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倉田くらた 誠まこと (くらた まこと) 東京医科大学とうきょういかだいがく

■報告ほうこく題目だいもく

「障害しょうがい」をめぐる共存きょうぞんのかたち──サモア社会しゃかい・障害しょうがい支援しえんNGOロト・タウマファイによる早期そうき介入かいにゅうプログラムの事例じれいから

■報告ほうこくキーワード

サモア / NGO / 「能力のうりょく」

■報告ほうこく要旨ようし

　本ほん発表はっぴょうでは、南太平洋みなみたいへいようのサモア独どく立国りっこくサモア社会しゃかいの障害しょうがい者しゃ支援しえんNGOロト・タウマファイ(loto taumafai)による地域ちいき社会しゃかいへの巡回じゅんかい活動かつどう(アウトリーチ)に焦点しょうてんを当あて、彼かれらの実践じっせんとそれを受うけ入いれる地域ちいき社会しゃかいとの間あいだで「障害しょうがい」あるいは「障害しょうがい者しゃ」というものがいかなるものとして立たち現あらわれてくるのかを検討けんとうする。
　
　2001年ねんの国連こくれんでの「障害しょうがい者しゃ権利けんり条約じょうやく」のコンセンサス採択さいたくの前後ぜんごから、世界せかい各地かくちのそれまで国家こっかによる社会しゃかい福祉ふくしサービスがほとんど及およばなかったような地域ちいきや領域りょういきでも「地域ちいきに根ねざしたリハビリテーション活動かつどう(CBR：Community Based Rehabilitation)」が展開てんかいされるようになっている。リハビリテーション(rehabilitation)という言葉ことばが「再さい-適応てきおう(re-habilis)」に由来ゆらいすることからも分わかるように、そこではある基準きじゅんから見みて「適応てきおうを要ようする対象たいしょう」が社会しゃかいの変化へんかを通とおして「適応てきおう不要ふような状態じょうたい」となることが目指めざされている［Stiker 1999：121-123］。ただし、現実げんじつには、諸しょ社会しゃかいにおいて「適応てきおうを要ようする対象たいしょう」や「適応てきおう不要ふような状態じょうたい」が同おなじように理解りかいされているわけではないため、国際こくさい援助えんじょなどを受うけCBRが導入どうにゅうされる社会しゃかいでは、CBRの普及ふきゅうを通とおしてそのような「グローバルな」基準きじゅんが人ひとびとに適用てきようされていくという状況じょうきょうが生うまれている。
　
　文化ぶんか人類じんるい学者がくしゃのホワイトは、このような現実げんじつに対たいし、「援助えんじょやリハビリテーションの言説げんせつのなかで、多面ためん的てきな人格じんかくから特定とくていの欠損けっそんが前景ぜんけい化かされ、人格じんかくの文化ぶんか的てき側面そくめんを失うしなわせる(＝障害しょうがいそのものになる)」(Whyte 1995)という趣旨しゅしの批判ひはんを行おこなっている。このような「グローバルな」基準きじゅんを前提ぜんていとした障害しょうがい理解りかいのあり方かたを「ディスアビリティ(dis/ability)」と呼よぶならば、「ディスアビリティ」は世界せかい規模きぼでマイノリティとしての権利けんり保護ほごとそのための社会しゃかい変革へんかくという問題もんだい設定せっていを可能かのうとする一方いっぽうで、それが各かく社会しゃかいにおいて人間にんげん理解りかいのあり方かたをいかに変容へんようさせているのかという問題もんだいは看過かんかされる傾向けいこうにある。
　
　本ほん発表はっぴょうで取とり上あげるサモア社会しゃかいでは、政府せいふによる障害しょうがい者しゃ福祉ふくし政策せいさくの策定さくていが行おこなわれないなか、1970年代ねんだい後半こうはんから「障害しょうがい者しゃの権利けんり宣言せんげん(1975)」や「国際こくさい障害しょうがい年ねん(1981)」といった国際こくさい社会しゃかいの動うごきに合あわせて散発さんぱつ的てきに各種かくしゅの障害しょうがい者しゃ支援しえんNGOが立たち上あげられてきた。2000年代ねんだいに入はいると、「障害しょうがい者しゃ権利けんり条約じょうやく」のコンセンサス採択さいたくと前後ぜんごして、初はじめての障害しょうがい者しゃに関かんする全国ぜんこく的てきな統計とうけい調査ちょうさが実施じっしされ、政府せいふの障害しょうがい者しゃ政策せいさくタスクフォースや当事とうじ者しゃ団体だんたいが設置せっちされるとともに、「障害しょうがい(disability)」の訳語やくごとして「マナオガ・ファッアピトア(manaoga fa’apitoa：「スペシャル・ニーズ」の意味いみ)」という言葉ことばがあてられるようになった。そのなかで、ロト・タウマファイは、1981年ねんの「国際こくさい障害しょうがい年ねん」を受うけ比較的ひかくてき早はやい時期じきにサモア人じん有志ゆうしにより設立せつりつされ、現在げんざいでは障害しょうがい者しゃ全般ぜんぱんを対象たいしょうとした学校がっこう(フリースクール)の運営うんえいや「早期そうき介入かいにゅう(early intervention)」と呼よばれる地域ちいき巡回じゅんかい支援しえんを行おこなうサモアで最大さいだい規模きぼの障害しょうがい者しゃ支援しえんNGOとなっている。なかでも、地域ちいき巡回じゅんかい支援しえんは、彼かれらが提供ていきょうする障害しょうがい者しゃ支援しえんの重要じゅうような「入口いりくち」となっており、NGOへの援助えんじょ提供ていきょう者しゃ(ドナー)としての各国かっこく政府せいふや国際こくさい機関きかんが想定そうていする「ディスアビリティ」の思想しそうと彼かれらの実践じっせん、さらにはその実践じっせんと地域ちいき社会しゃかいにおける人間にんげん理解りかいのあり方かたが接触せっしょくする「界面かいめん」に位置いちしている。
　
　よって、本ほん発表はっぴょうでは、そこでの実践じっせんや相互そうご行為こういに焦点しょうてんを当あてる。地域ちいき巡回じゅんかい活動かつどうにおいて、スタッフは、まず対象たいしょう者しゃの身体しんたいを綿密めんみつに計測けいそくし、それをドナーから提供ていきょうされた「アセスメント用紙ようし」へと書かき入いれる。その情報じょうほうは利用りよう者しゃの様々さまざまな社会しゃかい環境かんきょうも含ふくめた「全ぜん人的じんてきなケア・プラン」へと変換へんかんされることが意図いとされているが、実際じっさいには主おもに利用りよう者しゃ個々人ここじんに合あわせた「リハビリ機材きざい」の作製さくせいや調整ちょうせいに利用りようされている。少すくなくとも、現場げんばのスタッフたちは、各種かくしゅの国際こくさい基準きじゅんに則のっとって「ディスアビリティ」の程度ていどやその意味いみを把握はあくし、全ぜん人的じんてき想像そうぞう力りょくのもとにサービス提供ていきょうすることより、利用りよう者しゃやその親族しんぞくとの関係かんけい性せいの調整ちょうせいや継続けいぞくを優先ゆうせんしている。一方いっぽう、利用りよう者しゃの側がわは、地域ちいき巡回じゅんかい支援しえんの際さいに不在ふざいであることも少すくなくなく、積極せっきょく的てきにリハビリテーションに取とり組くむという様子ようすもない。このようなそれぞれの齟齬そごは、この「界面かいめん」で起おこっていることにととまらず、サモア社会しゃかいにおいて「ディスアビリティ」というものがいかなる対象たいしょうとして立たち現あらわれようとしているのかを考かんがえる手てがかりとなる。
　
　本論ほんろんでは、このような地域ちいき巡回じゅんかい支援しえんにおける相互そうご行為こういに関かんする事例じれいを障害しょうがい概念がいねんの受容じゅようをめぐる議論ぎろんのなかに位置いちづけることで、サモア社会しゃかいにおいて「障害しょうがい」あるいは「障害しょうがい者しゃ」というものがいかなる対象たいしょうとして立たち現あらわれ用ようとしているのかを提示ていじし、「ディスアビリティ」の世界せかい的てき普及ふきゅうがはらむ問題もんだいを考察こうさつしたい。
　
　なお、本ほん発表はっぴょうに関かんする2011年ねんから2014年ねんにかけてのフィールド調査ちょうさは、AAA(American Anthropological Association)の倫理りんり綱領こうりょうに準拠じゅんきょして実施じっしし、聴きき取とりや写真しゃしん撮影さつえいは当事とうじ者しゃとその親族しんぞく、さらには関係かんけいNGOの監督かんとく部門ぶもんの了承りょうしょうを受うけた後のちに行いっている。

引用いんよう文献ぶんけん
Ingstad, B. & Whyte, S. R.(1995)Disability and Culture. University California Press.
Stiker, H. J.(1999)A History of Disability.Sayers, W. trans. The University of Michigan Press.

障害しょうがい学会がっかい第だい12回かい大会たいかい（2015年度ねんど）