている。つまり、社会しゃかいモデルでは治なおすことや治療ちりょう研究けんきゅうを進すすめることが否定ひていされるものだという誤解ごかいが生しょうじているのである。また、そこでの主張しゅちょうは障害しょうがいと疾病しっぺいを分わけてなされている。たとえば、障害しょうがい者しゃの立場たちばからは福祉ふくし面めん――介護かいごとか障害しょうがい年金ねんきんなどの整備せいびが求もとめられ、一方いっぽう、患者かんじゃという立場たちばからは治療ちりょう研究けんきゅうの発展はってんや医療いりょう費ひ助成じょせいの充実じゅうじつが求もとめられる。
　社会しゃかいモデルに立たち戻もどれば、こうした疾病しっぺいと障害しょうがいをわけて主張しゅちょうしていくことそのものが、社会しゃかいモデルを誤解ごかいしている現あらわれであると理解りかいすることは容易よういである。社会しゃかいモデルの主張しゅちょうは、障害しょうがいの原因げんいんを個人こじんではなく社会しゃかいに求もとめたことではなく、障害しょうがいの義務ぎむや負担ふたんを個人こじんが負おうべきでないとするところにあるからだ。社会しゃかいモデルが、障害しょうがいの原因げんいんを社会しゃかいに求もとめることを主張しゅちょうしていると捉とらえてしまうと、インペアメントを治なおすことを否定ひていしてしまうことになる。社会しゃかいモデルの核心かくしんが、原因げんいん帰属きぞくではなく責任せきにん帰属きぞくであることは、これまでの議論ぎろんで確認かくにんされてきたことだ。
　ただ、不利益ふりえきの中なかからディスアビリティが特定とくてい可能かのうであるとしながら、その基準きじゅんなど明確めいかくに示しめし得えていないことがあまりに多おおいことは事実じじつである。さらに言いえば、医学いがくモデルと社会しゃかいモデルにおける差異さいを明確めいかくに示しめし得えていないことも、こうした誤解ごかいを招まねく大おおきな要因よういんとしてある。障害しょうがい学がくの課題かだいを再さい確認かくにんすることによって、疾病しっぺいと障害しょうがいの共存きょうぞんの批判ひはんを試こころみたい。
　なお、研究けんきゅう倫理りんり・倫理りんり的てき配慮はいりょについては、所属しょぞく研究けんきゅう機関きかん等とうにより指導しどうを受うけている。

障害しょうがい学会がっかい第だい12回かい大会たいかい（2015年度ねんど）